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9/15

追跡中にたまたま君を見つけたんだ、偶然だよ!

 

「討伐対象のゴブリンが全滅した為、これにて遠征を終了とする!!」


 と、言うわけで遠征は終わった。

 1週間かかるはずだった遠征は、2日で終わってしまった。残りの5日はなんと休みになった!先生太っ腹!!


「それなのになんで私は反省文を書いてるんだ!!」

「まだ書き終わってなかったのですか?」


 せっかくの、休み、しかも、五連休!!

 その2日を既に反省文で潰してる........私が何をしたって言うんだ。


「反省文を提出しないからですわ」

「だって遠征だよ?」


 イベントだよ?そっちに夢中になっちゃったんだよ。


「そもそも授業に誠実に参加しないから悪いのですわよ」

「いや、真面目に薬学受けてた。けど、突然作っていたポーションが爆発した」

「........ちなみに、何を作っていたのです?」

「回復薬」

「ちょっと意味がわかりませんわね」

「私もびっくりした」


 回復薬って爆発するんだね?回復どころか全力で殺しにきてるね?

 危うく爆発した時の破片で顔がメチャメチャになる所だった。爆風を良けれる反射神経と身体能力があってよかった........異世界転生バンザイ。


「では、私は出かけます。キーラ貴方はくれぐれも余計なことをしないように」

「どこに?」

「王都ですわ。久しぶりに買い物を」

「私も行きたい!」


 アリスちゃんとお出掛けしたい!


「嫌ですわ」

「なんで?!」

「キーラと外に出たら貴方が何を仕出かすか........心配と不安で楽しめません!」

「ぶーぶー」

「ぶーぶー言っても駄目なものはダメなのです。私は貴方のいない空間でゆっくり、心安らかに、コーヒーではなく、紅茶を嗜みたいのです!!」


 そう言って、私の返答も聞かず、言ってしまった。



「........よし、追いかけよう」


 反省文にはもう飽き飽きだ。そもそもアリスちゃんが居ないなら反省文書けないし!

 何を隠そう、反省文のゴーストライターはアリスちゃんだ。

 前に真面目に自分で書いて提出したら先生に『反省文は絵日記じゃないんですよ』と言われた。

 それにアリスちゃんとは友達なのに1回もお出掛けしたことない!アリスちゃんと一緒にアフタヌーンティーしたい。


 こっそり尾行して、偶然出会った振りすれば大丈夫だろう。偶然なら、アリスちゃんも一緒に私と出歩いてくれるはず!!



 ☆☆☆



 ドレスだと追跡しにくいので、冒険者だった時の服に着替える。


 寮を出て、アリスちゃんを探す。


「よかった、まだ近くにいた」


 外出許可証を発行してもらうのに時間ががかったのだろう。私が追いつける範囲だ。

 学園から王都は目と鼻の先、とっても近いのだ。よく学園内のカップルが王都イチャイチャしているので、非リア民は別の街に行く事が多いとかなんとか。

 王都の内部に王様の住んでいるお城があり、そこにお兄様も騎士として務めている。

 アリスちゃんはその寮から王都へ行く道をトコトコと歩いている。

 何かから開放されたような、清々しい顔をしている。心做しか足取りも軽そうに見える。


「さて、どうやって偶然を装うかな........ん?」


 そう思案しているときだった。ナンパ男がアリスちゃんのいたいけない手を掴んだ挙句、話しかけたのは。


「やぁ、そこのお嬢ちゃん、オレと一緒に王都デートしない?黒澤牛のステーキ奢るからさ!」

「結構ですわ」

「まぁまぁ、そんな連れないこと言わずにね、ドンペリもご馳走するから!」

「本当に結構ですわ。早くこの手を放してくださる?」

「お嬢ちゃんも1人なんだろ?オレも1人で寂しくってさぁー、今ならダイヤモンドが嵌め込まれた懐中時計もつくよ?」


 あのナンパ男、必死過ぎないか?

