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やさぐれ男の越冬記  作者: 青色蛍光ペン
7/7

最終話:冬休みは終わるが、彼の冬はまだ長い

俺は、氷川に酷い事を言ったのだな、と氷川の顔を見て確信する。だけどこれも仕方が無い事なのだ。このまま微妙な感じで終わってしまっても、学校で会う度に気まずい空気が流れるだけだ。それならば、ここでしっかりと関係を断ち切らなければならない。そうすれば、また以前のようにお互いのテリトリーで楽しくやっていけるだろう。

だが、そう思わない人間だっているということを木山は知らない。


「ね、ねぇ、なんで…!」


氷川には分からない。木山が考えている事が何一つ理解できない。難しい事をいろいろ考えているのだろうな、という程度にはわかるのだが、全く木山の意図が分からない。木山はいつも他人を拒絶し、誰も心から信じようとしない。別に木山がそれでいいのなら、と考えていたが、このまま行けば間違いなく木山は大きな傷を負ったまま、自分の前から姿を消すのだろう。木山はショッピングモールに2人で行った時の事やクラスでどうでもいい話や作戦のことを話し合っていた時間が楽しく無かったのだろうか。少なくとも氷川は楽しかった。多分学校生活を何気なく送ってきた中で1番楽しかった。だからこのまま木山が心に深い傷を負うのも、このまま姿を消すのも絶対に嫌だ。


「なんで私が木山君のこと嫌ってるって、そう決めつけちゃうの!? 私、木山君の事、全然嫌いじゃ無い! …むしろ、好きなのに…」


「…は? おい、いい加減からかうのは」


「からかってなんか無い。私本気だよ。最初は確かに颯斗が好きだった。でもね、私の事を傷つくこと覚悟で全力で助けてくれる人をなんで嫌いになれるの…? もしそんなに人間が信用できないんだったら、せめて私だけでも心を許せる存在になれればなって、いつの間にか考えが変わってた」


「いや、本当に…、訳わかんねぇよそれ…」


木山の事を真っ直ぐと見据えながら話す氷川の言葉を聞いて、たちまち目の前がぼやけていき、温かいものが頬を伝うのを感じる。氷川はどこまで優しいのだろうか。この優しさからは、流石の木山も逃れることはできないだろう。なんで自分が泣いているのかも分からないが、今ひどく幸せなのは確かだ。

言葉も出せずにひたすら俯いて静かに涙を流していると、体がふわりと暖かくて柔らかいものに包まれる。酷く混乱している木山はそれが氷川だという事に気づくのに10秒はかかってしまった。


「ほら、やっぱり本当は辛かったんでしょ…。でも、もう大丈夫」


「…大丈夫じゃないだろ。良いのか高橋は」


「言ったでしょ? 私の考えが変わったって」


しばらくすると、氷川は静かに木山から離れ、照れ臭そうに笑った。木山は思わず目を逸らしてしまったが、とりあえず礼の言葉を言っておく。


「…色々ありがとな。あと、悪かったな本当に。多分氷川だけじゃなくて、色々傷つけてしまったな」


「ううん。木山君は木山君なりに頑張ったんだから、多分みんな分かってくれるよ」


「…だといいな。…帰るか」


「うん、そうしよっか」


2人で元来た道を引き返す。闇雲に走ってきたつもりだったが、不思議なことに頭の中では案外道を覚えていたらしい。ゆっくりと夜道を歩きながら、適当に雑談をする。


「ま、さっき色々傷つけた、なんて言ってたけど木山君には色々って言うほど友達いないんだけどねー」


「…ほっとけ」


「あと、ちゃんと学校来てよね」


「不登校生みたいに扱うな。まだそこまで堕ちてない」


「堕ちる予定なんだ…」


多分こんなに悲惨で、こんなにも幸せなクリスマスイヴは二度と味わえないだろう。今までの努力が全部報われるような感覚を味わいながら、木山は残りの冬休みを満喫するのであった。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


年も明け、学校生活が再び始まる。周囲の生徒たちはみんなお互いに自分の冬休みの思い出を語り合っているが、木山は知っている。彼らは相手の思い出話になんて一切興味がなく、自分が体験した凄い出来事を相手に聞かせる事しか頭にないと言う事を。自分の方が凄い冬休みを過ごした、という薄っぺらい優越感を味わうためだけに繰り広げられる語り合いは、言うなれば相手の話を聞かず、自分の意見を相手にぶつけるだけの口論と何も変わらない。

