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① 勘違いはよくあるけれど、これはないと思う。

 ふと見上げると、白い物体が飛んでいた。

 否。あれは紙ヒコーキだ。

 グルグルグルグル……部屋の天井と壁をすれすれに名一杯に回っている。

 どうすればあんな風に飛ぶのだろうか。

 そう思いながら足を一歩踏み出すと、


 ――ピンッ


 何か足下で切れる音がした。

 それと同時、パシンッと頭に何かがぶつかり「あいたっ」頭の右側がジリジリ痛み出して手で擦っていると、今度は左足に何かぶつかり、左寄りによろめき、


 ――バシャァッ


 置いてあったバケツ(水入り)に頭からもろに突っ込んでしまい、肩から上がびしょ濡れになってしまった。

 ――なんでこんなことになってしまったのか。

 それは数十分前に遡る。



 高校に入学した翌日、軽く出席番号順に自己紹介をして、あとは委員長やこの後の説明など、新入生に対しての有り難い心得などをそれとなく聞いてお開きになった放課後。

 僕は特にすることなく帰り支度を済ませていると、前の席の男子が声を掛けてきた。

「なぁおまえさ、部活どこに入るのか決めたか?」

 確か有竹建一(ありたけけんいち)って名前だった気がする。

 数センチのスポーツ刈りにされたさっぱりした頭が目立つ、爽やか少年って感じだ。

「うぅん。まだだけど」

「じゃあさ、一緒に運動部見に行かないか?俺、隣町から来てるからさ、一緒に来てくれるような友達がまだいないんだよ。な?」

 本当は希望する部活は決まっていた。

 それも文化部でもあまり目立つことのない、文芸部だ。

 部活の参加は自由だが、僕的には周りの人達に迷惑かけるわけにもいかず、とりあえず部活に入ろうかと思っていて、それで一応趣味で小説を書いていることもあって文芸部にしようと考えていた。

 だからここは申し訳ないけど、断ることにした。

「ごめん、その誘いは嬉しいけど、ちょっと見たい所があって。一人で行ってみたいんだ」

「そうか。いや、こっちこそごめん。じゃ、俺行くわ。またな」

「うん。また」

 軽く手を振り別れる。

「よし」

 鞄を持ち、僕も教室を出た。

 ものの数分で迷ってしまった。

 文芸部は本校舎の渡り廊下の奥を行った、特別棟にあるって聞いていたんだけど……ダメだ。極度ってわけでもないが、ちょっとした方向音痴の僕にはキツいな……誰か通り掛からないかな。

