② 展開は次々と進み、釈然としないままに。
僕が茫然としていると、見兼ねたのか、チェリーがまとめてくれた。
「つまり、非公式で部活に成り損なった部活が一つになって出来た部活ってことよ。本当察しの悪い男ね」
らしい。
「じゃ、じゃあっ、文芸部は?」
「廃部したわよ」
「えっ!?」
「ですので、私達が代わりにこの部室を使っているんです。あ、申し遅れました。私は3年の唯嶺白瀧と言います。どうぞ、気軽に『ゆいねぇ』とでも呼んでください」
礼儀正しいのかそうでないのか、マイペースな方だと、おっとりとした雰囲気を唯嶺先輩を見て思った。
……でも、そうか。文芸部はもうないのか。
自分の文才を伸ばそうと思っていたけど、これだと、示しがつかないぞ。
まぁ、そこまで期待していたわけではないけど、ないならないと、残念ではある。
「ならここに入ればいいじゃない」
落胆する僕を見て、口を尖らせながらも提案をしてくれる。
「え、いいの?」
「それは部長が決めることね。ま、わたくしはどちらでもいいのですけど。余計な厄介者の朴念人が一人入った所で、どうとなるわけでもないしね」
「……そっか。うん、ありがとう。チェリー」
「別にわたくしはあんたのこと可哀想だとか、一緒にいたいからとか、そんな女々しい理由をぶら下げて言ったんじゃないんだから!ただ思ったことを言ってみただけだから!勘違いはしないでよね!?」
「うん。それでもありがとう。チェリー」
「んぐっ!?てだからチェリーって言うなぁっ!」
「ふふふ」
僕とチェリーのやり取りを見て笑う唯嶺先輩を尻目に、少しだけ期待と希望が見えた気がした。
これで、とりあえず一安心。まだ部活ができると決まったわけではないけれど、文芸部もなくて残念ではあるけれど、チェリーもおっとりとした優しい先輩もいるし、それはそれでありかなと思った。
「それで、部長は?どこ?」
「……」
「あれ、なんで黙るの?」
「ふぅ」
「なんで溜め息吐くの?」
「奥の机あるじゃない?」
「うん」
「チェアが反転してるのわかる?」
「うん。そうだね。わかるよ」
「あそこよ」
「へ?」
「あそこにいるのよ、部長が」
……なんで?
「そ、そうだったの?でも、あれ、普通に座っていれば、頭の天辺くらい見えそうなものなんだけど……」
「頭の天辺くらい見えない程小さくて悪かったわね、入部希望者の季乃、寺春君?」
チェアから声がしたかと思えば、くるっと回り、姿が見えた。
そこにはすっぽりと収まっている小さい女の子がいた。
燃えるような赤髪に、視線だけで威圧してくる紅色の眼。まるで物語のなかに存在していそうな愛くるしい少女がそこにいた。
「え、あの、その……」
「ようこそ。私がここ、非公式部の部長を務める曰佐直己です。以後人見知り置きを」
これが僕と彼女のファーストコンタクト。
そして僕が彼女に魅了された瞬間でもある。
彼女の瞳は内に秘めた業火のような欲を顕現させたような……比喩ではなく、そんな風に感じ取れた。
見詰められれば見詰められる程に僕の姿が暴けられてしまうような、そんな畏れも懐く程の威圧感だった。
それほどに彼女の持つオーラは神々しくも禍々しい、交じり合うことさえない対立した感覚を持ち合わせていた。
「さあ、入部試験を始めましょうか」
部長である彼女がそう宣言した時、僕のなかにある何かが、弾けたような気がした。