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<A's02> 少女の悪夢。かけられる疑惑

二話目更新です。遅い…(汗

しかも実はテスト近いです。テストさえ終われば冬休みだけなんですが……。


今回も短いと思います。

そして今回は秋津が不運にも……?

ではどうぞ。

            世界は総てが不条理で出来ている

              死を賭す覚悟が無いのなら

                 此処から立ち去れ

                理解は何も示さないが

              脆弱な者に鎮魂歌を贈ろう


                      sovereignty of fear natumegumi.



 

                        ●



 「………ッ(パチ)」

 苦しげに眼を覚ますと、視界はいつもの天井。

 復員船に新たに設置された区画以外に元からあった使われていない個室がこの船の艦魂である葛城の部屋であった。

 ベッドしかない殺風景な個室。そのシワだらけの布団の上で身体を仰向けにして寝ていた葛城の顔には汗が浮かんでいた。

 「………」

 上半身を起き上がらせ、額に手を当てる。指にべっとりと汗が付き、自分がどれだけうなされていたのかがわかる。

 葛城はずっと悪夢でうなされる毎日だった。そう、今まで復員輸送の任務中も……。いや、終戦……それより前からかもしれない…。その頃から葛城はよく悪夢を見るようになった。

 いつも目覚めるとどんな夢だったのか思い出せない。唯一覚えているのは、……姉や仲間たちの声。

 具体的には思い出せない。ただ、彼女たちの声が夢の中から自分を苦しめる。

 あの空襲のとき、たった一人となった姉が重傷を負い、仲間たちも深く傷つけられ、失った者も少なくない。護るべき故郷が焼け、色んな思い出が溢れる港は荒れ果てた。

 そして―――自分だけがこうして生きている。

 姉や仲間たち、……親友の龍鳳だって、彼女たちは解体される日を待ち、次々と自分より先にいなくなっていく。

 時々、それが自分を責めて、胸が苦しくなる。

 葛城はいつものように頭を振って、ベッドから降りた。

 ベッドの上、枕もとの横には、仲が悪そうなのか良いのか……そんな姉妹の写真が収められた写真立てがあった。

 

 

 葛城は自分の本体である復員船最大といわれる広い艦内の廊下を一人で歩いていた。

 「………」

 葛城は復員船として日本を出て今までに数知れぬ邦人たちの復員輸送を続けてきた。自分が戦中に出ることがなかった初めての外洋に出て、初めての国や地域に行ったが、そこで待っていたのは多くの戦士と民間人たち。

 葛城は初めて彼らを見たとき、胸が苦しくなったのを覚えている。

 湾岸を埋め尽くすような人の群れ。兵隊たち。入港する自分に向かって手を振る人もいた。その人々の中には日本に帰れるということに笑顔を輝かせる者もいた。しかし彼らの姿は葛城の目には葛城にとって苦しげに見えた。

 かつて祖国を護るために戦った彼ら。国にいる家族や友人、恋人、大切な人や故郷を護るために戦ってきた戦士たちが確かにそこにいて、自分に向かって手を振っている。

 しかし自分は違う。彼らは必死に戦っていたというのに、自分は港から出ることも出来ず大人しく係留したまま動けず、戦場に出ることも出来ず、ただ一方的に攻撃されて敗れたという屈辱を受けた。

 そんな自分が本当に情けなく思ってしまう。勇敢に戦った彼らの姿を見ると……。

 だが、自ら戦場に出陣することができなかった分、いやそれ以上、自分は彼らを絶対に日本まで連れて帰ると決意した。

 あの日、祖国大日本帝国が鬼畜米英に敗れ去ってしまった日の後。空襲の傷跡を無様に残して呉港に留まっていた自分。

 敗戦としての終戦の後、残された日本艦魂の参謀である葛城が残務整理(艦魂にも戦時中に戦局や状況把握のための書類整理等といった仕事があった)などに追われていたころ、未だに敗戦が信じられない、しかし敬愛する天皇陛下のお言葉を聴いたからには現実であるという複雑な思いの中にいた葛城に、とある大輸送計画が持ち込まれた。

