表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
子供の島の物語  作者: 真喜兎
第十九話 レイリールとアラド
116/209

19-11.レイリールとアラド

 リールはアラドに向き直って、その手を握る。


「ああ、そうだ。ぼくはレイリール・ゲルゼンキルヘン。アラド・レイ、君を好きになった者だ」


 周りにはまだMA達がいて緊張感が漂っていたが、アラドも思わず破顔する。それをタルタオが睨むように見ていた。


「好きに……? さっきからちらちら視界には入っていましたが……あなた能力者ですね? それもかなり強い」

「能力者!?」


 MA達は驚いてアラドに視線を集中させる。


「レイリール様の寵愛を強く受けたのか。気に食わない、気に食わないです」


 タルタオがぶつぶつ言っている間に、MA達は再度リールとアラドを取り囲んだ。


「能力者ならば、あなたも監視対象になります。あなた達がこの洞泉宮から出る事は許可できません。大人しくしてくだされば危害は加えませんが……」


 リールはショックを受ける。


「ぼくに関わったせいで、兄ちゃんまで監視される!? ぼくは厄災か……! ぼく(・・)が感情を失っていったのがわかる。だがぼくはぼくができる事をやる! 兄ちゃんを幸せにする!」


 それはリールが精神世界で叫んだ叫びだった。


「アラドは捕まえさせない! ぼくらは逃げるぞ!」

「行かせません!」


 道を塞ごうとするMAを睨みつけ、リールは頭の中で電気のような信号を走らせる。全員が耳鳴りのような音を感じ、同時に頭が絞めつけられるような感覚を受ける。


「ぐあああ!」

「なんだ!? 頭が……!」


 それはリールが唯一人にできる攻撃だった。しかしそれにはアラドもリール自身も頭を押さえている。だが能力者にはまだ症状が軽いようで、リールはアラドの手を引っ張って共に部屋を抜け出す。タルタオも頭を押さえ、その背中を見送りながら言った。


「く……レイリール様! わたしにはわかっていますよ、あなたはすぐにこちらへ戻ってくる。あなたにはわたし達の力が必要なんですから……!」






 リールとアラドは外に出た。既に日が暮れた街中を走り、また息が切れた頃にようやく止まった。


「今日は逃げてばっかりだな」


 アラドは流れる汗で張り付くようになっている髪をかき上げながら言う。リールもなんとか呼吸を整えてから、すまなそうにうなだれる。


「ごめん、兄ちゃん。やっぱりぼく、兄ちゃんを巻き込んだ」

「いいんだよ、そんな事。それよりあいつらもう追ってこないかな? どこかでご飯でも食べて、泊まる所を探そう」


 アラドは本当にそんな事なんでもないと言うように軽く話を流す。リールはそれに感謝しながら、「うん、そうだね」と頷いた。


 リールとアラドはバスで駅の方まで行き、食事を済ませると手頃なホテルを見つけた。そして二人は同じ部屋に入った。そこは二つのベッドが並べられているだけでいっぱいの小さな部屋だったが、リールはしわなくきれいに敷かれているシーツを撫ぜ、興味深そうに部屋の中を見回す。


 アラドはムードもへったくれもないシンプルな部屋を見て、不満そうに呟く。


「もっといいホテルにすればよかった……」


 それぞれにシャワーを浴びた後、リールはベッドの感触を楽しむようにうつぶせで倒れこんでシーツに顔を撫ぜた。


「フフ、兄ちゃんと一緒に寝るなんて、本当に兄妹になったみたいだ」


 リールは無邪気に笑っていたが、アラドは緊張して頬を紅潮させていた。バスローブ姿でリールのベッドの端に座り、リールの頭を撫ぜる。そしてリールの顔に唇を近づけていく。


 しかしアラドの唇が届く一瞬の内にリールは寝ていた。アラドはそれに気づいて、頬を赤くしたまま舌打ちする。


「ちぇっ、なんだよ」


 アラドは少し残念そうにしながらも、リールに掛布団をかけ直して、そして自分のベッドで寝た。






 リールは精神世界に入っていた。そこはいつもの真っ暗闇ではなく、空間が絵具でも混ぜられたかのようにぐるぐる回っている。


「ぼくも、おまえも、不死の怪物……」


 空間内に声だけが響く。リールはその真ん中に立って声の主を探していた。声の主は続ける。


「誰かを愛するなんて許されない。不幸を呼ぶだけだ」

「おまえは幸せじゃなかったのか!? 愛する妻を得て……!」

「ぼくの妻は死ぬ前に苦しんでた。自分の命が終わる時に、ぼくの命も尽きるという約束を後悔していた。レイリール、おまえは危険だ。あの少年を普通に愛そうとしている」


 レイリールは少し沈黙して、その声の意図する事を考える。


「このぼくに、死ねと?」

「そうだ。おまえがいたから彼は倒れ、おまえがいるから彼は追われるようになった。おまえに彼を幸せにする事はできない。ただ不幸にするだけだ」


 レイリールは辛そうに顔を歪ませる。声は言う。


「ぼくに体を寄こせ、レイリール。ぼくなら全てのしがらみを捨てて、死ぬ事ができる」


 レイリールは体を押されよろめき、回る空間の中に消えかけていく。


「ぼくに彼を幸せにする事はできないと、なぜ言える!? ぼくは彼と……!」


 レイリールの叫びは空間の中にかき消された。リールはゆっくりと目を開く。






 ベッドから起き上がったリールは隣で寝ているアラドを見、その額に指を当てる。その表情には感情がない。


「アラド・レイ。君は家へ帰れ。ぼくらが死ねば、いまだ発現していない君の能力も消えるだろう。タルタオならそれがわかるはずだ。君は自由になれる。逃げる生活など送る必要はないんだ」


 リールはそう言って出ていく。アラドは次の瞬間、ベッドから飛び起きた。隣を見るとリールがいない。嫌な予感がして大急ぎで服を着替え、部屋を飛び出す。静かな館内の廊下にはもうリールはいなかった。


 エレベーターで一階まで下りていくと、黒服のMA達がフロントで従業員と話しているのが見えた。MAはアラドに気づいて声を上げる。


「あの小僧だ! 間違いない!」

「なんであんたらがここに……!」

「貴様の持っているカードは母親のノーラ・レイの物だな? 使用履歴を調べさせてもらった。さあもう逃げられないぞ。レイリール様はどこだ!?」

「……ここにいるよ」


 アラドとMAが対峙しているフロントから少し離れた入り口の方にリールが現れる。


「リール!」


 アラドはほっとしたようにリールの名を呼んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