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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第十九話 レイリールとアラド
120/209

19-15.レイリールとアラド

「さっきから聞いていればグダグダと。子供になりたいならなれよ!」


 アラドはローリーの頭を鷲掴みにするように掴んだ。その途端ローリーはぐらぐらと視界が揺れるような感覚に襲われる。アラドも肩を落とす。いや、そう見えただけでアラドの体は実際に縮んでいた。服がぶかぶかになり、きれいにまとめられていた髪は少しぼさぼさになっている。


 ローリーはとっさに机の上に置かれている鏡を見た。それはちょうどローリーの方を映していて、ますます幼くなった自分の顔が見えた。


「バカな!? 兄ちゃんにこの力が発現したのか!?」

「う、おえ」


 アラドはえずくように咳き込み、顔を青くしている。ローリーはそれに気づかずに興奮した声を上げる。


「す、すごい、ピーターパンのネバーランドみたい! こんな魔法があるんだ!」


 リールはアラドの首元に手を置く。するとアラドの様子が段々と落ち着き、ふらついていた足がしっかりと床の上に立った。どうやら初めて能力を使った反動で、体調を崩しかけたようだった。


「なんだこれ……? なぜか急にできると思ったんだ」


 アラドは唾を吐きかけた口元を拭う。そして自分の体を眺め、机の上に置いてあった鏡を取って十二歳くらいの子供の姿になった自分の顔を覗き込む。ローリーはその間にリールに縋っていた。


「本当にネバーランドが作れるよ。そこでは大人にならなくていい。わたしみたいに辛い子や苦しい子を呼んで助けてあげるの。本当に夢みたい!」


 ローリーは笑顔で話したが、すぐに表情を落ち込ませた。


「アハハ……冗談。そんな夢物語……だからわたしはいつまでも子供なんだ」


 そう言うローリーをアラドは不思議そうに見る。


「何が冗談なんだ? やりたければやればいい。面白そうじゃないか」


 リールはローリーの言葉にも、アラドの言葉にも驚いたように目を丸めていた。そしてしばらくして顔を覆って笑い出した。


「ククク、ハハハ、そうだね、いいじゃない。ネバーランド! 叶えてあげるよ、ローリー。子供だけの島! そう、それがいい! 君達を招待してあげるよ、ぼく達が作る不思議な島へ!」






 リールの精神世界の中で二人のリールが椅子に座っている。一人はひじ掛けにひじをつき、顔は無表情だ。


「子供の島、か。面白い事を考えるな」


 レイリールは顔をしかめた表情でもう一人のリールを見ている。


(あるじ)に許可を」

「主に嘘はつけない」

「ごまかす事はできる……! 一年、いや、二年、ぼくに自由を!」


 レイリールは悲痛な顔で目を細める。


「場所はもう決まっているんだ。リントウにも都合がいいし、カールやグルジアも文句は言わないだろう。ポテトの説得には手間取るかもしれないが、何とかする」


 レイリールは手で顔を覆う。


「お父さん、この世にぼくを存在させたあなたを憎む。ローリーを追い詰める。彼女の祖先が犯した過ちを、彼女に償ってもらう」

「……本当は彼女をぼくの命とリンクするパートナーにする予定だったはずだ」

「失敗すればそうすればいい。だがおまえに再び死から復活する力がないのは今だけだ。メサィアの『……』たいと願う力がおまえの中に復活する前に決着をつける」


 レイリールは拳を握った。





「代償は?」


 子供の島の計画が始まる前に移動していた客船の中で、カイナルが強い目つきでリールを睨んでいる。


「夢を叶える子供の島なんてそんなもの、代償なしでできるもんじゃない。何かリスクがあるはずだ」

「……リスクがあるとしたら兄ちゃんにだけだ。ぼくの能力の仲介役になっている兄ちゃんにもし限界が来ると、能力熱が発症……命の危険がある場合がある」

「え!? そんなのダメだよ!」


 ローリーが驚いたようにリールに縋る。


「だったらわたしを仲介役にして!? わたしなら命の危険があったっていいよ!」

「何言ってんの、あんた」


 カイナルは顔をしかめる。


「ぼくの能力の仲介役になれるのは、能力者の兄ちゃんだけだ。兄ちゃんに限界が来た時に、君に負荷を背負ってもらう事はできると思うけど……」

「じゃあそうして!? わたしのせいでアラドが死ぬなんて絶対にダメだよ!」






 精神世界の中の頬杖をついたリールが眉をひそめる。


「危うい……この娘、ぼくと自分の命を天秤にかけて、ぼくを選びかねないぞ」

「……どうにかしてみせるさ」






 リールは膝を折って子供の姿のローリーに視線を合わせる。


「ローリー、ぼくは絶対に兄ちゃんを危険にさらす真似はしない。だから君がそんなに思いつめる必要はないんだよ」


 それからリールはアラドの方へ向く。


「ごめん、兄ちゃん。ちゃんと説明しなくて」


 アラドは海風に当たる事に疲れたように船内へ向かう。


「いいよ。おまえがおれに甘えてくれるのはいい」

「!」


 リールはその言葉に衝撃を受ける。いつの間にアラドが負荷を背負ってくれるのを当然のように思っていたのだろう。


「それにおまえ、おれを危険にしないって言ってくれたろう。おれはおまえの側にいられるなら命を懸けてやるよ」

「そ、そんな事言わないで、頼むから……」


 リールは船内へ消えていくアラドの背中を見送りながら、大粒の涙を流す。


 カイナルはリールに不信感たっぷりの視線を送りながら、甲板を歩いていった。ローリーは膝をついて泣いているリールの背を撫ぜている。


「リール、わたしは罰を受けるよ」

「え?」


 強い海風がローリーの髪をはためかせている。その髪の毛を邪魔そうにする事もしないで、ローリーはリールに微笑んでいる。


「子供の島なんてほんとはあっちゃいけない島。幻の夢の島。あたしはそれを望んだ。その罰を受けるよ。だからリール、何でも言って……?」


 リールの髪も海風にはためいている。リールは目を細める。


「ぼくの願いを叶えてくれるか、ローリー」

「うん……!」


 リールは両手でローリーの手を握る。


「君が苦しんでいる子を助けたいと言った時、ぼくは感動したんだ。ぼくも誰かを助けたい。これはぼくの我がままでもある。だから約束して? このぼくを消すと」

「消す……?」

「子供の島での生活が終わった時、ぼくと君の記憶をみんなから消す。それが君とぼくの罰だ」

「記憶を……うん……わかった。それがわたしとリールの罰」

「そう。それがメサィアの力との契約だ」

次回 第二十話 ローリー・ニューバーン

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