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井ノ瀬さんは美人

「なんで小テストってあるんだろう」


「ハルみたいなやつが勉強をさぼらないようにするためだろ」


 俺の素朴な疑問に、透は言わなくても良い悪口を加えて答えた。そんなこいつは、満面の笑みで満点だった小テストをひらひらさせて俺に見せつけている。

 今は、仮入部が決まった翌日の朝の小テスト直後の休憩時間である。透の席は窓際の俺と正反対の位置であるのにも関わらず、わざわざこっちまで来ている。俺を馬鹿にしに来たのか、自分の点数を自慢しに来たのか理由はわからないが、一つわかることがあるとすればこいつは暇なのであろう。


「そういや、『井ノ瀬さんが廊下を本を抱えて走ってた』っていう噂知ってる?」


 さすが情報家。透は昔から噂話には目がない。とはいえ、今回はこいつの情報収集スキルは必要ないだろう。――――何故なら、何もしなくても噂話を知れるほど広まってしまっているからだ。


「知ってるよ。今、校内で話題になってるもんな」


 まるで他人事のように俺は言う。


「そのことなんだけど、おそらくその噂話って井ノ瀬さんが資料集を教室に持ってきた直前の出来事の話じゃない? 彼女が教室に戻ってきた直後、ハルも資料集を持って教室へ入ってきたけど、何かあったの?」


 ……鋭い。見ていなさそうで、よく観察している。教室に戻ってきた後資料集を教卓の上において、何事もなかったかのようにお昼を食べていたつもりなのに。情報家で観察眼がある、透は探偵になるべきなのかもしれない。


「べ、別に何もなかったよ。歴史の先生に資料集を歴史資料室に取りに行くよう言われただけだ」


 ここで噛んでしまうところが、俺のダメなところなのであろう。大人になる前に、ポーカーフェイスになりたいと思っていたが、このままの感じで行くと絶対に無理だ。そもそも、ポーカーフェイスは生まれつきの能力なのかもしれないが。



「授業の始まる直前のタイミングで? しかも二人とも息を切らしながら?」


「…………」


 返す言葉が見当たらなかった。そんな決定的な事実が二つありながら、特に何もなかったなんて言えるはずがない。

 こうなった以上、このまま透が引き下がるわけもないので、言いたくないこと(井ノ瀬に小テストを見られたこと)を除いて、仮入部するまでのことを断片的に話した。

 話し終えると、予想はついていたが透は俺の顔を見て大笑いしている。毎度思うことだがこういう話をこいつにして後悔しなかったことはないような気がする。


「昨日、あれだけ部活には入らないって言ってたのにねー」


「入部はしていない。あくまでも仮入部だ」


 そう、ただの仮入部である。まだ、入るとは決めてない。


「けど、ハルは入るべきだよ。人と関わらなさすぎだ」


「俺の勝手だろ」


 俺は友達がいない。それだけ聞くとただの悲しいやつだが、自分自身現状に不満はもっていないのだ。入った時から友達を作るつもりはないと決めているし、そんな俺を察してか、周りも誰も話しかけてこない。


「それにしても、ハルは井ノ瀬さんが好きだったんだねー」


「…………、どうしてそうなる」


 急にそんなことを透が言うものだから、声が裏返りそうになってしまった。


「だって部活に入らないって言ってたのに、今日になって急に入るだなんて言い出したから、井ノ瀬さんのこと狙ってるんじゃないかと思ったんだよ」


「それは誤解だ。お前も俺の話聞いていただろ、逃げられない状況だったんだ」


 言い方的にまるで言い訳をしているようにしか見えないが、本当に違う。


「ハルは面食いだからねー」


「俺に勝手なキャラ設定を加えるな」


「俺が狙っちゃおうかなー」


「面食いはお前じゃねぇか……」


 そう言って、中二の時のあの話を思い出す。透はいきなり「可愛い子に片っ端から告白する」と中二病かつ屑な発言をしたことがあった。それを聞いた俺は「こいつ馬鹿なんだな」と呆れていたが、その無謀とも言える挑戦がなんと二人目で成功してしまい、可愛い彼女をゲットしたのだった。

 クラスの女子全員に振られたらオチも完璧で面白かったのに……。


「また、クラスの可愛い子に片っ端から告白するのか?」


「今回はしないね。あれは、運がよかっただけだったってわかってるし」


 のってくると思っていたのに、意外と冷静な対応をされてしまった。振られて凹む透の姿を見たかったのに……。つまらない男になったものだ。


「まあ、井ノ瀬さんは俺も可愛いと思うからいいと思うよ」


「お前はどの立場からその発言をしてるんだよ……」


 とはいえ、確かに井ノ瀬は誰の目から見ても秀麗と思わせるような美人である。優秀な生徒が揃う美麗高校では、ファンクラブなんてものはあるわけもないが、もし俺が本来行くような学力の学校であれば、今頃ファンクラブが設立されていてもおかしくはない。高校一年でここまで妖艶な雰囲気を出せる高校生は、日本中探してもそうはいないであろう。


 変な出会い方をしていることもあってか彼女に対して多少は特別な気持ちを抱いていることは否めないが、好きという感情には至らない。好きだなんて思ったらそれこそ面食いである。


「俺のことはどうでもいいんだよ。お前の方こそどうだったんだ?」


 俺は話題を切り替える。


「あーテニス部のこと? やっぱ入るの辞めた。見ていてテニスは俺には合わないのかなーって思ったよ」


「…………」


 俺の方こそ昨日の発言はなんだったのかと言いたい。青春と言えばテニスって言っていたじゃないか。こいつの気分屋には全く困ったものである。

 話題がなくなってしまったので、昨日の昼休みに思った疑問を透に投げかける。


「お前っていつもどうやって英単語を覚えてる?」


 言った後になって、話の流れも何も考えずに変なことを聞いてしまったと後悔していたのだが、


「……うーん、気分かな!」


「…………」


 頭のいい奴の基準をこいつにしたこと自体間違いだった。この疑問を晴らすために友達を作るべきなのかもしれない。


「それがどうかしたの?」


「……もういいよ」


 一限の始まるチャイムがタイミングよく鳴ってくれたので、俺は透をシッシと手で払い、一限の数学の教科書を取り出すため、鞄をあさった。


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