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桜咲く坂を君と[後編]

公立アヴァランチ学園に通う高校二年生、終刀刀刀刃刃しゅうとうちかたなばじんは、数週間前からクラスメートにモテモテであった(死語)。

だが、そんなある日、怪物のような女。「鞘」としての存在、エルーマに、そいつらがみんなクラスメートに擬態した怪物である真実を伝えられた。

怪物達は全てエルーマの手によって惨殺され、クラスメートは助けられた、が―

僕の名前は、終刀刀刀刃刃しゅうとうちかたな・ばじん

変な名前と言ってくれるな、知ってるよ。ずっと前から、知ってるよ。

僕は神奈川県あかつき町にある公立アヴァランチ学園高等部の二年生で、普通の、ごく普通の少年であった。

そう、つい三日前までは、普通の少年であったのだ。

しかし僕は今、世界で一番普通ではない少年になってしまった。

僕は、未だに女性と付き合ったことがない。勿論、童貞である。

そして、一生童貞である。

もし卒業した時は、世界が終わる時。

僕の体の中には五つの刀があり、その中でも、一番危険な刀を使うわけにはいかないからである。

終刀おわりかたな

僕の股間にあるそれを使うことが出来るのは、「鞘」と呼ばれる存在だけ。

「鞘」は女性の姿をしているが、人間ではない。怪物ですら発動する、「終刀」が発動しない唯一の例外らしい。

その「鞘」が、この前俺を助けた化け物女、エルーマなのである―

「ふあ~あ、つまらん。学校なんて」

欠伸をしながら、高校へと真っ直ぐに繋がる両側を桜並木に囲まれた坂道を歩いていく。

少し前までは、学校も悪くないと思っていたが今は違う、断言出来る、学校なんぞ本当に行きたくない。

家にこもってPS3をやりまくりたい気持ちだが、家にこもると、更に悪夢が待っていそうな気がするのだ。

なぜなら、今、僕の家には―

「おはよう」

そんな事を考えていた僕に、クラスメートの至高宝可憐しこうだからかれんが挨拶をして、緩やかな坂道を歩いていく。

「お、おはよう」

離れていく彼女の背中に、僕は小さな声で返事をする。

素っ気ない、挨拶であった。

当たり前である、三日前のあの可憐は、怪物だったのだから。

本物の可憐はただのクラスメート、僕とは釣り合わない。赤の他人なのだ。

だから僕のモテ期は、終わったのだ。

いや、始まってもいなかっただけなんだが。

世界は、元に戻ったのだ。

「うふふ、おはよう刃刃君。今日も上下共に元気かしら?」

そうだった、完璧に元に戻っていなかった。

この世界の一番の歪みが、残っていた。

低く美しい声が、僕を呼ぶ。

腰まで届くくらいに長く艶やかな銀色の髪。

前髪は、眉に触れるくらいの長さ。

切れ長の大きな赤い瞳に、すっと通った鼻。

青色のルージュが引かれた唇は、今日は笑っていた。

この女性こそ僕の「鞘」を自称する存在、エルーマ。

今日は赤いスーツを着て、下もスカートをはいており、女教師のコスプレのような出で立ちをしていた。

いや、問題なのはこれがコスプレなのではなく――

「う、おはようございます。」

言葉につまりながらも、挨拶する僕。

そんな僕を品定めするような瞳で、見つめる。

「ふふっ、名前を呼んで欲しいものね。」

小さく笑いながら、更に要求するエルーマ。

「お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す、エルーマ先生」

分かりやすく、思い切り強調して言う僕。

エルーマを、僕は「先生」と呼んだ。

そう、エルーマは公立アヴァランチ学園の高等学部の先生となったのだ。

しかも、僕のクラスの担任である。

どうやってなったのかは、知らん。知りたくもないが、

彼女曰く「世界を越えるよりよっぽど楽」らしい。

因みに授業は科学を担当で、とても分かりやすい。

「似合うかしら?このスーツ。ほら、刃刃君、ストッキング好きでしょう?」

そんないかがわしい手段で教師になったエルーマは、スカートをぱんっと小さく叩いて両足を強調し、モデルのようなポーズをとる。

