マイクに向かって、俺は叫ぶ
失くすというのは、盗られたときだ
「なぁ、晃。」
「ん?なんだ?」
友人の暖人に声をかけられてそっちを向く。
「お前さ、なんか好きな事とかないの?」
「え?」
「だから、今の春下さんとリア充ライフを送ること以外に何かないのか? って聞いてるんだよ。」
正直、趣味も特にない。彼女と一緒にいると楽しいけど、それは別に趣味じゃないよな。
「今度の土日さライブ見に行こうよ。」
「え?なんで?」
「まぁまぁいいから付いてきなって。」
まぁ別に用事もあるわけじゃないので、土日ライブを見に行くことになった。
♢
そして土日
「ライブって聞いたからもっと大きなホールみたいな場所でやるんかと思ってたけど、ここなの?」
そこは街中でも目立たないライブハウスだった。
「今日は俺の好きなラッパーがここでライブするんだよ。」
ラップか・・・ヘイ! とかヨー! とかチェケラ! ってイメージしかない。
まぁ暇つぶしなればなっていう感じで聞こう。
・・・
・・・
暇つぶしに聞こうと思ってた自分がアホらしいと思った。
そのライブでは自分の予想もしてなかった曲が聞けた。
誰かに対して向けた恋の歌っていうのもあったが、その中でも自分がびっくりしたのは誰かに対しての怒りや恨みを歌にした物だった。
「死ね」とか「バカ」じゃない。
すごく大きなもの僕は今日知った。
♢
そしてライブが終わり興奮冷めやらぬ中
「よっしゃ、次はMCバトルだな」
「え?なんか戦うの?」
「MCバトルって言うのはラッパー(MC)がラップの音楽にのりながら一対一でどれだけうまく即興で言葉を並べて相手をバカにしたり、どれだけうま くリズムに乗れるかを競う勝負だよ。」
「要するに、音楽にのりながら口喧嘩しろということか。」
「まぁ、簡単に言えばね。基本一人二回ターンがある、そのうちにどれだけ相手のことをバカにするか、まぁ見ればわかるさ。」
・・・
・・・
そしてバトル会場に入って早速二人がステージに出ていく。
DJのスクラッチ音が聞こえて来たら、音楽がかかった。
と思ったらステージ上のラッパー二人のうちの片方が
「俺のラップはゴージャス こいつのラップは不合格見失ってるぞ方角 性格は性悪wack討伐か道楽 客は総立つ 焼き付けろ網膜 やるか俺のコーラス!」
驚いた、これ全部即興何だと思ったらもっと驚く。
すると相手のほうが・・・
「 有名じゃなくても客は手を上げる ハングリーなやつらが夢を懸ける お前もなかなかでも負ける だってTKはいいところですぐ音を上げる!」
はっきり言ってすごい、心に思ったことをそのまま音楽にのせて叫んでる。
そして三試合目くらいで
「なぁ、晃。あれってうちの学校の先輩じゃね?」
「ああ、見たことあるけど・・・名前なんだっけ?」
まさか同じ学校の先輩が出てるとは思わなかった。
なぜその人のことを知ってるかというと委員会の発表とかで前に立ってるのを見たことがあったからだ。
「あっそうだ!最上佑介だ!あの先輩の名前。」
その先輩は試合が終わるとこちらに気づいたように睨んできたあと、舞台裏にはけていった。
そしてライブが終わり帰宅後・・・。
動画サイトとかを使ってラップのことを調べた。
「ほうほう・・・なるほどなぁ。」
などと独り言を口にしながら、ラップの歌詞の基本を調べていた。
そして早速歌詞をノートに書いてみる。
とりあえず韻を踏むということに挑戦してみた。
「自分の名前で・・・あきら・・・a ia ・・・タイヤ?的な」
とりあえず難しいのは分かった、だが頑張って書いてみた。
「よし!できた!」
ヘ ッドフォンをつけて、某S〇NYのマイクをオンにして。ビートを流しながら歌ってみた。これでもカラオケで高得点を連発したことがある。
何回か噛んだりしたが何とか歌えた。
音声とフリーのビートを合わせただけの歌だが自分の心にあるもの全部吐き出したみたいでとてもすがすがしかった。
・・・
・・・
動画サイトにアップロードした・・・が。
とりあえず暖人にはメールで送ったが返事は、「お前ラップまじでハマったんだな」と曲に関しての感想はなかった・・・そんなに聞き苦しかった?
