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5-037.この時期には多いんです

 

「どういう事だ?」

「この時期には多いんです。大学の新入生目当てに近づいてくる輩がね」

「あぁ、入学願書の代筆と入学後の代理人(マネージャー)をやっていると言っていたが……」

「それを口実に、実力もない者を入学させて、契約料を巻き上げるのですよ」

「詐欺か?」

「そうとはいいません。一応入学はさせますし、学費を払えない者には手頃なクエストも仲介しますからね。ただ、大学の定員は決まってないとはいえ、在籍できる人数には限界があります。普通は学生一人に一人以上の代理人(マネージャー)がつくことはないですから、学生数以上の代理人(マネージャー)は必要ありません。契約できる学生に限りがあるとなると、必ずあぶれる代理人が出てきます。すると彼らは、実力もない者でも無理矢理に入学させることで、契約を取ろうとするんです。けれども、そうして入学した学生は、結局、実力が足りませんから、直ぐに退学するか、卒業できないまま何年も居座ることになる。代理人(かれら)の立場からいえば、契約料だけ貰えれば、どうでもいいですからね。退学してもクエストの仲介で手数料を取ることもできますし、卒業できないままずっと大学に在籍してくれても、契約料が入ります。その為に、代理人は契約を打ち切られないように、契約した学生を一所懸命に持ち上げるのですよ。契約違反をしているわけではないですが、(たち)がいいとはいえない。勿論そうでない代理人(マネージャー)も沢山いますけどね」

「なるほどね」

「ヒロさん、それで魔法力を測定してどうだったんですか?」

「いや、特に何も。今は魔法力はないが潜在的な力があるから磨けば光るだろうって」


 ヒロの答えにロンボクは苦笑を漏らした。


「やはりね。そう言って、その気にさせて入学させるのですよ。まぁ、代理人達は、願書の書き方は上手いので、彼らに代筆して貰えば、大体の審査はパスします。契約するなら、それだけにしておいたほうが無難ですね」

「ありがとう。もう少し聞いていいかい、ロンボク」

「ええ、どうぞ」

「さっき俺の魔法力を測定したエルテとかいう女は、入学には願書の他に、紹介状が要るといっていた。紹介状って何だい?」

「それは、身分証明を兼ねた推薦書です。大学とてあまり変な人物を入学させる訳にはいきませんからね。親や親類縁者に貴族がいれば、彼らに紹介状を書いて貰うのが普通です。この場合は特に問題にはなりません。とはいえ、貴族の関係者だけしか入学できないとなると数が限られる。庶民の中に凄い才能の持ち主がいたとしても、紹介状がないだけで入学できないというのは勿体ない。

 そこで、誰かに身元引受人になって貰って、その人に紹介状を書いて貰うのですよ。もっとも身元引受人とて、学生に相応しくない人を紹介したら責任を問われますからね。それなりの人でないと引き受けませんけど」

「そうか」


 人間社会である以上、やはりコネはそれなりにものを言うのだ。入学試験は何某かの習熟度を測るためのものだが、それがない場合は何かで入学者の質を選別、または保証する仕組みが必要だ。その一つとして紹介状という形でコネがその力を発揮することは何ら不思議なことではない。試験に合格しなければ合格するように頑張ればいい。コネがなければつくればいい。問題はそれを可能とする環境があるかだ。どんなに努力したところで、チャンスが欠片もなければ、報われることはないのだ。


「もう一つ」


 ヒロの声にロンボクが無言で頷く。このロンボクという男、色々教えてくれて助かる。ソラリスは肩肘をついてはいたが、何も言わずにヒロを見ている。これでも彼女なりに気を使っているのかもしれない。


「代理人の中に質の悪いのがいることは分かった。なら質のいい代理人はどうやったら見つけられるんだ?」


 ロンボクはふふっと小さく笑った。ヒロの質問が可笑(おか)しかったのだろうか。少し険が取れたような顔をした。


「そんな方法が有ったら、私も知りたいですよ。でも、……そうですね。一つの目安として、その代理人が契約している学生が何人いるかというのはあるかもしれません。一人で何人も契約を結べるということはそれだけのマネージメント力があるということだし、それだけ多くの学生からの信頼を得ているということですからね」

「でも、契約している人数なんて聞いたって教えてくれないだろう? そもそも誰が代理人かも分からないのに」

「代理人は、此処のギルドで申し込みすれば紹介してくれますよ。ただ誰に当たるかは分かりません。(はず)れを引くこともある」


 少し肩を竦めて、ロンボクがおどけて見せた。


「でも、もっと簡単な方法がありますよ。さっき聞いた、額のサークレットです。あれは代理人の印でしてね。正式な代理人業をやる者には着用を義務づけられています」

「そういうことか」


 ヒロは、エルテの姿を思い浮かべた。エルテは確か白いサークレットをつけていた。


「サークレットはどんな種類のものでもよいのですが、色が決められてましてね。二十人以上契約している代理人は金、十人以上で銀、だったかと思います」

「白は?」


 リムが横から口を挟む。エルテのサークレットの色だ。リムも同じ事を考えたのだろう。いや、もしかしたら、ヒロの思考が念話で伝わってしまったのかもしれない。だが、それもヒロが聞きたかったことだ。これに限っては、リムがヒロの思考をキャッチしたかしなかったかなんてどうでもよい事だ。


「白は契約者ゼロです。まぁ、金や銀のサークレットを付けることが許された代理人の中にはわざと白のサークレットをつけてうんと安値で新規顧客と契約を結ぶ変わり者もいますけどね。大概は顔が割れているので、上手くはいきません。契約者ゼロは信用ゼロに等しいとはいいませんが、それほど信用が有るわけではないですからね。白サークレットを付けるのを恥だと思う代理人もいると聞いたことがあります。その女が白サークレットであるのなら、察するに、契約を結んでくれる学生が一人でも欲しいといったところでしょう」

「分かった。ありがとう。気をつけることにするよ」


 ヒロが喋り終わる前に、ソラリスが立ち上がる。


「なら、とっとと魔法力を測って、冒険者登録しておこうぜ。ヒロ。いいよな」

「ああ。そうしよう」


 リムには悪いが、ソラリスの顔も立てて置かなくちゃいけない。さっきエルテの水晶玉で測ったときは、魔法力無し、という結果だった。だから今度も同じだろう。問題ない。


 立ち上がったヒロ達四人はフロアの冒険者ギルド受付に向かった。

 

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