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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第二十話 ローリー・ニューバーン
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20-4.ローリー・ニューバーン

 カイナルに渡されたそれはローリーの似顔絵だった。「絆創膏のお礼」と、カイナルは言う。


「わ……これわたし? すごい上手」

「全然。ぼく似顔絵苦手だし」

「そ、そうなの?」


 ローリーから見ると、どこが苦手なのか分からない。ローリーが絵を眺めている間に、カイナルは画材道具を片付け始めた。


「じゃ、ぼく今日は仕事早番だから」


 ローリーは顔を上げて、カイナルを見つめた。赤毛の縮れた髪に、そばかすのある顔。そしていつもむすっとした表情をしている。そんなカイナルはどんな仕事をしてるんだろうと気になる。カイナルは缶詰工場で働いていると答えた。


「カイナル、ちゃんと仕事してるんだ。すごいな……」

「したくてしてるんじゃないよ。絵を描くのだってただじゃないんだ。稼がなきゃしようもない」


 そのまま二、三、言葉を交わした後、カイナルは画材セットや絵をまとめた大荷物を持って立ち去っていった。






 その日、両親は休学の話を了承してくれた。ローリーの疲れた気持ちを回復させるため、特別なプログラムに参加する事も了解してくれた。リールがホールランド、洞泉宮の関係者で、休暇が終わった後、しっかり就職支援なり進学支援なりをしてくれるという事を約束したのが大きかった。


 そして旅立ちの準備を終えたローリーは、翌日リールの泊っているホテルに行く。そこでローリーはリールに子供の姿にしてもらった。子供の島に行く前から子供の姿になっているのは、ローリーのけじめみたいなものだった。


「リール、まだ時間あるよね? ちょっといいかな……?」


 ローリーはリールと一緒にもう一度、公園へ向かった。






 カイナルはいつものように絵と画材セットを広げて公園にいた。カイナルはローリーがよく座っていたベンチに目をやる。


(今日は来てないのか)


 カイナルはいつもの怒ったような表情のまま、スケッチブックに鉛筆を走らせる。しばらくすると公園の入り口から、見覚えのある金色の髪の少年のような子が来るのが見えた。


「やあ、この前はどうも。ぼくらもうこの町を出る事になってね。せっかくだし、あなたの絵をもう一枚もらおうかと思って」


 金色の髪の子の後ろには、十二歳くらいの栗色の髪の毛の少女が隠れるようにしている。カイナルはその少女を見て目を見張った。


「ちょっと待てよ、え? ちょっと待てよ。あんた、ここに来てたあんた、だよな?」

「あ……やっぱりわかっちゃう、かな?」


 ローリーは気まずそうに出てきて、へへと困ったように笑った。十七歳だったローリーは少し身長が縮み、顔が幼くなり、体の線も細くなっている。


「ネバーランドにね、行くんだ。ほんの少しの夢を見に。カイナル、わたしとお話ししてくれたから、少しでもお礼したいな、と思って。絵、見てもいい?」


 ローリーはそう言ってカイナルの絵の前にしゃがむ。カイナルの頭はただ混乱していた。


「ちょっと待て……ちょっと待てよ!」


 カイナルはローリーの腕を必死の形相で掴む。


「行く! ぼくも行く!」

「え、だって……」

「なんだよ! 誘ったのはあんただろ! 夢を叶えるネバーランドなんてものが本当にあるんなら、ぼくも行ってやるよ!」

「で、でもお父さんとか、仕事とか……」

「そんなの放っといていいだろ!」


 ローリーは困ってリールを見上げる。


「ぼくは構わないけど……」


 リールは少しだけ肩を竦めて答えた。






 そうしてカイナルも子供の島の計画に参加する事になった。カイナルは移動する客船の中でリールを睨む。もうその時にはローリー同様、カイナルも子供の姿になっていた。


「代償は?」


 子供の島には何かリスクがあるはずだと言うカイナルに、リールはリスクがあるのはアラドで、命の危険があると説明する。するとローリーはそれを自分が代わると、リールに縋った。


 リールはアラドの命の危険をローリーが肩代わりする事はできると説明する。


「じゃあそうして!? わたしのせいでアラドが死ぬなんて絶対にダメだよ!」


 カイナルはローリーの言葉を聞いて眉をひそめた。しばらく看板を歩き回りながら考える。そして忌々しそうに舌打ちした。カイナルはその後リールと二人きりで話をした。


「この計画の成功でもらえるっていう報酬は、ぼくはいらない。いらないから、ローリーが命の危険の負荷とやらを背負う事になった時、ぼくにもそれを分けろ!」

「カイナル……そんな約束なんかしなくたって、ぼくは兄ちゃんを危険に晒す気なんか全くないよ」

「いいから約束しろよ! 計画が終わるまで何が起こるかは分からないんだ。ぼくには命を懸けるって言うアラドやローリーの気持ちは理解できない。理解できないから、どうにかしてやりたいんだよ!」


 リールはカイナルをじっと見つめた。カイナルの表情は真剣だ。


「……わかったよ、カイナル。約束する。でもぼくは君もローリーも兄ちゃんも誰も、危険にはさせない」


 リールはそうカイナルに宣言した。






 それから子供の島の計画が始まり、季節は巡って八月になった。リールは子供の島へ渡る大陸の港で、メラニアというMAの女性と再会した。


 緊張した面持ちのメラニアとリールは人目を避け、港の端の方へ行く。


 メラニアはリールがメサィアを殺すために子供の島の計画を立てたのだと思っている女性からの刺客だった。メラニアは以前と同様に、リールに銃を向ける。しかしその表情は怯えていた。リールの人の心に忍び寄る力が、引き金にかかるメラニアの指を震わせていた。


「メラニア、もうやめるんだ。君の精神が持たなくなってしまう」


 メラニアはもう既にリールが簡単に殺せない事を知っているはずだったが、それでもリールを殺さなければと追い詰められていた。


(あいつめ、下手な説明をしやがって……!)


 メラニアがリールを狙うようになったのは、メサィアと呼ばれるもう一人のリールが、小春というメサィアに仕える女性に、子供の島の計画は自分が死ぬためにあると説明したからだ。


「小春にはぼくが……メサィアのぼくがちゃんと説明し直す。もう君がぼくを狙う必要などないんだ」

「わ、わたしは……」


 メラニアは震えながら銃口を下げていく。その時だった。メラニアの後ろから銃声が響き、リールの額を抉った。


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