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52. 大きなお山を登っている昇の父

(大きなお山を登っている昇の父)


「でも話は違うけど、昇からの電話で、あなたの話は聞いたわ……、どんなお嬢さんかなって思っていたけど、元気そうで安心したわー」

「え、母が亡くなったことを聞いたんですか?」

「そう、何か力になってやってくれっていうのよ。力になるって言ってもね……、どうすればいいのって訊くと、教師ならそれくらい考えろ、ですって……」

「そんなこと言ったんですかー」

「そうよ……、これでも、どんなことを話せばいいのか、ちょっと心配していたのよ……、また、ぎゅって抱きしめようかと思ったくらいよー」

 そうなのか、二年間も実家を避けていた昇さんが、里心がついたとかいって、急に常念岳に両親を呼んだのは私のためだったんだ。

「お母さん、でも嬉しいです。今度ぎゅって抱きしめてください!」

「え、昇でなくて私でいいの?」

「お母さん、だから昇さんとは、そんな関係ではないんですってば、本当に一昨日あったばかりなんですよ……」

「じゃあ、昇は振られた方かな?」

「えいえい、振ったの振られてという以前の問題なんですよー」

「じゃあ、私がもらおうかしら、あなたみたいな可愛らしくて奇麗なお嬢さんなら、私が欲しいわー」

「え、……」

「変な意味じゃないわよー、それでもいいけど……」

「え、……」

「いえいえ、私の娘に欲しいくらいよっていう意味よ……」

「私も、お母さんの子どもになりたいです!」

「本当に、……」

「もちろんですー」

「じゃあ、昇と別れても、私たちは仲良くやりましょうねー」

「はい、……」

「やっぱり別れるのねー」

「いえいえ、だからそこまで行ってないんですよー、本当に……」

「そうなの?」

「はい、……」

「じゃあ、昇のために少し御勧めできるところをいうと、選挙の応援演説ね、性格はウジウジしていて、あまのじゃくで、奥手で、自己主張ができないタイプなの……、私が、これ欲しいのって訊いてもウジウジしていて、見る限り欲しそうなのに欲しいと言わないのよ……、まるっきり、大学時代の旦那にそっくりで、今も変わらないけど……」

「お母さん、ぜんぜん応援になっていないですよー」

「あらそう……、でも、昇よりうちの旦那よー、どうしようもないのは、まだ昇の方がましって感じで……、私、今まで旦那に好きとか愛しているとか言われたことないのよー、そういう男っているでしょう?」

「最近は聞きませんけどね……、愛しているの大安売りですから、かえって言われない方が、重みがあっていいんじゃないですかー?」

「でも、それにも限度があって、まったく言ってもらえないのも寂しいものよー」

「そうですね……、無口なんですか?」

「無口じゃあないわねー、無口では学校の先生は務まらないから……、でも、事、女という字が付くと意気地なしになるのよ本当に……、学生のときだって、私から私の部屋に誘わなかったら、いまだに手も触れず、私の周りをうろうろしていただけよー、だからきっと昇も、一夜を一緒に過ごしていても、手一つ握らなかったじゃないの? 私なら、こんな素敵なお嬢さん、すぐに押し倒しちゃうのにねー」

「いえいえ、そういう状況じゃなかったので……」

 でも、このお母さんは知らないんだ……

 昇さんは逢ったその夜に、好きだと私に告白したことを……

 きっと、昇さんはお父さんよりも、このお母さんの性格をたくさん受け継いでいるんだ。

「それは多分、お母さんの方がお強くて、旦那さんの出る幕がないのではないですか?」

「あら、私が旦那を尻にひいているとでもいいたいようねー」

「いえいえ、尻にひくというよりも、ひかれたいような、頼りがいのある……、私、お母さんを見ていて、あの大きなお山のような気がしてきました……」

「え、それ褒めすぎよー」

「はい、きっと今も旦那さんは、征服できない高い大きなお山を登っているんですよ!」

「なんか奇麗にまとめられちゃったわねー」

 ちょっと生意気だったかな……

 でも、そんな私にも明るい笑顔で褒めてくれる。

 私のお母さんに似ている……



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