視点F 7回表
《さあ、1アウト満塁。チャンスは長谷部実業。バッターは8番センターの岡田。三塁ランナーは宮口。追加点のホームを踏むことはできるのか。》
力になれない。と言われた後、「そうですか、わかりました。」と言って去るのも気まずく私は結局宮口選手と試合を見つめることしか出来なかった。風也は電話に出てくれない。もしかしたら争っているのかも。
「いいなあ。」
「え?」
彼がボソッと呟いた一言に思わず反応してしまった。
「あ、いや。そのー。君は知らないと思うけど、実は俺ドラフトではピッチャーとして入団したんだよね。」
「そうなんですか?」
「うん。外れ1位だったけどそれなりに期待されて入団したけど、全然だめで。ファームでも1アウト取れずに交代するばっかで。1年目にして戦力外にされるぞ、って先輩から脅されることもあったよ。」
野球のことはよく知らないけど、とても苦労したんだろうな。
「でも、そんなときにバッティングコーチに野手に転向しないかって誘われてね。びっくりしたよ。なんたってファームで1打席しか立ったことないのにねw。でもその一言に今は凄く救われてる。」
宮口選手は続ける。
「でも、正直悔しい気持ちもあるよ。」
「今、凄く成功してるのに?」
「元々はピッチャーだもんね。入団した時はチームの柱になって、行く行くはWBGで日本のエースとしてアメリカのマウンドで投げたいなーって。」
少し遠くの方を見てる。視線の先には球場がある。
「だからユウにはちょっと嫉妬してるかな。アイツは俺を超えるモノを持ってる。俺はプロ野球選手として生き残るために投手という1つ夢を諦めた。だからアイツをもう一人の自分みたいに見てるんだ。だって顔も似てるし、フォームもほぼ一緒だしな。アイツは俺のこと尊敬の眼差しで見つめてくるけど、全然w俺の方がそうやって見てたいのになあ。」
もう一人の自分。憧れと嫉妬は表裏一体ってどこかで聞いたことがある気がする。素敵な兄弟だ。
《いい当たり!いやっサードよく取った!そして3塁ランナーをそのままタッチ。ダブルプレー!3アウト!二番手の森、よくしのぎました。得点動かず!1-0のまま7回のウラに移ります。》