♢
次の日学校で・・・
学校について教室に入った途端暖人がこっちに駆け寄ってきて、スマホの画面を見せてきた。
とっさに俺は
「お前、反省文書かされるぞ。スマホ隠しとけ。」
と言ったら、
「いやいやそれどころじゃなくて、お前これ見てみろ。」
と言われて画面をのぞき込むとそこには俺の昨日の動画、だが
「いち、じゅう、ひゃく、・・・十万回!?」
「お前の動画十万回以上再生されてコメントもめっちゃ来てるぞ」
♢
家に帰ってPCを立ち上げで学校で聞いたことを確かに確認した。
「嘘じゃないよな」
コメントも読んだその内容は『初投稿とは思えない』『ほかの学年の人めっちゃ怖いってところ共感できますw』とか中には『olimme tulilukiolaiset』
と意味不明なものもあったがとにかくうれしかった。
するとメールで彼女である春下風花から『音楽だしてたの? めっちゃはまった!みなおしちゃった♡』と送られてきた。
「あれ? 教えたつもりないんだけど・・・」
と思ったが動画サイトの急上昇ワードのところに思いっきり載ってた。
♢
しばらくすると動画サイトのアカウントにメッセージが送られてきた。内容は『今度、駅前のライブハウスで高校生ラッパー何人かにライブで歌って もらおうっていうイベントがあるんですが出演してくれませんか?』とのことだった。
「俺が・・・?」
つい先日まで見る側だったけど今度はステージに出る側になるんだなと思うと興奮してきた。
すぐにOKした。
すると『どうゆう名前で出演しますか?』と返信されてきた。
「そういえばラッパーの人ってみんな本名とは別にラップのほうで使う名前を持ってるよな、いい機会だからきめるか!」
何にしようか・・・そういえば家とそのライブハウスって以外と近いよな・・・近い・・・NEARとかでええよな。
てことで俺のラップ名はNEARに決定した。
『ちなみに一人二曲歌っていただきます!』とメールが来た。
初耳だが今の俺は波に乗ってるからいける!
そして日程を確認したあと早速作曲に取り掛かった。
とりあえずラブソングが歌いたいと思った、恋愛系の言葉を書き連ねてみた、そして思った事は『俺今彼女いるけどなんもやってないな・・・』というこ と。
そして翌日そのライブハウスのイベントに出場する人たちが集まって打ち合わせをしていた。
順番に主催者と一対一で打ち合わせをする。まるで入試の面接だ。
「そんなに緊張しなくていいよ。」
「は、はい」
と緊張を和らげようとしてくれる人もいたが、緊張の理由はそれだけではない。
最上佑介、そうあの先輩もこのイベントに呼ばれてた、そして
「なんで・・・めっちゃこっち睨んでくるんですけど・・・。」
と小声で言った。小声で出てしまうくらい怖い視線で見てくる。
そして自分の番が回ってきた。
♢
「では新曲と動画サイトで上げられてるやつでいいですか?」
「はい。」
「では新曲もすごいたのしみにしてますね!」
「はい、ありがとうございました!」
打ち合わせは終わった、あとは曲を完成させるだけだ・・・
「おい」
「はい!?」
思わずびっくりしてしまった。
一体全体だれが俺にはなしかけたんだ?
