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187524の弾幕[中編]

本編内容

ビリーズ・武道ぶとう)チャンプルー・

センシティ部、副部長。

サングラス、ドレッドヘア。

人間戦車。

完全鉄壁。

高校三年生。

褐色の肌、青い学ラン。


噺家潟里(はなしか・かたり)

噺家の家系。

お喋りな彼女。

圧倒的語彙。

高校三年生。

泣かない約束。

泣かせない約束。


分厚い友情、最大火力。

超絶死闘、株価上昇。

三角関係、恋愛感情。

完全燃焼、噺家接吻。

隙間倶楽部、第七弾、第二部。


本編開始。

襟までまっすぐに伸びた金色の髪、緑色の切れ長の瞳。

某レグザのCMの某福山を劣化させたような顔面。

まるで戦闘機にように引き締まった長身。モデル体型と言っておこう。

そして、それを包む、澄み切った空のように青い学ラン。特注品だ。

また、何事に対しても毅然とした態度で臨み、卑怯な事や筋の通らないことを嫌うため後輩からは「王子」と呼ばれている。

都内某所にある、都立セントガイア高等学校の高校三年生である。

私は、この高校にある「センシティ部」の部長。

それが私、全武鮭留ぜんぶ・さけるだ。

そんなことより、問題は――

センシティ部員の二人が、告白した二年生により返り討ちにあい、病院送りにされてしまったことだ。

春の暖かな日差しが差し込む、学校の校舎の三階。

三年生の私の教室の前、ポッティーが至る所に突き刺さり、針山と化した廊下。

壁や床が穴と血とポッティーだらけになったその場所で、私と彼女は対峙していた。

彼女の名前は、甘味狗久あまみ・いぬく

「なぜ――なぜこんな真似をした!?」

目の前に立ちはだかる少女、狗久に向かい問いかける。

金色のツインテールに、キレ長の赤い瞳。

厚みのある整った唇。

顔の造形はよいものの、眉を顰め、口は横一線に閉じられ、まるですべてを憎むかのような、冷たい怒りの表情を、彼女は保っていた。

出るところが出ているらしい比較的小柄な体型に、それを包む袖の長い、黒いセーラー服。

そして、ミニスカートに、黒いニーソックス。

そんな彼女に対して、私は問いかける。

私は、不可解でならなかった。

なぜ、愛の告白をしただけで、ここまで惨い仕打ちが出来るのか。

すでにセンシティブの副部長であるビリーズ・武道ぶどう・チャンプルーの通報により救急車により搬送された二人のセンシティ部員の二人、井伊直助いい・なおすけとハリス・マッケンジーは目を覆いたくなるような状態であった。

だから私は、問わずにはいられなかった。

「答えてもらおう!!甘味狗久!!」

思わず、声を荒げて回答の要求をする。

私は冷静ではいられなかった、友を、我が部の古くからの部員を仕留めた女が目の前にいる。

顔色一つ変えず、私の前に立っている。

それが許せないのだ、私は。

「いきなり告白されたから、力を試してやったのよ。私に相応しいかどうか」

ふん、とそっぽを向きながら、先ほどまで二人が倒れていた壁際を見つめる。

なるほど、いきなり告白されたら戸惑うこともあるだろう。

無理もない。

いや、だが、ここまでする必要があるのか?

断るだけでは、いけなかったのか?

