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第2話 剣士は天使に恋をした

「うわっ?!!ちょっ?!!危っ」

「ッチっ!」



ギィンッッと金属と金属が激しくぶつかり合う音と、焦った青年の声が辺りに響く。



「え、ちょっと?!何?!オレ?!」


ガンッ、と次々に見舞われるハルトの攻撃を全て自身の持つ大きな剣で弾け飛ばす青年の顔には『困惑』の二文字が大きく浮かんでいて、攻撃をしかけるハルトに必死に声をかけるものの、ブツブツと何かを呟いているハルトの耳には一切届いていない。



それにしても。



「あのお兄さん、強いなぁ」



決してハルトが無敵、なんて事はこれっぽっちも思ってはいないものの、今のところ、喧嘩でハルトに勝った人間を私は見たことが無い、と思う。


そんなハルトの攻撃を余裕の表情で交わし続けている見知らぬ青年はきっと旅慣れもしているだろう。

そして何よりも。





「あ、ねぇ?!君?!実はオレの生き別れた兄弟とか?」

「あれ?違う?じゃあ、じゃあ、この前食い逃げしちゃった店から雇われた殺し屋?」

「あれ、それも違うのかぁ!じゃあ!っとおっと!!」




ガンッ、という音とともに振り落とされたのは、青年の剣、ではなく、ハルトの剣。



剣を手元から落とされたハルトは最高に不機嫌な表情を浮かべていて、相対する青年は終始困った表情を浮かべている。


状況としては、ハルトが明らかに分が悪いのだけれど。



けれど、やっぱり。




「うん、ハルトより強い人、見つけた」




そう呟いて、私は次の攻撃を測り動きを止めた二人へと駆け出して行った。











「すみませんっ」



タタタタッ、と駆け寄ってくる足音と、聞こえてきた声に視線だけを動かして、オレは思わず固まった。





柔らかに揺れる淡いピンクの髪、動かす度にちらりと見える細く白い足。

走っているからか、ほんの少し蒸気したピンクの頬と、柔らかそうな唇。

そして、その唇から聞こえてくるのは、可愛らしい声。



そして何よりも衝撃的なのは、




「あのっ、すみませんっ!」


「ブフゥッ!」







ドストライク過ぎる顔だった。









「おい、フィン、フィンの手が汚れる。さっさと離れて」

「うっさい変態。そう言いながら人の髪触るな」



大量の鼻血を放出し、気絶した青年に気休め程度だろうけれど回復魔法をかける。


パァァッ、と薄い緑色の光が青年の身体を包み、消える。





「………もそも、アンタが馬鹿みたいに行動するから」

「俺はフィンを悪から守っただけだ!」

「意味分かんないわよ!」


「………フィ…ン?」



何やら騒がしい…………とボンヤリしていた意識の中を浮上すれば、視界の端に映るのは、淡いピンク色の髪。

(あぁ、さっきの彼女と同じ色だな)とボンヤリと考え、無意識に聞こえた言葉を呟き、見えているピンク色に手を伸ばせば、スッ、とピンク色が動いた。




「あ、お兄さん、気付きました?」



ニッコリと笑った顔を向けられて、オレの思考回路は思わず固まる。



「お兄さん?お兄さーん?おーい」



ピラピラ、と目の前で振られる手は、オレよりも遥かに小さく細い。



そんなことを一人考えていれば、「もしもし?」と言う声とともに、目の前に現れたのは。



「お兄さん、起きてます?」



ズイ、と近づけてきたのは先ほどのドストライクな彼女の、ドストライクな顔で。



「天使か!」

「ひゃぁ?!!」


「フィン!!」




思わずそのまま力強く抱きしめれば、思った以上に抱き心地がイイ上に、良い匂いすらしてくる。


悲鳴にも近い声と同時に聞こえてきたのは、もう一人の野郎の声。


「てめぇ!今すぐにフィンを離しやがれ!汚れる!」


ブンッ、と怒号とともに降ってきた攻撃から彼女を守りつつも躱せば、「チッ」と心底嫌そうな舌打ちが相手から聞こえる。


「いや、目の前に天使が居たから」


シレッ、と言葉を返したオレに対して「フィンが天使?!生まれつきだ!」と意味不明な言葉をさらに返して、彼はまた攻撃体制へと移る。



「そうか!貴女は天使なのか!」

「いや、違うから!どう見ても人間でしょ!ってゆーか離してよ!」


腕の中の彼女へと笑いかければ、彼女は頬を紅くしながら、オレの言葉にツッコミを入れる。



「ははっ!紅くなった貴女も可愛らしいな!」

「ばっ?!意味分かんない!馬鹿じゃないの?!っうわっ?!何してんのよ!ハルト!!」

「おっと…!」


バッ、と飛んできた蹴りを交わしつつ、攻撃をしかける彼女にハルトと呼ばれた人物と距離をとる。


「てめぇ、マジでいい加減にしろよ、そこの変態」

「え、何、変態てオレのこと?」

「いや、一番の変態はハルトだからね?!」


フゥーッ!と荒くなった息を整えながら、彼はオレのことを絶賛睨んでいる。



「天使、危ないから、君はここにいるんだ!いいね!」



そう言って、自身の腕の中から名残惜しいけれども、彼女を安全なところに立たせて、彼女からも距離をとる。

目の前に対峙するのは、ハルトと呼ばれた彼のみ。



次の攻撃が来たとしても彼女の身体には傷一つつけまい…!と心の中で静かに決意をして、構えた身体に少しだけ力を込めた。



だが。






「…………ってゆーか、アンタ達……!」


「え?何だい?天使?」

 


