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39歳で青春するのはダメですか  作者: みちぼん
3/4

お隣さんは向日葵に似た美少女!?

 そういや引っ越しの日以来、隣の部屋から物音一つ聞こえない。カタカタとキーボードを叩きながら数日前に引っ越してきた隣室の事を考えていた。


 たまに外に出ても偶然遭遇する事もない。見慣れない真新しい赤い自転車が駐輪場に停めてあったがあれは彼女の物なのだろうか。


あっ物置部屋として借りたと言う可能性もあるか。


 考えてみれば部屋は一階だ。普通、女子の一人暮らしなら高層階でオートロックありの部屋を選択するのではないか。外界との壁がドア一枚しかない低防御力アパートで暮らすわけないか。


 そんな事を考えた直後、インターホンが鳴る予感がした。不思議なものでこの予感はかなりの確率で当たる。

糞狭い部屋の割に付属するインターホンは高性能で、チャイムが鳴ると同時にカメラが作動し訪問者を映し出す。


そこに写っていたのは女性だった。それも若い子だ。


「保険屋か?」


 俺はゆっくりドアを少し開けて「はい」と言った。

そこにはさっきカメラに写っていた女性が微笑みながら立っていた。


「突然申し訳ありません。ご挨拶が遅れました。私、先日隣に引っ越してきた佐山と申します。」


 一瞬、息を呑んだ。白いワンピースに白いヒールサンダル。長いさらさらの黒髪で、綺麗に整った顔立ち。


あぁ世の中にはこんな絵に描いたような美人が存在しているのだ。俺なんかが口を聞いていいのかとすら思う。


「色々ご迷惑をおかけするかと思いますが宜しくお願いします。」


 今時、アパートの住人に挨拶して回る若い子はどのくらい存在するだろう。きっと素敵な家庭で育ち、素敵な友達に囲まれて、素敵な物をたくさん見たり聞いたりしてきたんだろう。ほんと俺なんかが隣人でごめんなさい。


「いえいえ!わざわざありがとうございます。私は高槻と言います。こちらこそ宜しくお願いします。」


 ドアを大きく開けて目一杯の笑顔で応えたつもりだが、緊張で恐らく顔は引きつっていたに違いない。


「高槻さん!宜しくお願いします!」


 そう向日葵が如く輝く笑顔と共に佐山嬢は深くお辞儀をした。


「よ、宜しくお願いしますっ!」


 俺は背筋を伸ばしてさらに深くお辞儀を返した。俗に言う最敬礼と呼ばれるお辞儀の更に上を行った気がする。


「高槻さん!お願いがあるんです!」


 俺がお辞儀をし終わるより少し前に食い気味で佐山嬢が言った。


「な、なんでしょうか」


 あっ・・キラキラした瞳がうるうるしている


「私の部屋の電球が・・電球が切れちゃったんですー!」


 へ?電球??



「えーと・・たしか60Wだったような・・」


 いつ振りだろうか。女子の部屋に入るのは。

白で統一された清潔感に溢れ洗練された空間。自分の部屋と同じ間取りで同じ造りのはずだろう。月と蛆虫くらいの差がある・・。


 そして何より何とも言えない芳しい香り・・まるで花園の中にいるかの様な感覚に今にも失神してしまいそうになる。

どうしたらこの様なパーフェクト女子が生まれてくるのだろう。


「大丈夫ですか??気をつけて!」


佐山さんが下から心配そうな表情で目をウルウルさせながらこちらを見ている。


あぁ・・そんな・・勿体のうございます姫様・・


「大丈夫です!任せて!」


 ロフトから身を乗り出し切れた蛍光灯を取り外す。落ちるギリギリを攻めねば手が届かないのだ。交換する事を全く考慮していない造りであることは、自身の部屋で経験済みである。


