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そのお茶毒入りにつき、お気をつけを。

「あんなに、あんなに勝手な行動をなさらないでくださいと言ったのに!!」


 現在地、私とアリスちゃんの寮室。

 夕食もお風呂も終わり、そろそろベットに入ろうか、という時間帯。

 アリスちゃんは吠えた。


「試験をすっぽかすとはどういう了見ですか!?わたくしが、どれだけ、あなたを、さがしたと?この、このアンポンタン!!」

「......あんぽんたん」

「しかも、雑草を抜いてたらいつの間にか時間が経ってたですって?巫山戯るのも大概にしてくださいまし。この、このスットコドッコイ!」

「.....すっとこどっこい」


「そんな神妙な顔で花を差し出しても許されませんわ!あと、その花は雑草です」

「.....雑草」

「ちょ、グイグイ押し付けないでくださいまし!........わかりました!後でお部屋に飾りますから!」


 アリスちゃんはとても怒っていた。


 うっかり試験をサボタージュしてしまった私は、取り敢えずお腹が空いたので寮に一足早く戻り、食堂でハンバーグを食べていた。

 そこに、アリスちゃんが走り込んできたのだ。淑女らしからぬ、見事な走りぶりだった。朝30分掛けて編み上げた茶髪を振り乱しての爆走だった。

 そしてその勢いのまま無言で私の手を掴み、この部屋に入った。何も言わず、真顔だった。とても怖かった。

 そして、今に至る。

 ハンバーグは半分しか食べれなかった。作ってくれた人、ごめん。


「キカルテット様になんてご報告申し上げたら良いか........」

「チクリだー。汚いぞ!」

「黙らっしゃい!今回の事で貴方を野放しにすることがどれほど危険な事なのか、よく、よくわかりましたわ。わたくし、まだまだ見張り役としての自覚が足りませんでした。そもそも、」


 あ、これ長くなるパターンのやつだ。

 私は知っている。こういう状態になっている人には何を言っても無駄だということを。

 お母様もこのタイプだ。このタイプは相手が満足するまで話すと、勝手に納得して、勝手に終わる。

 ただ、ちゃんと聞いている演技をしつつ、いい感じのタイミングで頷かないと、話が長くなる可能性があるため、注意が必要だ。


「キーラ、聞いていらっしゃいますこと?!」

「うん、聞いてるよママ」

「ですからママではありませんわ!あれほど、」


 話はまだまだ続くようだ。

 今夜はアリスちゃんが寝かせてくれないかもしれない........。






 ☆☆☆



 翌朝。今日のブレックファーストはトンカツにした。

 昨夜はあんまり眠れなかった。アリスちゃんの小言は空が白み始める頃まで終わらなかったからだ。

 びっくりした。なんでそんなに言うことあるのだろう。


「朝からヘビーなものをお食べになるのね」

「トンカツ美味しい」

「見ているだけで胃が重たくなりますわ」


 そう言いながらコーヒーを上品に飲むアリスちゃん。目の前の卓には、焼いたパンが1枚とジャム、ヨーグルトが少しだけ。そんなんで足りる?私のトンカツちょっとあげようか?


「今日からいよいよ授業が始まりますわね」

「アリスちゃんはAクラスになれたんだっけ」

「そうですわ。ふふ、とっても嬉しいですが、緊張しますわね」


 筆記試験含め、クラス分け試験の結果が今朝、寮長から直々に知らされたのだ。所属するクラスと試験での成績が書かれた紙も一緒にもらった。

 私は、薄々察してはいたけれど、やっぱり一番下のDクラスだった。

 クラス分け試験が不参加で得点なし、筆記試験は名前をしっかり書いたのになんとゼロ点だった。なんてこった!


「アリスちゃんと同じクラスじゃないのは、悲しい」

「えぇ、わたくしはとても、とても心配です。キーラ、いいですか?貴方には言うだけでは無駄という事が昨日の件でよくわかりました。ですから先にDクラスの私の知り合いに、貴方の見張り役をお願い致しました」

「いつの間に」

「貴方が朝起きるのをぐずっている間に、ですわ。ですからDクラスで何か勝手な行動をする時はまず、その見張り役に聞いてから、行動するのですよ。わかりましたね?」

「わかったママ」

「........もうママでもなんでもよろしいですから、勝手な行動を起こさないでくださいまし」


 アリスちゃんはそれはそれはもう疲れたようにため息を着いた。なんか申し訳ない。





 ☆☆☆



「1のD........ここか!」


 早速、教室に入ってみる。

 クラスの席は既に半分ぐらい埋まっていた。

 だが、不思議なことに、座っている人は皆、なんだか暗い表情をしている。話しかけにくい雰囲気だ。何かあったのだろうか?