「はじめまして、最上・・・先輩」
最上佑介だ。だがとりあえず先輩だ、挨拶をした。
「あまり調子に乗って、ステージダメにすんなよ」
「いえ、そんなことはぜった・・・・」
絶対そんなことはしないと言おうとしたが向こうが言い終えると立ち去ってしまった。
「んだよ、あいつ・・・」
小声で思ったことを言ってしまった。
・・・
・・・
帰宅後
「よっしゃできた!」
曲が完成した。長い期間ではなかったが出来は中々・・・・だと思う。
自分で声に出して歌ってみる。
歌い終えると
「おお、アイドルのラブソンみたい。完璧だな」
生で人に初めてお披露目するんだ、盛大な恋の歌ができた。
♢
土日が明けて学校に行って、早速友人である暖人にイベントにでる事を告げた。
「ああ、あれね。知ってる」
「見に来てくれるか?」
「ああ、ラップ好きとして同級生のライブは見てみたい」
そんなライブだなんて。照れるな。
「照れるな」
・・・
・・・
次はだれを誘おうか・・・とはいっても今誘えてるのは暖人だけだ。
「なに考えてるの?」
あ、こいつ誘うの忘れてた。
・・・
・・・
「え?こんどライブするの!? すごーい」
「そ、そう?」
すごいと言ってもらってなんかうれしい。
「この間の曲も生で聞けるのかぁ~、風香たのしみだなぁ」
こう楽しみにされるととてもやる気がでてくる。
この調子でライブもがんばるぞ!
・・・
・・・
ライブ当日、ちょっとかっこつけて勝ったラッパーっぽい帽子とパーカーをきて
「これも・・・つけるか!」
そのへんのネックレスとかは普通すぎると感じたから鉄の鎖も買ってみた。
「帽子もいい感じだし、パーカーもかっちょいい!よし今日は気合いれるぞ!」
と鏡の前で両方の頬をパチ!と叩いてきを引き締めて
「いってきます!」
だれもいないが家に一言言って家をでた。
今日の俺はなんでもできそうだと感じた。
♢
ライブハウスについて最終確認とリハーサルをする。
すでに緊張してきた。
「あー、あー、マイクチェック、マイクチェック、イェー」
とマイクに向かって喋る、かなり大きな音だ。
・・・
・・・
そしてイベントが始まって、一人目の人が歌い出した。
「うまい・・・」
と楽屋にあるモニターでステージをみる。
周りのラッパーは
「今回の盛り上がりは去年よりすごいね・・」
「去年までは大学生とか社会人の若者が多かったけど・・・今年は高校生が多いみたいだね」
「それもNEARくんの動画のおかげだと思うな」
「そ、そうすっか?」
緊張がすこしほぐれた、あとNEARとラップ名で呼ばれて少しうれしくて気分が高揚してきた。
「お次は、いま動画投稿サイトで人気急上昇中・・・NEARくんです!!」
と司会の人が言ってステージに立った、瞬間音楽が流れ出した。
と共に観客からとても大音量で流れる音楽にも負けないくらいの大きな歓声が送られてくる。
最初の曲は動画サイトでも上げた曲、新曲は後に回した。お楽しみは最後でということでだ。
・・・
・・・
「ありがとうございます」
と一曲めを歌い終えた。観客はとても大きな歓声を飛ばしてきた、達成感で気分が高揚してきたが、緊張と必死さで自分の顔は汗だくだ。
「次は新曲です、みんなきいてくれ!」
さっきの一曲目とは真逆の音楽が流れ出す、一曲目はロックっぽかったが、二曲目はピアノの音が目立つラブソンだ。
「え?」「おおお!」「まじ!?」と二曲目がなり始めると聞こえてくる観客の声が自分の気持ちをさらに高揚してきた。
・・・
・・・
一番を歌い終えた間の部分、何か観客おかしい・・・とてもざわざわしてる。
・・・
・・・
二番を歌ってあともう少し、曲の最後らへんで観客をみた。
スマホを触ってる、ステージを見ずに下を向いている。
・・・
・・・
歌い終えた。一曲目のときの歓声はなかった。
ぱちぱちと拍手だけが聞こえてきて、観客たちは
「観客が冷めてる・・・」
自分でもわかるほどだった、だがなにが悪いのかわからなった。
♢
