終・ランクIの子供達
本日の懐具合、一文無し。
アルギアンス共和国にある冒険者ギルドの忙しい一日は、既に始まっている。
~ 終・ランクIの子供達 ~
アルギアが女の子達に仕事を割り振り終わった辺りで
ミニアとケンタから受けたダメージを若干回復させたギルドマスターが
失望の色を顔に貼り付けながら、残った女の子と男の子全員を集め
彼等の前に立ち、次の指令を飛ばす形を作る。
「よし、お前等」
『『『はいッッ!!』』』
「なんかもうやる気なくなったから帰っていいか、俺」
『『『えぇぇぇぇええーーーーー!?』』』
そういうわけでもなかったらしい。
別に指令を飛ばすとか、仕事を与えるとか以前に
完全に心が折れているようだ。
「可愛い曾孫を従業員如きに持っていかれた。
あまつさえ敵に回られた。もう生きていける気がしない。
部屋に帰る。帰って寝る。そしてそのまま静かに人生の幕を閉じる」
「寝言は寝てから言わんかい、お前様」
一体何処から取り出したのか、フロア掃除用のモップを手に持ち
一気にガスッとギルドマスターの頭に振り下ろした。
そしてそれは運悪く、なのだろうか?
金具部分がザックリと頭に刺さり、しばらく時が停止した後
太い血管が切れたかの如く、ピューッと音を立てて血の噴水が沸き上がる。
ギルドマスターは、再度沈黙してしまった。
「やれやれ……
孫バカも場を弁えねばただの阿呆であると何度言ったら……。まぁ性格には曾孫であるが。
さて、残った童共よ。肝心のギルドマスターはこの調子でどうしようもない。
3分もすれば復活するとは思うが、それまでは我がこれ以後の指示を飛ばそう。
まずは外へ出ろー。次は薬草の採取であるぞー」
『『『は、はーい』』』
子供達は若干腰が引けている。
問答無用でギルドマスターを負傷させたアルギアに畏怖を抱いてしまったようだ。
そしてそれに対して、何故そうなったのかわからず
アルギアはキョトンとした顔で、首を傾げるのだった。
そしてその横では何事もなかったように、ミニアとケンタが受付から出てきて
血の海に沈んだギルドマスターを素早く受付内部へ片付けていった。
◇
第三の依頼『ポーションの原材料になる薬草の採集』
「と、いうわけで」
「どういうわけですかー?」
「気にするな、年長者の童よ」
アルギアが全員を引き連れて、冒険者ギルドの外へ出てくる。
これより依頼として出す内容は、応急処置程度の軽い効果に使われる
ギルドマスターが作る事が出来るポーション、または回復剤の原料となる薬草の採集だ。
もっぱらそこら辺に生えている雑草に近い薬草である。
とはいえ、いくら雑草に近かろうが薬草は薬草。
お手頃な近辺に生えているものは、当の間に取り尽くされている。
加えて、たまにレンカがここに訪れ始めたためなのか
植物達も恐れを抱いてしまったように生えてこないので
冒険者ギルドの回りには禿げた大地が広がっている。(レンカの持つ噂参照
一応は本気の緊急性を考え、冒険者ギルドの庭で自生する様に
手頃な薬草の株を調整して育ててはいるのだが、そちらはあくまでも緊急。
今回のように大量に採取するには不向きすぎる。
「以前我等が出した依頼をこなした者はわかっておろうが……
今回も、手近な森へと出向いて薬草の採取を行う。
魔獣などが出る危険な場所では無い故、安心すると良い」
が、少しでも人が日頃行かないところへ向かえば
上記の説明通りそこら辺に生えているのである。
あまりにも取り尽くしては、生態系が狂う可能性もあるが
今回採集へ向かう薬草は、とにかく繁殖力と地力が強く
この人数で目一杯取ったとしても、2、3ヶ月経てばまた元に戻るのだ。
さらに伝えるのであれば、効力が薄いとしても薬は薬。
使う材料の関係上、安物となってはしまうのだが
やはりそれは子供の小遣い程度の値段はするのだ。
「が、仮にも童共は冒険者として扱われている……。
冒険者たるもの、常に予想外を想定して動かねばならんぞ?
