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第0話:幼少期編:祭壇

 エルムの街から三里ほど離れた深い森の中にエルム古代遺跡はある。遥か太古、神々を祀り、恵みと繁栄をもたらしたとされる茶色の土が練りこまれた古い神殿。古き民は神殿の中央に設けられた巨大な裁断で人を生贄にし神にささげていたといわれている。今では神殿を守る神官も巫女さえも居ない忘れ去られた神の土地だ。

 

光火ウィスプ

 

 仄暗い通路でそう声を上げたアルクライスの周囲に光が溢れる。それは小さな球状の白い光。下級永続魔法ウィスプ。長時間光の玉を作り出し周囲を明るく照らす。

 本来は夜道などで視界の補助として利用されるが時には激しい閃光を放ち眼くらましにも使える。アルクライスがよく使う魔法の一つだ。

 

「行くか」

 

 時間の経過と共に老朽化した建物の中は古めかしい独特の匂いが漂っていた。足元には壁が崩れ砕けた土の塊が転がり軽く踏んだだけでそれも砕ける。何か大きな負荷が掛かれば簡単に崩れてしまいそうな古く脆い建物。進むうち大きな穴の開いた天上が目に入った。何かが空から落ちてきて破壊されたような巨大な穴、その穴からは月明かりがこぼれていた。その場所だけ白く透明な明かりが広がり空間を照らし光を与えている。アルクライスはその穴の空いた空を僅かに見据えた。穴から吹き込んできる風に首元まで伸びた長い髪がゆらゆらと靡く。


「警戒したほうがよさそうだな」

 

 小さくアルクライスはそう呟くと再び通路の先へと進み始めた。ゆっくりとした足取りで革靴が地面を蹴る。その足音だけが通路に響き渡り先の闇へと消えていく。 灰色の瞳に写りこむ古びた景色。その眼差しは冷たく何者も寄せ付けぬ気配をまとっていた。そしてしばらくの後、大広間らしき場所へとアルクライスは足を踏み入れる。 

 

「これは……魔法か」

 

 部屋の中へ入った瞬間、空間に光火ウィスプではない別の光がその場を照らした。火に近いその光は空間全体を明るく照らしている。古代の魔法の一つが発動したのだろう、そう思いアルクライスはまた落ち着いた足取りで進んでいく。


「叔父上の本にはこの遺跡には祭壇があると書いてあったが、おそらくこれがその祭壇か」

 

 大広間の中央に作られていたそれはブロック状の石が積み上げられ四方に巨大な石造が剣を持った状態で佇みまるで祭壇を守っているような状態で存在していた。階段状になっているその石段をアルクライスはゆっくりと登り始める。そして数分後祭壇の最上段まで上ると足を止めた。平らに整備された僅かなスペースに大きな石のテーブルが置かれその上には巨大な箱が置かれていた。土埃を払いながらアルクライスは閉ざされた箱を開けようと力をこめるアルクライスだったが、一切動かず開く気配は無かった。


「強い魔法封印が掛かっている……叔父上の残された書物の情報と同じか」

 

 古き階段の天井に祭られる太古の箱、触れるも空かず大の男数人が力をこめても空かずそれはまるで封印された開かずの箱であった。この中にあるいは神々の遺産が残されているのではないか? っと書の終章に記された文面。叔父上は昔この地を訪れそして箱を開けようとしたもののあけることが叶わずこの地を去った。


「私にもどうやら開くことは叶いそうにない。これほど強い封印魔法を一体だれが付与したのだろうか」

 

 指先で箱に掘られた様々な彫刻を眼にしつつ箱の周りをぐるりと一周し階段にその腰を下ろした。軽い吐息と共に足を広げその場に座り込む。

 

「そろそろ国へ帰るか」

 

 一息入れるように大きく息を吸い込んでそして吐き出すと僅かにまぶたを閉ざし再びあけアルクライスは立ち上がり階段を下りていく。階段を下りきったときアルクライスは外へと続く通路のある方向を見て身構えた。人の気配、それも大勢の気配が通路の先から感じ取れたからだ。同時に周囲がざわめきだす。今まで自分自身の足音しか聞こえていなかった空間に何かが駈けずり回る音が溢れる。


「やはり何かいるのか? ここには」

 

 そう小さく呟くとアルクライスは祭壇の物陰にその体を隠した。

 すると通路の先から松明を持った集団が列をなして現れるのが見えた。

 皆外にいた遺跡に住まう人間たちのようだ。先頭を歩いているのは初老の男と若い青年。その後に続くように大勢の人間が歩き祭壇に向かって歩いている。彼らが祭壇に入った途端に周囲のざわめきは一瞬にして静まり返る。そして初老の男が祭壇の中央にまで上ると手に持っていた何かを祭壇に置くのが見えた。小さな何か、そして男たちはいっせいに祭壇の前で跪き手を合わせながらみな同じ言葉を口にし始める。僅かな声音が徐々に音量を増し空間を振動させるように大きくなっていく。


「我らが神ヨーデゥガール様、どうか我らに恵みと栄光をお与えください。我らが神ヨーデゥガール様どうか我らが言葉をお聞き入れください。我らは誠意の気持ちを持ってここに若き人の子の肉体を用意しました。どかこの肉体を喰らいわれらに栄光をお与えください」

