表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
子供の島の物語  作者: 真喜兎
第二十話 ローリー・ニューバーン
125/209

20-5.ローリー・ニューバーン

 リールはそのまま倒れ、海に落ちていく。


「リール……様!」


 メラニアはリールが落ちた海を覗き込むが、リールは浮かんでこない。その間に後ろで声がした。


「はい、はい、そうです。始末しました」


 見知らぬ男がどこかに電話をかけていた。それはかつてリールを監視、監禁していた教団からの刺客だった。メラニアは震えて涙を流す。


「申し訳ありません……リール様……!」






 落ちたリールはしばらく気を失っていた。海の中で目を覚まし、息を吐く。


(く、苦しい……!)


 リールは急いで海上へ上がった。だいぶ流されてしまったのか、陸はだいぶ遠い。リールは必死で波をかき分ける。


(ぼくは、今死ぬわけにはいかない……! 死んだら兄ちゃんへの負荷が……!)


 リールは何度も気を失いかける。だがその朦朧(もうろう)とした意識のおかげで、うまくコントロールできないテレポートの能力が僅かずつ発動し、少しずつ子供の島に近づいていった。そして夏の長い日が落ちた頃にようやく島の港へ着いた。


 リールは重い体を何とか陸まで上げる。リールの額の傷は、弾は抜けていたが、だいぶ深く抉れていた。リールは額を押さえながらなんとか足を進めていく。


ぼく(・・)……! リール……! やばい、疲労で回復が追いつかない。死にそうだ……!)


 メサィアと呼ばれるリールは頬杖をつきながら眉をひそめていた。目を閉じ、リールの体を乗っ取る。しかしすぐに足元を崩しかけた。


(ダメだ……おまえの体が疲れている。ぼくにはどうする事もできない)

(兄ちゃんとタルタオの負荷を持てないか……!? このままでは二人は倒れ、みんなの子供化が解ける……!)

(一時的に子供化が解けるのは問題ない……が、二人が倒れるのは問題だな。ちょっと遠いが、なんとか少しでもぼくが負荷を肩代わりできないかやってみる)

(頼む……よ)


 這いずるように島の中まで来たリールは、道の途中にある林の中へ倒れこんだ。


 その瞬間、それぞれの部屋にいたアラドとタルタオは、どくんっと心臓が波打つ感覚を覚える。体が熱っぽくなるのを感じ、顔を青くしてえずいた。メサィアと呼ばれるリールは額に汗しながら顔をしかめた。


(くっ、ぼくが肩代わりしてようやくこの程度か……! あいつ、どれほどの負荷を持っていたんだ……!)






 リールが林の中へ倒れた音を、その向かい側の家にいたブラックが聞いていた。ブラックはエアコンを入れずに窓を開けて寝る事が多いので、それでたまたま聞こえた音だ。普段ならあまり気にする音でもなかったかもしれない。だが今日はリールが帰るのが遅くなっていると、みんなが気にしていた所だった。


 ブラックは嫌な予感がして、その音の正体を確かめに行く。


「ブラック、どしたの?」


 ブラックと一緒に住んでいるカイナルは、ブラックの様子を気にしてブラックの後ろについていった。ブラックは暗がりの中、懐中電灯の光だけを頼りに、道向かいの林の中へ入っていく。


「何してんのさ、ブラック」


 カイナルの声には答えず、ブラックは下り坂になっている林を下りていく。そして見つけた。リールはぴくりとも動かなかった。カイナルはリールの額に傷があるのを見、鼻の下に手を当てる。


「こ、こいつ息してないんじゃ……」

「カイナル。おれがリールを背負う。手伝ってくれ」


 カイナルとブラックは全く力の入っていないリールの体をなんとか起こし、ブラックの背に乗せる。ブラックはずるずると落ちていきそうになるリールの体を何とか負ぶう。


「リールが……死ぬ訳はない……!」

「で、でもさ、ブラック。こいつホントに死んで……」


 カイナルはふらついているリールが倒れないように抑えながら、手を震わせている。カイナルとブラックは何とか自分達の家までリールを連れてきた。二人はブラックの部屋のベッドにリールを寝かせる。


 カイナルは改めてリールの額の傷を見た。


「ブ、ブラック、こいつの傷、なんか治ってきてないか……?」


 ブラックはリールの手を握って、祈るように傍らに座っている。カイナルは恐怖するような表情で後ずさる。


「こ、こいつ、化け物じゃないか」

「化け物でもなんでもいい。リールの熱は消えきっていない。おれはリールが目覚めるのを信じる」


 しばらくリールとブラックを見ていたカイナルだが、ふと思い立ってブラックの部屋を後にする。


「カイナル、みんなには言うな」


 出ていこうとするカイナルにブラックが声をかけた。カイナルは「わかった」と返事して、ローリーの家に向かった。






 もう寝る間際の時間だというのに、カイナルが急に家のドアを叩いた事にローリーは驚く。


「どうしたの、カイナル」

「な、なんでもないよ、無事ならいいんだ」

「無事?」

「なんでもないって言ってるだろ! あんたは外に出るなよ!」


 カイナルはいつもの強い語調で怒鳴り、走って帰っていった。ローリーはそのカイナルの不審な行動に疑問を覚える。


「今のカイナル? 何しに来てたの?」


 リビングのソファで本を読んでいたブルーは、玄関からとぼとぼ戻ってきたローリーに聞く。


「うん……わかんない……」


 ローリーはしばらく考えた後、また立ち上がった。


「ちょっとわたし、リールが戻ってきてないか見てくるね」

「うん? いってらっしゃい?」


 ローリーは外に出て走った。そしてノックしても返事のないリールとアラドの家に入り、一階のアラドの部屋をノックする。リールが戻ってきていないか確認する目的もあったが、もう一つアラドの無事も確認しておきたかった。妙な胸騒ぎがして、アラドに命の危険がある時というのが、突然来てしまったのではないかと思えた。






 その胸騒ぎは当たりだった。アラドがぜえ、ぜえと肩で息をしながら青い顔で扉を開けた。アラドはローリーの顔を見た途端、ローリーを睨みつけた。


「何の、用だ……!」


 開けられた部屋の中からは、ツンと嘔吐物の匂いがした。ローリーは床に吐かれた嘔吐物を見る。


「アラド、吐いたの!? わたしが片付けるよ、ちょっと待ってて!」


 ローリーは洗面所に行き、タオルを数枚とバケツと雑巾を持ってくる。そして嘔吐物を片付け始めた。


「悪い……助かる……」


 アラドは言いながら、辛そうにベッドに倒れこんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