笑顔で口論してるなんて滑稽だし、色々な意味で怖い。しかし、冬休みの大した思い出も、思い出を語る相手すらいない俺だけは絶対的平和主義者だと言えるのではないか。ざわつく教室を眺めながら、いつもの独り言を漏らす。


「やっぱ俺勝ち組だな」


「木山、また独り言か…」


「おお、高橋か」


またいつものように独り言に割り込んできたのは高橋だ。木山と高橋はあのあとちゃんと電話で和解していた。むしろお互いに正直な事を話せて仲が深まったと「高橋は」思っている。もちろん木山からすれば以前と何も変わらないのだが。


「で、あの後どうだったんだ?」


和解はしたのだが、仲直りをした後にすぐ木山が電話を切ってしまっていたため、高橋は木山と氷川のあの後の事を知らない。興味深げな顔で、それでいて不安そうな顔で尋ねてくる。


「もしかして俺のせいで気まずくなってたり…」


「まぁその、だな…」


「木山君! 明けましておめでとう!」


木山と高橋の会話に突然入り込んできた氷川は、二学期の時よりも元気になっているようにも思える。どうやら冬休みに大変良い事があったらしい。


「まぁその様子なら、わざわざ聞かなくても大丈夫そうだな」


「私たち、付き合ってるんだよ〜。えへへ…」


「え、そうなの?」


「き、木山…?」


氷川の言葉に、意外にもここで驚いたのは木山だ。その反応に高橋も驚く。その反応を見て更に氷川の表情にも驚きの色が現れ、慌てたように口を開く。


「え、あれって自動的にカップルになっちゃう展開じゃなかったの?」


「どんな展開だよそれ。俺はオッケーも何も出してないし、俺から告白した覚えもない」


「えーっと、木山、どういう事か説明してくれ」


高橋からすると、なぜか自分に好意を寄せていたはずの氷川が木山に好意を持っており、氷川の事が好きだったはずの木山がそれをやんわりと拒否しているように見える。一体これはどういう事なのだろうか。


「もうっ、木山君なんて知らなーい!」


高橋が考えている内に、氷川は頬を膨らませて自分の席に戻って行ってしまう。氷川の姿が消えてから、ようやく木山は口を開く。


「…俺が氷川を好きになっても、万が一その逆でも、きっとそれは一時期の幸福、一時期の感情の乱れに過ぎない。そのうち必ず俺が氷川に拒絶される日が来る。そうならない内に引き返しておくと、拒絶された時に受けるショックをあらかじめ消す事ができるだろ」


「お前なぁ…、いくらなんでもそれは無いだろ」


「まぁ、お前がどう思おうと勝手だが、氷川だけは引き返すラインを『赤の他人』から『友達』に引き上げてもいいかな…、と俺は思ってるんだ」


「…木山らしいな。まずは友達から、って事だろ。はっきり言えばいいのに、木山は全部抽象的に、遠回しに話す。だからこそ分かる事もあるけど、やっぱりそれでは全部は伝わらないぞ?」


「別に伝わらなくてもいいんだ。俺がはっきりと人に物事を話せるほどに人間を信用するのは、まだ先でもいいだろ」


ちらりと木山が窓に目を向けると、雪が降り始めたのか、男子生徒が窓を開けて手を出している。開かれた窓から流れ込んでくる風はまだまだ冷たさを帯びている。色々あったが、どうやら俺の越冬記はまだまだ続きそうだな、と木山は頭の中で呟く。

ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。

後書きなんて書いてなかったのに急に書き始めて申し訳ないです。個人的には割と長くかけたな、なんて考えてましたが、改めて見返すとたったの7話しか無いというのは個人的に残念ですが、それでもハイテンポに読み進めれる物語になったのかな、なんて前向きに捉えてます。

リクエストがあったり、予想より評価が高かったり、創作意欲が消えなかったりすればこれの続きの物語も書いてみたいですね。


追記

「やさぐれ男の越冬記」の続きとなる「根暗男の迎春誌」も投稿しております。よろしければそちらもご一読ください。

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