楽屋にもどってきた、するとほかのラッパーはこっちを見るなりため息をついていた。
中でも最上先輩の鋭い視線は肌に針が刺さってるかのように痛かった。
自分はその空気に耐え切れなくなって楽屋を一足先に去った。
・・・
・・・
ライブハウスを出ようとドアに手をかけた瞬間
「まてや」
「最上・・・先輩」
「お前さ、何してくれてんの」
「・・・」
「あんなしけた糞な曲うたってんじゃねぇよ!」
「・・・」
「お前のせいで、お前のあとのラッパーみんなあの冷めたステージで歌わねぇとならねんだぞ」
「だったら・・・」
「はずかしくねぇのかよ!?」
「だったらここで勝負しようじゃないっすか!」
なぜそんな事を言ったのか、自分が悪くないのを証明するため?そんなことじゃ証明できない。
「上等だよ、来い」
するとライブハウスの奥に連れていかれた。
「防・・・音室?」
「ここならいくらでも大声出せるぜ? さぁそっちが売った喧嘩だ、それなりの腕あるんだろうな」
ガチャ
ドアが開いたと思ったら他の今日の出演者が入ってきた。すると最上先輩は
「曲をかけてくれ・・・最終確認だ、帰ってもいいんだぞ」
「先輩こそ、逃げないで下さいよ」
なんでそんなことを言ったのか、MCばとるは初挑戦だ。
じゃんけんの結果先輩が後攻だ。よって自分は先攻だ。
スクラッチ音が聞こえてきた。
「いいか みんな いっぺん 聞け 今日の イベント BA CA こいつから 見れば 小っちぇ 人間 だけどな 俺は NEAR いつも真剣」
次は先輩
「ま が い もん ラブソング 間 が いい もん こちら心を断っきり孤独な魔物だ こいつは雑魚キャラのボンボンの学生だ」
次は自分の番だが
「・・・」
声がでない。
というより何を言えばいいかわからない、悔しい、その気持ちに追い打ちをかけるかのように先輩は
「お前さ・・・」
ドスッ
と音が響いた、次の瞬間なぜか先輩を見上げてる、地面に横たわっている。
そして殴られたと分かった。
「バトル吹っかけてくるからどんなもんかと思ったけど、まさかここまでがっかりさせられるとは思わなかったよ。」
「く・・・」
「やめちまえよ、ラップなんかやる価値お前にはねぇから」
♢
やっと帰宅した。
帰宅してすぐにベットに倒れこんだ。そしてつぶやいた。
「くそったれ・・・」
ピロン
「ん?」
どうやらメールがきたようだ、携帯電話に手を伸ばして画面をみる、そこには
『ごめんね、私ね晃のこときらいになったの。ほかに好きな人ができたの。ごめんね。』
という風香からのメールだった。
すぐに返信した
『なんで!?』
『だって、今日の晃、曲は寒いし。なによりバトル弱すぎw』
『バトル? 見てたのか!?』
『ま、そういうこと。じゃあね鈴谷くん』
『ちょっと!』
返信が止まった、今の瞬間俺は失恋した。たった一日だけでこんなにも不幸なことが続くのかとおもった。
待てよ、不幸なんかじゃない。全部自分がまいた種だあの曲もバトルもなにもかも。
「寝よう」
もうラップなんかしたくない。
よく考えてみたら最初からうまくいきすぎた。
二曲目の曲・・・あれもよくよく考えてみると
「さっむ」
別に気温が寒いわけじゃない、歌詞が寒すぎる。
調子に乗ってて自分がどれだけひどいものを書いてるかがわかんなかった。
「でも、もう辞めるんだし、反省しても無意味だよな」
とつぶやいた。
ピンポーン
家のチャイム音が鳴った。
「だれだよ、宅配便にしては遅いな」
時計は夜の9時を指していた。
「はーい」
とドアを開けた先に居たのは暖人だった。
「よっす」
「お前、今何時だと思ってんだよ」
「とりあえず上がらしてもらうよ」
と、こっちの話も聞かず勝手に上がりこんでいく。
「おい、お前待て・・・」
「おまえ今日のことでラップ辞めようとか思ってるんじゃ無いのか?」
「な、なんで知ってるんだ?」
「やっぱり・・・友達長くやってるとお前のことよくわかるようになるんだよ」
「そうなのか、でももう決めたことだ」
「負けっぱなしでいいのか、彼女も取られて終わりでいいのか?」
