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変空2~僕の初変を君に捧げる~

変な男に恋をした、ボーイッシュな高校生が見上げる空、略して「変空」

これはその「変空」の続編。

私の名前は真昼之空月我まひるのそら・つきが、公立高校に通う女子高生。

私には、好きな人がいます。

その人はヒーローに憧れ、ヒーローになろうとする、緋色先輩。

この物語はそんな先輩を好きな、私の物語。

神奈川県の田舎町、あかつき町。

そこにある公立アヴァランチ学園高等部の屋上で、その物語は始まります。

晴れやかな空が広がる春の日、私は屋上で緋色先輩ともう一人の先輩と一緒に昼食をとっていました。

「あ、先輩。お茶飲みますか?」

少年とよく見紛えられるショートカットに、すらっとした体、そしてそれを包むセーラー服。それが私であった。

私は弁当箱に蓋をしながら、赤いバッグからペットボトルのお茶を取り出す。

最近は買い出しをせず、朝お弁当を作ることが多くなったが、飲み物だけは自販機で買っている。

「あ、欲しい欲しい!下さいプリーズ!!やっぱ食った後はお茶だよな!!」

緋色先輩はナハハ、と笑いながら、私からお茶を受けとると、ペットボトルの蓋を開け口をつける。

彼が私の好きな先輩、最優真緋色もゆま・ひいろ先輩。

この学校では変な名前とか言われてるけど、私はこの名前好きです。

最も優しき真のヒーロー、まさに彼の生き方を現した名前だと思います。

緋色先輩は今日も学ランの中に青いジャージという着こなしをしており、最近伸ばし始めた茶髪をかきながら、ペットボトルのお茶を飲み干す。

「もう、緋色。食べてる時は髪いじんないの」

緋色先輩の隣に座る少女は、青黄緑桃子あおきみどり・ももこ先輩。

肩まで届くふわふわとした髪にぱっちりとした瞳、完璧なモデル体型、故に私と違い、出ている所が出ている。

ボーイッシュとよく他の女の子と違い、女の子らしい女の子だった。

桃黄先輩は二週間前に転校してきた緋色先輩のクラスメイトで、活発で快活な少女。

「ったく、桃子は細かいとこうるさいよなぁ…‥」

小さく愚痴をこぼす緋色先輩の頬に、私はご飯粒を見つけた。

これはチャンスなのだろう、多分。よく私が読んでる漫画でありがちな展開。直接口で取ってあげる変則パターンもあるが、ここは基本パターンでいってみようと思う。

私は勇気を振り絞る。

「あ、先輩!ご飯つぶが!」

私は勇気を出して、先輩に向かって指を伸ばす。

「お、ああ…‥わりわり!」

先輩は少し照れると、鼻をポリポリとかいた。

「偉いのね、真昼之ちゃん」

ふふっと笑いながら桃子先輩が言う。

「え?いいえ!!そんな事ないですよ!ハイ!」

謙遜する私の気持ちとは裏腹に、緋色先輩はうんうんと頷いていた。

「そうだな、俺がいつも突っ走れるのは、月我が支えてくれるのが大きいと思う」

緋色先輩が感慨深げに頷く。

私はこの上なく嬉しかった。

私は確かに、自慢でも何でもなく先輩のために頑張っていた。

お昼ご飯も用意するし、小さな怪我だったら手当する、何でもしてあげたいのである。

無力な自分に出来る精一杯のことを。

その精一杯を、認めてくれた。

これはチャンス!と私は思った。

自分の気持ちを伝えるには、もう今しかいない。

屋上には私と桃子先輩、そして緋色先輩しかいない。

言うなら、今だ―

「せ…‥先輩」

どもらないように、一気に言おうと思った。

が、大きな声が出て来ない。

だが私は続けた。

「先輩!…‥その、わ…‥私」

「ん?」

けたたましい警告音が、先輩の腕のブレスレットから屋上に響き渡る。

「ん?!また怪人か!!」

『B地区にて怪人出現、あかつき町329番地、ショッピングモール街の近く――防衛隊に応援を要せいせよ、「サザンクロス」出動要請―』

ブレスレットは青く点滅し、先輩達の表情が変わる。

ブレスレットは先輩が自作した警察や防衛軍の無線を傍受するための機械であり、先輩は警察や防衛軍の関係者などではない。

ただの高校生である。

だが戦うのだ。

相変わらず、この世界には怪人による殺傷事件が起こっており、それを倒すヒーローや防衛軍も存在しており、そのヒーローの中で最も生身で最も普通の人間である緋色先輩の戦いも続いていた。

ちなみに通信の中で呼び出されていた「サザンクロス」とは最近巷で有名なヒーローで、銀河連邦警察に所属する宇宙刑事のあだ名である。レーザーブレードで敵を十字に切り裂くため、サザンクロスと呼ばれている。

しかし、そういったヒーローと違い無所属で、先輩はほぼ生身で戦う。

悪の秘密組織に改造されたわけでもなければ、超古代の力を秘めたベルトを持っているわけでもなく、未来の精神生命体が憑依するわけでもない、普通の普通の普通の少年である。

