13-102.チートじゃないか
そんなヒロの窮地を知ってか知らずか、黒衣の不可触はヒロのいる藪の中に足を踏み入れた。黒衣の不可触の動きに合わせて、足下から半径一メートル程の範囲にある藪草が、見えない壁に当り、外側に押しのけられていく。
(やはりバリアを張っていたか……)
何の回避行動も取らず、炎粒を弾き飛ばしたことから、なんらかのバリアを張っているとは推測していたが、意外とその範囲は広くなかった。だが、押しのけられる草の様子からみて、全身をぐるりと覆うタイプであることは疑いなかった。死角はない。
(糞ッ……)
ヒロはまた舌打ちをした。黒衣の不可触は、防御バリアを解除するような素振りを一度も見せていない。防御バリアを張ったまま、自在に攻撃魔法を繰り出せるとしたら、とんでもない相手だ。
(チートじゃないか)
思わず呟く。
魔法バリアの質が違うのだろうか。それとも風魔法ならバリアを張ったまま攻撃できるのか。いずれにしても、アドバンテージは黒衣の不可触にある。
ヒロと黒衣の不可触との距離は数十歩程にまで迫っていた。ヒロは周囲の林を見渡して落胆した。木の間隔が互いに一メートルを切るくらい密集していたら、黒衣の不可触は自分のバリアが邪魔になって、それ以上入ってこれなかったかもしれない。それでバリアを解除してくれたら、こっちにも攻撃できるチャンスが巡ってくる。
ヒロは首を振った。今、自分がいる林の木はそこまで密集していない。黒衣の不可触は易々と入ってこれる。
詰まるところ、スティール・メイデンでも歯が立たなかった黒衣の不可触の鉄壁を打ち破ることができなければ勝ち目はない。その事実は揺らがない。
それに今からでは逃げ出す事もできない。それくらい接近されてしまっている。
(ここまでか……)
ヒロは観念しかけた。
――!
ヒロの口元に笑みが浮かんだ。黒衣の不可触に正対して立ち上がり、バリアを解除する。
黒衣の不可触はゆっくりと近づいてくる。黒衣の不可触のバリアで押しのけられ、一旦倒れた藪草は、バリアの内側で再び立ち上がる。バリアの厚みはそれ程でもなさそうだ。黒衣の不可触のブーツが踝あたりまである藪をかき分け、茶色の藪草がカサリと乾いた音を立てる。
ヒロは左肩を前に出す形で半身の姿勢を取り、左拳を下顎の辺りに上げると、右腕を伸ばして肘を鳩尾にあてた。一見、拳法家か空手家の構えの様にも見える。だが、右の拳は腰の位置ではなくもっと前だ。しかも握り込んでおらずピンと指を伸ばして地面を指している。貫手をするにしても肘を前に出した姿勢からでは威力のある攻撃は出来ない。奇妙な構えだ。