「どうゆうことだ?」
「さっきここに来る途中最上先輩と腕組んで歩いてるとこをみたんだよ」
そうなのか、風香は俺から先輩に乗り換えたということか、つまり
「取られたのか・・・俺は」
それに気付いた瞬間、自分の中の悔しいという感情は怒りとか憎しみに変わった。すると暖人が
「俺と組んで、またラップしないか? そんであのくそ先輩をラップで見返してやろうぜ」
もう風香とかそういうのはどうでもいい、あのくそ野郎に目にもの見せてやりたい、そして決意した。
「おう!」
・・・
・・・
「で、見返すってどこで」
「簡単さ、文化祭だよ。実はおれそこでライブするからステージの使用許可すでに取ってあるんだ!」
「そうなのか!ってお前ライブやってたの!?」
「俺はただのラップ好きじゃないんやで」
ということで俺、晃は親友の暖人、ラップ名は大和と文化祭でライブすることになった。
♢
つぎの日学校で
「ねぇねぇ放課後どっかいこうよぉ~」
と元カノ風香が最上先輩に話してるところを見かけた。
「はぁ、実際へこむな」
と小声でつぶやいた。
するといきなり
「放課後お前俺の家来いよ、歌詞書こうぜ」
「お、おう」
・・・
・・・
そして放課後暖人の家で
「どうゆうの歌いたい?」
「もちろんあのくそ先輩に対する恨みとかかな」
「じゃあ失恋ソングとかは?」
正直恋系の曲は先日のことでちょっとトラウマになりかかってる。
「失恋・・・あ」
「どうした」
「俺がラップ初めてから今ここまでのことを曲に書くよ」
「それいいと思うぜ」
かりかりとそこで思いついた言葉をノートに書いていく・・・そして思ったことは
「俺ラップ初めて日が浅いけど、ここまで全然いいことなかったな」
「ほんとにね、彼女取られるし殴られるしね」
などと暖人に茶化されながらも書いていった。
そして言葉が一式出終わって、それを今度は言葉から曲に変えていった。
「この感覚、一曲目の時に似てるな」
「と言いつつお前まだこれで三曲しか書いてないからな」
とまた茶化されつつ完成した。
いろんなラッパーの曲を聴いてきたが、この自分が書いた曲が「一番」といえるくらいのものができた。
「完成した!」
と言ったら暖人が
「じゃあ、文化祭まで1ヵ月だが・・・」
「だが?」
「お前はカラオケはうまいが、実際の曲を聴いたところお前の歌唱力はド平均だ!そんなもんではあのくそ先輩には勝てぬ!!!」
「じゃあ、どうするのよ・・・」
「簡単だ、毎日家で風呂入ってないとき以外は発声練習しろ、無理はせんでいい」
「は?お前家族にみられたらさすがにイかれてるって思われるだろ」
「おまえそんな覚悟もないのか!? あの先輩なら普通にやってると思うぞ!!」
確かに・・・あいつに出来て自分に出来ないのは悔しいけど・・・
「せめて親の前以外でいいだろ・・・な?」
「まぁいいだろう」
と言葉をかわしてその日は帰宅した。
♢
そこから毎日家に帰ったら自室にこもって窓を閉め切って発声練習をした。
週末課題をやりつつ発声なんてこともあった、だが文化祭1週間前に暖人の家で曲と合わせて歌ってみたら。
「あれ?高音が・・・すんなり出せる」
「練習の成果さ!」
という暖人は自分の数十倍は楽そうに高音で歌っている。さすが人に指図するだけはある。
・・・
・・・
「それじゃ、次はMCバトルだ」
「へ?そんな話聞いてねぇぞ!」
「当たり前じゃん伝えてないんだもん」
「で、なぜ?」
「おまえさ曲歌ってあの先輩が負けましたってなるか?」
「いや」
「だからバトルして勝ってリベンジやってやろうということだよ」
まぁ確かにあの先輩が曲聞いただけで「まけました、すんません」となるとは思えなかった。
「よしやってやろう!」
・・・
・・・
そして3回くらい勝負して
「お前なんで言葉に詰まる?」
そう俺は2回目で言葉が詰まって何もでなくなってしまう。
「言葉が・・・なんて言ったら勝てるかとか考えてたら、意味のある言葉を考えてたら頭が真っ白になってしまうんだ」