しかし、僕は適当に返す。

「似合ってんじゃないの?あの珍妙なドレスよりは。」

適当に返すと共に、ちょっと嫌味をトッピングする。

「ふふっ、冗談として受け取っておくわ。」

嫌味を華麗に受け流し、エルーマはにこっと笑う。

そして再び歩きだす僕の真横に、エルーマはぴったりと張り付くように歩いている。

傍から見たら、ただの教師と生徒には見えないであろう。

「っていうか、一応先生なのに、俺ばっかに付き纏っていいのかよ」

僕はエルーマから数歩、横に離れる。

「何を言っているの、私は平等よ。ただ、女の子と話す機会のない刃刃君のために、サービスしているだけよ」

しかし、エルーマはその歩幅の分近づき、あくまで並んで歩いている。

「そんなことを言ってたら、うちのクラスの男子の恋愛負け組三割にもサービスしなきゃいけなくなるぞ」

「知らないわ、そんな馬の骨」

即答するエルーマ。

「駄目じゃん」

呆れたように言う僕、全然平等ではない。

「ふふふ、いいじゃない。一途な女は嫌いかしら?」

くねっと体をねじらせ、スーツに包まれた女の体をアピールするエルーマ。

「僕は、自分のペースを崩されるのが嫌なんだ」

自分のペースで歩きながら、僕は言った。

そうなのだ、僕は僕のペースでいたいのだ。

必要な時以外は他人に介在しないから、他人も僕に出来るだけ干渉して欲しくないのだ。

干渉するなら、僕のペースに合わせてほしいのだ。

「ふん、いかにも童貞らしい物言いね。かわいいクラスメートとはすぐキス出来るくせにね。」

「ぐっ!」

あまりに正論なことを言われ、言葉を失う。

「まあいいわ、ずっと私が相手をしてあげるから、安心なさい。」

そう、迷惑なことに今、このエルーマは僕の家に同棲している。

両親はなぜか、三日前から海外出張に出ている。電話は二日おきにかかってくるから安心なのだが。

多分、エルーマの仕業であろう。いや、確実に。

「ちょ、お前、ここ通学路」

赤面して、僕は周囲を見回す。

奇跡的に人は数人しかおらず、こちらを意識している者は皆無であった。

しかし、それすらもこのエルーマの仕業では?と思ってしまう自分がいる。

ゴルゴムかよ、南光太郎かよ、と。

「ふふふ、なら続きは家に帰ってからね。さあて、今日は私の授業があるわよ。水兵リーベ〜、戦艦大和〜」

謎の元素記号の歌を歌いながら、僕よりも速くすたすた歩いていくエルーマ。

自分の一方的な主張を散々した挙げ句、自由気ままに不規則に形を変える。

まるで僕を取り巻く、全ての理不尽を人の形にしたような女がエルーマであった。

続きなんかねーよ、多分―

と、言いたかったが、あまりにペース過ぎて、ツッコミが追いつかなかった。

「ふふ、ツッコミですって?何を突っ込んでくれるのかしら、このコは」

クスクスと笑いながら赤面し、再び僕の眼前に現れるエルーマ。まるで瞬間移動である。

まあ、本当に瞬間移動したのかもしれないが。

そして平然と、下ネタを耳元で囁く。

朝からやられっぱなしで、僕のペースが乱れる。

こうして一日が始まるのだろうか。

納得出来ない。

「くっ!この淫乱教師があぁー!!」

僕は叫ぶ。

周囲の視線が僕に突き刺さる。

エルーマのやつは既に僕の眼前から離れ、数十歩先の緩やかな坂をすたすたと歩いていた。

いきなり叫んだ僕を、完全に他人のフリを決め込みやがったのだ。

あ、いや、確かに他人だが。

ひそひそと、道行く人達が喋っているのは、僕の気のせいではない。

通りすぎていく皆の視線が痛いが、釈明する気にもならなかった。

どうせ、世界は理解してくれないのだ。

僕は、深いため息を漏らした。

桜が咲く坂の上で―


桜咲く坂を君と、を最後まで読んで頂きありがとうございました。

このお話はまた、続編でも書きたいな、なんて思っています。

というか、アクセス数がハンパねえのでかなり嬉しいです!

皆さんこれからも、ゆびふらいの作品の応援を宜しくお願いします。

俺達の戦いはこれからだ!

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