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ただの通りすがりの正義の味方兼、魔王の従者ですよ。

 

「時間までここでじっとしている事だ。逃げようなんて馬鹿なこと、くれぐれも考えるんじゃないいぞ?」


 そう言って、私をこの館に連れてきた男は扉を閉めた。ガチャガチャと鍵をかける音もする。なるほど、閉じ込められたみたいだ。


「目隠しをされながらの移動とか、どんな特殊プレイだよ」


 場所が分からないようにするためだろう。移動中ずっと目に当てられていた布をとる。手首を戒めている縄も。


「縛られてて満足に頭もかけなかった、痒い」


 部屋の中には私以外にも人がいた。全員女の子。全員若いし、可愛い。私と同じで生け贄として集められた子達だろう。

 みんな閉じ込められているからか、不安げな顔でお互いの身を寄せあっている。


「どうも、初めましてお嬢さん、貴女方をこの無駄な儀式から救いに来ました」


 ウインクをひとつ。

 気分はお宝を拐う怪盗。仰々しい口調に、大袈裟な仕草。みんなポカンとしている。成功だ。


「........え?」


「貴女方は騙されています、魔王復活の儀式なんてものはありやしません、そもそも魔王は死んでなどいないのですから!!」


「騙され........?」


 うーん。このテンション結構疲れるな。もうやめよう。そうしよう。


「あ、あの貴女は?」


 少女たちの中の1人、この中だと1番歳上なのだろう。その女性が私に問いかけてくる。


「通りすがりの正義の味方兼、魔王の従者」

「魔王の従者!?」


 そういう設定なの。私もちょっとばかし無理があるなー、とは思っているけれど、これからやること的に『魔王の従者』が1番効率がいいの。


「時間がない」

「え?え?」

「縄をとかれた人から、こっちの壁脇に立って」


 そう指示して少女たちの縄を解いていく。解くより引きちぎった方が早いなコレ。


「よいしょっ。これで全員?」

「い、いえ。まだ1人。先程男に連れられた子が........」

「わかった。その子も探しておく」


 連れていかれたって。

 もう、少女売買が始まってるのかな?