「そうか、じゃあ動画でもみて勉強しろ!」
そして暖人の家のPCデスクに座らされ1時間くらい有名な人たちのMCバトルをみた。
「どうだ?みんな意味のない言葉を繋げて一つの意味にしてるんだ、だからとりあえず思い浮かんだ言葉から出していけばいい」
と見終わってもう一戦してみたら。
・・・
・・・
できた。2回目まで言葉が出た。
それもすんなり、意味が通る感じで。
「やったな、じゃあ後は言葉の引き出し増やすだけだな」
「ああ、ありがとう!」
と言ってその日は帰宅した。
そして文化祭前日、ステージの確認やリハーサルをした。なんら問題ない、だが今までにないくらい緊張は・・・してはいなかった。
多少はしていたが頭にあるのはあのくそ野郎の顔だけ。はやく力をふるいたいと思っていた。
「どうだ?何も問題ないな?」
「ああ、何もかも完璧だ」
「じゃあ、遊びに行くか!」
「おい、明日本番だぜ?練習しないのかよ?」
「じゃあ、どこかできないところあるのか?」
「まぁ全部完璧だけど」
「じゃあリフレッシュだゲーセンいくで!」
といきなり走り出した暖人を追いかけてゲーセンに向かった。
・・・
・・・
「ふぅ・・・」
「さすがにはしゃぎすぎたな」
「大声出しすぎてゲーセンからつまみ出されるとは・・・」
そう、俺たちはテンション上げすぎて店員に「あの迷惑になるので帰ってください」とごついお姉さんに言われた。
もちろん初めてだ、もうこのゲーセンには二度と来れないな、だが全然嫌な気はしなかった、むしろ清々しかった。
「まぁこれも青春だ! 別に彼女いなくても青春できるぜ!」
と言って次のゲーセンに行ってまた遊んだ。
そして帰宅して、即刻ベッドに倒れこんだ、そして
「くそ野郎、今に見てろよ」
とつぶやいてその日は寝た。
そして当日
学校に登校して歩いてると最上先輩と風香が腕組んで歩いていた。
その横をスッと通り過ぎてスルーしようとして横切った瞬間、自分にだけ聞こえるような声で
「お前も懲りねぇな」
と言ってきた。だがなにも思わなかった。
♢
そして自分の出番の一時間前に俺たちはクラスのみんなに断ってからステージ裏に行った。
「クラスのみんな見に来てくれるって言ってたな」
「ああ、だが今回の俺たちの目的は一つ」
「あいつへのリベンジ!」
あいつ、そう最上先輩・・・くるのだろうか?
そして実行委員が
「ではお二人、準備してください」
マイクを握って、制服の袖をまくる。学校行事なので制服で参戦だ。
そして音楽が鳴り始めるとともにステージにでる。そしてマイクを口元へ動かして歌い始める。
・・・
・・・
一曲目は歌い終えた。
観客もかなり盛り上がってくれてる、そして間のトークで、ここはその場のいアドリブだ暖人が話題を振ってくれるらしいのだが・・・
「そういえばNEARさん・・・失恋したんですってね」
「はい!?」
観客からは「へぇ?」「おいwここでその話するか?」とか中には「ざまぁwwww」というやつもいた。
そしていろいろと話して
「では二曲目いきましょう!この曲はなんとNEAR君こと晃くんが作った曲です!」
音楽が鳴り始めて歌い出した。
・・・
・・・
そして歌い終えた、かなり盛り上がって歓声が上がった。
と思った瞬間スピーカーから
「おぉぉい!!!!」
怒鳴り声が聞こえた、そしてその声を聴いて誰かわかった
「最上先輩・・・」
すると先輩がステージに上がり込んできた。
観客は「え、まじで? やばくない?」「なになに? 仕込み?そういう台本?」と困惑していた。
実際自分もここで来るとは思わなかった。
すると実行委員が止めに入ろうとしたので
「おい! くそ先輩! よくきてくれましたねぇ!」
とあたかも台本通りのように口にした。
「なんだお前? 彼女取り返すためにここで歌ったのか? あぁ?」
「彼女なんてもう要らんわ! 俺の目的はお前に一泡吹かせるためだ」
そういう感じで言い合う二人を見て暖人が
「まぁまぁ、じゃあラッパーらしくMCバトルで決着つけたらいいじゃないですか?」
