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『ありがた迷惑。余計なお世話、だよ』

 

「来いよ、デカブツ!私の剣のサビにしてあげ........あ、やっぱ来なくていいですぅぅゥー!!」

「最後に一つだけ言わせてくれ!マチョリア、君は綺麗だ───アギャッ!!」

「ギャーっモウヤダママモウオウチカリタイヨオォーー!!」

「ダンカイン様の眼鏡になりたい人生だった........」

「もう終わりだ終わりだ終わりだ終わりだ」

「なむ、あみ、だ、ぶつ........」

「おい、生きてるか?!」

「........案ずるな、ただの瀕死だ」



 広いコロシアム会場を区切り、4人ぐらいが同時進行でサンカブと戦っている。

 今のところサンカブを討伐した人は居ないみたいだ。むしろサンカブを倒すどころかちょけんちょけんにされている。

 いい所のお坊ちゃん、お嬢様とは言え弱すぎじゃないか?


「よし。これで32人目、と。滑り出しとしては順調、順調。先生はとても嬉しい」

「先生。生徒で賭けをするのもですが、その鞭を床に叩きつけるのを止めてくださいませ。おそろしゅうございますわ」

「ほんとだ、床にヒビ入ってる。すまないね」


 新入生の順番は最後の方な為、それを待つつ、上級生の試験を見ていたら、先生が私の左隣に座ってきたのだ。

 右隣にはアリスちゃんが座り、何故か私の腰に着いているリボンを固く握りしめている。

 そういう意図はないと思うけど、まるで犬のリードを掴んでいるみたいに見えるからちょっと止めてほしい。


「........あんな大きな魔物。倒せるわけが御座いませんわ」

「そんなことないよ。あの外殻の隙間から見えてる赤い魔核を殴り壊せば、すぐ倒せる」

「その通り、よく知っているな。さすがグレイアム家のお嬢さんだ。素晴らしい、先生が褒めてあげよう」


 先生は拍手代わりなのか、ムチで床にをベチベチ叩いた。床のヒビは広がった。


 それにしても、アリスちゃん何も知らないんだなぁ。

 サンカブは森に行けば絶対出るし、1度見つかったら結構しつこく追ってくる。だから冒険者内でサンカブの弱点は常識なのに。ちなみに、蜂蜜が好物だから捕まえたい時は木に塗っとくといい。勝手に集まってくる。


「外殻と言いましても、4メートルぐらい上にありましてよ?」

「4メートルぐらい、普通にジャンプすれば届くじゃん」

「は?」

「え?」

「身体強化すらかけずに、かい?」

「無理ですわ!!」

「落ち着くんだお嬢さん、グレイアム家はいろいろ規格外だから参考にしてはいけないよ。参考にするなら今戦ってる上級生にするといい。そのために新入生の試験順を後の方にしてるのだから」


 そう言って先生は、戦ってる男子生徒の1人を指さす。


「ほら、彼なんてどうだろう。忌々しいことにサンカブと上手く戦ってる........チッ、死ななそうだな」


 武器はうっすらと青く光る双剣。長い手足を舞のように美麗に、しかし素早く動かしながらサンカブと闘っている。動きに合わせてなびく青い髪が色も合わさって、波みたいに見える。そしてえらいイケメンだ。


 ........あ、この人攻略対象だ。


 確か、アレグレープ・ウラシライト。3年生の首席で風魔法を得意とする。クーデレ担当のキャラだったはず。3年生だから私たちの先輩か。


「すごいですわ、あんな硬そうな手足を切り落とすなんて!」

「剣を振る時に風魔法を使って攻撃威力を上げてるみたいだな。去年より素早く動けてるし、魔力消費の無駄も少なくなっている。成長したようで先生は嬉しい。........教えたこと1度もないけど」

