それぞれの依頼2
終・異邦人の文解説にひとつ付け加えます。
興味がある方は一旦そちらへどうぞ。
特に話の流れに影響はありません、あくまで注釈です。
本日の湿度、快適。
アルギアンス共和国にある冒険者ギルド所属の人達の一日が、これから始まる。
~ それぞれの依頼2 ~
「ヒィィィャッホォォォォォーーーーーーーウッッ!!」
「ギャグォァァァァァ~~~ッッ♪」
今日も今日とて、竜が舞う。
広き空にて、竜が舞う。
その速度、1時間で200キロは進めそうな速度である。
何故そのドラゴンに乗っている冒険者は酸欠も何も起こさず
ひたすらハイテンションで彼女に乗り続けられるのだろうか。
「今日も最高でーーーーーーーーーっすッッ!!
アルギアさん愛してるぅーーーーーーーーーッッ!!」
「グゴァァァアアァァァーーーーッッ!!」
生物とは、常に環境に合わせて進化をするという。
おそらく彼女は、その筆頭なのであろう。
初心者ゆえに採取依頼しかメインに取り扱えず
なおかつその本数を増やしてこなしたい。
それで毎日、1時間で200キロも空を飛ぶ生活を続けていれば
確かに突然変異を起こしてもおかしくは無い。親御さんは泣きそうだが。
「アァ~~~~~~~~~ーーーーッッ!!
あっ、アァァァアアァァァーーーー!?」
「ギャオッ!?」
そして調子に乗ってアルギアの背で立ち上がり
風圧を全てカラダに受け、いつも通り背中からずり落ちて空へ落下して行く。
いつもの風景である。
◇
「あ、たたた……、んーまた落っこちちゃったか……。
ふー、まあ森が下にあるところでしか立たない様にしてるけど」
今更過ぎる気がするが、彼女の認識は色々と間違っている。
本来、クッション代わりに木へ落ちたわけだが……。
竜が空を飛ぶ高度から普通に落下した場合、途中で風の抵抗を受け
落下する方向の向きが変わったところで超絶な速度で森へ突っ込む。
そんな速度で木にぶつかったら、人間の体など普通にひしゃげる。
クッションになる前に硬いところに当たって、色々と酷い事になるのだ。
だが、そんな状況を彼女はこの短期間で何故か克服していた。
以前ギルドマスターから駄目出しを食らったその日からまだ1ヶ月程度しか経っていない。
そして、その期間の間で装備を整えたわけでもない。
単純に、彼女の体が凄い勢いで変異しているのである。
おそらく防御力という点を鑑みればオーバーⅩランクですら彼女には適わない。
しかしそんな事は本人も露知らず。独り言を呟きながら
引っかかった上でクッションになってくれた木から降りて、地面へと着地。
改めて森を見渡して、自分が来た事が無い森と確認。
「んんー、前も2日ぐらい彷徨う事になったし……。
一応、アルギアさんが迎えに着てくれるのは期待しないでおこう、うん」
今回彼女が依頼として受けた3本の依頼は、そこまで珍しいものでもない。
森という森であればそこそこ探し回れば生えていると思われるもの。
しっかりと探しきる事が出来れば、品質を維持しつつ持ち帰ることも容易い。
見つける事に苦労しない薬草素材なために、ギルド側が求める内容は品質となる。
お店に置かれているしなびた薬草素材……。
もしくは長期保存用に乾燥させた薬草素材よりも遥かに効能が良い素材を用意。
その圧倒的効力に納得してもらって、リピーターを増やしているのがギルドの現状である。
「でもまぁ、ちょっと体も痛むし……
ゆっくり歩き回りながら、森を散策しておこうっと」
彼女にとってはこの1ヶ月でこのような内容が日常茶飯事となってしまった。
殆ど遭難に近い状態なのに、危機感ゼロである。
多少痛む体に我慢をしつつ、ルミナはドンドン森の奥へと進んでいった。
◇
「おぉーぅ……深森狼が3匹もいる……」
そうして森をうろついていると、運悪く害獣指定の深森狼を発見する。
深森狼。その名の通り狼である。
基本的なデータは狼とほぼ同じ。
森に住んでいるため、狩りやすい様に進化していったのか
完全に草むらに混ざると毛皮がカムフラージュ化し、認識しづらくなる。
ミリタリー柄と呼ばれる内容を、生物進化で辿り付いている狼、それが深森狼だ。
と、深森狼のステータスを確認したところで特段どうという事は無い。
何故なら彼女は冒険者としてまだまだ初心者。
腕っ節など待ちのチンピラにすら劣るレベルである。
必然結論は一つ。