廊下を針山に変えてしまう、この力の片鱗だけでも、あの二人を追い返すことはできたはずだ。

なぜ、ここまでしたのだ、この女、甘味狗久は。

やはり、理解できない。

そして、それ以上に、納得できなかった。

「全然、箸にも棒にも引っ掛からなかったけどね!!」

くすっ、と蔑むかのような笑顔を見せ、血痕が残るその壁際にポッティーを放つ狗久。

まるで忍者がクナイを使うようなモーションであった。

放たれたポッティーは弾丸のように空中を直進し、二人が倒れていた場所に突き刺さる。

やはり、ただのポッティーではない。

恐らく、何らかの手段により強度を

いや、私はそれよりも

彼女の嘲笑が一番、一番解せなかった。

「貴方が私の口にポッティーを突き刺せたら、謝罪でも何でもしてあげるけど。無理よねぇあの二人の仲間じゃ」

「!!」

その言葉を、私は挑発及び、宣戦布告と受け取った。

考えるよりも先に、体が動いていた。

奴の武器の分析など、どうでもよい。

私は、すべて回避する。

万が一、被弾したとしても、そのまま一撃で葬る。

一撃で、だ。

私は許せなかった。

やはり、この女は理不尽に暴力を振るったとしか思えない。

だからこそ、ここまで多弁になる、嘲笑もする。

感情を抑えきれないまま、私は床を蹴りあげ一瞬にして彼女の間合いの内側に到達する。

「ふっ熱くなっちゃって、バッカじゃない!?」

狗久は、背後に加速した。

まるで、車がバックギアを入れたかのような軌道。

私の脳は一瞬でその事象を理解する、彼女の上履きの下部のローラーがその不可解な動きの正体だ。

最近子供達が巷で使用しているローラー付き靴と同じような機能であるが、彼女が使用することにより、前後左右自由に機動が可能になったのだろう。

そして距離をとった狗久は、まず横一線にポッティーを放つ。

「この程度で!!」

そう、この程度ならば対処が可能だ。

彼女が弾をばら撒きながら後退するのであれば、こちらは全て回避しながら接近すればいい。

「まだ序の口だよ!!」

狗久は横一線にポッティーを放ちながら、思い切り後退し十数メートル距離をとる。

そして、次は放射線状にポッティー放つ。

予想以上の機動力と、弾幕であった。

これではあの二人があそこまで重体になるのも、無理からぬ話だ。

「だがっ――!!」

脳は冷静に物事を思考しているが、私の体はそうもいかなかった。

放たれた数十発の弾幕をすべて紙一重で避け、開けられた距離を詰める。

やはり一瞬だ、一瞬で彼女が後退した分の距離を接近することが出来る。

そして、私は拳を握りしめた。

このような勝負の場合、バトルマンガなら何週かに分けて、長々とお互いの能力を使いながら、最後に奥の手を使い倒すのが王道であろう。

だが、私はそんなことはしない。

一瞬で、勝負をつける。

相手がまだ実力を出し切っていない時に、こちらが全力で攻め落とせば、勝利する可能性は圧倒的に高くなる。

幸い、相手はまだ油断している。

一撃を加えれば倒せる。

「砕け散れッ!!」

すでに、彼女との距離は2メートル、34センチ。

私は拳を握りしめ、その標的を捉える。

爆発した感情がすべて込められたその拳と、怒りの矛先は。

狗久の、脳天。

「なっ?!」

驚きの声をあげる狗久。

しかし、そこからは予想外であった。

狗久の右腕の手の甲とセーラー服の袖の隙間から、まるで杭のように太く、先端の尖ったポッティーが出現する。

そして狗久は左側に体をねじらせ、私の右腕による一撃を避けようとする。

「ぬぅおぉぉーっ!!」

だが、このままなら、私の拳は当たる。

しかし、狗久の腕はアッパーカットのような軌道を描く。

そして、その杭のようなポッティーの先端は、私の喉元を捉えていた。

多分、普通のポッティーのサイズで床や壁に突き刺さるのだ。この五寸釘のようなサイズのポッティーは、確実に私の頭を吹き飛ばすであろう。

だが、私の拳は、彼女の脳天を砕き、一撃で脳髄を吹き飛ばすであろう。

いや、最初から相撃ち覚悟であったのだから、まあいい。

これでいいんだよな、直助、ハリス。

「ストォ―――ップ!!」

その時であった。

狗久の額を捉えていた私の拳は、一人の男により受け止められた。

そして私の喉元を捉えていた狗久の、杭のように太いポッティーもその男の拳により、防がれた。

「!?」

「!?」

とっさの事に、狗久も私も、声がでなかった。

ビリーズである。

ビリーズ・武倒ぶとう・チャンプルー。

赤と黒と茶色の迷彩柄の学ランを着た彼は白いマフラーを靡かせ、ダビデ像のような巨大な小麦色の体で私と狗久の間に割って入り、その両腕で二人の攻撃を受けきる。

その動きは、まるで某風の谷の某ウパ様のようであった。

いや、いくら「戦車男」との異名を誇るこの男の腕でも、渾身の力を込めた私の拳と、彼女の袖から出現したポッティーの杭の衝撃を受けけきれるわけがない。

「でうぇぇぇいッ!!」

ビリーズの両手は血を吹き出し、指の幾つかの骨が砕けながらも、私と狗久の裾を掴み、それぞれ左右に投げ飛ばす。

まるで投げ捨てられたボールのように、俺と狗久は床に転げ落ちた。

「女、そして鮭留!てめぇら二人だけのバトル空間の中にいたから分からないかも知れないが、もうチャイムは鳴ったんだぜ?早く教室に戻って勉強しやがれ!!」

サングラスの奥の鋭い瞳が、怒りに燃えていた。

両手から滴り落ちる血を制服のポケットから取り出したハンカチで拭きとり、ビリーズは俺達を交互に睨みつける。

「くっビリーズ!私は…私は!!なぬっ!?」

反論しようとした私に、一人の少女が覆いかぶさる。

潟里だ。

噺家潟里(はなしか・かたり)