 折角の新しい出会いなのだから笑顔で居たらいいのに。同じクラスなんだから私と友達になろうよ。


「貴方がキーラ様ですか?」


 早速友達づくりのために話しかけようとしていたら、後ろから呼ばれた。

 声をかけてきたのはアリスちゃんと同じぐらい小柄な男子生徒だった。顔も小動物を思わせる可愛い系だ。その小さな顔に乗った、クリっとしたアールグレイの瞳がおずおずと私を見ていた。


「そうだけど、あなたは誰?」

「す、すみません!ぼ、ボクはアリスティーネ様に貴方様のおつけ目役を仰せつかった、アークレイ・イロリアスです。ぜひ、アークレイとお呼びください」

「アールグレイ?」

「それは紅茶の名です。アークレイです」


 またやってしまった。申し訳ない。でも今回はたまたま朝に紅茶を飲んでいたから出ちゃっただけで、聞き取れなかった訳では無いのだ。決して。


「アークレイくん、ね。よろしく」

「こ、こちらこそ、どうぞよろしくお願いします、キーラ様」

「様は付けなくていいし、敬語も要らない」

「そ、そんな!グレイアム伯爵家の方にその様な態度、子爵のボクごときがするなんて、とんでもない!!」


 そうなの?

 貴族の上下関係のしがらみは難しくてよく分からないからよく間違ってしまう。気をつけなければ。

 それにしても『キーラ様』か。そんなに敬われるとなんだかむず痒い。


「そうなのか。ごめん、私、無神経だったかもしれない」

「い、いえいえ良いんです。むしろキーラ様にそう仰って頂き、ボクは嬉しいです」


 おつけ目役なのになんだかとても丁重に接してくる子だ。でもアリスちゃんがの知り合いというぐらいだからとても小言が多い子かもしれない。

 そう思いながらアークレイくんと色々話しているといつの間にか鐘がなり、先生が入ってきた。床にムチを打ち付けながら。

 ........って、昨日のムチ打ち先生じゃん。


「やぁ、諸君!ようこそ『出来損ないの』Dクラスへ!先生は昨日の賭けに負けてこのクラス配属になったイアラーク先生だ。担当教科は魔物生態学。よろしくね」


 教室の空気が一段と重くなった。

 出来損ないのD........皆が暗い雰囲気だったのはこのせいか。これから優秀なる可能性を沢山の秘めた生徒達になんてことを言うんだ。


「一切反応無し。先生はとても悲しい」


 そう言って先生はしょぼしょぼと出席を取っていく。


「........全員出席、と。素晴らしい。それでは早速1時限目の授業を始める。諸君、羽根ペンと教材の用意を」


 重い空気の中、1時限目の授業、魔物生態学が始まった。

 うん。なんだか私とても辛い。こんなに雰囲気で1年間過ごすのだろうか?........嫌すぎる。




 ☆☆☆




 この学園での生活は前世で体験した高校の様式にともても似ている。

 1週間の内、授業があるのは5日間。1日6時限目まであって、午前中は貴族学や、法学、生態学などの座学を行い、午後はダンスや社交、模擬戦闘などの実技をする。

 授業のない2日は基本的に休みだ。寮に引きこもるもよし、許可さえ出れば学園外の町とかにも出れる。


 さて、早速始まった魔物生態学の授業だが、私は今、とても眠い。

 しかし、入学して初めての授業で寝るのは良くない。流石に私もそれはわかっている。

 だがしかし、眠いものは眠い。

 ああ、だんだん先生の声が子守唄に聞こえて........


「........スヤァ」

「キ、キーラ様?!」


 私は授業開始初日、1時限目から爆睡するという快挙を成し遂げた。あとから聞いた話によると、5年ぶりの快挙だったらしい。

 因みに、5年前に初授業、1時限目から爆睡した強者は私のお兄様だった。流石お兄様!



 1時限目、魔物生態学。爆睡。

 2時限目、財政学。爆睡。

 3時限目、薬学。アークレイくんに涙目で『寝ないでください』と言われた。だから頑張って起きているために、教科書で立つタイプの鶴を折っていたら怒られた。立つタイプの鶴は没収された。