いつどこに、自分の命を落とす罠が組み込まれているのかわからんからな」
『『『わかりましたー!』』』
よって、今回の薬草採集依頼をもってして
原材料を大量確保、そしてギルドマスターが独自の製法を用いてポーションを生産。
その売上で彼等ランクIに支払う報酬を賄うのである。
具体的に見える公式で表せば……
第一の依頼=自分達が溜めた家事の手伝い=収入0
第二の依頼=同じく溜めた家事の手伝い=収入0
第三の依頼=加工する事で売り物になるモノの収集=収入 ワォ!
と、なるのだ。
そして先程アルギアが彼等に伝えた通り、予想外というものは常に付き纏う。
過去にも何度か、予想だにしない強烈な魔獣がいつの間にか近辺に住んでいたり
親睦を深めていないゴブリンの集落がいつの間にか出来上がったりしていて
ひやっとしたシーンはこの90年間で何度かあったのだ。
が、それが起こった初回に関しても
事前にランクIの子供達の親御に伝えた公約を実地するために
毎度の如く出向いていたギルドマスター夫婦のどちらかに潰されている。
とはいえ、アルギアとギルドマスターの護衛がひっくり返っていた場合
最悪の事態になっていた可能性も結構あったのだが。(マスターはそこまで強くない
なおそのゴブリン集落遭遇は5度ほどあったのだが
そのうちの三つの集落は、現代に渡り子孫繁栄を成功させて
今なお、ギルドマスター達が行っている異種族交流に顔を見せている。
残りの二つの集落の運命は言うまでもなかろう。
本当にありがとうございました。
「よし、それでは童共よ! 我に続───」
「……ま、待った……! お、俺も……行くぞ……!」
「おお、お前様。漸く起きれたかー。
ぬ、既に6分も経過しておるではないか。回復が遅いぞ、なにやっとるのだ」
「ひ、曾孫の愛は……命より、重い……!」
先ほどアルギアに沈黙させられたギルドマスターが、やっと合流を果たす。
頭の傷は受付二人に治療──されておらず、そのまま血が流れていた。
治療が面倒だったようである。してやれよ。
「あ、あの、あの! マスター!
頭の、頭の血、止めないとッ!」
「お、おうっ! 心配してくれてありがとうな。
でも大丈夫だ。多分」
「多分じゃ駄目じゃないですか!」
「や、良いのだ年長者の童よ。
ギルドマスターは竜族である我等と深く接しておるでな。
そこら辺の治癒能力も他の人間と比べ物にならん。
10分ほど放置しておけば出血も止まるはずであろう」
一応は、人間の寿命を遥かに超越しているギルドマスター。
これの他にも(無意識ながら)竜族から賜る事となった恩恵を数多く所持している。
臓物への一撃を貰わない限り、失血死などもほぼ考えられない超人的な体だったりする。
まあ身体能力は普通の人間とそこまで変わらないのだが。
もしもレンカがそれらの恩恵を受けた場合
ここら一体の銀河系であれば、あっさりと制覇出来たりもする。
完璧と完璧は混ざり合わないようで、今の所この世界は平和である。
◇
そうして冒険者ギルドの一行は、アルギアンス共和国内をしばらく歩き
途中途中で出会った出張農民の人や社長ドラゴン達に加え
たまたま外に出て体を伸ばしていた鍛冶親父等と挨拶を交わし
途中途中で進軍を止めているため、スローペースながらも目的地へと近づいていく。
「この国って、やっぱり面白いですよね。
僕達の国じゃ、アホな事ばっかやってて気味が悪いって言われてますけど」
「まぁ、我等自体元々人間と感性が違うのは当たり前だが……
どの辺が面白いと思うのだ?」
全員で、そんなに舗装も成されていない道を歩きながら
アルギアの横にたまたま居た子と会話になった。
「んー、たくさんありますけど……
やっぱり獣人やドラゴンに、人間っていうたくさんの種族の人が
普通に一つの国……国? に集まってる事とかですね~」
「なんでそこで疑問形にするのだお主は。
しかし、蓋を返せば獣人などドラゴンに比べて遥かに居住者が少ないし
この国に在住している人間なぞ我の旦那様だけであるぞ?」
「あ、居住者はそうかもしれないですけど……
でもこの国に働きに来てる農家の人もいますよね?