 「……海外邦人輸送計画」

 戦時中に海外諸国や地域に派兵された日本兵とそこに住む民間人を復員船という船舶で日本まで海上輸送という形で連れて帰るというものだった。

 終戦時、海外にいた軍人軍属・一般邦人は約630万人といわれる。このうち軍人軍属が300万、一般邦人は330万人であった。

  630万人というと、当時のオーストラリアの人口に等しい。海外のアジア太平洋地域に散らばっていたこれらの日本人をすべて日本内地に引揚げさせることは、まさに民族の大移動を実行するに等しい大輸送計画であった。

 そしてその輸送計画に必要である船舶なのだが、日本海軍には使用可能な艦艇は132隻、18万トンしかなかった。輸送計画に必要な船舶を日本海軍の艦艇を使うことについては、米海軍のニミッツ提督はこれらの艦艇を復員輸送に使用することを許可した。また使用可能な残存民間船舶のうち55隻を復員輸送に振り向けることを許可した。

 日本政府はさらに多くの民需用船舶を復員用に振り向けるよう要請したが、マッカーサー司令部は許可しなかった。食糧不足で餓死寸前にある内地で これ以上民需を圧迫すれば、内地の日本国民は次々と餓死していくことが目に見えていたからだ。このため、限られた船数での当初外地からの復員は4年以上かかるだろうと予想された。

 日本政府はそこで次に米船舶の貸与を要請した。この要請は結果的には受け入れられるのだが、司令部の反応は良いものとはいえなかった。

 現在入渠修理中の船舶をできるだけ早く使用可能にして就航させよ、といった返事をするだけであった。その大半の船舶は、戦時中に大破したり沈没した船舶であったし、修理に必要な資材も不足していたから、就航に至るまでの作業はなかなかはかどらなかった。

 『葛城』も七月の呉大空襲の際に飛行甲板に爆弾が命中、中破していた。そのために復員船となる前に急いで損傷部分の修理が進められた。

  昭和二十年末、司令部はリパティ型輸送船約100隻、 LST輸送船85隻、 LST改造の病院船6隻を復員輸送用に貸与した。

 これによって邦人帰国を目標にした復員輸送は大きく進展することになるのだが、これらの貸与船舶がにわかに許可された事情の裏には、満州における国府軍・中共軍・ソ連軍三つ巴になっての国共戦の影響があった。

 在支米海軍は国府軍をできるだけ早く満州に送るべく、沖縄や比島にあったリパティ型輸送船やLST輸送船を総動員して、国府軍の十三軍と十五軍を中国・秦皇島しんこうとうに輸送した。それまで蒋介石は国府軍を日本内地に進駐させるつもりでいたが、満州の内戦が不利と見てこれを断念した。このため大量の輸送船の使用目的が失ってしまい、マッカーサーはこれらの輸送船を日本に貸与することにしたのである。

 これらの米海軍からの貸与船は、文字通り『貸与』なのであるから当然日本人船員が運航しなければならない。

 そこで船舶運営会は大量の船員を召集した。海軍艦艇の乗組員は復員を延期した元海軍軍人が大半で構成されたが、米貸与船は戦時中に徴用された元輸送船乗員が動かした。

 日本中の船員という船員が総動員され、日本の航海史に残る出来事となる。

 海軍艦艇はそのまま復員船として使用する事は出来ない。それは空母である『葛城』も同じだった。そこで武装解除が必要になった。

 『葛城』のような海軍艦艇はドックに入れられ、大砲・機銃・魚雷発射管などの武装をすべて撤去し、新たな人員輸送のための居住区・便所などを新設した。米貸与船も日本人船員が馴れるために訓練期間が必要だったし、居住区や便所の新設が必要だった。

