19-169.先に俺がやる
――ビュン。
小悪鬼達が放った矢は、唸りを上げてヒロのバリアと接触する。
――!
小悪鬼が放った矢は、ヒロ達を貫く事はなかった。だがそれは、ヒロの期待していた姿ではなかった。
矢は、宙に浮いた形で止まっていた。否、それは、バリアに突き刺さっていた。
あの時と同じようにバリアが矢を弾き返してくれることを期待していたヒロは面食らった。フォーの迷宮がマナを吸い取っているせいなのか、それとも目の前の小悪鬼達の矢が特別なのか。
ウオバルの色無し通りで、訳の分からない連中に絡まれた時のことが、ヒロの頭を掠める。あの時はパトロールしていた大学の教官と新入生に助けられたが、確か鏃に硬化魔法が掛けられているといったっけ。これも同じなのだろうか。だがそんな詮索をしている余裕はない。小悪鬼達は、ギィギィと鳴いた後、次の矢を番えた。二度目は破られるかもしれない。
「ヒロ、まだ遠いよ」
ソラリスが小悪鬼達を睨みつけたまま声を掛けた。剣で攻撃する間合いとしては遠すぎるということだ。
「先に俺がやる。撃ち漏らしたのを頼めるか?」
ヒロは、発動している炎粒を小悪鬼達に投げつけようと考えていた。熟練の魔法使いなら、複数を同時攻撃する魔法を使うところだろうが、今のヒロにそのスキルはない。
ヒロは背中越しに、エルテとリムの様子を伺った。小さくエルテの魔法詠唱が聞こえる。その内容は分からなかったが、少ない迷宮内のマナをかき集め、何かの魔法を発動しようとしていることは分かった。自分のバリアが完全に小悪鬼の矢を防いではくれないかもしれない状況だ。エルテの絶対防御の何割かでも発動できればとヒロは祈った。
「ソラリス。バリアを解除すると同時に炎粒をぶつける。その後は頼む」
ソラリスはヒロに返事をしない代わりに、右足をほんの少し踏み出した。それが了解の合図だと受け取ったヒロは反撃開始だと告げた。
――バン!
猛烈な炸裂音が迷宮を振るわせる。ヒロはバリアを解除したと同時に、発動していた炎粒を投げつけた。炎の玉は小悪鬼数匹を丸々飲み込む程の大きさがあった。とても粒と呼べるものではない。それは、中級魔法、炎弾並のサイズと威力を持っていたのだが、無論ヒロはそうとは知らない。
ヒロの巨大炎粒は、瞬時に正面の三匹を焼き、そのまま後ろに突き抜けた。両端の二匹は危うく何を逃れたが、次の瞬間には、ソラリスの剣撃で両断された。その場から逃げる事が出来たのは、後ろに下がっていた最後の一匹だけだった。
「ちっ。逃したか」
ソラリスが悔しそうにいう。
「いや、放っておこう」
ヒロはそういって、くるりと振り返り、エルテとリムの無事を確認する。エルテは詠唱を止めてほっとした表情を見せていた。リムはエルテの腰の辺りにしがみついて身を固くしていた。だがその顔は恐怖に怯えるというよりは、火の粉を避ける為に陰に隠れるといった風だ。リムも難を逃れたと分かると、はぁと大きく息をつく。
だが、難はそれで終わらなかった。




