メニュー2 美味しいミルクティー
明けましておめでとうございます。
本年も宜しくお願いいたします。
実来はゆっくりとお店の中に足を踏み入れる。店の中は趣味の良い英国式の優雅なテーブルと椅子。優しい木目調のカウンターと美しく揃えられた白磁のティーセット。
日の光が店全体に広がる様はきらきらと輝いているかのようだった。
カウンターの奥でグラスを拭いている店員は、洗礼された執事のような佇まいで柔らかい微笑を浮かべいる。
「どうぞ、お好きなテーブルにお座りくださいませ」
綺麗な所在でお辞儀をする店員に促されて実来は店を見渡せるであろうテーブルに腰掛けた。
テーブルの上にあったメニュー表を手に取った実来は一通りメニューに目を通す。
この店は中々本格的な英国式ティータイムを楽しめるようになっているようだ。
三段のティースタンドにホットウォータージャグが用意されている。
ホットウォータージャグとはポットの中で濃くなってしまった紅茶や、薄目が好みの人のために使われるさし湯。ポットに直接淹れるのではなく、自身が使っているティーカップに注いで飲みのがマナーだ。
三段ティースタンドには一段目にサンドイッチ、二段目にスコーン三段目にペストリー。
他のにも甘さ控え目のザッハトルテにベリーたっぷりのタルト。子どもにも嬉しい分厚いホットケーキ。軽食のサンドイッチ。飲み物は紅茶や珈琲、オレンジジュースに抹茶ラテなどなど。中々に種類が豊富である。
「………ふむ」
ここはせっかくなので三段ティースタンドを頼んでみようかな? でも今日はお金をそんなに持ってないからお茶だけで止めておこうかな?
三段ティースタンドの値段は………。
三段ティースタンド 二千五百円(税抜き)
「うん」
お茶だけにしよう。これから高校生活でお金が掛かるのに無駄遣いしちゃ駄目だよね。
今は四月の下旬。
お小遣いは家業と父親の手伝いで働かないと貰えないので貯金することを考えると………。
「すみません。ミルクティーをください」
ミルクティー 三百円(税抜き)
実来はカウンターにいる店員に手を上げてに注文する。
店員はにっこりと微笑み、畏まりました。というと冷蔵庫からミルクを取り出し温め始める。
店員はその間に別に温めてあったお湯をカップとティーポットに注ぎ、温める。
十分にカップとポット温まったらお湯を捨て、ポットの中に茶葉を入れて改めてお湯を注ぎ込んだ。
空気を含ませるように入れたお湯はポットの中で茶葉をくるくると舞い踊りさせて三分間蒸らす。
店員は温めたミルクを火から取り上げてカップの中に注ぎ、その後から旨味のたっぷり出た紅茶を淹れた。
「お待たせ致しました。どうぞミルクティーになります」
「ありがとうございます。………え? これって………」
すでにカップに淹れられたら紅茶とティーポットにミルク。そして目の前にはスコーンとイチゴジャムとクロテッドクリームが添えられていた。
「私、スコーンは頼んで居ないのですが……」
「当店からのサービスになります。この時間帯の店内はお客様がいらっしゃいませんし。初めて訪れてくださった方にはこちらをサービスすることにしているのですよ」
それでは失礼致します。
そう言って店員はカウンターへと戻って行った。実来はありがとうございます、と言ってミルクティーに手を伸ばした。そしてゆっくりと口づける。
「あっ……。美味しい……」
口の中にアールグレイの香りが広がる。ミルクの味がアールグレイの苦味を和らげて風味を生かしている。
実来は更にスコーンに手を伸ばす。スコーンを一口大に千切りクロテッドクリームを塗って口に入れる。
「!!」
口に入れた瞬間にバターの風味がクロテッドクリームの塩気と混じり合い舌に優しく包み込む。
スコーンもとっても美味しい。
店の雰囲気も良く紅茶も付け合わせのスコーンもとっても美味しい。この店は本当に当たりだ。
実来は微笑みながら紅茶とスコーンをじっくりと味わった。
「ふぅ…」
ゆっくりと味わった実来は最後の一口の紅茶を飲んで余韻を楽しんでいたが、もうそろそろ帰らないと家族が心配してしまう。姉が居なくなって以来、両親は帰宅時間にとても五月蠅い。
「すみません。お勘定お願いします」
「はい、ありがとうございます。三百二十四円になります。………ちょうど頂きました。またのお越しをお待ちしております」
「とても美味しかったです。ご馳走さまでした」
実来は上機嫌で店を出て行った。
素敵な店も見つけたし、これからの高校生活は楽しくなりそうだとそんな予感を抱いて実来は家に帰って行くのであった。
●○●○●○●○
宮部ヨシトは実来の去ったテーブルの上を片付けていた。すると宮部はクスクスと笑い始める。
「いやはや…。彼女は貴女とはまったく似ていませんねぇ……」
そんな謎の言葉を呟きながら宮部はティーポットやカップなどをオボンの上に乗せてカウンターに運んでいたら、カランカランと店のドアが開いた。
「いらっしゃいませ……。おや? 貴方は………」
「どうも宮部さん」
「倉木さん。どうなさいましたか?」
倉木は申し訳なさそうに宮部に笑いかけた。
「申し訳ありません宮部さん。実は……また宮部さんのお力をお借りしたくて参上しました」
「おやおや…。それはまた───
────困りましたねぇ……」
まったく困っているようにも見えない様子で優しげに微笑んでいるのだった──。
紅茶をいただく際は、カップやソーサーのデザインが映えるよう、ソーサーごと胸のあたりまで左手で持ち上げていただくようにして。その際、カップの取っ手を握るように持つのではなく、そろえた指の先でつまむように持つと、美しく見えます。