そういうのも含めて……なんか、すごいなぁって」
「ふむ、そんなに凄いモノなのか?」
今アルギアと会話している子の出身国だけではなく
基本的には人間が政治団体、王権のトップに君臨している国では
種族差別が非常に激しいのがこの世界の実情である。
彼が喋るように、少なくとも彼の国では獣人が『存在すらしていない』。
他の国であれば、ひとつふたつとスラム街だったり
または居住権が正式に認められて、獣人街を形成したりしているが
『普通』の基準であれば、見ることすら珍しい。
加えて竜族はドラゴニアンも含めて、アルギアンス共和国にしか存在していないのだ。
この国がどれほど異様な形態を持ち、なおかつ何故維持出来ているかというのは
世間的に見ると世界七不思議の二つ程度を占める謎のようである。
「面白い所に着眼しているな、君は」
「ん、お前様か」
「あ、マスター。頭の怪我は大丈夫ですか?」
「まぁな、痛みだけは引かんが……血さえ止まれば問題ないさ」
「よかったです……あんな血だらけで一緒に歩かれると……」
「そうだぞお前様。あの程度の傷とっとと治さぬからであるぞ?」
「アルギア、ここにモップがあるんだが……
お前も同じ傷作ろうか? なぁ、作ろうか?
ああいうのってなかなか回復しないものなんだぞ?」
「どっから取り出したのだ。というかその前に御免蒙る。
ちゃんと持ち帰って片付けなければ怒るからな?」
アルギアと子供の会話に入り込むギルドマスター。
一応は竜族の加護を受けている関係上、怪我だけは治ったようである。
額の周りにあるかさぶたが若干痛々しいが。
「まぁ、人間ってのは下手にプライドが高いやつらばっかりだしな。
特に上の立場になればなるほどそれは頻躇になっていくもんなのさ」
「そう、なのかな……?」
「そうだと俺は思うよ。
そうじゃなきゃお前達の生活だってそこまで苦労してないだろうさ。
お前達に金が回ってこない原因は、その国の政策に原因があるんだ。
少なくとも俺はそう思ってる」
「……? えーと……」
「ハッハッハ、お前様。少し難しい話が過ぎるぞ?
まだまだ坊な童にするような話ではなかろう」
「っと……確かに言われてみればそうかもな。
変な話をして悪かったな」
「いえ……そんなでもないですから」
何気に込み入った話に持って行こうとするギルドマスター。
しかしそういった立場ではない上に、係わり合いもない業界の話をされても
子供の脳内では情報を処理しきれない。判別基準がないのだから。
そこをやんわりとアルギアに指摘され、話題が間違っている事に気付く。
普通に考えれば、冒険者ギルドに訪れるような子供に話す話題でもない。
周りに子供がミニアぐらいしか居ない上に
彼女はそこら辺にも若干関わる立ち位置であるため、会話を間違えたのかもだが
実は若干コミュ障のギルドマスターなのであった。
「っと、やっとついたか」
「のんびりしていたのもあるが、時間はかかったのう。
我が飛べば一飛びだと言うに、何故に歩くのだ?」
「お前の速度でこの子達全員乗せたら、半分は脱落するっつーの。
最近ルミナの耐性を普通と思い込んでないか? それは考え直しておけよ」
そんな当たり障りがありすぎる会話を繰り広げていると
時が経つのも早いもので、気付けば目的地の森が眼の届く範囲に現れる。
「それじゃ皆、あの森の中に入って薬草を取るぞー。
初めて依頼をやる子もいるだろうからな、ちゃんと説明するから安心してくれ」
「なら、我は経験者達を率いて先に採集しておこうか」
「そうだな、説明が必要ない子の面倒を頼もうか。
初めての子や、まだ不安な子は俺の所に来てくれー」
そうして、採集前準備へと突入する冒険者ギルドの一行。
ここら辺は長年やっているのもあり、手馴れた雰囲気で行われている。
仮にもあの稀少施設を(基本は)二人で回している手際の良さはここでも現れる。