「ばれる前にとっとと逃げましょう~♪」
鼻歌交じりで歩きたかったが、仮にも相手は野生の住人。
そんな音を出せば、下手をしなくてもたちどころに気付かれる。
さらに幸いだった事に、そよ風ではあるが立ち位置が完全に彼等の風下。
匂いで気取られる可能性も低い。
最近鬼のような採集の日々で培った、探索者向けとしか思えない動きを用いて
ルミナは静かに静かに、その群れから離れて行くのであった。
◇
森には色々な住民が居る。
先程の狼に加えて、川に行けば魚も居るだろうし
その魚を狙う大型の害獣も居るかもしれない。
鳥などもそこら辺に居るし、植物なども言わずもかな。
森の住民一人一人が、森の恩恵を受けつつ生きているのである。
「うわー……今日は本当についてない日だなぁ」
その住民の中には、コボルトなんかも含まれるわけである。
コボルト。一言で言うなら二足歩行の中型犬。
群れを作って生息し、手には肉球がありながらも道具を使いこなす知能を持つ。
その容姿から相まって、コボルトファンクラブなんぞというのも他国にはあったり。
そして、以前ギルドマスターが大根を用いて交渉していたコボルト達は
マスター達と付き合うようになったせいか、人間の言葉を理解している。
それはあくまで、マスター達が交易をしているコボルト達が特別なのであり
普通のコボルト達は、人間を見たら襲ってくるのが定番である。
マスター達も、まだまだ全世界のコボルトとまでは行かず
一部のコボルト達の集落としか交易を行えていない。
故にあのコボルト達は【例外】ではない、野生のコボルトなのだ。
(……ん? でもなんか様子がおかしい……かな?)
体勢を整え、逃げる準備をしていルミナの視線にコボルトの動きが映るが
何やら野生らしくない動きをしているのが見えた。
物陰からそろりと観察していると……
(あれは……子犬、かしら……怪我をしているのかな?)
コボルトは全員で4匹。観察を続けていると2匹ぐらいはしゃがんでおり
何かに対して悲しい声を上げ続けている様子が見える。
そのコボルト達の隙間から見えるのが、足に血を流した深森狼の子供が見えた。
コボルトと深森狼は、先祖の繋がりからなのか
一部のコボルト集落では、共に狩りを行う様子も見られている。
状況から察するに、このコボルト達も深森狼と共生しており
その共生している狼の子供が、何らかの理由で怪我をしたのだろう。
裏からずっと観察を続けていたルミナだが
ここで自然の後押しなのか、神様のイタズラなのか……。
さわやかなそよ風が後ろからフゥッと、吹いていった。
その心地よさを少々堪能しながら様子を見続けるルミナだが───
「……クン? フンフンフン……」
「? ? フンフンフンフン……」
「……げ」
ただのそよ風でしかなかった突然の来訪者は、木陰に隠れていたルミナの匂いを
きっちりと彼等コボルトの所まで運んでしまったようである。
においの違和感に気付き、しきりに鼻を動かしており
ばれるのも時間の問題というところである。
(やっばい……! これは万事休す、かな……)
そんな風に思い浮かべていた辺りで、コボルト達が匂いの発生源に気付いてしまう。
コボルト達は全員が全員顔を見合わせ、ルミナが考える間もなく彼女に殺到した。
「って、ぎゃーーーっ!? 反応早すぎだぁー!」
「わんわふわんっ!」
「わぅんわぅーんっ!」
「きゅーんきゅーん!」
「きゃぅーん!!」
頑丈さが取り柄と言えど、致命打を食らえば防御力など関係が無い。
いかに屈強な石頭をしていようと眼を刺されれば致命傷になりかねないのと同じだ。
「たーっけてぇーーーーーぇぇぇぇ…………って、あれ?」
「わうわうわうわうー!」
「わふんわふんわふーん!」
人生の終了と覚悟をして、無駄な抵抗でもしてやろうかと考えていた辺りで
ルミナはコボルト達の違和感に気付く。
殺到してこそ居るが、全員武器を持っているでも噛み付いてくるでもない。
ただひたすらに、何かを伝えようとルミナに鳴き掛かっているだけだった。
「……えー? なんだ、これ?」
野生のコボルトは、その見た目からは信じられないが
本当に害獣のカテゴリーに属する魔獣である。
人間を見かけたら、集団で襲い掛かって全力で殺しに掛かってくる生き物である。
であるはずなのに……今の目の前のコボルト達は、懇願をしているのだろうか?
