表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/200

22-189.再生

 

「終わったか……」


 ヒロは小悪鬼騎士(ゴブリンロード)の躯を見下ろして息をついた。ソラリスはミカキーノの横にいき、胡座をかいて座る。ミカキーノの顔を覗き込んで、ノビてるだけだ、心配ないと手を振った。ヒロは胸を撫で下ろした。だが、ロンボクは?


「ロンボク!」


 ヒロはロンボクの元に駆け寄り、抱き起こした。エルテが懐から小さな布切れを取り出して、口元の血を拭う。リムが治癒魔法の詠唱を始めた。


「大丈夫か。しっかりしろ!」

「はは、体内マナ(オド)を使っちゃいました……。光の大魔法を発動できたのはこの(ロキの)杖の御陰です……」


 ロンボクが力なく杖に視線を送る。


「喋るな。ロンボク、今、治癒魔法を……」

「ありがとう。でも……どうかな……。体内マナ(オド)が大分減ってしまいましたから……。でも……なんだか悪くない気分ですよ。やっと……ロッケンの気持ちが……分かりました……」

 

 そこまでいってロンボクはがくりと首を垂れた。


「ロンボク!」


 ヒロが脈を探る。弱いがまだ脈はあった。リムは既に治癒魔法を掛けていたが、泣きそうな顔をしている。


「リム!」

「私の精霊魔法ではこれが精一杯です。神官の治癒魔法でないと……」


 リムの答えにヒロがエルテに顔を向ける。エルテの神官魔法なら……。だがエルテは静かに首を振った。


「此処では、マナを集められません。治癒魔法はもう……」


 マナを集めるには外に出る必要がある。エルテの表情がそう物語っていた。だが、ロンボクを抱えて迷宮を出るのは相当時間が掛かる。いやホールを出て元の通路に戻るだけでも大変だ。ホール(ここ)への深い落とし穴を登らなければならない。


「なら、俺から体内マナ(オド)を抜いて、それで……」


 エルテには人の体内マナ(オド)を抜いて魔法発動に転用する神官の秘魔法、青い珠(ドゥーム)がある。それで治癒魔法を発動すればいい。さっきも死霊(アンデッド)を排除する魔法を発動したときもそうした。治癒魔法でも同じ事が出来る筈だ。


「駄目です」

「出来ません」


 ヒロの提案をリムとエルテが同時に否定した。


「これ以上、ヒロさんから体内マナ(オド)を抜いたら、ヒロさんの命に危険が及びます。自覚されているかどうか分かりませんけど、今でも既に危ないのですよ。先程も魔法発動に苦心していたのではないのですか?」


 エルテが強い口調でヒロを窘める。リムもその通りです、と賛意を示す。先程のヒロの様子を見ていたのだ。誤魔化すことは出来ない。


 本当にもうマナを集める方法はないのか。ヒロはホールを照らす青い炎を見つめた。


 ――!


 ヒロは、ソラリスに声を掛ける。


「ソラリス。あの燭台を斬る事が出来るか?」

「あ? 大丈夫だと思うけど、どうかしたかい?」


 ヒロはそれには答えず、リムに指示を出す。


「リム、申し訳ないが、マナの流れを見ててくれ、燭台の辺りだ」

「は、はい」


 リムは目を瞑って詠唱を始めた。


「ソラリス、やってくれ」


 ソラリスは、その場で片膝を立て、カラスマルを脇に構える。セイッという掛け声と共に、居合い抜きの要領で横薙ぎに薙いだ。


 カラスマルの切っ先が音速を超え、ドンッとソニックブームを起こした。カラスマルから衝撃波が生まれ、青い炎が灯る極太の燭台に真横の亀裂を入れる。二呼吸おいて、燭台はグラリと傾き、上半分が切り落とされた。床に転がった燭台の青い炎も間もなく消えた。


「ヒロさん! 燭台からマナが噴き出しています」


 リムが目を閉じたまま驚きの声を上げる。


「エルテ!」


 エルテはヒロの意図を瞬時に察した。リムの声を合図に青い珠(ドゥーム)の詠唱を初める。エルテは、生み出した青い珠をゆっくりと、切り取られた燭台に誘導し、その真上で止めた。


 青い珠は燭台からマナを吸収しどんどん大きくなる。人が一人すっぽりと入るくらいに大きくなったところで、青い珠を手元に引き寄せ解除する。エルテは、両手を天に掲げ、間髪入れず、回復魔法の詠唱を開始する。


宙々(あまあま)駆ける神の御使い、リーとセレスの名の下に命ず。大いなる命の息吹、再生の光を与え賜え。復活の力、臨まん……」


エルテは両手を前に出して、治癒魔法を発動させた。


再生(アライド)!」


 エルテの両手から白い光が生まれ、二つに分裂した。一つはロンボクに、もう一つはミカキーノに向かい、二人を照らす。


「ううっ」


 ロンボクが呻き声を上げる。青白かった顔に赤みが指す。ヒロが再び脈を取った。先程とは違って力強い血の流れを感じた。マナの流れを見る瞑想を解いたリムはロンボクの顔を覗きこみ、もう大丈夫ですと笑顔を見せた。


「ゴフッ」


 ミカキーノが目を覚ます。目を開けると、ソラリスの静止も聞かず上半身を起こした。しばらくエルテの治癒の光を浴びていたが、やがて、エルテに向かって、弱い声で、しかし、はっきりと言った。


「お前、やっぱり黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルだったんだな」


 エルテの顔がひきつった。何かを言おうとしたエルテをミカキーノが手を上げて制した。


「隠さなくてもいい。最初にお前の風魔法を見たとき、もしかしたらと思ったが、変な青い珠と今の治癒魔法で分かった。あの時と同じだ。襲ったのは俺達なのに、治癒魔法を掛けていくとは、お人好しにも程があらぁ。……だが、あれはもう終わった事だ。もう何とも思っちゃいねぇよ。やられた俺達が弱かった、それだけだ」


 ミカキーノは胡座の姿勢から片膝を立て、その膝に右の膝を乗せて淡々と語った。その顔がスッキリとして見えたのは、(わだかま)りなど持っていない事をエルテに伝えたからなのか、それとも、小悪鬼騎士(ゴブリンロード)を斃したからなのか。


 ――どうでもいいことだ。


 ミカキーノは念願の小悪鬼騎士(ゴブリンロード)の討伐を果たしたのだ。それで十分だ。ミカキーノの表情がそう語っていた。 


 エルテは戸惑ったような笑顔を見せていた。エルテは黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルとして、スティール・メイデンと闘い、ミカキーノ達に重傷を負わせた本人だ。即席とはいえ、その相手とパーティを組んで戦ったのだ。さぞかし胸中は複雑だっただろう。それが少しでも解消されるのなら……。


――焦らなくてもいい。


 ミカキーノの言葉で、エルテの気持が完全に吹っ切れるとは思わない。だが何もなく、このままパーティからミカキーノが去るよりはずっといい。ありがとう。ヒロはミカキーノに感謝した。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