「さて、君達は俺等から依頼を受けるのは初めてだと思う。
まずは依頼を受けるにあたっての、必要な道具を確かめようか。
薬草を採集する時に使うくだものナイフ、全員持ってるかー?」
『『はーい!』』
「ふむ、そうか──……ん?」
小さい子供達が大体を占める完全な初心者10人程度の返声の中で
一人だけ声を出していない子が居る事に気付く。表情も暗いようだ。
「君、どうしたんだい? ナイフは持ってきていないのか?」
「あ、あの、はい……、お父と、お母が、用意出来なかったって……」
「うん、そうかそうか。
大丈夫だから安心してくれ。そこら辺も親御さんには伝えているからな。
ほら、俺のくだものナイフ貸してあげるから。大事に使ってくれよ?」
「あ───はいッ!!」
ギルドマスターが考えるに、恐らくこの子は
自分だけがナイフを持ってこれなかった自分の家の貧困に落ち込んでいたのだろう。
そしてマスターもマスターで、このようにランクIとしてここに訪れる子達が
裕福とは程遠く、かつ1日の飯すら満足に食べられない子が
このランクIという階級で大半を占めるのを知っている。
故に、事前に子供達の親に対しては
・必要な道具があっても用意出来ない場合はこちらで貸し出す用意がある
・もし、貸し出され続ける事が嫌であれば
こちらで格安で販売しているので、子供が依頼を達成した報酬の0.5割で買える
と伝えている。
そして一応は、貸し出しに対してもレンタル料として
とても微々たる金額を徴収する事にしている。
形だけでも、善意に縋っているわけではないという事実を作り出すためである。
レンタル金額、3G。
鍛冶親父との交渉の末、売られるくだものナイフの値段は50G。
そしてランクIの平均的な報酬は2000G。
格安で買う事が出来るくだものナイフに関しては
たかがくだものナイフといえども、量産品でもなく品質はピカ一。
加えて、このナイフを使う機会は別に依頼限定というわけでもない。
彼等の農家に戻った際の日常生活でも、刃物を使える機会はいくらでもある。
「お金のやり取りに関しては、またギルドに戻った際に説明しよう。
これで皆と一緒に参加出来るな?」
「うんっ!」
用意出来なかった子供は、とても気持ちの良い笑顔で返事を返してくれる。
用意周到であるギルドマスターも、自分の仕事に満足出来る瞬間であった。
「さて……これから採集する薬草を見た事がない、という子も居ると思う。
そんなわけで、先に現物を1把持ってきた。こっちに寄ってきてくれ」
『『『はーい』』』
近寄ってきた子供に、自分の所持する薬草を手渡す。
そしてその薬草は、子供達の輪に吸い込まれる様にマスターの視線から消えた。
「へー、これが薬草なんだ」
「あれ? 僕これ見た事ある」
「私は無いー」
「これがおくすりになるんだねー」
「ぼくにもみせてー! みせてよー!」
子供独特の喧騒の中、これから取る現物のチェックは進んでいるようだ。
◇
「さて、では我等の方でも説明を開始しようか。
何度も聞いている童もおるやも知れぬが、これは通過儀礼のようなものだ。
潔く諦めるが良い。何、毎度の事だしすぐ終わるさ」
『『はいッ!』』
一方こちらはアルギアチーム。
ギルドマスターチームと比べて若干年齢が高い。
「では説明するが……広大な森とはいえ、生態系は存在する。
我等がこれから採集する薬草も、森の動物が食べているかもしれないのだ。
それらを取り過ぎる事で、その動物達が暮らせなくなってしまうのは避けたい。
その動物が居なくなった事で、今度はこれから取る薬草が
森を枯らす勢いで大繁殖をしかねないからだ。ここまでは良いか?」
「えぇー? 森が枯れる勢いって……」
恐らくこれが二回目であろう子供の一人が声を上げる。
アルギアにとっては毎度毎度の通過儀礼すぎるのだが、それでも説明を開始した。