少し離れた場所に居た彼女が、小刻みに震え始め、それと同時に彼女の身体から小さな電気が走る。



「あ、ヤベっ」



対峙していた彼が、そう小さく呟き、彼女からパチッ、と目に見える電気が浮き出た瞬間。






「いい加減に、しろーーーーっ!!!!」





「ぎゃぁぁぁぁぁぁー!」




ドォォォォンッ!!!という大きな音とともにオレ達に放たれた、オレ達の倍の大きさをした火の玉によって、この戦いは幕をおろした。















「え、あぁえっと、オレを仲間に?」

「そう。一緒に来て貰えませんか?」



ハルトと一緒に吹き飛ばした青年にも、正座をさせ、一通りの説教をしたあとに、今回の話の本題へと移る。



「コイツをか?!!いや!待て!ダメだろ!!」

「ハルトうるさい黙って」

「……………」

「ざまぁみろ」

「………チッ」




バッ!と立ち上がりかけたハルトに冷ややかな視線を送りながら言えば、ハルトは明らかに不貞腐れた顔をし、その顔を見た青年がニヤニヤと笑いながらハルトの横顔をちらりと見る。



「本題に戻るけど、さっきも言った通り、私達、魔王を倒さなきゃいけなくなったんですよ。それで、魔王を倒すにはそれなりにパーティメンバーを揃えなくちゃいけない。そんな中で、アナタに此処で出会った。ハルトも勿論強いけれど、アナタは、ハルトよりも確実に強い。それに、アナタのお仕事、剣士でしょう?」



私の言葉に、青年は関心したような表情を浮かべ面白そうに口元を緩めた。

そんな彼とは反対に、ハルトはさらに不機嫌そうに、眉間の皺を深くしていく。


「………俺より強いなんて、フィンの判断だろ。そんなの、何見て」

「分かるわよ。どれだけハルトと一緒に過ごしてると思ってんのよ。それに、実際、さっきの喧嘩、彼は楽しんでたじゃない。そうですよね?お兄さん」



ね?と首を傾げながら言えば、青年は楽しそうに笑いながら、「そうだねぇ」と正座を崩しながら頷く。



「でも、それは君も同じだろう?ハルトくん。いや、ハルトさん、かな?」



そう言って、青年が隣に座るハルトを見れば、ハルトの表情はコレでもか、と言わんばかりに不機嫌面をしている。

そんなハルトの様子すら、面白いと捉えたのか、青年は、ハルトの様子を見て、またさらに笑い声をあげる。





「イイよ、パーティメンバー、オレも入るよ」

「え!本当!」

「んな?!入らなくていい!お前なんていらん!」



驚いた私とハルトを見て、青年は満面の笑顔を浮かべながら大きく頷く。



「照れるな!照れるな!嬉しいんだろー!本当はー!」

「おまっ!意味分かんねぇ誤解してんじゃねぇ!つーか離れろ!」



ガバッ、とハルトの肩に腕をまわしながら言う青年に、ハルトは本気で拒否する態度を出しているのだが、青年はそこに一向に気づく気配が無い。


ぎゅうぎゅうと青年はハルトに抱きつき、ハルトも振りほどこうとはしているものの、どうやら青年の力が強くて振りほどこうにも振りほどけないらしい。

まぁ、そりゃぁ、ハルトの腕は青年の腕の太さの半分以下だしねぇ、等と二人の様子を観察しながら、青年に怪しい様子が無いかと見つめていれば、ふと、「そういえば!」と青年がハルトをイジる手を止めた。



「なぁ!ところでハルトと天使!」

「天使、じゃなくて、私の名前はフィンよ。職業は魔法使い。そっちの変態は一応、勇者」

「おぉ!そうなのか!オレはジャンだ!宜しく!職業は知っての通り剣士だ!」

「………俺は宜しくしない。フィンにも近づくな」



キッ、とジャンを睨みつけながら拘束されていた腕を振り払い私の目の前に立ちながら言うハルトの様子に、青年、もといジャンは、キョトンとした表情を浮かべるものの、面白そうに笑顔を浮かべる。



「何だ!ハルト!お前フィンのこと好きなのか!」



ニカッと笑いながら、真っ直ぐにハルトを見つめるジャンにハルトの口もとが歪に歪む。



「好き?そんな安易なものじゃないさ」



チラリ、と背後の私を振り返りながら口を開いたハルトの瞳は、普段見るものと、ほんの少しだけ違う。




「俺は、フィンを形作る全てのものを愛している」



そう言った瞳は、友愛の気持ちとともに、壊れた何かが、浮かんでいた。







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