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57. 老けた父

(老けた父)


 父は、私が思っていたより元気だった。

 相変わらず、家に仕事を持ち帰り忙しくしていた。

 でも、少し老けたかな。

 家の中は驚くほど奇麗に、母がいたころと変わらないくらいに保たれていた。

「ご飯、どうしているの?」

「ちゃんと自分で作っているさ……」

「お父さんって、家事できたの?」

「できる、できないと言うほどのことはないが、こんなものだよ……」

「誰か、女の人がいるんでしょう?」

 私は、誰か女の人が、家に入って、料理やお掃除、洗濯なんかをしているのではないかと思った。

「ばーかー」

「いるんだったら、再婚してもいいわよ。歓迎するわー」

「ばーかー」

 でも、いたるところに母の面影がある。

 今、この家に帰ってきて、遥さんの気持ちがよくわかった。

 涙が止まらない。


 結局、何もせずに三日、ぼーとして過ぎた。

実家には七日間の予定だったが、三日ほどで飽きてしまった。

 飽きてしまったと言うよりも、母がいないので、この家では一人ぼっち。

 都会での生活も、由加ちゃんという幽霊とお友達になったことも、初めての旅館の仕事も、話す相手がいない。

 母の写真を見ては涙する自分に飽きてしまった。

 東京に帰ろう。帰って絵を仕上げよう。

 そう思うと、いてもたってもいられなくなった。

東京に帰る日、お父さんから帰りがけに渡された封筒の中に、十万円の現金が入っていた。


     *

 お父さん、ありがとう。こんなにお小遣いくれて、バイトも彼氏もいない貧乏生活なので涙が出るくらい嬉しかったです。

 最近お母さんのことばかり思っていて、少し忘れていました。

そうだよね。私にはまだ、お父さんがいるんだもんね。

 これからはお母さんの分まで大切にします。

今回は少ししかいられなくて、ごめんね。

お父さんも、きっとあの家で寂しい思いをしていたんですね。

 家に帰ったとき、お母さんがいるときと同じで、何も変わっていなかったのは、お父さんが一生懸命に、お母さんのいたときと同じように、あの家を守っていたからなんですね。

 お母さんを思いながら……

 今度帰ったとき、またお母さんとよく行った蟹料理の店、行きましょう。

 お母さんの分まで二人で食べちゃいましょう。もちろん支払はお父さん。

冬休みになったら一番に帰って来るから、それまでお母さんと待っていてね。

   *



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