「良いか? 我等がこれから採集する薬草はだな……
『我等がこの人数で採集しても生態系に問題が無い程の繁殖力がある』薬草だ。
これは、現時点で森の動物に食われている現状での繁殖力だ。
ここでこの動物が我等が森をいじった事によって消えた場合
森が持っている地力を全て奪い取るかの如く、薬草が繁殖するかもしれないのだ。
『自分達を食べる敵が居なくなった』、繁殖力の強い薬草が
どれほどまでに森を壊すのかまでは、我等も検証してはいない。
だが可能性という意味では、これも現実に起こり得る可能性なのだ」
「…………。」
自分がちょっとした疑問に思い、口に出してしまった声の返答を
意外なほどに真面目な論説で返されてしまい、声が詰まる子供。
まあ実際の所、半分以上は脅しでしか無いのもアルギアは理解している。
繁殖しすぎの方は例が無いにしても、繁殖しなさすぎの方は実例がある。
故に、これに関しては世界共通で
『自然の恵みを取り過ぎては行けない』
となっているのだ。
「が、まあそれはそれとして……
しっかりと、取り過ぎないレベルで取得すれば問題はあまり起こらんのだ。
もしも取り過ぎてしまった、というのであれば
まだ限界数まで採集出来ていない童に回すと良い」
『『『わかりましたー』』』
この冒険者ギルドという組織で今回得る数は既に決まっている。
一人辺り5把程度であり、それ以上取り過ぎたのであれば
まだ作業が捗っていない子供に回せば良いだけの事なのである。
「よし、それじゃ我等はそろそろ森の中へ入ろうか。
早くに採集が完了した童に関しては、我等の行動範囲内なら
自由に森を動き回って良いからな。良い何かが取れたなら
ギルドに帰った際にきちんと別枠で換金してやろう」
「っしゃぁー!」
「頑張るぞー!」
「少しでもたくさん稼ぐんだ!!」
元々生活が豊かではない彼等は、こういうところでもハングリーである。
もちろん、こんな感じに人の手が入れられている森では
そこまで貴重なモノは取れることも無いのだが
そうだとしても、そこそこの金になるものはいくらでも転がっている。
人の手が加えられていようと、野生の森なのだ。
取りに来る事が手間と思う者が居れば、それが欲しいという者もいるのだ。
故にこのランクIの採集作業にしても
小さいながら若干の特別報酬が出る事も多い。
もちろんの事、売る事が出来る物を取得出来た子供限定の話だが。
この内容から、元々家事が苦手な女の子や
将来冒険者を視野に入れている(ならざるを得ない家庭環境な)女の子は
先に出された家事の依頼ではなく、こちらの依頼に流れてきている。
「よし、ではさっそく行こうか。
くれぐれも我等の行動範囲内から離れ出るなよ!
例え小さき森と言えども、何があるかわからんのだからな!」
『『『はいッッ!!』』』
「お、あっちは準備が終わったか。
それじゃ、俺達も行くぞ! 皆準備は良いな?」
『『『はーい!!』』』
「わからない事があったら遠慮なく俺かアルギアに聞くんだぞ。
知らない事は恥ずかしい事じゃないからな。
父さん母さんへの土産話にでもするといい」
アルギア達からワンテンポ遅れて、マスターチームも森へと入る。
子供達の反応は、初めて見る森におっかなびっくりだったり興味津々だったり
または完全に森というものに手馴れていて、余裕の表情だったり様々だ。
毎年数回繰り広げられるその光景も
冒険者ギルドの面々からすれば微笑ましいモノであり
また明日へと業務を続ける気力に成り得るモノでもある。
今回は特に事件らしい事件もなく
採集作業は無事、平穏に終わりを告げた。
◇
「よし、全員採集は完了したか?
漏れが無いように一人づつ収穫した薬草を確認させてもらうぞ」
『『『はーい』』』
「うむ。良い返事だ。
こちらで採集を指定した薬草以外はまだ持ってこなくても良いからな?