「よっと・・」


 どうせなので二本共取り外して交換することにした。

一本ダメになったならすぐもう一本もダメになる。


「すごーい!さすがですー!」


 佐山さんは嬉しそうだ。その笑顔はもはや反則です。


「近くに電気屋がないのでちょっと車でホムセン行って買ってきますね」


 そう。このアパートの周囲1km圏内には家具・家電を買える場所がない。そこが非常に不便である。

 最も近いホムセンは3kmほど離れた場所にある。自転車でいけば大きい品物は買えない。かと言って徒歩はかなり面倒だ。坂もあるし。


「えっ!車でですか?!お持ちなんですか??」


 なんて表情豊かで仕草も可愛いらしいお方なのだろう。

ほんと恋してしまいそうだ。柄にもなく。年甲斐もなく。


「あっこういう時の為にカーシェアリング会員になってるんです。すぐ手配できます。」


 カーシェアリング。月会費1080円を払えば好きな時に好きなだけ近くのコインパーキングに停めてある専用車を運転する事ができる。


まさに自動車販売数低下に貢献大な利用者にはありがたいシステムである。もちろん時間あたりいくらの利用料もかかるが。


「す、凄い!大人って感じです!かっこいい!」


ぐはっ・・今のは・・殺傷能力高すぎます佐山嬢・・


「じゃ、じゃあ予約して・・。ちょうど空きありました。行ってきます。少しま・・」


「私もいきます!もちろん付いていきます!」


 手をギュッと両手で握られ、顔を近づけながら佐山さんはそう言った。


そうかもう死ぬんだ俺。そうに違いない。神様が死ぬ前に一瞬ふわっと幸せにしてやっか的なお目溢しをくださったのだ。ありがとう。悔いはない。


「あっ・・わ、わかりました。一緒にいきましょうか」

「はい!」


 満天の星より輝く笑顔を見せながら佐山さんは嬉しそうにそう応えてくれた。手を握ったままで。




「車に乗るのは久しぶりです!嬉しい!」


 佐山さんはキョロキョロ周囲を見渡して楽しそうだ。とゆーか・・き、緊張する。


「そ、そうなんですね。自分もたまにしか運転しないのでこういう機会は嬉しいです。」


 外に出るのがあんなに嫌だったはずが、可愛い子の為ならゾンビの群れにだって、喜び勇んで突っ込んでいけるのが男なのだよ。


「すいませんほんと。ご迷惑おかけして。」


「いえいえ。全然お気になさらず。」


 たった片道3kmのドライブ。時間にして15分。

それでもこんな事って起こるかね。考えてもみろ。


 うら若き乙女が、見ず知らずの腐りかけおっさんニートを部屋に入れ、尚且つ密室になる車でドライブするとかどこの同人誌だ。ありえん。


 だがしかし!今、リアルでそれはまさに起きている事実であり、現実なのだ。あり得た話だったのだ。

落ち着け俺。大丈夫だ。ここはひとつ経験値の違いを見せつけて大人の余裕を・・


「高槻さん!高槻さん!」


 佐山さんの呼びかけでハッと我にかえる。


「あの・・ホームセンター通り過ぎたような・・」


 えっ!?あ!!しまった考え事をしてて浮かれていたら通り過ぎた!


「あー!すいません!ちょっと考え事を・・」


慌てて左折しホームセンター方向へ車を向けた。


「大丈夫です!落ち着いて運転してくださいね!」


あぁ・・なんてお優しい。心が澄んでらっしゃる。


 その後、買い物はすぐ終わった。お目当ての品物は決まっていたし、初対面の人間同士でホームセンターに来て何をしようと言うのか。


「・・これでよし」


 早速、購入してきた蛍光管を取り付け点灯させると見事に点灯してくれた。


「わあー!ありがとうございます!バッチリですね!」


 嬉しそうに手を叩いて喜んでる佐山さん。もう君しか見えないよ僕は。


「ほんとにありがとうございました。助かりました。高槻さん!」


 て・・あれ・・流れでもう外に出てしまった。


「い、いえいえ!何かあったらいつでも呼んでください!」


「はい!ありがとうございました!」


バタン


 ドアを閉められてしまった。こういう時って普通はお疲れ様でしたお茶でもいかがですかみたいな流れになるのではないのか。


 えっどゆこと??蛍光管のお金も払ったんだけど??あれ??


