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断罪の姫

残虐な描写があります。ご注意ください。

 翌朝、指揮者会が開かれた。これはあの方が私にくれた千載一遇のチャンスだと思った。会議は魔族軍が撤退したためサンクトブルクの北方に仮設の砦を築き、その南側を農地として開墾するというものだ。開墾といっても、戦乱で荒れ果てたがもともと農地だったのだ。


 すでに我が国の食料備蓄は底をついている。この冬が何とか越せるかどうかというレベルだ。雪が降るまでに早急に農地を確保し来秋に収穫をしなければ、来冬には確実に多数の餓死者が出る。議論の余地などないのだ。だが、魔族の死骸がどうのこうのとつまらぬ御託を並べている。


「魔族の死骸など埋めて肥料となせ! 冬に餓死者を出さぬこと。これ以上優先すべき課題などない」


 また、少々、キレてしまった。ああ、馬鹿な姫君を演じきれなくなってきた。ま、いいかぁ〜。


「この件は、これまでじゃ! よいな!」


 父は私の剣幕におろおろするばかりで何も言えない。本当に情けない。だが、会議は私の意見を承認してくれた。


「では。最後に、緊急動議がある」


 私は切り出した。心臓が早鐘のように打つ。ヤバイ、また漏れそうだ。


「ここに勇者様を亡き者にしようとした『犯人』の写し絵がある」


 写し絵とは念写のようなものだ。土属性魔法だが人の記憶した画像を写しとる魔法の砂絵だ。これを拓本のように紙に転写する。写し絵には、あの方を襲い、魔法で退けられた刺客の顔がくっきりと浮かんでいた。死の魔法に捕らえられ断末魔の形相だ。その中の一人は、父の懐刀とされている武人だ。


「お父様、私は貴方の娘として悲しくとても残念に思います。ですが、国のため臣民のため、貴方をこの場で断罪せねばなりません。こちらにお父様が魔王と通じていたという書簡もございます。さらには公金を横領し、密かに魔王に資金提供した裏帳簿も」


 魔王からの書簡というものだけは捏造品。裏帳簿は本物だが、魔王への資金提供はでっち上げだ。そのお金は私の工作資金に消えたのだから。嘘は真実の中に隠すのが上策ということだ。だが、()()真実なのだ。父は真っ青になって震えている。可哀想な人。情けなくて涙が出そうだ。


「な、何を、嘘だ。出鱈目だ」


「この写し絵は人の心をそのまま表すもの。偽りを写すことができぬことはご存知ですよね?」


「姫君、ご乱心を!」


 父の側近というか腰巾着がいきなり私の手をとり、議場から連れ出そうとした。ナイスタイミング! 私は火の魔法で軽く、もう調整はかなり慣れた、彼の衣服を焼いた。


「熱っつ!!!」


 思わず手を離し炎を払ったが、彼の上着には焼け焦げができていた。そこから見えたものは。短剣。


「まぁ、怖い。この会での佩刀は禁じられていますよね? もしや私をお刺しになるおつもり?」


 この短剣は私が彼に託したものだ。最近、会議も物騒なので守って欲しいと。類は友を呼ぶ。腰巾着もお人好しのおバカさんだ。議場の帰趨は決した。


「衛兵、反逆者を連れていけ! 地下牢に繋いでおくように」


「反逆者?」


「そこにおるであろう?」


 私は父と腰巾着を指差した。衛兵は戸惑っている。


「もう一度言う。魔王の甘言に乗り、国を売ったばかりか、救世主様を亡きものにせんと謀略を巡らせし大罪人。売国奴を連行せよ!」


 翌日には王宮で内々に戴冠式を行なった。私の女王としての初仕事は、父に極刑を申し渡すことだった。


 私の部屋に一枚の絵画がある。どこかは知らぬ異世界から渡ってきた肖像画の写しらしい。私とそう変わらない年の少女が、後ろを振り向いている。首の曲げ方がこれも異世界のアニメというものにでよく出てくる角度(シャフ角)らしい。


 髪に白い布のようなものを巻いている。彼女は実の父を殺した罪で処刑されたのだそうだ。ターバンは処刑の際、髪が斧の邪魔にならないようにするためだ。


 私は父を奸計にかけた。本来、私自身があの斬首台に送られるべき存在だ。袋で顔を隠されるまで、私は父との視線を外さなかった。見続けるのだ。自らの大罪、尊属殺人を。


 首切り役人の斧が夕日を反射して美しく輝く。光の泡から天使が降臨してきそうだ。斧が振り下ろされた。バサッ! 濡れた布を叩くような音がした。役人の腕前は確かなようだ。父の首は正確に桶の中に転がった。


「首は矢に刺して野に晒せ。売国奴の末路は鳥の餌と知らしめよ!」


 こんな言葉が自分の口から出るなどとは思いもしなかった。あの時、あの方を召喚した時。悪魔もそばにいたのではないか? 少なくとも比喩的に言って、私はこの国の将来と引き換えに悪魔に魂を売った。これからも、私は我が手を血に汚すだろう。だが、もう賽は投げられた。後戻りなどできない。


えと。15禁止ですよ! 後書きも残虐な蘊蓄あります。


前半は企業などでよくあるお家騒動というか。取締役会や株主総会でクーデターがあるような感じをイメージしています。アナシアは長年計略を練り、多数派工作をしていますので、指揮者会の大勢は彼女のものです。指揮者会と書いたのは、取締役を英語にするとディレクターになるからです。


うまく嘘を真実の間に混ぜ、かつ、劇場効果を狙うなどなど、彼女は曲者中の曲者です。ですが、それも大義のため。


肖像画というのは、グイド・レーニ作と伝えられるベアトリーチェの処刑前を描いた絵のことです。後ろを振り向いた美麗の女性。まさか、コレをヒントにした訳でもないでしょうけど。シャフト制作のアニメが描くところの「角度」に似ている気がするのです。


あとは首切りのシーンとなります。いわゆるギロチンではなく、首切り役人が斧を振るうイメージです。人の首を落とすと、濡れタオルを叩いたような音がすると言われています。実はコレは、日本式に介錯をした時の音です。斧だとどうだろ?


ちなみに、日本式の介錯には作法があります。力任せに刀を振るうと首が遠くへ飛んでしまい見苦しい。「たが屋」という落語にもネタとして出てきたり……。なので、首皮を一枚残す。すると「抱き首」と言うそうですが「キレイ」に前に落ちます。


って、ごめんなさい。残酷なの全然気にしないヤツなんです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 4/4 ・ファンタジーなのにリアリティ溢れる感じ。ウチのわたあめ小説とは全然違いますね。 [気になる点] 真実の中にウソを混ぜるのすごい [一言] 言うほどグロくはない。もっと詳しく描写…
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