どっと観客が盛り上がる。
「おう、じゃあいいぜ。もう一回負けさせてやるよ」
暖人は音楽をセットして音楽をかけだす、そしてスクラッチ音が聞えてきた。先攻は先輩
「お前は負けててもおかしくなかった お前は大人よりラップが上手い癖にスケジュール管理だけは中学生だな そういうもんだぜ スケジュール調整が出来ない奴は飛ばすスペシウム光線 くらいなもんだぜNEAR お前はまた負ける、さらし首」
「確かにあれは申し訳なかったと思ってる でも俺はここに立ってる そして皆さんありがとう それだけ言っとくぜ マジでスケジュール管理できてなかったのは俺のせいかもしれないけど じゃあその分ヤバいライムをここでぶちかます為に俺はベスト8 マイク握ってる 舐めんじゃねえぞ 俺は見に来たぜお前の負け試合」
「OKAYAMA 一生正解を求めてるような奴だぜ色んな奴等 またサイファーしても瞬き出す そういうもんだぜYOあんたはさお前は本当に良い奴だよなまたサイファーしようぜ でも今日は叫びだすソウルスクリーム 魂の叫び」
つい何日か前は詰まってたがすらすらと言葉が浮かび上がる。
「負けるのはお前だまた涙流すぜ戦いはほんと儚いな お前はほんとに良い奴だが俺はHIPHOPだって地域密着型 eiyoそれでやってるぜ地元 岡山住俺は岡山のイナレップ で今全部 ぶつけてくぜ先輩 マジでサイファーしようぜ」
そして暖人が
「MC NEARが勝ちだと思う人!」
観客の半分くらいの拍手が聞こえる。
「じゃあ最上先輩が勝ちだと思う人!」
これまた半分くらい。
「じゃあ延長戦だな」
と暖人は言ったまた次も相手が先攻で始まる。
スクラッチ音が聞えてきた
「平成生まれのクソライマー マイクをそこらに置いてけ 俺の方が調子ええ いや ちゃうねん とかキミの言語も 我が物にする 完全体セル オマエはこっからもう死んでく Yeah 1,2 ちょっとマジむさ苦しくなったよね 数か月前が可愛かった本当に」
「そう 思ったことのない展開だな でもオマエは 俺は天才肌 見せつける ここは玄界灘のように渦潮流れてるから まだまだ やるぜ 俺は murder murder kill y’all お前の首切る yo near お前よりもしっかりとビートに乗るし 躍るし 心躍るし」
呼び捨てとかなにも関係ない! おれはただ勝ちに行く。
「Yo 確かにお前は天才だわ もう目つぶってるが限界だわ だから分かってる オマエの天才肌 なんてさらさら興味ねえ だけど回って打って嬉しいよ このまま続くぜ何小節? オマエのラップはさスゴく饒舌 冗舌じゃねえけど出す情熱」
頭の中で言葉を並べる、その瞬間思った。
「いける!!」
「Yo yo これが最後のバース しっかり締めさせてもらいます 俺が圧勝ごちそうさま オマエはここのステージで落ちるから この熱さはヤンキーマンガ でも引き下がれん俺バウンティハンター オマエの頭に言葉の重みを打ち続ける パンチラインドランカー yeah」
暖人が結果を聞こうとした瞬間。
「ん?」
観客席全員が拍手をしてる。
観客席からは「やべー」「これは晃の勝ちだろ」という声が聞こえる
暖人は
「じ、じゃあ晃の勝ちでいいですか?」
拍手の音が倍の大きさになった。
そして俺はその日、くそ先輩にリベンジを決めた。
「ふっ」
とすこし笑ってステージから去っていった。
・・・
・・・
そして文化祭が終了してあと片付けをしたりして俺と暖人は人の少ない廊下を歩いていた。
「ふぅ、いやぁうまくいったな!」
暖人は途中でもらった残り物の焼きそばを食いながら言った。
「ああ、でももっとラップしたいな」
「お? これでお前もラッパーだな」
「そうか?」
と話してると、後ろから最上先輩が
「なぁ、お前」
「え?」
「ラップ…本気か?」
そして俺は少ししたらタメ口で
「ああ、もちろん」
すると先輩は
「それでいい」
そして先輩は立ち去った。その後姿をみて俺は
「ありがとうございます、クソッたれの先輩」
とつぶやいた。