 日本とは違う外国船なのだから仕方ない。慣れない物を使うには自分を慣れさせるかせめて近い感じに修正しなければならない。

 食糧はかつての海軍軍需部が保管していたものを使用した。復員者用の食糧や衣料もすべてここから出た。問題は艦船を動かす油であるが、日本は戦争後半には物資不足によって艦を動かす油も尽きていたので、終戦時も日本に油など残っているはずがない。そこで復員船の燃料はすべて米タンカーから補給されることになった。

 復員船は内地を出港するたびに、あるいは外地の港に入港するたびに、米タンカーに横付けして重油を満載した。

 かつての敵から与えられる油だが、贅沢は言ってられない。そんなくだらないプライドや誇りより、仲間たちを日本に帰してあげることが先決だ。

 復員輸送は元陸海軍省だった、第一・第二復員省が担当することとなった。 

 初期の外地からの復員輸送は食糧自給が困難で、餓死寸前の南方離島 ( メレヨン島・南鳥島・ミレ島 ) から開始することになった。

 そしてシンガポールや中国、朝鮮などの海外諸国や各地域に移行され、復員輸送は順調に進んだ。

 しかしその途中で障害もあった。

 日米が展開する復員輸送を邪魔する赤い悪魔、ソ連である。

 中国・朝鮮からの引き揚げ船が日本海やオホーツク海でソ連潜に無差別に撃沈され、祖国に帰れずに海に散る悲劇が続いた。

 しかしこれを止めることは敗戦国である日本には出来ず、アメリカの言葉もソ連は無視した。不法な日本兵捕虜のシベリア抑留や北海道占領を目指して樺太と千島列島に侵攻した際のアメリカの抗議も無視しているソ連になにを言っても無駄なのであった。

 雪風も……確か中国や朝鮮に…。ソ連潜が出没する日本海に自分と同じ復員輸送に出ていると聞いたが、大丈夫だろうか…。

 太平洋の洋上を進む『葛城』にソ連潜が襲い掛かってくる心配は無いと思うが、元誇り高き帝海軍人である――いや、心や外見は今でも帝海軍人である葛城は慎重さを忘れなかった。

 与えられた任務、そしてそれは大勢の助ける命を乗せていることは責任重大だ。

 だから責任を持って彼らを日本まで運ばなければならないのだ。

 「…?」

 ふと、葛城は自分が責任として連れて帰るべき彼らの光景を見ていると、どこか異変に気付いた。

 兵士たちの集まりとはすこし離れたところで、烹炊所の主計科長と各班の班長たちが集い、なにやら険しい表情で話をしている。

 葛城は胸騒ぎを覚え、その会話に近づいた。

 


 「確かにそうなんだな?」

 太い腕をしたごつい体つきの五十代ほどの主計科長が険しい表情で若い主計兵を睨むように見た。

 「はい。確かに足りません。いくら計算し直しても明らかです」

 「銀バエか……」

 「あるまじき事態ですな」

 古参兵に見える各班長たちが言い合う。

 葛城はそんなピリピリとした輪に構わず、覗き込んで耳を向けた。

 「米や砂糖、塩まで減っている。島の兵たちを収容してからのことです」

 「何者かが無断で軍需品を物色しているということですな?」

 初老の航海長がごつい顔つきの主計科長に細い瞳を向ける。

 主計科長は頷いて答えた。

 「その通りです。食料は毎日三食分与えてますから彼らに食べ物の不自由はないはず。…しかし、勘が鋭い奴がいるようです。帰る先の祖国が何もないことに気付いた者が、ドサクサに紛れて艦から物を盗み、祖国の土で売りさばこうとする不届き者が」

