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オルレアンの姫

 それから数ヶ月。冬が来て雪が深くなってきたころ。朗報が入った。あの方が女神様を降臨させたとのこと。女神様の旗印の元、魔族への反抗が始まるという。ダルク帝国に各国の王を参集させ「鳩首協議」が開かれるらしい。


 雪中の旅程は厳しい。だが、そんなことは言ってはおれぬ。私は側近のみを連れ早馬を乗り継ぎ一路、かの帝国の首都ラミールを目指した。馬を何頭か乗り潰してしまった。本来は二週間近くかかる行程を私たちは半分で走破した。


 協議会の前日、私はミリーヌを伴ってあの方にお会いする機会を得た。あの方は変装なのだろう、髪の色や瞳の色が違う。でも、むしろオッドアイがあの方のチャーミングさを三倍増しにしている。


 女神様、アストリア様もご一緒だ。女神様は人の体を借りて降臨されるということのようだ。平凡な娘のようにも見えるが、溢れ出すオーラは人ならざる者であることを嫌でも教えてくれる。


 私は父が反逆の罪に問われ、代わって女王となった旨を説明した。


「姫様。なかなかやりますなぁ。覚悟を持った人というのかな。どこかアストリアに似ている。オレは貴女のような人が大好きだ」


 そんな。褒めていただくなんて。顔を火照りが止まらない。でもこの方は全てをご存知なのだ。


「恐悦至極に存じます。リブラ様にお褒めいただくなど、身に余る光栄」


 あの方ははにかんだように笑った。笑い顔も可愛い。また食べたくなるぅ。いや、ダメ、ダメだから。


「あ、あのことだけは。誰にも……」


 思わず言ってしまったトラウマ。


「あはは。もちろん他言はしていないさ。オルレアンの姫様」


「オルレアン?」


「ああ、オレの元いた世界の史実さ。後々ずいぶんと御伽噺が追加されたから、どこまでが本当かは知らないのだけれど。百年も続いた戦争で滅びそうな国を救った若い女性のことなんだ。総指揮官なのだろう? ぴったりだと思ったのさ」


 その少女は後に多くの創作者に啓示を与え、旗を持ち兵の先頭に立つ絵も残されているという。あの方は私が大きな魔力を持っていることもご存知だ。間違っても兵と共に戦うな、それは蛮勇だと釘を刺された。


 そもそも、この世界は、あの方がいた異世界との結びつきが強いらしく、異世界からの転生者が多数存在するとのことだ。あの方の世界はこちらに比べ、戦乱も多く殺伐としていたらしい。


 で、あるが故に、戦について高い見識を持った人物を多数輩出している。私は、転生者が前世の記憶を元に書いたであろう書物を丹念に調べ、連合軍の戦略を固めて行った。


 この国の春は遅い。その分、一気に花が咲き乱れる。暑くもなく寒くもなく今が一番よい季節だと思う。私たちは我が国の首都であったモルコ近くの平原に展開していた。人族とドワーフ、エルフの連合軍は総勢十万。


 対する魔族軍は十二万。多勢に無勢であるが、以前から悩まされいた魔道士隊の数が少ない。私たちの反撃に呼応する形で急ごしらえで徴兵した烏合の衆とみえる。アストリア様の強引とも言える戦略が功を奏した。


 一致団結しなかった点も大きいが、人族は大きな魔法を使える者は少なく、魔族の遠隔魔法攻撃に蹂躙され続けていた。そこで今回、騎馬魔道士部隊を編成することにした。


 私の提案だ。馬の機動力を生かすことで、近接攻撃しかできない弱い魔力の魔道士も戦力にするということだ。だが、さすがに戦場で馬を操れる魔道士の数は少なく、教練の結果、戦に投入できる数はわずかに二千。


 これを半分に分け、一方はミリーヌが指揮を執り敵左翼後方からの陽動。敵が騎馬魔道士隊に気を取られている隙に、ニクスランド王国軍を中心とした騎馬隊が敵正面を突く。敵右翼にはダルク帝国軍を中心とした歩兵隊とポルクランド王国の騎馬隊。先鋒は騎馬魔道士隊が務める。総指揮は自ら申し出た。


「女王様。お気を確かに。勇気と蛮勇は違います! どうがご自重を!」


「これは我が国の首都を奪還する戦いです。私自らが命をかけず、他国の兵の命を預かるなどできるはずもありません。いいですか。この戦は兵の士気で雌雄を決するのです。私に御旗を持たせてください」


 連合軍は他国のために死ねと言われて渋々参集した兵士が大多数だ。私が後方に控えて指揮をしたところで、まともに動くとも思えない。もとより私は父を殺した大罪人、惜むべき命などない。


 だが、側近は気を使ってくれた。高価なミスリル鉱で作った鎧。金属臭が鼻を突くが錆びることもなく軽くて動きやすい。


「申し訳ないですが、胸のところもう少し」


「いえ。女王様のお体にピッタリです」


 うっさいな。貧乳、貧乳言うんじゃないよ!!


「いいですか。私は軍の旗印です。目立つことが重要なのです。遠目からでも私が女だと分かるようにしてください」


「そんなことをしたら敵の矢の標的に」


「いいえ。私には魔法があります。矢など焼き尽くして、ご覧に入れましょう」


 あの方に止められていたことを私はやってしまう。私に剣など不要だ。代わりに旗を持つ。天色の地に十の星が円形に並ぶ。真ん中に一際大きな金の星。十というのは国や種族の数ではない。「全て」という意味だ。真ん中の星はアストリア様を表す。全ての者が女神様の元に集結するというを意味した連合軍の旗だ。十一という数字は異世界で女神様を象徴する星座の星の数でもある。本当にオルレアンの少女(おとめ)になってしまった。

少しベタかなぁ〜ですが、戦いにおいてアナシアはジャンヌダルクのイメージです。主人公がそれを言うのは、彼女に自重を促すという面もあります。ですが、彼女はその忠告を聞くことができなかった。


鎧の胸の部分うんぬんは「マロリオン物語」というファンタジーで、ヒロインのセ・ネドラからイメージしています。アナシアは大魔法使いですから、わざと目立つ装備で自ら盾となる覚悟を決める。


旗についてはお分かりですよね? EUの旗をイメージしています。少し違うのは真ん中にも星があるところです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 5/6 ・戦うヒロインって感じ? 命を張る姿をカッコいいと感じてしまった。 [気になる点]  あの方ははにかんだように笑った。笑い顔も可愛い。また食べたくなるぅ。いや、ダメ、ダメだから。…
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