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10-073.奴にかかれば、指先一つでダウンさ

 

「……これが僕の見た全てです」


 ダムド少年は、そう言って一息入れた。髭もじゃブリクスがダムドにと注文したストロングエールをドンとテーブルに置く。勢い余って、赤褐色の液体が泡を引き連れて杯から飛び出した。


「ダムド、そりゃ大変なモンを見ちまったな。まぁ、一杯行け」

「あ、戴きます。ブリクス(あに)さん」


 ダムドはエールを旨そうに一口飲んだ。


「で、スティール・メイデンはどうなったい? ダムド」

(あに)さん、黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルの姿が見えなくなってから、慌ててスティール・メイデンの様子を見に行ったら、息はありました。急いでこっちに戻ってリーファ神殿の神官に伝えてきましたから、今頃助けが行っていると思います」

「冒険者ギルドは何て言ってた?」

黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルは自分から冒険者を襲うことはないから、きっとスティール・メイデンの方が仕掛けたんじゃないかって」


 ダムドとブリクスの会話にソラリスが割り込んだ。


「おい、ちょっと待て。ブリクス。黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルって何なんだい?」

「あぁ、ソラリス。お前はウオバル(こっち)は久々だから知らねぇか。半年程前からここいらに姿を見せるようになった奴さ。真っ黒のローブに白い仮面をつけた気色悪い奴でな。正体も名前も誰も知らねぇんだ」

「なんでそんな奴が出るようになったんだ?」

「知らねぇよ。此処(ウオバル)らの街中にふらりと現れたり、街外れの街道で見たってのもいるがな。みんな気味悪がって近づかねぇんだ。でも冒険者ギルドで見たって話は聞かねぇから、冒険者じゃあねぇんじゃねぇのかな」


 ブリクスの説明にギャラリーが割り込んでくる。


「俺ぁ、黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルがA級の魔法使いだって噂を聞いた事があるぜ」

「いや、高位の神官だって話だ。おいらはリーファ神殿で聞いたんだ。間違いないね」

「おいおい、それじゃ冒険者だろうが。スティール・メイデンをノシちまうような冒険者なら、是非とも仲間にしたいもんだぜ」

「へっ、お前なんざぁ、黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルに遭ったら、ビビッて小便チビる口だろうが」

「オメェこそ、奴にかかれば、指先一つでダウンしちまうくせに何言ってやがる」


 テーブルを取り囲むギャラリー面々は互いに言いたい放題軽口を叩いている。ウオバル(このまち)で実力者と目されていたスティール・メイデンを苦もなく捻ったのだ。話題になるのも無理はない。


(あの時の……)


 ヒロはミカキーノとの間に割り込んできた黒ローブの人物を頭に浮かべた。


「ヒロ、彼奴(あいつ)のことだよな」

「うん。多分」


 ソラリスが顔を向けると、ヒロは首肯した。隣に座っているリムもうんうんと頷いている。


「俺達もその黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルらしい人影を見かけたんだ。ちらっと見ただけだから、詳しい事は分からないが。スティール・メイデンは直ぐその後を追っていったんだ。ダムド君のいう通りなら、その後やられたことになるな」

「そうだと思います」


 ヒロの言葉にダムドが同意する。


「だけどよ。スティール・メイデンの奴らはあんなだが、腕は確かだぜ。三人揃って手も足も出なかったのかよ」


 ソラリスの疑問にブリクスが自慢の髭を撫でた。


「だから、不可触(アンタッチャブル)なんだよ。これまでも粋がってた冒険者(やつら)が何人か黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルの仮面を外してやろうと、ちょっかいを出したことがあるんだが、みんな返り討ちさ。それどころか指一本触れる事も出来なかったんだとよ。スティール・メイデンですら駄目なら、ウオバル(ここ)でアイツに手ぇ出せる奴はいないな」


 ブリクスは自分のエールを一気に飲み干し、追加を注文する。


「ブリクス(あに)さん。大学ならどうですか。スティール・メイデンよりも実力者となると、成績優秀な学生か教官くらいしかいないと思いますけど」

「別に実害が出てる訳じゃないしな。黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルを討伐するクエストでも掛からん限り奴らだって動かんぜ」

 

 ダムドの提案をブリクスはさらりと否定する。


「じゃあ、こちらから手を出さない限り、黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルってのは特に危険じゃない、でいいのかな」


 ヒロが水を向ける。ダムドの話が事実なら、黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルはスティール・メイデンを軽く一蹴して寄せ付けなかったことになる。全く恐るべき存在だ。もしも黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブル此処(ウオバル)の冒険者達の敵であるのなら、おちおちとクエストなんて出来やしない。味方ではなくとも、敵に回したくはない。こちらが手を出しさえしなければ黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルは何もしないというのが本当なのか。ヒロはそれを確認したかった。


「まぁ、そういうこったな。詳しいことは、冒険者ギルドで聞くといいぜ。『黒衣の不可触()』はもう此処らじゃ有名だからな」


 エールを飲みかけたブリクスが杯を持ったまま、ヒロを一瞥した。自慢の髭にエールの白い泡がべっとりとついていた。


「ありがとう。なら、取り敢えずは大丈夫そうだな」


 ヒロはリムの頭を撫で、ソラリスにエールが並々と注がれた杯を向ける。ソラリスも応じて杯を差し出す。リムも身を乗り出してマイルドエールの杯を伸ばした。


「飲もうか」


 ヒロの言葉に三人の杯が再び高い音を立てた。こうしてヒロの冒険者デビューは恙なく終わった。

 

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