 しばし呆然とした後、すぐ隣りの我が家のドアをゆっくり開けて中に入り、いつもは1つしかけない鍵を2つかけた。


「あー・・まあ・・現実なんてこんなもんだよな・・。」


 やっぱりこのドアの向こうにはゾンビしかいないんだ。


 しかし、その後も佐山さんは度々、シャワールームの水が流れないだとか、エアコンのリモコンがなくなったとか・・


 些細な事で時間など関係なく訪れては、生活上の問題を俺になんとかしろと言ってくるようになった。


 もちろん。蛍光管交換事件と同じように、問題が解決したら用済みとばかりに部屋を自然に追い出され、特に何かあるわけでもなく、俺はその度に枕を濡らしていた。


「な、なんなんだ・・俺はクラシ○ンか何かか」


 しかし、星空よりも美しい笑顔と、菖蒲がごとく愛らしいお願いポーズを前に、断れるはずもない・・。


 つうか下の名前も知らないんですが。

もちろんLIN○もスカ○プも知りませんよ。

ええ。聞く余地すらないからねほんと。


 おかげで小説は一向に進まなくなってしまった。

いつ来るかわからない美人さんにドキドキしてそれどころではない。


「これは幸せなことなのか・・?」


 全く進展はないが頼られているのは間違いないのではないのか。佐山さんからしたら、何かあったらタダで使える便利な隣人というだけかもしれないが。


「まあ・・別に金銭をよこせとかではないしな。

助けてあげるのも悪い気はしない・・が。」


 その時、インターホンが鳴る気配がした。

相変わらずその危機察知能力は高いようだ。


「高槻さーん!」


 今日も来たか・・。どこかで心待ちにしてやしないか。え?高槻勇大さんよ。


「はーい」


 ドアを開けると佐山さんがいつもの笑顔で・・

あれ格好がいつもと違うような・・。

なんか凄い大人っぽくみえる。化粧も違うな。

匂いも・・。


「高槻さん!今から一緒にドライブいきませんか!?」



 ・・この展開は想定外だ。


「わあーー!!夜景すごく綺麗ですねー!!」


 首都高横羽線を時速80kmで走行中。京浜工業地帯の工場群のライトが綺麗だ。というか佐山さんの方が10倍綺麗なんだが。


「高槻さん!いきなりこんなお願いして迷惑じゃなかったですか??」


 佐山さん・・あなたはズルい。そんなウルウルさせた瞳で見つめられて迷惑ですなどと言えるはずがない。


「そ、そんな事ないですよ。暇でしたし。」


「ありがとうございます。やっぱり高槻さんはとっても優しいですね!」


 それはやっぱり都合の良い存在て事すね佐山さん・・。わざとだったりしないだろうな・・。


「それにしてもどうしたんです?何かあったんですか?」


 まさか俺とドライブする為にこんなオシャレして来るとは思えない。何かあってむしゃくしゃしてたとか、彼氏と喧嘩して怒ってるとか。あるだろう。理由が。


「実は・・」


佐山さんは俯きながら小さな声で言った。


「パパ活する約束をしてたんですが、ドタキャンされまして・・。」


え?

パパ活?

何それ

佐山さんが?

パパ活??


「パ、パパ活・・ですか?」


 俯いたまま今にも泣き出しそうな瞳はとてもパパ活などやっている子には見えない。というか見たくない。


「それで家賃払う予定だったんです。」


 うわー・・まじすか。パパ活したお金で生計を立ててらっしゃるので??嘘でしょそりゃないよ受け止めらんねーよ。


 Wメテオ食らったみたいなショック。こんな可憐でお淑やかな美人さんが・・俺みたいな腐ったおっさんに弄ばれてたとか・・内容が重過ぎて消化しきれんよ。胃もたれするわ!太田○酸缶ごと丸呑みしなきゃだよ!


「なるほど・・」


なんて声かけるのが正解ですか。

その家賃、肩代わりしましょうかって?


 そんな馬鹿な。俺の知ってる佐山さんになら大歓迎ですが。目の前にいる佐山さんらしき生き物は、おっさんに抱かれ尽くした羊の皮を被った狼じゃないか。ありえん。


「もし払えなかったら・・私、あの部屋から追い出されちゃいますー!」


 しくしくと佐山さんらしき人は泣き出した。両手で顔を覆いながら。その姿を見て12分前の俺なら優しく包み込む大人の紳士っぷりを発揮したかもしれない。


 だが今は違う。そんな涙に騙されるほどさくらんぼ少年ではない。39年間生きてりゃ涙など簡単に流せる女も見てきたし、金が絡み出すと女は下心を巧みに突いてくる事など身に染みて知っている。


ふっ・・甘いなお嬢さん。もっと純真無垢な年齢イコール彼女いない歴の童貞君を相手にすべきだったよ。


「高槻さん・・助けて・・くれますか」


 左手を手に取り両手で握りしめ、顔を近づけて佐山さんらしき物は耳元で囁いた。


「もし助けてくれるなら・・今晩、私を好きにしていいですよ・・?」












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