表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39歳で青春するのはダメですか  作者: みちぼん
1/4

39歳独身ニートの高槻さん、奮い立つ!


 俺は人生ってやつを何処で間違えたのか。何が正解だったのか。39歳にもなって考えることかと正直思う。


 俺はたぶん諦めたのではなく考えるのをやめたのだ。考えても答えは一緒だからだ。正解など死ぬ間際にでもならねば出るものではない。


 生きてる最中に答えがわかるなら誰も道を踏み外さない。誰も間違わない。加えて俺は中2病を今も引きづったままの典型的なダメな大人だ。


 夢や希望などとは無縁で、何となく1日1日を過ごし、持て余す性欲に悶えるだけの学生生活を終え、特に興味のない会社に入社しやりたくも無い仕事に就いた。


 そして、歪な愛想笑いと自己嫌悪を繰り返し、挙げ句の果てに心を壊し無職に陥り、働く事もできず怠惰で憂鬱な毎日を送るだけのおっさんニート落伍者だ。


 部屋に引き籠ることは苦では無い。というか外に出るなぞ恐怖でしかない。誰かに会いたくないとか話したくないとか

それ以前の問題なんだ。


ーーー全て面倒だ


 出来れば買い物にすら行きたくない。

玄関ドアの向こうにはそれはそれは恐ろしいゾンビがうじゃうじゃ徘徊しているのだ。部屋から出られるはずがない。


 そんな俺が唯一心躍るのは好きなアニメを見ることそれだけだった。


 それも好んで見るのは恋愛ラブコメ。39にもなってだ。

ハーレム系の男主人公がモテまくるありえないシチュエーションで繰り返される色恋模様に胸ときめかす・・・。

これを世間では落伍者と呼ぶのだ。わかっている。


 結婚もせず、子供もいない、持ち家もない。


 今は職すらない。アニメが心の拠り所で、しかもラブコメばかり観ている。併せて精神を患い人と接するのも怖い。

どこで道を間違えたかなと思わずにはいられないだろう。


 それでもまだ生きている。生きていていいのかと聞かれたら動揺するしかないんだが。


・・しかし生きているなら何かできる事はないか。あの世で人生を振り返った時に閻魔様に語れるような何かを遺せないか。


 そうずっと考えている。

39歳で中2病でニートと言う、今の時代ごくありふれた人生の落伍者であったとしてもだ。


 俺は在籍の9割が男子の高校を卒業した。

高校時代という人生で最も熱い青春時代を男に囲まれて過ごした。


 そのせいもあるのかもしれない。彼女らしい彼女がいたのも3か月くらいの短いもので恋愛と呼べるかもわからない。

何人か付き合うかというとこまでこぎつけた事もあったかなと思っても相手の名前もよく覚えていない。


 青春らしい青春を経験してきたかと言われたら・・断言しよう。特記すべきことをしてこなかった。今考えればなんと無駄な時間を過ごしたものかと、後悔すらしている始末だ。


 その後は何人かの彼女ができて、俗に言うリア充ってやつも経験したりしたが・・39歳の今。嫁がいるわけでも無論、子供がいるわけでもない。この先出来る気もしない。


「この歳になってから青春とか言うかね・・」


 時々アニメの中でキラキラ全開フルスロットルな青春群像劇を目の当たりにすると、嫌悪感がふつふつと湧き上がる。

こんな青春したかったと言う感情ではない。それは普通の感覚だ。俺のように完全に拗らせている人間からすると


「・・現実はこんな風に上手くいかないよね綺麗じゃないよね。つか周りの人間みんないい人過ぎだし理解得られ過ぎ。

ありえねーよ何青春て馬鹿なのただの我儘じゃんお前ら。」だ。


 それでも何度も青春物語を観てしまうのは何故か。

その答えもよくわかっている。もう取り戻せない事を、やり直せない事を知っているからだ。嫉妬でしかないのだ。


 自分が光る青春てやつを経験してこなかったのは自分が動こうとしなかったからだ。人生で最も大切な時間なのだと自覚しえなかったからだ。今の自分を作ったのは自分だ。そして自分が選んだ道の結果が今なのだ。


わかっている。

わかっているんだ。

もう遅いんだ。

人生詰んだんだよ俺は。

ほっといてくれよ。


・・そう思ってたはずなんだが。

ほんとに人生とはわからないものだ。きっかけなどふとした事から生まれるものだ。


先が見えない真っ暗闇なのは

いつの年齢でも変わらないだろう?


