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やさぐれ男の越冬記  作者: 青色蛍光ペン
3/7

3:時に続いてやっと彼らも動き始める

『パンが無ければケーキを食べればいいじゃない』

マリー・アントワネットが残したとされるこの言葉は、上級階級の上から目線、一般市民の人々のことを全く考えていない言葉だと嫌われている。だが、俺はこの言葉が嫌いではない。俺はこれを、上級階級の人間だからこそできる逆転の発想だと評価している。つまり、逆に言うと一般市民だからこそできる逆転の発想も必ず存在する。しかも、上級階層の人間よりも、一般市民の方が圧倒的に数が多い。世界の人々は、偉人の名言を引用するばかりではなく、我々一般市民の発言にももっと耳を傾けるべきなのである。もしかすると、その中に世界を変えかねない逸材が混じっているのかもしれない。


「特に俺みたいな?」


「お前、何言ってんだ…」


「ん、あぁ…、高橋か」


昼休みで教室が騒がしい中1人で考え事をしていたのだが、どうやら最後の方は口に出ていたらしい。というかいつの間に高橋は前の席にいたのだろうか。つまり今のを聞かれていたということか。恥ずかしさで死にそうだ。と脳内では騒がしくしているが、木山はそれを顔や態度には出さず、いつも通りの口調で対応する。


「何の用だ」


「いや、別に用ってわけでは無いんだけど、少し話すぐらいいいだろ?」


「少しってどんなもんだ」


「1、2分ですむ。…というかお前のその用がない人間との会話を極力避ける対人方法、やめた方がいいぞ」


「俺だって最初は用もないのに話しかけたし、話しかけられたさ。で、数分で話題が無くなって気がつくと1人だ」


「それは…、災難だな」


他人事のように言いやがるなこいつは。いや、実際他人事なのだが。それにしても話題が途切れた時のあの微妙な雰囲気、どうにかならないものだろうか。正直木山が人とあまり話さないのはあの雰囲気が怖い、というのが1番の理由なのかもしれない。高橋や氷川を見ている感じ、多分そういうのに困ったことが無さそうだが、一体どうやっているのだろうか。多分木山は神様に与えて貰えなかった能力の内の一つだろうからどうせ分かったところで木山にはそれを使いこなすことはできないのだが。


「おっと、そろそろ時間だな。ありがとう、いい暇つぶしになったよ」


「またどっかいくのか?」


「今日は隣のクラスの奴らとサッカーだ」


「そりゃ大変そうだな…。まぁ頑張れよ」


「全く応援されてる気はしないけど、ありがとな」


それだけ言い残して足早に教室から出て行く高橋を見て、はぁ、とため息をつく。見てるだけでも慌ただしい生活を送っているものだ。


「本当に大変そうな生活してやがるんだな」


「あれを楽しそうって目線で見られない木山君の学校生活ってほんとつまらなさそうだよね」


独り言をこぼしたタイミングで今度は氷川が話しかけてくる。入れ替わり立ち替わり忙しい連中だ。


「何を言う。少なくともあいつらよりかは学校生活楽しんでる自信あるぞ。あと急に話しかけるな。寿命が減る」


「ほんと、木山君ってよく分からない。で、どう?」


「どう、とは?」


「颯斗だよ! なんか私のこと話してた?」


「いや、それは無いな。話したの1、2分だし、たいした話もしてないな」


「はぁ、使えないなぁ…。まぁいいや、じゃあ私戻るね、ばいばい」


手を振って自分の席に帰って行く氷川に、はぁ、とため息をつく。最近ため息を吐いてばかりな気がする。というか何気にいきなり「颯斗」呼びになっていたな。あんな露骨に変化が現れるなんて、少し面白いかもしれない。そして、氷川の最後の言葉を頭の中で反復する。


「え、使えないって、俺が悪いの…?」



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


何も起こらないまま時ばかりがいたずらに過ぎ、11月22日金曜日。いつも通り昼休みになって高橋が絡んできた時は決まってその後に氷川がやってくるし、高橋が絡みにこない日は氷川も来ないため読書。こんなどうでもいい氷川と出かけてから約2週間続けていた。そして時は放課後。木山はいつも通り1人で帰宅していた。


「帰り道とはいいものだな」


最近は高橋に加えて氷川も絡んでくるが、他の女子と群れる必要がある氷川や、部活で忙しい高橋は下校時間や帰り道ではこちらを見る暇すらない。つまり、この帰り道でのみ、木山は自分の世界に入り込むことを許される。帰り道、最高。


「おーい、木山!」


「…は?」


最近考え事をする度に高橋が現れる気がする。だが、これは好都合だ。そろそろ状況を動かさないと氷川の握力によって木山の首が折れかねない。


「おいおい、そんな顔するなよ。今日は部活無いし、途中まで道同じだろ? よかったらついて行くぞ」


「ん、まぁいい。ちょうど今用ができたところだ」


「へぇ、珍しいな。木山が俺に用があるだなんて」


氷川の告白から約2週間が経っているし、話してもいいだろう、と心の中で決心する。なんにせよ、現状を動かさなければいけなかったし丁度いいだろう。


「とは言っても、俺に直接関わることじゃ無いんだけどな」


「木山とは無関係? ますます気になるな。で、どんな用なんだ?」


「…誰かはあえて言わないが、お前のことが好きな奴がいる。一応覚えとけ」


軽く息を吸い、一気に言葉を吐き出した。別に自分に関わることでは無いとは分かっていても、なんとも言えない緊張感が辺りに漂う。


「…へぇ、木山もそんな事を言えるようになったか」


「ほっとけ」


「でも、悪いけど今の話は聞かなかったことにさせてもらうよ」


てっきり、高橋なら「あはは、困っちゃうなぁ」とか言うと思っていたのだが、思っていたよりも反応は良くない。多分高橋自身、その相手が氷川だと言うことぐらいとっくに見透かしているに違いない。あれだけ休み時間に木山と話していれば当然だ。

だからこそ、分からない。氷川は悪いやつでは無い。むしろ氷川みたいなやつに好意を抱かれるなんて勝ち組だ。と言うことは、ここにも何かあるということか。何か裏があるという事なのだろうか。今ばかりは自分の鋭さが憎い。寒いはずなのに背中に冷や汗がにじむのを感じる。そして、意を決して高橋に問いかける。


「な、なんでだよ」


「俺は、隣のクラスの川野咲かわの さきさんが好きなんだ」


「そう…、か…」


川野 咲と言えば、ちまちま聞く名前だ。確かサッカー部のマネージャーをやっていて、成績優秀、顔もよろしいと言うまたもや神様に優遇された側の人間だ。

別に、このやり取りで木山に直接的な被害があったわけでは無い。ただ高橋の好きな人間の名前を知った、それだけだ。

だが、知るだけで、ただそれだけで、自分以外の人間の運命が変わってしまうと言うのは…、あまりにも残酷だ。


「帰り道、最悪だな」


「何か言ったか? あ、ちなみに今の、まだ内緒な」


「バラしても何も得られないからな。そこは安心してくれ」


しばらく歩いてから高橋と分かれて帰宅し、自室に戻って椅子に座る。とりあえず、どう氷川にこれを告げるか。そしてどうやってこの状況を打開するか。考える事は山積みだ。


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