間章 ーアーリア草原の魔女ー
「コロネ村の奴ら、死んだみたいね。」
異世界の極西のガルマン王国、その更に極西にあるアーリア草原の外れに棲家を構える魔女、亜麻色の髪の妖艶な美女アマネは溜め息をついた。
雑魚の村民どもはともかく、ガブのやつは少し馬鹿だが屈強な戦士だ。
生まれたてのダンジョンなど相手にならないと思ったのだが…。
使い魔の鴉を放ってダンジョン入り口と思われる森まで偵察に行かせたが、複数の眼をもつ怪しげなコウモリやウルフ達が警戒していてそれ以上は近づけなかった。
「今はまだ大丈夫だけど、これ以上私の棲家を荒らされる前に、ダンジョンの破壊にでも行こうかしら。」
何百年を生きる魔女にとって、ダンジョンを破壊して得られる莫大な財宝など大して興味はない。
自分の邪魔にならないのであれば放置しておくつもりだった。
「私の寿命も残り少ない。
ダンジョン破壊なんて150年前に一度したくらいだけど、最期の思い出作りに迎おうかしら。」
まるで散歩にでもいくかのように、魔女は言う。
それもそのはず、永き時を生きる彼女にとって生まれたてのダンジョンの破壊など散歩とさして変わらない。
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コロネ村防衛戦から2週間ほどが経った。
1人逃した人間が真っ直ぐ助けを呼びに行ったとして、ここから首都ガルマンまではサーチバットの飛行速度で片道1ヶ月ほど。
村一つを滅ぼしたダンジョンの討伐であればそれなりの軍隊が編成され、食糧や装備の準備にも時間を要するはずだ。
そこから考える猶予は短くとも3ヶ月。
ガブを超える猛者が大量にいて少数精鋭で、あるいは1人でダンジョンを滅ぼせるような猛者がいて、すぐさま攻めてくるようなことは考えても仕方がない。
今できることは、とにかく早くダンジョンの戦力を強化し誰が来ても倒せるあるいは撃退できるよう準備を進めるだけだ。
「戦力を更に強化するために、まずは食事だな。」
もちろん、俺の食事ではない。
ダンジョンマスターは食事ができるが、基本食事を必要としない。ダンジョンからエネルギーを得ているからだ。
しかし、魔物達は違う。
召喚された魔物は食事が必要だが、現在はトレントやハイトレントが生産する果実、森エリアから得られるキノコや野生動物の肉、川に棲む魚を捕まえて食べている。
農業、酪農、畜産、養殖なんかができれば問題は解決するんだが、うちにはそんなスキルを持った魔物も、酪農や畜産に適した動物もいない。
ところがこの食糧問題は、ある日突然解決へと向かうこととなる。