そちらはギルドに戻った後で我等が鑑定するが故、今は指定した薬草だけを出すのだ」
日がお昼を過ぎ去る頃には、目的の薬草を全員採集し終えて
冒険者ギルドへの帰路へと向かうわけだが
子供達を引き連れた上で、近所といえば近所ではあるが
それなりに体力の使う作業をさせているため、漏れがないかどうかを事前に確認し
不手際が発生しないよう、ギルドマスター達もしっかりと確認をする。
「それじゃ、全員4列の縦列に並びなさい。
俺とアルギアで、二人ずつ確かめるからなー」
「コレが終われば仕事もほぼ終わりだ。
ギルドに帰れば先程受付をしていたケンタがおいしいお菓子を準備して待っているぞ」
「おかし!」
「おかし!」
「おかし!」
「いとをかし!」
『おかしっ! おかしっ! おかしっ!』
『おかしっ! おかしっ! おかしっ!』
まるで蛙の大合唱である。
やはりおいしい者に目が無いお年頃、お菓子は至極の贅沢品のようである。
「ふむふむ、よし。二人は大丈夫だな」
「……3、4、5っと。ではあちらに待機しておくのだ」
「はーい」
「2、3、4……おや? 1把足りないな。見つけられなかったのかい?」
「は、はい……あの……その……」
そして検品を行っていくうち、これも毎度毎度の事だが
初心者の中で、必ず指定個数探しきれない子も出てくる。
「ん、よし。じゃぁ俺の1把を追加してっと……。
ほらっ、これで良し。それじゃぁあっちに行って待っててくれ」
「えっ?! でも、あの」
「いいんだよ、お前は頑張ったんだからな。
でも次来る事があったら、今度こそちゃんと5把取ってくるんだぞ?」
「──はいっ!!」
「よかったね!」
そんな会話をしながら、目の前にある子供の頭をわしゃわしゃと撫でるマスター。
こういったように数を揃えられなかった子に対しては、ギルドマスターやアルギアが
あらかじめ取っておいた自分の薬草を個数合わせで渡し、帳尻をあわせる。
二人の取得品を同時に検品していたため
数が足りなかった子供と一緒の検品に居合わせた子も元気付けに周り
揃えられなかった子供の後姿も、こころなしかとても安心しているようだ。
「……よし! こっちは全員合格だ。
アルギア、そっちも大丈夫だよな?」
「無論だ。このような事すら達成出来ないようなら
我が喰───」
「はいそれ以上言うな阿呆」
ズビシッ。
遠慮の欠片すら感じられない、なかなか威力がありそうな高速チョップが
アルギアの口へと放たれ、その痛みでアルギアが悶絶している。
子供たちへ与えられる恐怖のトラウマは寸での所で回避されたようだ。
「な、なにをしゅるのだ!」
「……本気で言ってんならギルドに帰った後たっぷり説教してやるから
とりあえず今言おうとした事は良く忘れておけ。ここで語ろうとするなよ?
ほれ、とっとと行くぞ。みんなついてこーい」
『『『はーいマスター!』』』
「でょ、でょーしてでゃ!
我、今にゃにもわりゅい事してないでひゃないか!
おみゃえさまー!またにゅかー!」
ちょっと悶絶してその場に縫い付けられたアルギアを置いて
冒険者ギルドのご一行達は、来た道を取って帰るのだった。
◇
「──おーう、今帰ったぞー」
「あ、おじじ様! おばば様も!
おかえりなさい! 今ケンタさんがおかしの準備をしてますよ!」
「うむうむ、感心感心。
ケンタもやはり気概の溢れた漢であったか。
60人分とか流石に無理かと思っていたのだがのう」
ランクIを引き連れたギルドマスターとアルギアは
来た道を普通に戻り、これまた特に事故も何事も無く、ギルドに到着していた。
そして帰ってきてみれば、受付手前を通る時に甘い感じの匂いが漂っている。
「おかしだー!」
「わーい!」
「おかしだー!」
「じーく、おかし!」
その匂いに敏感に……まあ別に鋭い嗅覚を用いなくても部屋に充満しているのだが
お菓子の甘い香りを嗅ぎつけ、マスターの後ろに居た子供達は大はしゃぎを見せる。
「こーら、お前達!