 

 それは生贄の儀式のようなものだと一目でわかった。そして先ほど息途絶えたあの少年をその供物としてささげているのだと理解する。 

 

「愚かな……現実を拒絶した愚かな連中だ」

 

 神など存在しない。あるのは理想とはかけ離れた薄汚れた世界だけだ。現実を受け入れぬ者が未来など語れるものか。そうアルクライスは思った。同時に周囲に先ほど静まったざわめきが一気に開放され四方に散るのがわかった。アルクライスは咄嗟に腰に添えていた剣を抜く。瞬間背後から周囲に分散した気配の一つが向かってきていることに気がつき一閃を繰り出す。すると何かが頭上に浮かび上がり地面に落ちる。同時に腕に剣とは別の重みが増すのがわかった。それは何かが剣に触れ一瞬で切り抜かれたことを意味していた。地面に転がるその何かにアルクライスは視線を向けた。


「やはり魔物か……」

 

 緑色の肌に鱗のようなものが生え、鋭利な牙を持つ鼠のような姿の化け物。鼠にしては大きくそして凶暴だ。その化け物の体は首と胴が切り離され赤色の流血を周囲に撒き散らせている。死後もなを痙攣しピクピクと魚のように体を動かし尻尾を何度も地面に叩きつけそして数秒後絶命する。それを見届ける暇も無くまたもう一匹がアルクライスに襲い掛かってきた。それもいとも容易く交わし同時に一振りすると再び獣は首を切断され地面に転がる。まるで蟻でも踏みつけ殺すような本当に容易く魔物たちの命を奪っていく。そんなさなか、突然祭壇のあった方角から傷みに悶え苦しむような男の悲鳴が聞こえてきた。アルクライスは剣を一振り振りぬくと同時にその方角に眼を向けた。さきほどまで綺麗な列をなしていた集団は散らばり祭壇のいたるばしょで魔物たちに襲われていた。ある者は首を噛み切られ、ある者は胴体を苦ちぎられ、そしてあるものは体ごと一飲みにされ捕食されていった。絶望、苦痛、後悔、彼らの表情はそんなもので溢れていた。

 彼らを見据えアルクライスは冷めた眼差しでそんな光景を眺めていた。


「お前たちは馬鹿だ」

 

 助ける義理など無い、自らが招いた結果が今の彼らを作り出している。これは天命であり彼らが選んだ選択だ。そう心に言い聞かせるがアルクライスは自然とその剣を生き残った人間たちを守るようにして振るっていた。

 

「ありがてぇ~」

 

 逃げ回る男がそう言い放ち背後の通路へと向かう。そして数人が通路を通過するとその男はアルクライスを見据え笑みを浮かべた。


「助かったぜ、だが悪い。あんたもここで生贄になってくれ」


 そう言い放ち男は通路にあった巨大な石造の剣に手をふれた。瞬間通路の足元から通路をふさぐほどの分厚い壁が現れ男の姿はそれと同時に見えなくなった。


「恩を仇で返されたとはこのことか」

 

 っと自分を笑うアルクライス。しかしこんな状況でもアルクライスはいたって冷静だった。周囲にあふれる魔物を見据え剣を振るう。この程度の魔物何匹掛かってこようが何の問題もない。そう判断していたからだ。案の定アルクライスは数分で魔物たちの群れを駆逐した。そして気がつけばその場所には無数の魔物の死骸が重なり小さな山ができていた。足元は魔物たちの血で赤く染まり生臭い獣の匂いが充満していた。同時に足元である変化が起こる。肉片と化していた魔物たちの死骸が流れ出た血と共に飲み込まれ祭壇の中央に集まり始めたのだ。それは数秒で元の大きさの数倍のサイズまで膨れ上がり赤く丸い球体へと変わる。


「次から次へと忙しいことだな、しかしこれは……いささか面倒そうだ」

 

 剣を二度三度と宙に振るい、深く息を吐いた。同時に全身に緊張が張り巡らされる。まるで体を流れる血液が沸騰し熱を持ったように脈動を始めた。

 

 瞬間、空間に大きな気配が生まれる。今まで感じたことのないほどの大きな気配。その場のすべてを飲み込んでしまいそうな気配と共にそれは現れた。赤く染まった玉の中から四つの手足が現れ、筋肉の筋が浮き彫りになった獣の顔をする化け物。それは祭壇の中央に大きな音と共に現れた。同時に中央に置かれていた少年の死骸に近づきなめまわすようにして少年を眺めその細い手を少年に向けて伸ばした。瞬間、魔物手が光に包まれ消失する。同時に魔物の悲鳴が響き渡った。それに続くように再び声が響く。


「うあぁぁぁぁ? あ……れ?」

 

 それはまだ幼い少年の声だった。アルクライスは呆然とその方角を見据える。同時に驚いたような表情を浮かべた。 今の今まで死んでいると思っていた少年が突然動き出したからだ。少年は苦しむ魔物をよそに呆然とその場に立ち尽くしていた。周囲を何度も見渡しそして首をかしげるのが見えた。そんな少年を玉から生まれた魔物が再び手を伸ばすのが見えた。

 アルクライスは咄嗟に動いた。剣を抜き振り上げ彼の体は加速する。


 

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