 主計科長の言葉に、一同は重い空気に包まれる。

 全員が険しい表情になって各々がなにか思うような仕草を取る。

 遠くでがやがやと騒いでいる彼らは今起こっている事になにも気付いていない。

 葛城は、溜息を小さく吐いた。

 終戦のドサクサにまぎれて軍隊から復員するとき、大量の軍需品を持ち出す者は当時大勢いた。このことは後に、戦後の国会でも問題となる。

 実はこれが初めてではない。今までの復員輸送のときも何度かあった。こっそりと軍需品を持ち出して日本に上陸し、そこで売りさばく者もいた。

 終戦後の貧困時代に突入した日本の何もない時代だったので、物を売れば何かとお金になった。

 しかも復員船は外地まで行けるのだから、こうしたヤミ行為は可能であった。海軍では、艦のものをくすねることを『銀パエ」』という。

 兵隊たちが米や砂糖を銀パエして、これを上陸時に民間人に売りさばいた例はいくらでもあった。

 葛城は正直どうでもいいことだと思っていた。今は消失した帝国海軍も堕ちたものだなと、葛城は改めて思って、その場から背を向けて立ち去ろうとした。

 「……実は犯人の目星が付いております」

 葛城の肩がピクリと震え、足が止まった。

 「ほぅ、誰かね」

 主計科長が興味ありげに聞く。

 「ちょうど紛失物が紛失したと思われる時間帯、その時にある一人の人物が一人だけ単独に離れて行動しているところを目撃したという証言があります」

 「そいつが犯人とでも?」

 「可能性はあります」

 「で、誰だね?」

 葛城はただ無機質な表情のまま、その場に立ったままで耳を済ませていた。

 「一人だけここを離れていた者……」

 ペラリと紙をめくる音が聞こえ、まるでそこにある字を読み上げるような口調が続けて聞こえてくる。

 「……帝国陸軍・元ラバウル陸軍航空隊基地第七整備隊所属、整備軍曹。―――秋津衛という者です」

 「………」

 葛城はゆっくりと背後にいる一同を一瞥する。

 葛城が見たその者たちの表情は疑いの視線と変わり、そしてある一人の人物だけが口端に笑みを浮かべていた。

 「ほほう。そいつが犯人だとでも言うのかね?」

 主計科長が訊ねる。

 「…あくまで容疑者、ですが」

 「まぁいい。本人に聞けばわかることだ。今すぐ連れて来い」

 「了解しました」

 そう言って今まで主計科長と言葉を交わしていた若い主計科兵はその場から走り去った。

 葛城はまだなにかを話し合っている一同を、背を向けてからチラリと細い瞳で一瞥する。

 その中に垣間見える黒い笑みを見詰めて。

 葛城は無機質な表情でただ上を仰いで、光に包まれて消えた。

 また酔いで外に出ているであろう彼のもとへ―――

次回、秋津の身になにかが襲い掛かるっ?!

運が悪いことに疑惑がかけられた秋津。葛城はそんな不運な彼に対してどうするのか?


戦後、復員輸送のときにドサクサに紛れて軍需品を持ち込んで、土地で売りさばくということがよくあったそうですからね。そこで闇市なんかで売られたりもしたんですけど。

ある話では、内地の各部隊から一旦帰郷した元の乗組員たちが戻ってきた多くの復員船では、規律は乱れ、糧食・被服等の管理責任者の立場にあった各班の班長さんや主計科長たちの苦労は尋常ではなかったらしいです。

復員船の船内でも色々と大変だったんですね。


ちょうど一週間後って太平洋戦争(大東亜戦争)の開戦日ですね。

日本を護るため、欧米諸国の植民地支配からアジアを護るために立ち上がってくれた英霊さんがたが散っていった戦争の始まりの日…。

日本国民にとっては8月15日と同じくらい特別な日であると思います。


そして同時に……テストがもっと目前に迫った日ともなりますっ!ひえええ〜〜(涙

テスト近いのでこれが完成するのはテストの後かもしれません…。

学生って辛いですねぇ。

テストさえ終われば冬休み!こちらの地元は雪が降って寒い日が続きますがっ!

では。皆様も体調にはお気をつけて。

次回までまたお待ちください。

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