第3話 平民ゴリラが仲間になりました
「それで、一体何の用でしょう?」
私達は彼女らが泊まる部屋に招かれた。
アリアの紹介をしてから状況をかいつまんで説明した。
「あー、なるほど。確かにそれは陰謀の臭いがしますね」
「え、陰謀ってにおいするの?どんな臭い?やっぱりくさい?」
赤髪の女性、メールがわくわくした目をしながら水を差しに来た。
リムは菓子の袋を取り出し女性に渡す。
「ほら、美味しいクッキーをあげますから黙っていてください」
「わーい、クッキーだぁ!リム、大好き!!」
「はぁ、これが我が姉とは情けない……」
話の輪から外れ笑顔でクッキーを食べる姉を眺め、顔を手で覆う。
「それで、あなたは私に武器の調達と協力を要請しているわけですね」
「あ、あのエステル様。この方は……」
「ああ、失礼。私はレム・ミアガラッハ・リュシトーエと申します。あれは姉のレム・ラメール」
「ミアガラッハ!それって……」
アリアが驚いた表情で私の方を見る。
「ええ。彼女は英傑ミアガラッハの印持ちよ」
「家の方は姉が継いでいますけれどね。印は私が継いでいた様です」
「凄い。印持ちが3人も……あっ、もしかしてあっちでクッキー食べてるお姉さまも!?」
アリアはクッキーを貪っているメールを見る。
「いえ、あれは人ではありません。何処にでもいる平民ゴリラですのでお気になさらず」
いや、ゴリラはその辺に居ないと思うけど……
というか姉の扱いが酷い!!
「ちょとリム!聞こえたよ。あんたねぇ、姉の事を何だと思ってんのさ。いくら温厚なあたしでも怒るよ!!」
「あら、姉よ。そう怒らないで下さいな。ゴリラってとても賢い生き物なのですよ?」
「あんたねぇ……そ、そっか。賢いのかぁ。えへへ、可愛い妹だなぁ」
「納得しちゃってる!!?エステル様、何ですかこの人達!!?」
まあ、言いたいことはわかる。
リムはかつて私が外国へ旅行に行った際知り合った女性だ。
令嬢風の装いからは想像できないが農作物に詳しく様々な野菜を品種改良している。
父が治めるローラント領の農地改革の助けをして欲しいと招待して丁度滞在中だった。
本当は我が家でもてなしたかったのだが『不出来な姉がついて来ている』という理由で街の宿に泊まっていたのだ。
その不出来な姉というのがさっきからぎゃーぎゃー騒いでいるメール。
リムのひとつ上の姉で母親が違うらしい。
どうも妹が外国へ行くと聞いて『ずるい、あたしも行く』とか言ってついて来たらしい。
まあ、体力お化けなので色々と手伝いをさせていると彼女は言っていた。
結構ボロクソに言っているも何だかんだで姉妹仲は良好らしく見える。
「とりあえず武器ですが……確かエステルさんは剣士でしたよね?こんなものしかないですが……」
リムがどこからかひと振りの剣を取り出す。
「オルゴラソード。魔獣オルゴの素材を用いて作った剣です」
「いい剣ね。ありがたくお借りするわ」
「いや、ランクB相当の武器じゃないですか。何処から出したの!?エステル様、この人さらっと武器の密輸してますよ!?」
「失礼な。ただの所持品ですわ。乙女の嗜みとして各種類の武器は揃えています。万が一の場合は換金できますし」
「乙女の嗜みに武器の持ち歩きはありません!ていうかやっぱり密輸じゃない!!」
「細かい事はいいじゃないですか。面倒くさい女」
「がはっ!!」
アリアは机に頭を打ち付けた。
「これで取り合えず突入メンバーは3人になったわね」
「あの、エステル様。もう一度言いますが私はヒーラーですよ?」
「大丈夫。リムもヒーラーだから問題はない」
「ますます、ダメじゃないですか!!」
「あなた、何を言っているの?ヒーラーって物理職よね?」
「はい?」
アリアの横ではリムがメイスを手に素振りをしている。
「ヒーラーは物理職ですわ、アリアさん」
「絶対違う!だってわたしの装備は杖だもの!!」
「杖で殴るんですのね。確かに長さもあるから殴りやすいけど耐久性に難がありますわ。割れた断面でケガをしない様に気を付ける必要があります」
「杖は殴るものじゃない!!」
嘘、てっきり殴打武器と思ってたわ。
確かどこぞの大魔導士は杖で殴るスタイルらしいし。
「ねーねー、リム。あたしもついて行く!!」
姉であるメールがわくわくした表情をして妹を見ている。
「いや、でも印持ち以外はまずいんじゃないですか?」
心配するアリアとは対照的にリムは冷めた表情で言った。
「まあ、いいんじゃないですか?連れて行きましょう」
「よっしゃぁぁぁぁ!暴れるぞー!!」
「えぇ~~!!!」
まあ、リムがいいと言っているなら多分大丈夫なんでしょう。
小難しい事は考えないでさっさと宮廷魔術師をぶちのめしに行くとしましょうかね。
「これを置いて行くと暴れそうで面倒です」
あっ、ちょっと不安かも。
こうして物理ヒーラーと平民ゴリラが仲間になった。