 なんて弱音を心の内で吐いていると、前方から綺麗な人が見えた。

 と言うか生徒会長だった。

 中学生の頃から優秀で、高校に入って一年生になって生徒会長に就任したと言う逸話を持つと言われている、その人だ。

「あら、あなた……」

 その生徒会長が僕の前で止まり、一瞥した。

「ふぅん……あなたが季乃寺春君?」

「あ、はいっ――て、あれ、なんで僕の名前を?」

「こう見えてもわたし、生徒会長だから」

 それは知ってます。

 けど理由にはならない。

「それで君はどこに行こうとしてるの?」

「えと、僕は文芸部室を探して……」

「そう。それならこのまま真っ直ぐ進んで、階段を上がった所にあるわ」

「そうなんですか。ありがとうございます」

「いいえ。じゃ、わたしはこれで。じゃあね、寺春君」

 あなたから君、君から下の名前になり、一回話しただけで距離が極端に縮まった気がする。気がしただけだと思うけど。

 言われた通りに進むと、本当に階段を上がってすぐの所に文芸部と書かれた部屋を見付けた。

「……ここか」

 僕は古びた扉の前に立ち、ノブを回した。

 僕を待っていたのは、空中を円上に飛び回る、紙ヒコーキだった。


 回想終わり。

 頭に被ったバケツを取り、かぶりを振る。

 なんか一瞬で酷い目にあった気がする……。

「へくちっ」

 水を頭から被ったせいか、くしゃみをした。

 少し肌寒い。幾ら春だからと言って、まだ残雪もある。暖くもあるが、寒さもまだ残っているのだ。

 室内の温度も極平均的で、廊下の温度と大差ない。

「……うぅっ」

 少し鼻がむず痒い。元々体も弱かったせいもあるか……このままだと風邪を引きそうだ。


「まあ大変っ。私が温めてあげます」


「へ?」

 声がした方へ振り向くと、柔らかい温もりが身体を包んだ。

 なんだか気持ちよく、ずっと包まれていたいような、そんな暖かさを感じた。

 それと頭にも気持ちよい感触がした。

 撫でられているのだろうか。雑ではない、丁寧な手付きに心が安らぐ。

「どうですか?もう寒くはないですか?」

 しばらくして、もう一度声がして、ハッと我に還る。

「も、もう大丈夫です。ありがとうございます」

「はい。いつでも歓迎しますよ」

 慈愛を感じる優しい微笑みのある女性だった。

 上級生だろうか。いや、そうなんだろうな。

「あ~ら。わたくしの罠に引っ掛かった間抜けは誰かと思ったら……思った以上に間抜けた顔をした朴念人じゃない」

 どこからか、黒がベースのフリルがいっぱい付いたゴスロリ服を着た女の子がいた。

 と言うか、知り合いの女の子だった。

「チェリー……君もここだったんだ」

「その名を止めてと何回言えばわかるのよ!」

「別にいいじゃないか。昔のなじみだし」

「わたくしは嫌なんですの!」

「うふふ。二人はお知り合いなんだ」

「そうです」「違うわ!」

 二人して同時に、だけど反対のことを言う。

「誰がこの朴念人なんか……っ」

 ツーンとそっぽ向くゴスロリ娘。

 彼女の名前は木葉之(このはの)小枝(さえ)。僕のお母さんの友人の一人の娘で、小学校の頃まで一緒だった幼なじみでもある。

 彼女はお祖父さんが外国人で、その関係で眼が綺麗な蒼色をしている。眼を抜かせば日本人形のようにかわいらしい女の子になる。

 そしてミドルネームもあって、それがさっき僕が口にした『チェリー』だ。

 かわいいのに、本人は似合わないとか言って、毛嫌いする。

 勿体ないと思う。

 彼女とは一個上で、今日から上級生なのだが、中学の間はとある事情で離れ離れだった為、会うのは久しぶりではある。

 だとしても……

「ここって、文芸部室……だよね?なんでこんなことになってんの?」

 辺りを見回すと、6畳から8畳ある広さの部屋の真ん中にテーブル、その奥に部長と達者な字で直に書いてある札が乗っている校長の部屋にあるような大きな机、あとは壁に花の写真を飾っている額縁やら能面やらなんやらと様々な物が飾り着けられている。

 これは文芸とは別の何かが形成されているとしか思えない。

「そうね。文芸部室ではあるわね」

「じゃあなんでチェリ――小枝がここに?」

「(ジト)ふん。わたくしは部長に勧誘されてここにいるのよ」

「勧誘?小枝って国語とか得意だっけ?」

「別に苦手ではないわ。先生から、『独特な感想ね。けどもう少しだけ本当のことを書きましょう』なんて言われたことあるし」それは褒められてはいないと思う「それに……あんた何か勘違いしてるみたいだけど、ここは文芸部室ではあるけど、“文芸部”ではないわ」

「え、違うの?」

「ここは非公式な部活が寄り添い、独自の活動をする為に作られた集まり……非公式部の部室になります」

 …………………………ん?

「ナニソレ」

 前略お母さん、僕が思ったのと百八十度違った展開になってきました。

 ……僕はどうすればいいでしょうか。

 教えを請いたい今日この頃。

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