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13. お婆さんの怖い話

(お婆さんの怖い話)


 夜になって、自慢の料理もご満悦で、美味しい美味しいといって食べていた。

 私も昼間と同じように同席させてもらった。

「女将さんも、これから食事でしょう? 堅いことはいわないから、一緒に食べましょう! 食事はやっぱりにぎやかなほうがいい!」

「そうですか、それでは私も一緒に……」

 遥さんは、私の前に座った。

「ここはご主人と一緒にやっているんですか?」

「始めたのは主人と二人で。でも、離婚しちゃったんです……」

「それは、それは、今は一人で……?」

 お爺さんが訊いた。

「父と母も忙しいときは手伝ってくれています。今は、やっぱり由加のことで体調を崩してしまって、ちょっと臥せっています……」

「そうですよね……、お嬢さん、亡くなられたんですよね。おバー様も辛かったんでしょうね……」

 お婆さんが思いやるように言った。

「いつもは、母が手伝ってくれていました。それに由加も、昔は民宿をやっていたので、民宿といっても本当に民宿なんですが、父は今も農協に勤めていますし、農業もやっていますから、この料理の野菜は家の畑で採れた自慢の野菜なんですよー」

「どうりで美味しいはずだな……」と、お爺さんが言った。

「由加が入院して、しばらくはやっていたんですが、そのうち状態は悪くなる一方で、すぐにできなくなってしまって、しばらくお休みしていたんです……、でも夏休みの季節ですので、何もしないのも辛かったので、また始めたんです。つい先週のことなんですよ……」

「じゃあ、わしらは運がいい、こんな素晴らしい宿にめぐりあうことができた。由加ちゃんのめぐり合わせかもしれないなー」

 お爺さんは自然と昼間あった少女と、由加ちゃんが一緒の子だと思っているようだった。

 でも、お婆さんは改めて訊きなおした。

「そうすると、昼間ここに連れてきてくれたお嬢さんは、やっぱり由加ちゃんだったんですかね?」

 私は話をはぐらかそうと声を掛けたが……

「お婆さん、そんな……」、後が続かなかった。

 遥さんも、その話を否定していいのか肯定していいのか、言葉を考えているようだった。

 しかし、この老夫婦はもうすでに疑いもなく由加ちゃんだったと決めていた。

 私がもう一言いう前に、お爺さんが付け加えた。

「由加ちゃんは、本当にいい子だった。普通なら爺さん婆さんなんか毛嫌いして逃げていくけれど、由加ちゃんは、そばにいて話をしてくれた……」

「そうでしたねー、優しい子でしたね……」

 お婆さんも思い出すように頷いた。

 私は思い切って……

「私も昨日、由加ちゃんに連れてこられたんですよ。やっぱり大きな縫いぐるみの人形を抱いてバス停にいたんです。私にも気軽に色々話してくれました……」

「昨日もバス停にいたんですねー」

「ええ、でも誰でも由加ちゃんが見えるわけでもないようですよー」

「それは、何にか分かるような気がするなー、わしらは彼の世に一番近い人間だからな……」

 もう先がないように話すお爺さんに、私は元気付けようと……

「そんなことないですよ。それじゃ私はどうなるんですか?」

「さっちゃんもわしらの仲間じゃ!」

「あー、ひどい」と、私は膨れて見せた。

 皆、顔を見合わせて笑った。


 しかし、お婆さんは……

「お爺さん、そんなことはないですよ。身内には見えなくて、他人には見えることって色々ありますよねー」

 お婆さんには、すべてを見通しているような気がした。

 でも、本当は怖い話をしていることに気がついた。

「でも本当は私、怖がりなんですー。こういう話に弱くって、でも由加ちゃんに逢ってから、こういうことって普通にあるんだなって思うようになりました」

 お婆さんは私の言葉に頷いて、話を始めた。

「この年になると、こんなことは珍しくないんですよ。よく見るんです……、亡くなった母が、暑い夜なんかは、未だに枕元に座って団扇で扇いでくれていたりします。この間も家に入ると、死んだ兄弟たちがそろって、昔のようにテレビを見ていました。そういえば、お父さんの母が居間で座っているのを見て、お茶を出そうと思って台所に行って用意するでしょう、そう言えば、もう亡くなったんだと思いだして、もう一度居間に行ってみると、やっぱり誰もいなかったり……、可笑しいでしょう!」

「お婆さん、そこまで言うと私、鳥肌がっ立て、震えてきますー、そういう話、本当に弱いんですー」

「でも、本当よ!」

「もう、お婆さん……」

 みんなは笑って、怖がっている私をひやかした。

 お年寄りの話は、人生経験を積んでいるだけあって、現実味を帯びていて、深い。

「私も由加に逢いたいです……、どうして私には見えないのですかね?」

 遥さんが、由加ちゃんの存在を信じているように、ぽつりと寂しそうに言った。

「私も同じです……、母に逢いたいです。幽霊でもいいから逢いたいです……」

 私がいつも思っていることだった。

「話が、湿っぽくなってしまったなー」

 お爺さんが、私と遥さんをかばうように話題を変えた。


 話は尽きなかったが、私たちは最後のプチケーキとアイスクリームを食べて、

和やかな、ちょっぴり寂しい食事は終わった。



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