 4時限目、貴族学。ふて寝。

 5時限目、ダンスの授業。家伝の喜びの舞を披露したら「それは断じて踊りじゃない」と言われた。

 6時限目、引き続きダンスの授業。新入生お披露目パーティーまではずっとダンスらしい。


 座学の授業は毎日変われど大体こんな感じで生活していた。何故かわからないけどアークレイくんは『お役目、果たしきれません!』と言いながら泣いていた。


 そして、私は先生に呼び出された。



 その夜、アリスちゃんは言っていた『当たり前ですわ』と。




 ☆☆☆




「あ、ハイド。今日も隣いい?」

「いいよ。むしろ俺がキーラに用事あったから、ちょうどよかった」


 私はランチのオムライスを持って、いそいそとハイドのいるテーブルに座る。

 かれこれ学園に入学して1週間経つが、お昼はいつもハイド一緒に食べている。

 アリスちゃんはAクラスと人と一緒に食べているし、アークレイくんは大体、いつの間にか何処かに消えている。他のDクラスの子を誘っても断られる。

 そんなボッチ飯になるところだった私を救ってくれたのはハイドだった。


「ありがとうハイド」

「藪から棒に気持ちが悪いね」

「私がお礼を言ったら悪い?」

「悪くは無いけどね」

「.....で、用事って?」

「これに署名して欲しいんだよね」


 そう言ってハイドは羽根ペンと何かが書かれた紙を渡してくる。

 それを受け取り、サクッと名前をかく。


「はいできた」

「助かったよ。キーラで最後だったんだ」

「因みにそれはなんの紙?」

「『これから俺が作った毒を飲んで死んだとしても、自己責任です』っていう契約書」

「........っえ?ウソだ!」

「うん、嘘。でもキーラ、今みたいに怪しい紙に何も考えないで簡単に署名しちゃ駄目だよ」


 嘘って言った割にハイドの目は本気だった気がするが、それはいい。嘘でよかった。

 今まで結構なんの疑問を抱かずに名前を書いてたけど、これからは気をつけよう。


「契約書じゃないならそれは何?」

「部活動新設願い、だね」

「新しく部活を作るの?」

「うん、毒をかくすば........ゲフンゲフン。ポーションを隠れて作れる場所が欲しくて、5人分の署名が必要だったんだよね」

「そっか、部活を新設するのには最低でも5人からって先生言ってた」


 この学園にも前世の高校と同じように部活動、というかクラブがある。ただその内容は『紅茶クラブ』とか『刺繍クラブ』『ビリヤードクラブ』などと貴族らしいものが多い。

 アリスちゃんは生け花クラブに入ったらしい。


「でも、私の他によく3人も部員集めれたね」

「あ、いや他の3人は丁度よく俺にちょっかいかけてきたから、少しお茶に誘って穏便に署名してもらったんだよ」

「多分そのお茶、絶対お茶じゃない」

「失礼だね。俺の言う事を叶えたくなる、ちょっと特別なお茶さ」


 ........ハイドのお茶は飲まないようにしよう。そうしよう。


「過程がどうであれ、5人分集まった。この紙を生徒会に持っていけば、今日にでも空き教室を貰える」

「嬉しそうだね」

「あぁ、嬉しいね。念願の俺だけの城。放課後になったらすぐに受理してもらおう」


 それにしても生徒会、か。

 確かこの乙女ゲームの主人公、レイアちゃんも生徒会に入るんじゃなかったけ?

 というか最近忘れてたけどレイアちゃんもこの学園に通ってるんだよね。Aクラスだっけ?そうだったらアリスちゃんと同じクラスじゃん。

 それにしても、レイアちゃんはこの世界だと誰ルートに行くんだろう?やっぱ運営が推してる第2王子かな?

 どこいっても私には関係ないけど気になる。


 そんな事を思いながらオムライスをつついていると、急に食堂がざわめき出した。


「あ、レイア・カナトーンだ」

「え?」

「ほら、入口のとこ。生徒会長と一緒に来たみたいだね」


 ハイドの言うとうり、レイアちゃんは生徒会長と喋りながら歩いていた。とても楽しげだ。出会って1週間の仲とは思えない。

 因みに、生徒会長というのは第2王子のエドワーズ・クレアと同一人物である。入学式の日、転んだクレアちゃんに手を差し伸べていた人だ。


「噂には聞いていたけど、彼女、本当に面食いだね」

「うわさ?」

「そ、悪い噂。生徒会長だけじゃなくて、3年生の首席とか、魔石部の部長とか兎に角、顔のいいヤツらと片っ端から仲良くなってるから『アバズレ』『ビッチ』とか『身の程知らず』って主に女子生徒から言われてるね」


 流石主人公、手が早い。イベントが起こりまくった結果だろう。最初の方はルート分岐のために全てのキャラに沢山の親愛度イベントが起こる。イケメン達と仲良くなっているのは、たぶんそのせいだと思う。


「俺もあんまり好きじゃないなね」

「ハイドは大体の人を好きじゃないって言う」

「そんな事はないさ。新しい毒の実験をする時、快くモルモットになってくれる人は大好きだよ」

「そんな人居る?」

「うーん。そう言えば今まで1度も居た事ないね」



 そんな事を話しているうちにオムライスを食べ終わり、いつの間にか レイアちゃん達も居なくなっていた。

 お皿を片付け、Bクラスのハイドとは途中で別れる。Dクラスで午後の授業、ダンスの準備をアークレイくんとする。今日こそはアークレイくんの足を1度も踏まずに終えたい。


 それにしても、1週間同じ学校に通ってても主人公のレイアちゃんどころか、ゲームキャラ誰1人とも話した事が無ければ、接点もない。





「........私って本当にモブなんだな」









 なお、何度も言うがこれは盛大なフラグである。







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