幼馴染と僕
何度目だろう。
前を行く君をこんな気持ちで見つめるのは。
春、桜を見ながらさりげなく。
夏、祭りではぐれるといけないし。
秋、夕暮れに浮かぶ姿は寂しげで。
冬、寒いだろうって無理矢理に。
手を繋ごうって言うには少し近過ぎた僕達は、今年も何事もなく過ごしていく。
僕が口を開くと毎回のように君が先に言う。
「何してるの?置いてっちゃうよ」
君はずるい。
口を開くことにすらどれだけの勇気を出したのか分かっているのだろうか。
それでも、置いていかれたくなくて。
何もなくていいから君の隣にいたくて。
一生懸命に追いつこうとした。
初めて君の手を握った日。
「おめでとう」
僕は言った。手を差し出しながら。
「ありがとう」
君も言った。手を握り返しながら。
満面の笑みだった。
君はずるい。
置いていかれた僕の静かな嗚咽は誰にも届くことは無かった。