 黒澤牛に、ドンペリ、ダイヤモンド付きの懐中時計、どんだけアリスちゃんとデートしたいんだ。


「しつこいですわね。わたくし急いでいるの、貴方はどっか行って下さる?」

「........なぁんだこの女ァ!オレが、こんなにも下手に出てるのに偉そぉに!!」

「ひっ?!」


 そうナンパ男は逆上して、持っていたらしいナイフをアリスちゃんに向かって振り上げた。


「女子に向かっての暴力反対」

「き、キーラ?!」


 隠れていた物陰から出て、ナンパ男を蹴り飛ばす。ナンパ男は気絶した。

 そのままにしておくと通行の邪魔なので、近くを巡回していた警備官にそいつを引き渡す。


 いや、違うんだって。気絶してるのは正当防衛だって。ほんとに友達が傷つけられそうだったんだって!


 警備官は疑い深かった。




 ☆☆☆



「........はぁ、助かりましたわ」

「アリスちゃんに怪我がなくて良かった」

「でもキーラなぜ貴方がここに居るのです?」

「アリスちゃんをストーカ........ゲフンゲフン、尾行中にたまたま見つけただけ。偶然だよ」

「........誤魔化せてませんことよ。なんですか尾行中に偶然見つけるって」

「だって、アリスちゃんとお出掛けしたかったんだもん」

「開き直りましたわね」

「だめ?」

「はぁ........、まぁいいでしょう。あの男から助けて頂いた恩もありますし」

「やったぁ!」


 わぁい。アリスちゃん優しい。同年代唯一の友達、アリスちゃんと初めてのお出掛けだ!


「ただし、その服、お脱ぎくださいまし」


「........私達そういう関係じゃないと思う」

「そうではなく!!言葉のあやですわ!!その服装をどうにかしなさいと言っているのです!」


 服装?

 シャツ、短パン、武器を入れるためのタガーベルトに、底の厚い革靴、顔を隠すためのフード付きマント........割とポピュラーな冒険者の服装なんだけど。

 なんか変なとこでもあるのかな?


