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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第二十話 ローリー・ニューバーン
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20-2.ローリー・ニューバーン

 当時のローリーは知らなかった事だが、アラドは普段はそんなに声を荒げたりするような子ではない。それが教師に反抗的な態度を取っていたのは、全く理解できない授業に苛立ち、興味本位でアラドに近づいてくる生徒達に嫌悪感を覚え、そしてリールと離れ離れになって会えない生活が続いて辛かったからだ。


 ローリーは身を小さくしてその先生とアラドの横を通り過ぎようとする。しかしその前にアラドが振り返り、すぐ後ろにいたローリーにぶつかりそうになる。


「きゃあ!」

「うるせえ……!」


 アラドはローリーを睨みつけて歩いていく。


「アラド・レイ! こら、待たんか!」


 ローリーはドキドキしながらも、アラドが去ってくれた事に安堵し、とぼとぼと廊下を歩きだす。いつものように教室で縮こまり、辛い学校での時間をやり過ごそうと思っていたローリーに、女の子達が声をかけてくる。


「ねえねえ、あのアラド・レイと一緒に呼び出されてたんでしょ? 何か話した?」

「え、別に……一緒に呼ばれてた訳じゃないし……」

「えー、そうなのー?」

「アラド・レイってすごいハンサムだよねー、わたしアプローチしちゃおうかなー」

「ちょっと、ずるいー。わたしもー」


 女の子達の興味はすぐにローリーから離れて、女の子達だけでキャッキャッと話し出す。ローリーはそんな女の子達の会話に入っていく事はできなかった。そうやって毎日浮かれているような子達よりも、自分の成績が下な事にものすごい劣等感を覚えた。






 卒業後の進学、就職なんてとても考えられなかった。今勉強するだけで精一杯。お父さん、お母さんは、わたしが早くいい人を見つけて嫁いでいく事を望んでいる。


 お父さん、お母さん、そんなこと不可能だよ。バカみたいに勉強するしかないのに、成績は上がらない。この先どうすればいいのか分からない。本当にただそれだけ。毎日に押し潰されそう。


 自分を見失いそうだった。わたしは何をしたいの? わたしは何ができるの? 何もできない。何も持っていない。






 二月の寒い日、ローリーはその日も学校に行きたくない気持ちを抱えて登校していた。足元を見つめてぼーっと歩いていると、誰かにぶつかりそうになった。


「あ、ごめんなさい」

「大丈夫、ぶつかってないよ」


 少年のような声がローリーの頭の上から聞こえた。ローリーは思わず見上げる。その子は背が高い子だった。きれいな金色の髪はウルフカットで、男物の上着にスキニーパンツを着こなしている。その子は背中を曲げて、百五十四センチメートルのローリーの顔を覗き込む。


「どうしたの? 元気ないね。何かあった?」


 ローリーは少し顔を赤くして首をぶんぶんと振る。


「ご、ごめんなさい」


 ローリーは小さな声で言って、その子の側を通り過ぎる。その子は振り返って叫んだ。


「ローリー! 後で君と話したい! いいかな?」

「なんでわたしの名前……」


 ローリーがそう言いかけた時、ローリーの横を大きな影が通り過ぎた。その影は体当たりでもするかのようにその子を抱きしめる。その影はアラドだった。


「リール、リール……!」


 アラドは周りの目もはばからず泣いていた。訳の分からないローリーは目を逸らして歩を進めた。周りの子達の声が聞こえる。


「あの人、アラド・レイ様とどういう関係?」

「わかんないけど、あの人もかっこいいよね」

「あの子、あのかっこいい男の子に話しかけられてた」


 ローリーを見てひそひそ言う子もいる。ローリーは何となくイラついて歯ぎしりした。


(何よ、あの子、女の子でしょ……!)


 それからローリーは学校へ行かない日が続いた。体調が悪いと言い訳していたが、実際どこも悪い訳じゃなかった。ただ気持ちが奮い立たなかった。


 学校を休んでからそのまま冬休みも近づこうという日、突然この前ぶつかりそうになった金色の髪の子が寮に現れた。






 何を話したかな。それはもうよく覚えていない。リールは根気よくわたしの口足らずな言葉を聞いてくれていた気がする。わたしが覚えている自分の言葉は、「子供の頃に戻りたい」って言ってしまった事だけ。


 みんなずるいよ。勝手にどんどん大人になっていって。どうやったらそうなれるの? わたしは子供。まだまだ子供のままだよ。年齢だけ重ねていって、中身は子供のままなんて嫌。でも大人の汚い部分を見るのも嫌なの。田舎にいた頃のように、子供のままでいられればよかったのに。






 ローリーの嘆きを聞いて、アラドはその能力を発動した。アラドがローリーに手を当てると、ローリーは子供になり、アラド自身も同時に子供の姿になった。二人が子供になると、リールは何か思いついたように笑った。


「ククク、ハハハ、そうだね、いいじゃない、ネバーランド! 叶えてあげるよ、ローリー! 子供だけの島! そう、それがいい! 君達を招待してあげるよ、ぼく達が作る不思議な島へ!」


 ほとんど学校に行けなくなっていたローリーはリールに休学するよう提案され、それに頷く。そしてリールは後ろにいるアラドにも声をかける。


「兄ちゃん、兄ちゃんは……」

「おれは当然おまえの行くところに行く」


 リールは少し寂しそうな表情で笑う。


「ハハ、やっぱり兄ちゃんはそう言うよね。でも、兄ちゃん、ローリー。いつでも考え直して……? それがぼくの最後の優しさだ」






 ローリーは両親にも休学の許可を取るため、リールと一緒に故郷の国へ戻った。ローリーの実家がある村には宿泊所がないため、リールは近くの街にホテルを取った。両親は久しぶりに帰ってきたローリーを歓迎しながらも、休学の話を聞くと怒り嘆いた。


 最初の日はリールは怒られて追い返された。家に残ったローリーは必死に両親を宥めた。


 翌日になり、ローリーはリールと街の公園で待ち合わせをした。


「ローリー、家で待っててもよかったのに」

「ううん、家には居づらいし……」


 歩き出そうとしたローリーとリールは噴水のある広場の端に、絵を描いている人を見つけた。その人の周りには値段の書かれた絵がいくつか置いてある。


「わあ、すごい」


 ローリーはその絵を見て素直に感動した。絵は風景画が多いが、光る大木の周りに妖精のような子供がいる幻想的な絵もあった。ローリーは立ち止まってその絵に見入った。


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