まだ依頼は終わってないだろう? 楽しみなのは判るけどな。
でも仕事は仕事なんだ、きっちり終わらせてからじゃないと駄目だぞ!」
「はーい!」
「わかったー!」
「おかしー!」
「おいちょっと待て、明らかにわかってないのがいるぞ」
そんなハートフルボッコな会話もさておいて
ギルドマスターとアルギアは、今日集まったランクIの子供達を朝と同じく食堂に集め
今日の依頼の達成度合いを順々に片付けて行く事になる。
「それじゃぁ報告会だな、まずは食器洗いの方から。
ミニア、みんなしっかりと食器を洗ってくれてたか?」
「はいおじじ様、大丈夫でしたよ。
今は水切りのために籠の中で縦にされて台所に置かれてます」
「ん、わかった」
食器洗い監査官はミニアである。
元々食器棚も台所も、どちらかと言えばギルド内部の生活空間になっている。
故にここら辺は身内でなければ入る事が躊躇われるための人選だ。
「では次は宿泊施設の清掃の依頼だな。
センリ、童共はしっかりと頑張っていたのだな?」
「ええ、大丈夫です。
しっかりと真剣に、綺麗にしてくれてましたよ」
「お姉ちゃんのお部屋、ちょっと汚かった。」
「な゛っ!? し、失礼な!
部屋を汚してるのは私じゃなくてアレスよッ!
毎度毎度私も頑張って片付けてるんだからね?!」
宿泊施設監査官はセンリ。
宿泊施設を利用しているのはもちろん冒険者であるため
マスター達が帰ってきた時に、今回の内容を知るためアルギアに捕らえられていた。
「で、薬草採集の方はあちらで確認もしてきたし……
よし、今回も問題無く終わる事が出来たな」
「そうか、うむうむ。ご苦労だったな、童共。
お前様、我は一度受付へ行って報酬を取ってくるぞ?」
「ああ、頼む。センリも突然すまなかったな。
時間まで部屋に戻ってゆっくりしててくれ」
「はい、じゃあ私はこれで」
「部屋の掃除もちゃんとしておけよ?」
「それはアレスに言ってくださいッッ!!」
先程子供から上がった抗議でからかいポイントが追加されたのか
早速いじられながら見送られる事となるセンリ。
そして子供達は人数が人数なので、食堂が彼らの臨時受付窓口となる。
ギルドマスターが子供達を並ばせている間に、アルギアが金銭袋を二つ持って現れた。
「よし、じゃあテーブルずらすか」
「うむ、了解」
大人二人でガタガタとテーブルと椅子をずらし、臨時の受付窓口が完成する。
袋の片方をギルドマスターへと渡し、二人揃って着席する。
「まず薬草組が取ってきた他の収集品は後回しだ。
全員が請け負った依頼の報酬を渡していくぞー」
「前の童がよけたら、前に進んで受け取るのだぞー」
「はーい!」
「わかりましたー!」
「おかs……」
「それはもう良いっての」
先程から熱狂的おかしファンの子供は
ついに年長組の子供にペチッと叩かれてしまった。
少しだけ照れたように「てへへ」と舌を出しているようで、反省は僅からしい。
「よし、今日はご苦労様。
報酬の2500zだ。持って帰ってお母さん達を喜ばせてやると良い」
「はいっ!」
「うむ、ではこれが報酬の2500zだ。
また時期が来たらよろしく頼むぞ、童よ」
「はい、アルギアさん。またよろしくお願いします」
「うむうむ」
そうして次々に手渡されていく報酬。
この光景も毎度の事であり、やはり二人は手馴れていた。
2500zという額は、一般家庭においてもやはり大金とは言えない額である。
が、しかし。
先にも述べた事がある通り、国によってはこの子供が稼ぐ報酬ですら
生活基盤の支えとなっている場合がある。ルミナが良い例だ。
子供であっても、貴重な労働力。
故に年間を通じて一日中休みである日などは殆ど存在しない。
だからこそ、基本的には冒険者の世間体のためこの施設の評判は良くは無いが
ここで得られる報酬に助けられ、命を繋いだ家庭は
経営を始めてから2000を超える。それだけの人数が路頭に迷わず済んだのだ。
「……よし、これで全員渡し終わったな。みんな、今日は本当にご苦労だった!
