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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第四話 エドアルド・カフカス
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4-2.エドアルド・カフカス

 友達……親友と呼べる人は一人だけいた。両親が死んだ後、落ち込んでいたぼくに話しかけてきてくれた友達トレイル。彼はすごくいい奴だったけど、彼の年上のいとこのハイヤは不良グループの中心メンバーの一人だった。


 ハイヤにはいろいろ悪い噂があった。でも彼はバンドもやっていてかっこよかったのは事実……トレイルもハイヤのそういう所に憧れていて……ぼくもそうだった。






 ほどなくしてラウスが家の中に入ってきた。ラウスは長袖と長ズボンを着ていて、袖をまくってはいるものの、夏場にしては少し暑苦しい格好をしている。


「ああ、エド、起きてたか」


 ラウスはエドアルドに軽く声をかけるが、「ちょっと着替えてくるよ」と言って、一度部屋に引っ込んだ。


「ちょっと畑仕事をしててね」


 少し大きめのヘンリーネックの半袖Tシャツに着替えたラウスは、エドアルドが質問する前に自分から答える。ちょっと土埃っぽい感じがしていたのはそのせいかと、エドアルドは納得する。


「朝は疲れてると思ったから起こさないでおいたよ。でもさすがにもうお腹空いてるだろう? そろそろお昼だし、一緒に食堂に行こう」


 エドアルドは食事は食堂で支給されると言っていた事を思い出して、「うん」と言いながら立ち上がった。






 食堂はエドアルド達の家の隣にあるが、石垣の向こうにあるため、道を回っていかないと辿り着かない。個室の部屋の中は蒸し暑かったが、外は風があって涼しく感じた。ラウスにそういう話をすると、「頼めばエアコン入れてもらえるよ」と言った。エアコンはどうやら自費らしい。案外ケチだなと思いつつ、食堂に入っていく。


 食堂の中に入ると、中はひんやりしていた。食事時にはみんながここに集まると言っていたけれど、まだ少し早いせいかあまり集まっていないようだ。食事の準備をしているらしい子達が軽く「ハイ」とか、「こんにちは」とか挨拶をしてくる。その中には見覚えのある三つ編みの子もいた。


 今は少し背が縮んだ十二歳くらいの子供の姿だが、会った時の十八歳くらいの時と面影は変わらない。その子(ルテティア)もぎこちなく「ハイ」と言ってくる。でもラウスが他の人にも言ったように、「みんなが揃ったら紹介するからね」と言うと、作業に戻っていった。


「準備できるまで、その辺に座ってていいよ」


 ラウスに促されて、とりあえず少し床が高くなっている座敷の席の段差に腰を下ろす。するとリールが近寄ってきた。


「やあ、エド。気分はどう? 体調は悪くない?」


 急に子供の姿になる負荷がかかると、体調を崩す子もいるらしい。エドアルドは少しのだるさはあるものの、動けないほどじゃない。


「うん、平気」


 そう返事すると、リールは「それはよかった」とにっこり微笑んだ。リールは普段はまるっきり男の子のようだけど、笑った顔はかわいい女の子だと思える。エドアルドの好みではないが、単純に好感は持てた。しばらくリール、ラウスと雑談していた。エドアルドがエアコンの話をすると、リールは「うーん」と頭を掻く。


「エアコンね、いらないって言う子もいるから、欲しい人は各自で購入って事にしてたんだよね」

「でも、もう気温も高くなってきてるし、熱中症にでもなったら困るだろう?」


 ラウスがそう言うと、リールは「熱中症って何?」と聞き返す。それを説明されると、リールはエドアルドの部屋にエアコンを入れる事を了承してくれた。


「工事は業者の人が来てくれるの?」

「いや、この島内に部外者は立ち入り禁止にしてるんだ。だから自分達でやるよ。こういう時のために資格を取ったり、研修を受けたりしている子がいるからね」

「へえー」


 この島の生活も結構本格的だなと、エドアルドは思う。話している内にイランも食堂に入ってきた。


「おはよう、エド……元気か?」

「うん? 元気」


 ただの挨拶だったけれど、なぜか別のニュアンスも含まれているような気がした。イランもリールのように、子供の姿になった負荷とやらを心配してくれているんだろうか。イランはそのまま話に加わってくる。






 リール、ラウス、イランに囲まれて話をしていると、エドアルドは不思議なものを見つけた。


「なんだ、新しい奴か?」


 そう声をかけてきたのが不思議なもの……じゃなくて、人。銀色の髪に浅黒い肌をしている。


「あ、ああ、後で正式に紹介する」


 ラウスはさっきまでの親しげな笑顔が消えて、少しひきつったような顔で答える。エドアルドは別に今紹介してくれてもいいんだけどなと思いつつも、その子が「そうか」と返事して背を向けるのを見送る。不思議なものにはそのおかげで気づいたのだけれど。


 彼のお尻の方には長い毛が垂れ下がっていて、よく見れば耳にも毛が生えている。


「じいちゃん、リン婆が呼んでる」


 別の子――その子も耳とお尻に毛がある――が、じいちゃんと呼ぶのも興味深かった。見た目は二人とも今のエドアルドと同じくらいの子供なのに。


「おう」


 そう返事して、毛が生えた子達はキッチンらしきドアの奥に消えてしまった。


「何、あの耳と……尻尾?」

「彼らはスパ族だよ。他にはニウエ族とハウイ族の子もいるよ」


 リールが説明になっていない説明を返す。エドアルドが突っ込みもせず黙っていると、ラウスが「えーっと……」と口を開く。


「彼らは有尾人と言われる未開の土地の種族……らしい」

「なんかずいぶんワールドワイドな所だね?」


 有尾人の子に限らず、ここにはたぶん国が違うと思える子達が多い。ラウスやイランだってそうだし、リールもそうだ。この辺りは黒人、白人、黄色人など比較的人種が多様な地域で(もちろんそれは尻尾など生えていない普通の人間達だ)、エドアルドも褐色の肌を持った人種であるけれども、言葉にできない雰囲気が出身地の違いを感じさせる。


「ぼく、この島のプロジェクトが始まる前に、いくつかの国を回る機会があってね。そこで知り合った人達をスカウトしたんだ」


 リールが得意そうにそう言う。リールは回った国の名を並べだしたが、エドアルドは上の空でそれを聞いていた。リールの世界旅行にそれほど興味があるわけじゃあない。エドアルドの当座の興味は、先ほど紹介され損ねた有尾人の方だった。


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