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特別メニュー 聖夜の奇跡(前編)



 宮部ヨシトから助っ人を頼まれた実来はクリスマスパーティーの片付けを終わらせて喫茶店 彩から出てきた。


 イヴの夜からクリスマスの当日の深夜遅くまで続いたパーティーは宮部と実来の奮闘の元、無事に成功させることが出来た。


 例年通りならば、実来は家族と本家のみんなと共にクリスマスを過ごしていたのだが、本家の祖父と実父の下に緊急の仕事が入ってしまったのだ。内容までは分からないが二人の緊迫した雰囲気に何も聞けずに終わった。


 実来の弟は家のクリスマスパーティーが潰れたことに腹を立てると思いきや、偶には友達とクリスマスを過ごしたいと意気揚々と出掛けて行った。


 そして思いもかけず暇になってしまった実来は喫茶店で二日に渡りクリスマスパーティーをするという宮部に乞われて短期バイトに勤しむこととなった。最初は実来も友達とクリスマスを過ごそうとしていたのだが、あまりにも必死な宮部の姿に折れ、偶にはいいか。と助っ人を承諾した。バイト代も出るし。


 時刻は深夜十時を回ろうとしている。


 送ろうという宮部の誘いを断り、寒空の下。実来はのんびりと帰路についた。


 しばらく歩いていると子どもの頃によく姉と遊んだ公園近くまでやってきた。家には遅くなると伝えてあるので少し寄ってみようと実来は公園に足を踏み入れた。



「久しぶりに来たけど、懐かしいなー」



 ところどころ変わった部分もあるが、それでも当時の面影を残していることに、実来は知らず知らずの内に安堵のため息をついた。



 ……ここは、もう数少ない姉との思い出の場所。



 ベンチに腰掛け、グルリと公園を見渡して若干寂しげに微笑む。ハァアと白くなる息を見つめながら少しボーとしていた実来は背後から近づいてくる人影に気づかなかった。



 気が付いたのは、実来の顔の横からスゥと差し出されたホットココアの缶と、



「こんな所でボケッとしてたら風邪引くぞ、実来」



 という忘れもしない。八年前に失ったはずの声が聞こえてきたからだ……。






●○●○●○●○






 実来の記憶にあるよりも少し高くなっていたが、あまりにも懐かしすぎる声が聞こえた。


 昔の思い出に浸りすぎて聞こえた幻聴かと。


 振り返ることが出来なかった。

 ───でも。



「……お、姉………ちゃん?」



 振り絞って出した声は掠れ、あまりにも小さかった。


 でも相手の耳にはしっかりと届いたのだろう。


 背後から苦笑する気配がする。



「久しぶりだな、実来。元気だったか?」



 そこにいたのは紛れもしない。八年前に行方不明になった実来の姉、実彩だった。



「どうして……」



 突然の出来事に茫然とする実来を後目に、実彩は背中合わせになるようにベンチに凭れる。その際に実来に差し出しされたホットココアは彼女の横に置かれた。



「冷める前に飲みなよ。好きだっただろ、ココア」



 その声に導かれるように恐る恐るココアを手に取る。後ろからパカッという音が聞こえる。どうやら実彩も何か飲んでいるようだ。


 実来もココアを開け口づける。


 温かいココアが冷え切った体に染み渡り、それに伴い緊張していた心にも少し余裕が出来た。


 チラッと後ろに視線をズラせば長いコートを羽織った実彩の背中が見える。



「実来、今は高校生だよな? どこの高校に通っているんだ?」


「……常磐津高校」


「私が通ってた?」


「……うん。担任は田中 大輔だいすけ先生」


「……………大チャンまだあの学校にいるのか」



 沈黙。

 飲み物を啜る音だけが公園に響く。



「……セフィロトが」



 しばらくすると実彩がポツリと話し出した。



「セフィロトがどうやったか知らないがほんの短い時間、この世界とあっちの世界の境界が曖昧になっているからって私をここに寄越したんだよ。久方ぶりに故郷を見ておいでー。とか言って、いきなり放り出された。相変わらずふざけた奴だよ」



 チッという舌打ちの音がした。いきなりのことで内心実彩もご立腹のようだ。


 ───でも、ここに居るのなら。



「このまま、こっちに帰ってくることは出来ないの?」



 実来の言葉に、実彩は目を伏せて、黙り込んだ。












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