大怪我が多いから少しだけ、怪我の回復が早い、くらいしか特出した能力はない、あとは全てその精神力でカバーしている。

だから、先輩は戦える。

先輩は、最優真緋色はヒーローだから。

「行くわよ、緋色!!」

桃子は立ち上がり長い髪をポニーテールのように縛りあげ、スカートの埃をぱんぱんと払う。

「ああ!」緋色先輩は学ランのまま、一足先に走り出していた。

「無理すんじゃないわよ!!フォローが大変なんだから!!」

桃子先輩は、どこからか取り出した折り紙を枚折り込み、三つの紙飛行機を作り上げる。するとその三つの紙飛行機はふわふわと宙に浮き、その材質は鋼と化した。

桃子先輩は私や緋色先輩のような普通の人間と違い、特殊な能力をもっていた。

それが、「鉄折紙はがねおりがみ」折った紙が鋼のように硬くなり、自分の意思自在に操ることができるようである。

「分かってる!!」

ヘルメットを被り、木刀を構える緋色先輩。

金属バットを使った方がいいのでは?と以前提案したが「ヤンキーみたいでやだ」という事で却下されてしまった事があります。

「着装!」

先輩が被ったヘルメットの黒いバイザーの中に、二つの黄色い鋭い瞳が光る。

このヘルメットは、防衛組織の隊員が使っていた純正品のヘルメットをインターネットのオークションで落札し(いいのかな?)、額にVの字のアンテナをくっつけた代物、と緋色先輩が説明してくれた。

因みにアンテナは、完全な飾りみたいです。

確かに今まで事あるごとに大敗してきたバイクのヘルメットよりも頑丈みたいで、今だに傷一つついていないようです。

ただ首から下は今までと同じように生身なので、私は不安だ。

毎回、頭以外のどこかしらに擦り傷、打撲などの痛々しい怪我をして帰ってくるので、毎回とても不安である。

十数回、骨折したこともあり、その時は毎日お見舞いに行った。

でも、私は緋色先輩を応援しています。

私は、ヒーローである緋色先輩が好きだから。

「ひ…‥緋色先輩!!」

呼び止める私に対し、ヘルメットを被った緋色先輩が振り返る。

「わりい!弁当とシート片付けといてくれ!俺も早く片付けてくる!!」

黒いバイザーの中に二つの鋭い黄色い目がありヒーローとして成立しているデザインの頭部から、似つかわしくない日常的な台詞が出る。

緋色先輩は、屋上から校内へとドアを開けて階段を駆け降りていく。

そして、その後に全く生身の先輩が続く。

「あんたが先に片付けられんじゃないわよ!!」

桃子先輩は軽口を叩きながら、緋色先輩を追い鋼の紙飛行機と共にドアの中に入り階段を駆け降りる。

「うっせえ!!」

校内から、緋色先輩の叫び声が響く。

ぽつんと一人残された私は三人分の弁当箱を一カ所に集め、シートを畳む。

暖かいはずの春風が、私に吹きすさぶ。

緋色先輩がヒーローならば、ヒロインは桃子先輩なのだろうか。

特撮ヒーローや漫画なら、あのポジションにいる人をヒロインと呼ぶのであろう。

そして私は、結局花を添えるために出された追加キャラ扱い、なんだろうか。

「…‥はあ」

ため息が、出てしまった。

「大丈夫?」

階段を上がり、校内から二人の少女が現れる。

親友のまっぴーとよっぴーである。

「あ、まっぴー、よっぴー」

シートを畳み終えた私は振り返り、二人に気づく。

「あ、…‥じゃない、大丈夫なの?あの先輩手強そうだよ?」

まっぴーは短い髪をくしゃくしゃとかきながら、首を傾げる。

「まだ転校して二週間くらいだよね?なんなのあの泥棒猫!」

小さな体、眼鏡に腰まで届く長い髪、という出で立ちのよっぴーは眉間にしわをよせ、ぷるぷると拳を振り上げる。

二人がそれぞれに桃子先輩についてきつく言うと、私はいつもフォローに入る。

あの人は別にそんなんじゃないよ、悪い人じゃないよ、と。

「大丈夫。私、頑張るから…‥多分、大丈夫」

ブイサインをして、笑ってみせた。

少し前の私と違い、今の私は少し強い。

先輩も強い、多分恋敵になる人も強い。

だから私も、私なりに強くならなければ。

「健気やのぉ~!その気持ちが詰まった胸、ちょっとオジサンに揉ませてみ?」

「私の嫁にくれ!」

二人がおよよと泣きながら感動し、勝手な事を言う。

「だが断ります!」

私が笑顔で断ると、二人はわははは、と笑う。

そして私も、笑った。

そうだ、今度は学ランにも防護するための鋼鉄を縫い付けてあげよう。

笑いながら、私は閃く。

そう、現実は厳しい。

ヒーローもヒロインも女の子も負けてられないのだ。

私は私のやり方で、様々なものと戦うのだ――

最後まで読んで頂きありがとうございます。

今回は私が「高浜ゆりえ」時代に書いた「変空」の続編でした。

「変空」はいろいろな感想を頂けたため、前々から続編を作りたかった作品の一つでもあります。

また、「スキマクラブ」内で続きを作りたいな、なんて思います。

でも、どうなんだろ…‥

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