「アリスちゃん、アリスちゃん!あれくらいなら私も出来る。凄い?」

「貴方は、ちょっと黙っててくださいまし」

「........」

「ま、新入生にあそこまでは求めてないがな。だが、どちらか一つじゃなく、魔法と武器、ポーションとかも上手く使えば戦いの幅広がるよ、という先生からのアドバイス」

「先生、ありがとう存じますわ!」


 アリスちゃんが冷たい。私とても悲しい。

 アリスちゃんと先生が盛り上がっている間に、クレープ先輩、じゃない。アウグレープ先輩はサクッとサンカブを倒した。

 今年の試験初の討伐者だったようで会場は大盛り上がり。イケメンなので女子からの黄色い悲鳴がすごい。とても煩い。


「こうしてはいられません。わたくし、着替えも兼ねて本番まで作戦を立てつつ、体を動かしておきますわ」

「順番まだまだだよ?」

「先生のアドバイスでいい考えを思いついたのです。あの魔物と善戦するために少しでも練習しなければ」

「おや、瀕死者候補を1人減らしてしまったかな?」

「それでは、お先に失礼しますわ」


 アリスちゃんは決意高らかに、受験者控え室に向かっていった。

 先生も『そろそろ仕事するかー』と言って何処かに消えてしまった。


 私はボッチになった。


「........これ見るのも飽きてきた。コロシアムの探索でもしよう」


 王様含め、貴族が大勢来るこの試験(イベント)のため、売店や大道芸人とかも来るらしい。それでも眺めながら、本番までの時間を潰そう。


 売店料理の中にはサンカブの足の炭焼きが売ってるらしい。生徒が討伐した物も含めて料理するらしいから、死にたてほやほやの足が食べれるかもしれない。

 サンカブの足は見た目はあれだが美味しいのだ。硬い外殻に守られた筋肉は柔らかくとってもジューシー。


「........いかん、ヨダレが」







 ☆☆☆



「あっれれー?こんなとこに魔法使えない雑魚がいるぞ〜」

「迷い混んじゃったかなぁー?」

「おい、失礼だぞ。こいつこれでもここの新入生らしいぜ」

「えぇー見えなぁーい」

「ねぇねぇ、魔法使えないくせに貴族だからってこの学園に入学するのってどんな気待ち?」


 サンカブの足を齧りながら歩いていた時だった。私の良すぎる耳がそんな言葉を拾ったのは。


 売店が有る人気の多い広場から離れた、雑木林みたいなところで1人の男子新入生を複数の生徒が囲んでいた。

 なんだか、かごめかごめをしているみたいだ。多分絶対違うけど。

 これはもしかしなくてもイジメだろうか。

 囲まれた新入生の周りにはポーションや、よく分からない草木、それらが入っていたであろう籠が散乱していた。


「ていうかこの草、あの高い薬草じゃね?」

「薬師でも目指してるんですかぁー?」

「お医者さんになりたいんですかぁー??」

「貴族が医者とかー」

「まじうけーるー」


 ギャハハハハと指し示したように声を揃えて笑ういじめっ子達。なんでそんなに息ぴったりなんだろう。逆にすごい。


 って、こんな呑気に観察している場合じゃない!!


 私は慌てて新入生といじめっ子達の間に入る。勢いをつけすぎて、手から離れたサンカブの炭焼きがいじめっ子の鼻に突き刺さってしまった。ごめん。

 

「クゴォッ!鼻が、鼻がァー!!」

「........なーんだおめぇ」

「もしかして、助けに来たんでちゅかぁー?」

「うけーるー」


「うけーるーのはあなた達だ。薬師を、医者をバカにするな。外傷は回復薬、回復魔法で治るけど、病は治らない。魔法や神に縋って重病が治る?治らないだろう」


 この国の全ての富を持っている王様だって病気になったら医者や、薬師の薬に縋るしかないんだ。最後の最後で医者は誰よりも偉くなる........と、持病の痔を治してもらったお父様が言っていた。


 おば様だって、お茶を飲みながら『火竜のブレスで焼かれて死んでも、2日以内なら私の魔法でリバイバル(死者蘇生)できるけど、ヒドラの毒にやられて死んだらもう、私じゃどうしようもない』って言ってた。

 あのおば様でさえできないことを医者は、薬師は出来る。すごい。


「その人達を侮辱する?ちゃんちゃらおかしい。どうやらあなた達は私よりも頭が弱いようだ」


 いじめっ子達が私の言葉に関心が向いているうちに、さりげなく威圧魔法を放つ。別に私の話なんかどうでもいいんだ。それよりも.....

 お願いだからこれでどっかに行ってくれよ........。


「ひっ?!」

「おっ、おい。こいつグレイアム伯爵家の、魔物殺しのキーラ様じゃないか?!」

「はっ?あの略して魔物キラー呼ばれる?!」

「に、逃げろぉ!!殴り殺されるぅー!!」


 いじめっ子達はサンカブの炭焼きを鼻に突き刺したままの子も含め、あっさり逃げ帰ってくれた。


 それでいい。

 逃げてくれて本当によかった。でないとへたしたら、このいじめっ子達は───




「........ありがた迷惑。余計なお世話、だよ」



 ─────この新入生男子に殺される様な気がしたから。




「いや、でも」

「見逃せなかった?俺を虐めた悪い奴らだ。どうなっても仕方ないと思わないかい?」


「そうだけど、目の前に殺されそうな人が居たら助けるじゃん。あなた強そうだし、なんか殺気放ってたし!」


 私は言い募るが、立ち上がって服に着いた土を払う新入生男子は聞いていないようだ。


 なんだこの生徒は。

 前髪が長いせいで目が見えなく、見える口が笑っているせいなのか、不審な印象を受ける。ショートカットだが、襟足の髪だけ長く伸びていてそれを結んでいる。身長は私より少し高いぐらいだろうか。