 即時出荷か。誘拐されたて新鮮少女ホヤホヤか。許さん。


「あの、なんでこのような事を」

「貴女達を助ける為」

「いえ、そうでは無く........」

「理由がないと貴女達は助けられてくれないの?」


 面倒臭いな。

 ぶっちゃけ私は生贄やってみたかっただけだし。祭壇の上で『魔王鎮魂』とかゆう狂った踊りをしてみたかっただけだし。

 でもこの感じだとそんな事やらず、すぐ売られるみたいだ。なんて事だ。


 理由、確かに助ける理由は無い。強いて言うなら、


「運が良かったんだよ。たまたま私の前で泣く女の子がいて、その子を笑顔にする方法がこれだった、ってだけ。貴女達は女の子の涙を止めるついでに過ぎない」

「........そう。ですか」

「わかったらさっさとそこに立って───魔王」

「おっす、キーラさん。この人間達を外の馬車に?」

「よろしく」


 何処からもなく現れてくる魔王。まるで最初からそこに居たみたいに堂々とたっている。

 魔王お得意の神出鬼没魔法だ。瞬間移動とも言う。便利な魔法だね。


「了解っす!」


 その言葉と共に魔王は消える。壁脇に固まっていた少女たちとともに。


「やっぱ魔王はチートだ」


 短い距離とはいえ、同時瞬間移動。

 それも大人数。魔王の事だから手足の欠損なく、完璧に転移させるのだろう。魔力量、技術、集中力共に変態。

 サクッとやっているが、瞬間多人数移動は、神業のような魔法なのだ。


「送り届けてきたっすよ。今日の夜には各村や街に戻っているでしょう」

「ん。ありがとう」


 馬車の操者に少女たちをそれぞれの村に送り届けるよう、お願いした。馬車や馬に魔王直伝の隠蔽魔法をかけているので万が一にも見つかる事はないだろう。


「じゃ、悪いやつをぶん殴りに行こうか」

「そうッスね、魔王の自分を前にキーラさんを贄にしようなんて随分オイタのすぎる人間です」


 しよう。というか、自らなりに来たもんだけどね。

 そんな事を考えつつも、閉じ込められた部屋のドアを蹴り破る。ドがん!!と大きな音を出してしまったが、誰かが来る気配はない。


「ハイドが上手くやったみたい」

「ハイドさんの毒ホントにすごいっすね!もうそれだけで世界征服出来るんじゃないっすか?」


 そうかもしれない。作戦通りハイドはこの館の住人を無力化してくれているらしい。ほんとハイドは敵に回したくない。ずっと味方でいて欲しい。


「あ、キーラ」


 噂をすれば影、ハイドだ。手には香水の様な噴射器のボトルを持っている。


「ハイドおつかれ。首尾は?」

「上々だよ。あとは2階だけ」

「ヨーグルーリトナは居るかな」

「魔力量的に、2階の一番端の部屋にいる人間が怪しいっすね」


 ならばそこにゆこう。

 女の子を泣かせ、誘拐し売る様なクズ、魔王鎮魂なんて嘘を大声で語る狂言者に、怒りの拳を。



  ☆☆☆



 その日、男は上機嫌だった。新しい商品が入荷されたからだ。しかも既に1人は高値で売れ、今日引き渡す予定だ。


「タダで手に入れた女を大金にする。これがヨーグルーリトナビジネス。魔王復活を信じ、健気に身を差し出す哀れな娘たちに乾杯!!お前らのお陰でオレは今日も酒が美味い」



 コンコンコン。


 そんな喜びを遮るようにドアがノックされた。

 全く、気分のいい時に。


「入れ。何の用だ?」


 どうせジョランスだろう。

 女が入った時はいつも1発やっていいかと訪ねてくる。ダメに決まっておろう。処女だからこそ高く売れると言うのに。

 全くアイツはそこがわかっていない。商売の才能がない。売り場を提供してくれていなければ首にする所だ。


 ガチャと、音がしてドアが開く。


「初めまして、と言うべきかな?人間?」

「........は?」



 オープンTheドアをして入ってきたのはジョランスでは無く美麗な男だった。後ろには従者だろうか?男と女がひっそりと控えている。


「連絡もなしで押しかけてしまい、申し訳ないな。御礼に、ろくなもてなしも出来ないこの館の住人を眠らせておいた」


 そこには魔王がたっていた。


 魔王なんてオレは見た事がない。それに服装はボロボロだし、なんだか髪も煤けている。

 しかしわかる、わかってしまう。肌で、脳で、理解してしまう。


 青白い肌、白い唇は、ニヤリと弧を描き、血を垂らしたような紅い瞳はゆらゆらと加虐の色を踊らせながらオレを見ている。観察している。


 恐ろしくも美しい。これが、魔王。


「ひっ、ひいいぃ」

「いや、復活させてくれてありがとうと感謝すべきか?深き眠りと言うには些か短かったが........まぁいい。人間、面白い事をやっているじゃないか」



 恐ろしい恐ろしい恐ろしい。

 何故だ何故ここに魔王が居る。私の館だぞ!?出ていけ、お呼びでは無いわ!

 しかも、復活だと?!巫山戯るな、隣国の勇者によって討伐されたのではなかったのか!?


「いっ、いえめめめ、滅相もない........、!」


 だが、口に出せない。脳髄に叩き込まれた恐怖がそれをさせてはくれない。ただ縮こまって頭を垂れることしか出来ない……。



 ☆☆☆



 目の前には気絶した中年の男が居る。この館のあるじにして、人身売買を手がける、ヨーグルーリトナ伯爵様だ。

 気絶しているのは話聞くのが面倒くさくなり、うっかり殴ってしまったからだ。


「魔王ノリノリだった」

「ちょっと楽しかったす!やっぱり怯える人間の表情はいいっすね〜」

「キーラ、流れで気絶させちゃったけどどうするの、この男」


 こういう奴は懲りないからね。いくら忠告しても喉元過ぎればなんとやら、すぐに同じような事を繰り返す。私は知っている。


「この国の王様に断罪して貰う」

「と言うと?」

「魔王がちょっとこの国の存続を脅かすよ?って脅すだけ。簡単」

「ん?」


 笑顔でハイドが固まる。3秒間ピッタリ静止して、ゆっくりと首をかしげた。処理落ちかな?


