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17-152.預けておいたアレを出してくれ

 

 ヒロが代金を支払うのを見届けたソラリスが真紅の瞳をカダッタに向ける。


「カダッタ。あたいらは明日からクエストに行くんだ。四人で十日分の食料が欲しい。水もだ。用意できるかい?」

「ふむ。水はマルマで良ければ、用立て出来ますな」

「それでいい。あとは、アリアドネの種が一袋と、預けておいたカラスマル(アレ)を出してくれ」

「ほう。迷宮(ダンジョン)探索ですな。カラスマル(アレ)を使う程のものなのですかな」

「万が一さ」


 カダッタは、お待ち下されと言って、部屋の奥に消える。


「ソラリス、食料は分かるが、他のは何だ?」

「直ぐに分かるさ」


 ソラリスが笑顔を見せる。やがてカダッタが赤い皮袋と長剣を携えて戻ってきた。先程ヒロの防具を調整したドワーフの親方も出てきた。カダッタは、長剣を持ったまま、皮袋だけをテーブルに置いた。


「アリアドネは二百粒程ありますな。十日の行程なら十分でしょう。あとはカラスマル。手入れはしてありますが、確認してくだされ」


 カダッタは手にした長剣をソラリスに渡してから、テーブルの椅子に腰掛ける。


「あんがとよ」


 ソラリスは剣を受け取ると、ソラリスの髪と同じ深紅の鞘から剣を抜く。切っ先を真上に向けて掲げ、刀身を確認する。


 長剣は緩やかな反りがあり、剣というよりは刀に近い。刃渡りは一メートル程あった。白銀に輝く刀身はミスリル銀のようにも見える。だが良く見ると、切っ先から刀身の中程までは両刃で、そこから柄までは片刃になっている。刃のついていない背の部分との間に一本の溝が彫ってあった。刀身の上半分が西洋の剣で、下半分が日本の刀とでもいえばいいだろうか。不思議な剣だ。


 柄には特に何の装飾もなかったが、やや幅のある革紐が柄全体にぐるぐると巻かれている。滑り止めか何かだろうか。実用性を重視した拵えであることは素人のヒロにも分かった。


「うん。問題ない」


 長剣を鞘に納めようとしたソラリスに、ギム親方が貸せとばかりに手を伸ばす。親方も興味があるようですな、とカダッタが片目を瞑ってみせた。


 ソラリスの(カラスマル)を受け取ったギムは、刀身に手を添えると、柄を持ったもう一方の手を鼻先につけ、まるでライフル銃を構えるかのようなポーズで刃を凝視した。一、二度刀身をひっくり返し入念に確認する。ギムは小さく何度も頷いてから、ソラリスに剣を返した。そして、座ったままのカダッタに近寄ると、小声で何か囁いた。


「ギム親方も、見事な仕事だといってますな。少々年季が入っているが、撓みも狂いも全くない。逸品だそうですな」

「カダッタの手入れがいいからさ」

「いやいや、あの……」

 

 カダッタが何かを言い掛けて止めた。ソラリスが目を閉じて小さく首を振っている。何か(いわ)くでもあるのだろうか。快活なソラリスには似合わない態度のようにヒロには見えた。


「兎も角、食料とマルマは明日朝一番に用意いたします。それでよろしいですかな」

「ヒロ、出発は明日でよかったよな?」


 王国金貨を一枚カダッタに支払った後、ソラリスがヒロに顔を向ける。パーティのリーダーはヒロだ。最終決定権はヒロにある。ソラリスもその辺は弁えていた。口が悪くても無頼の徒ではないのだ。


「うん。そのマルマってのは普通の水のことでいいのかな」


 ヒロが念のため確認を取る。この世界の食糧事情は分からないが、生水が何日も保つとは思えなかったからだ。アラニス酒場で出会った店主のアルバも水は腐るからと葡萄酒を持たせたくらいだ。もっとも、その酒は胡椒粒がたっぷり入った刺激的な飲み物だったが。


「水には違いありませんが、心配要りませんぞ。マルマは『腐らない水』と呼ばれてましてな。そのままでも二十日は十分保ちますな」

「そんな凄い水があるのか」

「ウオバルの西の国境に接するヨロー山脈から出る湧き水です。少々値は張りますが、何日も迷宮探索する冒険者には必需品ですな」

「ヒロ、胡椒も蜂蜜も入ってねぇから安心しな」

 

 ソラリスが笑みを浮かべながら、ヒロの背中をバンと叩く。派手な音がしたが全然痛くない。この時ヒロはソラリスに相当な力で叩かれていたのだが、その衝撃の殆どは、ミスリルの鎖帷子で吸収、分散され(からだ)に伝えられることはなかった。それが、ギム親方の匠の技によるものだとヒロが知るのは、もう少し後になってからの事だ。


「そうか。それは助かるよ」


 辛くも甘くもない普通の水が飲めるのは助かる。このときのヒロの言葉は本心から出たものだった。


「カダッタ、明日朝また来るからよ。さっきのヤツ頼むぜ」

「お任せくだされ、ソラリス嬢ちゃん」

「その言い方は止めろと言ってるだろ。カダッタ」


 カダッタを(なじ)ったソラリスだが笑顔を浮かべていた。カダッタは、店を後にしようとしたヒロを呼び止め、嬢ちゃんは貴方とパーティが組めて嬉しいのですよ、とそっと耳打ちした。


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