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メニュー3 営業日は確認しましょう



 五月に入り満開だった桜の花も葉桜に代わり始めた頃。


 高校生活にも慣れ始めた実来は日差しも穏やかな昼休みを友達である鈴鹿さんと北見さんと共に過ごしていた。



「ねぇねぇ聞いた? 最近この辺で変質者が出てるんだって」


「あぁ!! 知ってる知ってる! 『あなたですよね?』って声掛けてくるやつでしょ!! あれ、怖いよねぇー」



 話題は先月から騒がれている変質者の話だった。

 

 何でも十代半~後半にかけての女子学生が背後から年配の女性に声を掛けられるというもの。何時の間にか後ろにいて急に『あなたですよね?』と声を掛けられるのだ。


 声を掛けられたら方は当然驚いて振り返る。そこにいるのはどんよりとした雰囲気でくたびれたスーツを着ている年配の女性。


 振り返った方は怪しすぎるその風情に固まってしまうのだが、その間に年配の女性は『……違う。次に行かなきゃ………』と呟いて何事もなかった様にその場を立ち去っていく。


 どこかホラーじみた変質者の出現に学校関係者や警察が対応に追われている。


 特に対象者となる女子学生の子どもがいる保護者は大変だ。子どもが心配の余り、学校まで送り迎えする人。中には遅くなってしまうからと部活動を禁止されている子までいるそうだ。


 少々過保護な気がしないでもないが、昨今では過激で突発的な事をする人が増えているのも事実。用心しておくに越したことはないのだろう。



 変質者が現れた時期がちょうど新学期が始まった期間であることも理由の一つであるだろうが。



「実来はどう思う?」



 聞き手に回っていた実来は友達に話を振られたことにより食べていたお弁当を一旦置いた。



「ん~。いままで聞いた話だけじゃ何とも言えないかなぁ? 別に話し掛けられただけで危害は加えられてないみたいだし」


「んもう! 実来は危機感が薄いぞ!」


「……そう言われても」


「でも……。実来の場合だと逆に変質者を撃退しそうだよねぇ」


「いやいや鈴鹿! 実来だって女の子!! いくら剣道できて合気道や柔道が出来る超武道派女子高生でも荒事は無いに越したことはないからね!?」



 ……変質者の女性が余程の有段者でもない限り負けそうにない肩書きじゃね!? 



 クラス中が同じことを思った。



「北見さんが心配してくれるのは嬉しいけど、きっと、私は大丈夫だと思うよ?」



「危機感が足らなーーーーい!!!」



 頭を抱えてオーバーリアクションをとる北見に実来と鈴鹿は顔を見合わせて笑った。


 小中学校通して武道派の実来のことをここまで心配してくれる人はいなかった。それこそ家族以外は。小学低学年の時点で大人顔負けの技術を仕込まれていた実来は、この時点では噂になっている変質者の女性の話を気にしていなかった。



 そして実来はこの時、この話を真面目に聞かなかったことを後悔することになる───。






●○●○●○●○






 部活動を終えた実来は少しウキウキしながら道を歩いていた。今月分のお小遣いを手に入れた実来は意気揚々とこの間見つけた喫茶店に向かって歩いているのだ。鈴鹿と北見は実来とは部活も帰り道も違うので、ホームルームが終わり次第教室で別れた。


 あの店を見つけてからは実来は精力的に父の仕事や本家の仕事を手伝った。



 目的は三段ティースタンド。



 最低賃金で働くよりも安いのでは? と思いながらも実来は頑張った。それはもう手伝ってもらっていた父親や本家の皆様方がビックリするぐらい頑張った。目的の為にお金が必要なのだと答えると弟の実留みのるに『……まさか姉ちゃん。女にはともかく、あんまりにも男にモテないからメイクの勉強でもする気になった? 化粧品って、高いもんな』とふざけた回答をくれやがったので違うわ!! と言いながらその脇腹に回し蹴りを入れてやった。ふん!!


 男性にモテた試しは確かに無いけど、女性にモテた覚えも無い。そう言ってやったら実留はやれやれといった風情で実来を見て、じゃあ何で金が必要なのかと聞かれたので最近見つけた喫茶店の三段ティースタンドが食べたいし、他のメニューも制覇しだいからお金が欲しいのだと言ったら可哀想なものを見る目で見られた。何故だ?



『色気より食い気か………。にしてもねぇ?』



 実来の胸元を哀しげに見ている実留に、実来は黙って木刀を持った。それに気付いた実留が必死に謝ってくる。



『悪かったって姉ちゃん! それに大丈夫だって! 世の中にはチッパイのが好きな奴もいるから!!』



 良し、殺す。



 その日実来は実留を家中追いかけ回した。



(……嫌なことを思い出した)



 バカのことを思い出した実来は一瞬イラッとしたが、実来はふっと薄い微笑を浮かべた。



 いけない、いけない。今、私が心から関心を向けるべきは三段ティースタンド。思い出すのだ。あの日のミルクティーやスコーンの味を。あの至福の時を──。



 そして店の前までやってきた実来は───。



「………………………」



 店のドアに掛けられていたcloseの板にうなだれるのだった…………。










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