「その足ですわ!!剥き出しにして!貴族の、しかも伯爵のご令嬢としてはしたない!!ドレスをとはまでは言いませんが長いズボンをお履きくださいまし!」

「ズボン動き難いし........」

「つべこべ言わない!まずはドレスを購入しに行きますわよ!」

「アリスちゃんがそう言うなら........」


 あの後アリスちゃんの手により、この服はひん剥かれ、ドレスを着せられた。青色のワンピースで、下町の服みたいに軽いドレスだ。可愛い。

 しかし、冒険者の服装は没収された。




 ☆☆☆



「あらこの髪飾り、いいわね。いや、こっちも捨てがたいわ........でも今日は髪飾りを買いに来た訳ではありませんし........でもこっちだけでも、」

「アリスちゃん見て見て、おっさんの顔イヤリング」

「面白いですわね」

「お揃いで買わない?」


 友達とお揃いのものってなんかいいよね。仲良い感じがする。


「嫌ですわ」

「........んじゃ、イケメンの顔イヤリングにする」

「そっちも嫌ですわよ!?」

「アリスちゃんイケメン好きでしょ?」

「いやいや、そいう問題ではありませんわ。何が悲しくて、貴方とお揃いでイケメンの顔を耳に着けるのですか?........意味がわかりませんわ」


 手に持ってたイヤリングはアリスちゃんの手によって棚に戻された。

 まぁ、確かにあのイケメンの顔はアリスちゃん好みではなかったかもしれない。


 それにしても王都は色んなものが売っている。

 折角来たし、ハイドにもなんかお土産を買ってあげよう。何がいいかな。

 やっぱ毒かな........。


 いい感じのがないか、その辺を歩いて回る。


「ヘアピンにしよう」


 うん。これがいい。ハイドはいっつも前髪がウザイし、眼にかかってて視力が悪くなりそうだし。ピッタリな送り物だろう。


「でもどれにしよう」


 沢山種類があってえらびきれない。

 こういうの得意じゃないんだよな。こういう時は、


「アリスちゃーん、ハイドにヘヤピンあげたいんだけどどれが........あれ?」


 アリスちゃんが消えてる。

 さっきまでそこ居たのに。


「........まさか、アリスちゃん迷子?」

「迷子は貴方ですわ!キーラ!!勝手にちょこまかと動かないでくださいまし!」


 と、思ったらすぐに見つかった。

 良かった。

 よかったから、アリスちゃん、頭をわしづかみにするのはやめて欲しい。脳みそ零れる。


「キーラ、いいこと?これから絶対私の手を離さないでくださいね?」


 そう言って、私の手は強く握られた。それはもう骨が軋むほど強く。


 なんだろう、まるで何処かに行かないように子供の手を繋ぐママみたいだ。




 ☆☆☆


「わたくし、常日頃から貴方に言っておりますよね?」


 何をだろう。


「勝手な行動をしないこと、行動を起こす前には近くの誰かに一言言うこと、朝起きる時、ぐずらないこと!」


 朝起きる時ぐずらないことは言われてないと思います。


「何か、仰りたいことでも?」

「いえ、とくにないです」


 怖い。アリスちゃんはまた笑顔で怒っている。

 あれから手を繋がれてこの喫茶店に入った。

 注文した紅茶とクッキーからいい匂いが漂ってくる。


「こうなるから、1人で出掛けたかったのに」

「........ごめん」


 これあげるから許して欲しい。


「これ、さっきのおっさんイヤリングじゃありませんか!!要りませんわ!!」


 残念。おっさんイヤリング着けるアリスちゃんを見たかったのに。まぁ、お巫山戯はこれくらいにして。

 私は先程買った、ピンクの紙に包装された袋をアリスちゃんに渡す。


「これは冗談。本当はこれ」

「冗談にしては目が本気でしたわよ........これは!」


 気に入ってくれたかな?


「あの時迷ってた髪飾りじゃありませんこと?!」

「うん。可愛いいからかった。アリスちゃんにいつもの御礼がしたくて」


 いつも一緒にいてくれてありがとう。反省文を一緒に考えてくれてありがとう。毎朝起こしてくれてありがとう。

 でも、朝起こすときシンバル鳴らすのはやめて欲しい。秒で目が覚めるけど、耳が壊れる。


「........キーラ、ほんと、そういう所が狡いですわ」

「使ってくれる?」

「当たり前ですわ。ありがとう存じます。さぁ、飲みましょう。良い紅茶が冷めてしまいます」


 どうやらアリスちゃんの怒りは収まったようだ。よかった。

 髪飾りも受け取って貰えたし。私も紅茶飲もう。


「........これは、とても高級な味がする!」

「そりゃ最高級のセイロンですからね」

「........アールグレイじゃない?」

「何を言ってるんですの?この違いもわからない........?」

「紅茶は大体アールグレイって言っとけば間違いないってお母様が言ってた」

「間違っていますわ!!伯爵令嬢たるもの、紅茶の味が分からなくてどうします!?」

「どうもしないけど」

「こうしては居られません、特訓です!!」


 え、なんで急にスイッチ入ったのアリスちゃん。ちょっと怖いんだけど。

 ........紅茶なんて皆味同じじゃないの?