なら失われた青春てやつを

俺はもう一度この手で掴んでやる。


やり直しではなく

今の自分で青春を楽しんでやるんだ。


そう思えたのは1本のアニメを観たからだった。


「空よりも遠い場所」


 南極に行こうと決めた女子高生4人組みが

周囲に馬鹿にされても白い目で見られても

あきらめず折れず真っ直ぐに直向きに

夢に向かって突き進む爽快で感動的なストーリーに

心の奥を抉られるほど衝撃を受けた。


 まだ何か出来る事があるんじゃないかって

自分から諦めて道を閉ざしているだけだろう。だから決めた。今からでも遅くはない。悔やむならやるだけやって

やりきってからでもいい。


 自分の足で歩く事、一歩踏み出す事に意味がきっとある。

そう思えた。生きていられている事に少しだけ有り難みを感じた。


 かと言って・・これと言って何をどうしたら

青春なんだろうか。


 自分が青春していると思えば青春なんだろうか?

他人から見てあの人青春してんなーと思わせたら青春なんだろうか。


 そもそも家に引き籠っている時点で青春しようなどと根本的におかしいのだ。まずは外に出ていつもと違う景色を見て

いつもと違う時間の流れを感じよう。そこからきっと何かが変わるはずだ。が。


「あー・・だめだ。めんどくせー」


変わるものか。

そんな簡単に。

そんなのはアニメや漫画の世界だけだ。


 そうそれが歳を重ねたやつが背負う業。何も変わらないとやる前から決めつけて疑わない動かない。それは39年間生きてきたあらゆる経験から導き出される自分の弱さから逃避する事で、今と変わらない生き方を維持しようとする安定を求めてやまぬ本能と言う魔物。


他人に関われば面倒だ、今のままでいい、不満のない人生より不足のない人生を送りたい。


 それぞれに生活があり、糧があり、その隙間の小さな幸せを手放したくはないのだ。安定の何が悪い。それが普通の大人というやつだろう。


 当然悪い事ではない。安定を求めるのは本能なのだからその欲求を満たす為に生きる事は人間として当たり前の摂理だろう。


 だから新しい事に挑戦する時は慎重に、失敗しないように、後悔しないように、空気を読みつつ安全に。だってダメだったら安定した生活が壊れてしまうから。


 そう考えた時、なんてくだらない事に拘っていたのだろうと恥ずかしくなった。世の中には空気なんて読まず自分がやりたい事に真っ直ぐ挑戦し続けている人もいるだろう。


ダメで元々大いに結構。いいじゃないか。


 今の俺にとって失敗しても失う物は何だ。何もなくはないか。ならやってみよう。やって上手くいけば儲け物だ。

面倒くさいのは何をしたらいいかわからないからだろう。

変わろうとするなら、青春しようとするなら今の俺に出来ることはなんだ。


遠くの街に行くことでも

綺麗な夜景を観にいく事でも

彼女を作って結婚を考えだす事でもない。


この部屋から

この場所から

何かを生み出すことも

青春することに違いはないんじゃないのか


じゃあなんだ。

俺なんかに出来る事、したい事はなんだ。

考えろ見つけるんだ。

本当の自分を。本音ってやつを。


 昔から物を書く事が好きだった。絵を描くのも好きで美術部にいたこともあったが、自分には文章で自分の思う世界を表現するのが合っていたように思う。


 美術部在籍最後の年。俺はエアブラシを使ってキャンバスいっぱいに空想画を描いた。


 夏空に無数の翅を描き様々な色の自分の手形をペタペタと押しつけた、今考えると空想というかサイコチックな意味不明な絵だが、当時の俺は胸をときめかせながら夢中で絵を仕上げていった。


完成した作品をみた顧問は目を細めて一言こう言った。


「これは絵じゃないな」


なるほど。プロの目からみると最早絵ではなくゴミに見えたようだ。


 その日以来、俺は一切画筆を持っていない。才能がないのだ。ましてその道に進もうなどと更々考えて無かったので、自分の可能性の有無を気づかせてくれた顧問に感謝すらしている。


 だが文章は違った。きままにブログを書いていた時、それを読んだ友人から面白いと言われた事がある。


 プレビュー数も数百人単位でいた気がする。

小説をいくつか書いたこともあったが、設定や登場人物の作り込みが甘く今読み返してみると死にたくなる様な内容ではあるが。


 だが自分の可能性があるとしたら文章だと思う。何の根拠もないが文章だと思うことにする。この部屋からこのパソコンから青春する事ができるとしたら文章を書くこと以外にないだろう。


自分史上、最高傑作を生み出してやろう。

それがきっと青春する事に繋がると信じるんだ。


「やりますか。ダメで元々当たってくだけろ・・だ!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