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 そんな私ですから、それまで仕事において評価された事がありませんでした。仕事というのはつまるところコミュニケーションと配慮の連続であって、他人が理解できない私に仕事などできよう筈もありません。いつも職場では馬鹿にされ、虐められ、不当な扱いを受けてきました。尤もそれで終わる私ではありませんでした。私はあまりにも自分の理屈に拘りすぎるがあまり、一度不当だと知ると、どんなに権力を持った人間にも、また逆にどんなに弱者とされている人間にもつっかかっていき、その不当性を訴えました。元来キレやすいタイプの私は、日頃理解されず、演技を重ね、ストレスをためている分、一度キレるとどこまでも攻撃的になります。どんな人間関係も最後には必ずぶち壊してしまうのです。これは職場だけではなく、どんな人間集団のなかでも私は例外なくそうした不当な扱いを受けてはキレるという経過を辿ってきました。そんな風ですから、恋愛などした事もありませんし、交友関係すらまともに結んだ事もない始末でした。こうして自分の人生を振り返ってみると、ほとほと生きているのが嫌になりますね。結局職場ではどんどん孤立していき、仕事を干されるようになり、そのストレスからうつ病になり、会社に行けなくなったり、行ってもまともに仕事ができなくなってしまいました。家族とも次第に疎遠になり、自分の世界に閉じこもるようになりました。酒浸りになって、アルコール依存症になったのもこの時期です。

 現実世界というのは、まるで私に取っては冬の夜道に出会う他人の家でした。暗く寒さの厳しい夜道を一人歩くと、知らない人の家がほんのりと明かりを放って、中をのぞくと一家団欒、暖かい夕食を囲んで幸せな生活を送っている家族の姿がはっきりと見えるではありませんか。しかし私はそれに加わる事も、触れる事も、理解する事もできず、ただ寒空に身を震わせながら、それをぽつんと一人眺めているしか手立てがないのです。現実世界、それは入る事のできない、例え誰かの厚意によって入る事ができたとしても居心地が悪く、そう長くはいられない、他人の家でした。

 とは言え、誰も私に意地悪したわけではありません。物質的な何かに恵まれなかったわけではありません。私は溢れんばかりの親の愛情と、彼らが育んだ暖かな家庭の中で、健康に過ごしました。私には、何も不平を言う権利なんかなかったのです。大馬鹿者です。恵まれているのに、それをふいにし、何も悩む事なんかない筈なのに、一人で勝手に悩んでいる、大馬鹿者だったのです。しかし自分がなぜこんなにも多くの不可能を抱えて生きているのか、理由が分かりませんでしたし、理由の分からない事を、単なる「できない奴」として乱暴に片付けることに、さして疑問をもたないくらい私は幼かったのです。お陰で私には「自分はできない奴だ」という自己評価が根付いてしまいました。そしてそれは長い間揺らぐ事はありませんでした。全て「どうせ自分はダメな人間だから」と言って済ませる癖がつきました。なぜできないのか?できないとはそもそも何なのか?それを考える事ができないほど、私の思考は未発達だったのです。そもそも自分の異常性に付いて気付いたのは、悲しいかな、自らの異常性を取り払った後になってからのことでした。人間、自分が異常性の只中にいる間は、自分が異常だということに気が付かないものです。そうして私の中には、自分に対する憎悪だけが日増しに育っていきましたし、また自分を好きになれない者は他人をも好きになれないもので、他人は私にとっていつでも嫌悪の対象であり、理解のできない、また自分を理解しない異星人のような存在でした。分かりあえない、恐ろしい、ただただストレスで、彼らに対しては得体の知れない怒りしか湧いてきませんでした。


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