「あ〜あ。君のせいで扱いやすそうなモルモット候補が逃げちゃったよ」



 黒い髪で目が隠れて見えないが、私には分かる。これは睨まれている。

 私だってこんな裾に隠した太い針で虎視眈々といじめっ子達を見つめているこの男から逃げたかった。

 気付いていないだろうけど、私に助けられたいじめっ子達は感謝するべきだ。本当に。


「........ごめん」

「本当にね。折角新しく作った毒薬を試そうと思ってたのに........あ!そうだ君、お茶飲んでかない?暇でしょ??」


 この流れで?お茶?

 なんで急に胡散臭い笑顔で?お茶?

 その禍々しい色で?お茶?

 毒入ってるだろ。私の勘が言っている。

 だから名案とばかりに差し出さないでほしい。それ、絶対お茶じゃない。


「い、いらない」

「チッ、引っかからないか」


 むしろ何故引っかかると思ったし。舌打ちされたし。私、悲しい。

 そのまま新入生男子は草むら散らばってしまったモノを拾い集めだした。手持ち無沙汰なので私も手伝うことにする。

 盛大に散らばってるので、全て拾うのには結構な時間がかかりそうだ。



「........ねぇ。君、薬草拾ってる振りしてナチュラルに雑草入れないで」

「これ薬草じゃないの?」

「わざとじゃなかったのかい?!これは何処からどう見てもただの草だよ!」


 いや、この堂々とした生え方は絶対只者じゃない。恐らくだが、すごい薬草に違いない。

 あ、この花綺麗だな。アリスちゃんへのお土産にしよう。


「なんで諦めず入れようとする?君、それただの草だからね」

「キーラ。キーラ・グレイアム。『君』じゃない」

「そして、人の話を聞かないタイプだね」

「あなたの名前は?」

「はァー、俺はハイドリック・チュシャリート・イッポス」

「ハイドック、チューシャ、イッポン?」

「ハイドリック・チュシャリート・イッポス!!君、失礼な人ってよく言われない?」


 昨日、アリスちゃんに言われたばっかだ。なぜわかったんだろう。


「言われたことある。よくわかったね、ホットドッグ!」

「さらに離れてるからね。ドヤ顔しても間違ってるからね........もうハイドでいいからハイドってよんで」

「なんかごめんハイド」


 そんな諦めたような顔をしないで欲しい。名前を聞き取るのが苦手なだけなんだ。1回覚えたら忘れないようにするから許してほしい。


 それにしてもこのすごい量の薬草とポーションだ。

 ポーションは色的に回復、体力強化、睡眠促進........ざっと小瓶で40本ぐらいある。ポーション売り場では見た事ない色のもある。


「このポーション、見かけない色だけどもしかして自分で作った?」

「そうだよ。というかこれ全部俺が作った」

「すごい。ポーションを作れるなんて、ハイドは頭がいい。この赤い点々が浮かんでるのはどんな効力があるの?」

「それはワイバーンの飛行能力を奪う」

「へぇー、じゃあこの髑髏が浮き上がって見えるポーションは?」

「あーそれは確か、飲むと7日の間、いつ寝ても拷問される夢を見る」

「へぇー、便利。んじゃ、これは?」



 面白くて色々聞いた。時折『こいつ馬鹿なんだな........』という目線を向けつつも、私の質問は全部丁寧に答えてくれた。こいつは良い奴だ。

 そしてハイドは他にも沢山のオリジナルポーションを作ってるみたいだ。

 あと、薬草の話も色々してくれた。けど私にはあまり理解できなかった。ポーションは薬草を混ぜれば出来るという簡単なものでは無いらしい、ということがわかった。そんなふうに時間を忘れ、日が暮れるまで楽しく話を聞いた。



 そんなふうに時間を忘れ、日が暮れるまで楽しく話を聞いた──────試験も忘れて。





「これはなんの薬草?」

「それはただの雑草だよ」

「........見分けるの大変だ」

「こんなに見分けれないのは君が初めてだよ」








 つまり私は大事な大事なクラス分け試験をすっぽかしてしまったのだ!!!








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