後で定期便の所まで送っていくから、それまでは各自のんびりしていてくれ!」
全員の依頼が終了したから、といってその場で解散とはならない。
子供の小遣いレベルであったとしても、持っているのはまさに子供。
故に過去の歴史で一度だけだが、帰宅途中の子供を襲い
危害を加えた上で報酬を強奪して逃げた犯罪者が出た事があるのだ。
その件の犯罪者は当時の冒険者ギルドの面々に探り当てられ
悪質すぎるというのもあって命の灯火を消されたが
これを教訓として、先輩が「ギルドの後輩」を家まで送り届ける事が通例となった。
「それじゃ、ケンタがお菓子を完成させるまでは
薬草組が取ってきた森の恵みの鑑定に入ろうかね」
「うむ、そうだな。
採集組の童共よー。薬草以外に採集した物をこちらへ持ってくるのだー」
『『『はーい』』』
冒険者ギルド側からすれば、まだまだ手の届かない範囲は確かにある。
現段階で完全に満足しているわけではないが、それでも充実感は得られる。
たとえ子供であるとはいえ、ギルドと彼らは相互扶助の関係であり
助け合って、互いの利を出し続けているのである。
ランクIでも、ランクオーバーⅩでも、一冒険者には変わりない。
例え小さく、出来る事が少なく、依頼を受けられる時期が短かろうと
ここに訪れる子供達は、等しく冒険者である。
まだまだ未熟ながらも、ギルドの歯車として回っている。
故に彼らの安全を保障するのも、ギルド側の義務であった。
冒険者ギルドは、今日も平穏である。
★おまけ☆
「よーし、みんなー。お菓子出来たぞー」
「お、やっと出来たか。良い匂いだな」
「うむ、素朴ではあるが、甘い匂いが良い感じであるな」
「わーい!」
「わーい!」
「おかしー!」
「ほらほら、こっちに沸くんじゃない。
みんなテーブル着かないと駄目だろ? お兄さん全部喰っちゃうぞ」
「ダメー!」
「だめー!」
「じゃ、ちゃんと座らなくちゃな。
ほーら座った座った。立ち食いはだめだぞー」
『『はーーい』』
そうしてケンタはミニアに手伝いに回ってもらい
テーブルに座る子供達の前に、小麦粉に塩と砂糖を混ぜ込んだ
一口サイズの焼き菓子を着々と置いていく。
「よーし、みんな行き渡ったなー」
「おかしー!」
「おかしー!」
「O・CA・SHI!」
「それじゃ、頂きますー」
『『いっただきまーす!!』』
疲れた体に甘いものはやはり効くのか、子供達は喜んで焼き菓子をほおばる。
ケンタとミニアも着席し、自分達で作ったお菓子のおいしさを楽しんでいた。
「おい。」
「コラ。」
「ん? どしたんすかー。
マスターさんにアルギアさん」
「俺とアルギアに回ってきてないぞ?」
「なのに何故先に食しておるのだお主等は」
「だって、最初っから二人の分なんて用意してないし」
『なん……だと……』
「あんな短時間で60人分作れとか無理ありすぎですよ。
まあなんとか作りましたけどねー。
そんな中で大人が食う量を作る余裕なんてあるわけもなく♪」
「ちょ、ちょ待て! だったらお前が今食ってるモンはなんだ!」
「そうだそうだ! お主が食っているのに我等には欠片も無いだと?!」
「自分の分位は何とか確保しますよ。
大人の分なんて知ったこっちゃねーです。
自分で作ればいいじゃないですか」
「お、おぉぉぉぉおぉおぉぉぉ……」
「ぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉ……」
おやつ時の時間、冒険者ギルドの食堂に
長生きな二人組の絶望の声が響き渡る。
刃物を手に入れる場合、こちらほどお手頃には手に入りません。
普通の金物屋に行くと300Gほど取られます。
客の往来にこだわっていない共和国の親父さんならでは、ですね。
近所の畑の社長ドラゴンと交渉すれば、そこの作物も安価で手に入りますし。