ポニーテールの髪を揺らし、セーラー服に身を包んだ彼女は、真っ直ぐな二重の瞳からボロボロと涙を流して私を抑えつけていた。

「もうやめなよ!!このままじゃ二人とも死んじゃうよ!!何でこんなになってんの!?」

「はっ離せ!!潟里!!まだ勝負が…」

その手を振りほどこうとするが、彼女は全力全霊で私の腕を拘束していた。

十代の頃の広末涼子によく似た容姿をしている彼女は、ボロボロと泣きながらも、全力で私が狗久と戦うことを中断させようとしていた。

スレンダーで出るところは出ていないその体からは想像できないぐらいのバカ力で、彼女は私を抑え込んだ。

「離さないやバカ鮭留!何やってんのよう!バカ、バカ、バカぁ!!」

しかしその力は徐々に弱まっていく。

潟里は感情が爆発してしまったらしく、泣く事に力が集中したのだ。

私はその時にはもう、彼女を無視して動くことなど出来なかった。

泣いている彼女を見て、すこし冷静になったのだろう、と自分では思う。

「なんであんな無茶するの?!死んじゃうとこだったんだよ?!ねえ、あなたが死んだら、私どうすればいいの?!」

彼女の言葉が、私の心に突き刺さる。

心の奥の奥へ、鋭く突き刺さる。

まるで、雨水を飲みほしたような気持ちであった。

「くっ私は、私は…」

仇を討つ。

そのために戦い、玉砕覚悟で突撃しようとしていた。

友が、ビリーズが身を挺して中止させてくれなかったら、きっと取り返しのつかない大惨事になっていただろう。

そうだ、私は何をしようとしていたのだ。

大切なものを傷つけられて、怒りの感情に支配され、一番大切な存在の事を忘れていたのか。

だが、私はどうすればいいのか。

泣いている潟里を前にして、思考が堂々巡りを繰り返す。

「くっ!邪魔が入ったようだね!!」

「この決着は放課後までお預けだ、再戦の場所は旧校舎一階の教室!!いいな!!ヘイ!解散!!教室の中のギャラリーも席に着きやがれ!」

ビリーズは狗久にそう言い放つと、教室の中から恐る恐るこの戦闘を見つめている学生達に怒鳴り散らした。

教室内の学生達は、ガヤガヤと席についている様子であった。

「逃げないでよ!!今度こそ倒す!!」

彼女は、狗久はそう言って、二年生の階へ走り去っていった。

まるで、風のような速さで、彼女は消えた。

そしてポッティーだらけの廊下に残ったのは、泣きじゃくる潟里と、泣きやませる私、そして怒鳴るビリーズだけとなった。

「泣き止め潟里、もう終わったから…だから、泣きやんでくれ」

もう、勝負は放課後に持ち越したのだ、だからお前が泣く理由なんてない。

だから泣きやんでくれ、お前はいつも笑っているだろう?

お前はもう泣かないって、あの時、約束しただろう?

私も、あの時約束したんだ、もうお前を泣かせないって。

今はどうすればいいか、狗久とどう対峙すればいいかわからないが、とりあえず、お前が泣くのが一番辛いのだ。

「やだぁ!!私は鮭留が死なないって約束してくれるまで、このままでいるんだから!!授業なんて知らないよ!!どうせ受けても将来使わないもん!!私は鮭留と私の気持ちが一番大切なんだもん!!だから絶対泣きやまないから!!」

「分かった、分かったから。頼む、お前はまず泣きやめ。私は大丈夫だから」

死なない、か。

難しい注文だ、甘味狗久は強い、多分今の私と互角ぐらいの強さだ。

だが私は、泣いている彼女に何度も言った。

死なない、と。

私は潟里を泣かせてはいけないのだ、昔そう約束したから。

そう、約束したのだ。

それは、少し前に起こった、ある事件の最後の結末。

その話は、またこの物語とは別の話になるわかだが。

今はその約束を守るため、彼女に新しい約束をした。

死なない、と。

数分後に分かったことだが、午後の時間の授業は自習になったらしい。

先生は放課後まで来なかった、いい加減な学校だ。

どうやら姉妹校で、一人の女子生徒が校内で大暴れした事件が起こったため、職員会議が行われていたらしい。

その後の私は、放課後まで、校舎裏でわんわん泣いている潟里を泣きやませるのに終始した。

ビリーズは、そんな俺達のそばで、ただ黙っていた。

私とビリーズと、そして潟里の物語の続きの、この甘味狗久(製菓の弾丸使い)と全武鮭留(戦闘機王子)の物語。

それはセンシティブにしてアクティブな、戦いと和解の物語。

まだ、この戦いは終わらない。

このままでは、終われない。



つづく



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