今日も変わらず、寝坊したのだが...
新作です!
――――――悔しい時は泣けばいい、辛い時も泣けばいい、強さというのは自分に正直であり続けるということだ...だけど、――――――。
その言葉の続きが、僕は未だに思い出せないでいる。その言葉は僕にとって一番大切な言葉だったはずなのに、いつも思い出そうとすると、その言葉はまるで僕に思い出すなと言っているかのように、ぼやけてしまう。
「...き!」
「...さき!!」
誰かの声がする、それはとても聞き覚えがあって、うっとうしい声だ。
「勝狐!!!」
「うっわッ!!」
部屋中に“ドンッ”という鈍い音が響き渡る。僕は耳に衝撃を与える稲妻の様な大声で、目を覚ました。
「痛ったぁ~~、もっと穏便な起こし方出来ないかな?」
目を開けた僕の目の前には、幼馴染の“津々《つづ》”が少し怒った顔....と言うより、あきれた顔で僕の顔を覗き込んでいた。
「もう!なにが、もっと穏便よッ!!前まではそうして来たけど、それじゃあ起きなかったのはどこのどいつだったかしら!」
「ふゎぁぁぁぁ....そうでした、いつもありがとうございます。で、今何時?」
僕のそんな質問を聞いて、津々は部屋の時計を見た。
「そうね今は...七時~ごじゅ...七時五十七分!?登校まで後、二十分も無いじゃない!!ちょ、ちょっと勝狐!早く支度して、遅刻しちゃうわよ!私が、この私がそれはマズいの!」
そう言うと、津々は「玄関で、待ってるから!」と、言い残して部屋を出て行った。
「腰が痛い...」
僕はいつもより少しだけ早く制服に着替えて、玄関へ向かった。
「お待たせ」
そこには、貧乏ゆすりをした津々と、それを見て優しく微笑んでいる、うちの母が居た。
「遅い!!早く行くよ....おばさん!それじゃ、勝狐連れてくね?」
「津々ちゃん、今日もよろしくね」
母さんは手を振ってまた、優しく微笑みを浮かべた。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
津々は挨拶すると僕を強引に引っ張り、急いで学校に向かった。
ここで僕と津々の事を紹介しておこう。
僕は、“九条治 勝狐”、今年で高校二年生の十七歳、兄弟は上に三人居た。うちの家は代々続いている武術の名家で、兄さん達も剣道や、柔道で達人レベルだ。だが...僕は才能が無いらしく、一応剣道はやっているがせいぜい中の上止まりだ。
そして、僕の幼馴染で容姿端麗、スポーツ万能な完璧美人それが彼女、“直正 津々《なおまさ つづ》”だ。髪型はいつもポニーテールで、毎日ラブレターをもらっている。しかもだ、小さい頃に急に髪の毛が銀色に染まったのことで周りからは、「女神の生まれ変わり」とまで言われている。なぜ、こんな根暗な僕と一緒に居るかは、謎だ。
そんな僕らは、
「ギリギリ間に合った!」
「朝から全力疾走するのは、もうこりごりだ...」
早乙女高等学校二年Ⅽ組に通っているのだ。そう、この平凡な学校に...それは彼女が転校して来ても、変わらない...と、思いたい。