 それからアリスちゃんは『3段目の棚の茶葉、1列全て買いますわ』と貴族らしい購入の仕方をして、さっさと寮に帰ろうとする。え、もうちょい遊んでいこうよ。


「早く戻って紅茶を飲むのです!味がわかるまで今日は眠らせませんわ!!言うなれば紅茶ブードキャンプですわね!」

「やだぁー!」

「つべこべ言わない!!」



 ☆☆☆


「と、言うわけで逃げてきた」

「成程、急に『追われている、匿って』って入ってきたから何事かと思ったよ」


 実際、私に紅茶の味を覚え込ませようと、使命感に溢れたアリスちゃんから追われてる。間違ってはいない。


 現在、ポーション開発部に逃げ込んでいる。

 もちろん、アリスちゃんの地獄の紅茶ブートキャンプから逃げるためだ。

 ついでにハイドにお土産をあげる為でもある。


「はいこれ、王都行ってきたお土産」

「ありがとう........なんだろうこれ、おっさん?」

「間違えた、こっち」


 間違えておっさんイヤリングを渡してしまった。失礼失礼。


「これは、髪留め?」

「そう、ヘアピン。その顔は、前髪で隠すの勿体ないよ........折角綺麗な紅い瞳をしてるのに」


「........やめろ」

「え?」


 ハイドは私の手を振り払った。

 持っていたヘヤピンは床に転がった。


「俺の目は紅くなんかない!!」


 えーと。

 前見た時は紅だった気がするんだけど、変わったのかな?

 第2王子みたいな宝石みたいな明るい赤じゃなくて、血みたいな暗い紅で綺麗だなぁー、って思ったんだけど。



 ........それともそれは、言っちゃダメな事だったのかな?



「........それは、ごめん。その髪型、そんなに気に入ってるとは思わなかった」


 こういう時は誤魔化すに限る。

 よく分からないけどハイドにとって、目の色の話は地雷のようだ。コンプレックスでもあるのかもしれない。


「お気に入りの髪型は変えたくないのはわかる」

「え?........あぁ、そうなんだよね。だから前髪を上げるとか考えられなくて」


 ハイドも、私の意図を察してか、乗ってくれた。

 張り詰めていた雰囲気も元に戻る。よかったよかった。


「でもお土産は嬉しいから貰うね、ありがとう」

「どういたしまして」


 次は使えそうなやつ買ってくるよ。やっぱ毒かな。


「次は俺と一緒に王都行こうね」

「なんで?」

「もしかして忘れてる?遠征終わったら休日俺と出掛けようって話」


 あ、忘れてた。

 いや、忘れたくて忘れてた訳じゃなくて、色々あって。

 ゴブリン殲滅したり、Dクラスをバカにしてたヤツらの寮室に百足を散布したり、インクを黒蜜に変えたり........色々あったんだ。


「もちろん忘れてないよ。明日行こう!」

「よかった、忘れてたら思い出すまでここに閉じ込めようと思ってたんだよね」


 危ない。私は出来れば夜は布団で寝たいのだ。閉じ込められなくてよかった。


「じゃぁ、明日お昼前にここに来てね」

「わかった。また明日」


 流れで、ポーション開発部(隠れ場所)を出てしまった。


 ........どうしよう。アリスちゃんの紅茶の味がわかるようになるまでブートキャンプは嫌だな。




 ☆☆☆


「アリスちゃんが紅茶ブートキャンプを諦めてますように!」


 現在、寮。自分の寮室の目の前。


 あれから食堂に行って2時間ぐらいかけて夕食をとったり、その辺をブラブラしたりして時間を潰した。

 が、もういい子は寝る時間だ。そろそろ私はお風呂にに入って寝たい。


 私は静かにドアを開ける。

 すると、リビングのソファの前でアリスちゃんは床に転がっていた。


 アリスちゃんは床に転がっていた。


「........は?」


 アリスちゃんは床に転がっている。

 目を固く閉じて。

 顔は真っ白で。

 周りには沢山の紅茶の束がぶちまけられていた。

 手には齧りかけのアップルパイがあった。


 アリスちゃんは依然として床に転がっている。


「........誰?」


 誰がやった?

 誰が、


 アリスちゃんはまだ床に転がっている。



 アリスちゃんはこれからも床に転がっている。



 ........私の記憶は、一旦ここで途切れる。







「.......誰が、やった?」










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