「ごめん、ちょっとよく分からないから説明してくれないかな?」


 説明?単純明快なことじゃないか。


「えっと、此奴は脅したぐらいじゃ、悪事をやめない」

「そうかもね」

「だから貴族を辞めてもらいたい」


 1人、罪状がバレれればいもずる式に人身売買の件は明るみに出るだろう。

 もう、少女たちが売られるのだって買われるのだってさせはしない。

 人間売買は悪い事。人が悲しむ事。そういう事を知ってしまった私達は、止めなければいけない。


 自分の正義感を満たすために。多くの人が笑顔でいるために。笑顔で溢れるこの国を、世界を少しでも壊しにくいものにするために。


「だから国のトップたる王様に魔王でダイナミック訪問する」

「なんでそこに飛ぶのか聞きたいな」


 この国の王様なら、簡単に貴族をやめされることができる。しかし、このヨーグルーリトナが身分を剥奪されるには少し時間がかかってしまうだろう。


 貴族を辞めるのはなんだかんだあって、面倒臭いのだ。その間にヨーグルーリトナが罪を隠蔽してしまうかもしれない。


「それを防ぐ為に、魔王で脅してスグに貴族じゃなくさせる。ついでに私たちの国に戦争ふっかけさせるのも辞めさせる」


 お父様が『あの国はきな臭い』という時は『あの国は私の国に戦争をしかける』と言ってるのと同意である。

 ちょうどいいからその旨も承諾してもらおう。アリスちゃん救うついでに、母国の戦火を退ける私、とてもかっこいいのでは?


「ついでにって.......なるほどね。一国の王だ、魔王の話を聞かない訳にはいかないだろう」

「そうっすね。その気になれば3日でこの国滅ぼすのもやぶさかでは無いっすよ」

「うん。魔王は頼もしい」


 ハイドは、疲れたように頭を振りながら『突然アポ無し魔王がやって来て国滅ぼすから戦争するのやめろって言われる国王可哀想』と呟いた。


「........えーとつまり、これから王城に行って、申請して王様と謁見するってことかな?時間に間に合うのかな?」

「ダイナミック訪問ってキーラさんは言ったっすよ。申請なんて要らないっす!」

「王城の近くまで行ったら、魔王の瞬間移動で王様のいる部屋に飛ぶ」

「は?」

「私達は、魔王の従者のフリするよ」

「は?」


 なんでそんな不思議な顔をするんだろう?もしかして魔王が結界が沢山はられている城に入れないんじゃないかって心配してる?

 大丈夫。魔王は変態だから。得意の幻術魔法とか色々使って短時間なら潜り込めるよ。


「........魔王とキーラに常識が無いってことは知ってた事。うん!いいよ魔王の従者ね!隣国の王を見れるなんてまたとない機会だね、張り切っていこう」


 ハイドのテンションが上がってきた。やる気も十分みたいだ。

 確かに、礼儀をかけるお邪魔の仕方だけど、私達急いでるし、こっちは戦争かかってるかもしれないし。手段を選んではいられない。


 館にいたもう1人の女の子を馬車で村に返し、早速私達は王都へ向かうことにしよう。


 さて、


「王都って何処?」

「そもそも、ここどこっすかね?」

「........地図探す所から始めようか」


 目隠しをして連れてこられた、未知の土地。ハイドも魔王も私を追うのに夢中で、道を確認していなかったのだろう。そんなこともあるさ。


「取り敢えず朝食をとろう。お腹すいた」

「いいっすね」

「なんだかんだ徹夜しちゃったからね」



 ........この国の王様、待っててね。

 今から魔王が犯罪者を携えて、隣国との戦争を起こさない為にダイナミック訪問するよ。



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