ルミナ本人の視点で考えれば、自分を御す事など彼等からすれば容易い。
何故にここまで人に気心を許し近寄ってくるのかが────
「…………あ。もしかして?
えーと、あなた達ってまさか……ギルドマスター達と交易してる子達なのかな?」
『わうわうわうわうわうーー!』
そのルミナの言葉に、全員が一斉に首を縦に振る。
そう、まさかのまさかだった。
このコボルト達はギルドマスターと交易をしている数少ないコボルト達だった。
彼等はギルドマスター達との交易のため。冒険者ギルドの周りに良く現れる。
そしてその場所の匂いを、犬族独特の嗅覚で覚えていたのだ。
その覚えていた匂いを持つ者が周りに居る……そういう状況からコボルト達は
自分達の力になってくれる人間が現れた、と認識したのだ
そしてルミナは思案する。
彼等は先ほど懇願するような形で自分に来襲した。
つまり、何かを頼みたかったという事だ。
その考えに行き着き、風景を見渡せば……。
「───わかったぁ! あの子ねッ?! そういう事ね?!」
『ワォォォーーーンッ!!』
ルミナの発した声とその体の指し示す動きに
コボルト達は全員が同意の遠吠えを挙げる。
言葉がわからなくても、伝わるものはあるのだろう。
人間と交易をしているといえど、コボルトも所詮は野生の魔獣。
傷を治す文化など、傷を舐める程度しか持ち合わせてはいなかったのだ。
しかしそれをやったところで子供狼の衰弱は止まらない。
そんなところに現れた彼女は、まさに彼等にとって救世主だった。
そうしてルミナは、深森狼の子供の方へ掛けて行き
子供の様子をさっくりと伺ってみる。
「んーと、えーっと……? 後ろ足を怪我してるのね……。
傷に刺さっているのは……よし、ないかな?
襲われた……のかな? トラバサミかも知れないかな」
「ピスピス……」
「よ、よーしよしよし……大丈夫だからね~。
お姉さんに任せてね。よしよしよし~」
「キュン……」
子供狼が助けを請うように鼻を鳴らしてきたので、ルミナは頭を優しく撫でてやる。
一時を争うほどではないが、やはり怪我の影響もあって若干衰弱しているらしい。
怪我の具合を完全に確認した後、ルミナは自分用に用意していたポーションを用意。
静かに静かに、子供狼へと垂らして行く。
「キャゥ~ン……」
「よしよし、良く頑張ったね……。
あとは包帯で巻いて……水を上げれば大丈夫よね。
一応帰ったらマスターに、野生動物の応急処置の仕方習っておこうかな……」
ポーション自体は傷口に流し込んでも染みるような薬品ではないため
子供狼に対してもどうやら無害であったようである。
体力が回復するまではもう少し掛かりそうだが
どうやら、この子供狼の状態がこれ以上悪化する事はなさそうだ。
そして包帯にもポーションを少し染み込ませ、子供狼の後ろ足へと巻きつける。
最後に軽くキュッと縛った所で、その場しのぎの応急処置は完了した。
「うん、よし! きっとこれで大丈夫!
多分人間以外にもポーションは効くはず! 聞いた事無いけど!」
「ピスピス……」
「うんうん、おちびちゃんもう大丈夫だからね~……。
ほら、お水は飲めるかな?」
水筒から掌に水を垂らし、子供狼の前に差し出してみる。
子供狼も水分が欲しかったのか、下をぺちょぺちょと出して水を飲み始めた。
その可愛さに思わずうっとりしてしまうルミナだが
相手は怪我の真っ最中なので、なんとか自重して看病を続ける。
「わーぅ……?」
「きゅ~ん……?」
「あ、うん。もう平気だよ。
少しすればポーションも効いてくるはずだし……。
後は皆でゆっくり運んであげればOKかな?」
コボルト達はその言葉をルミナから聴き、一安心をする。
自分達の仲間の子供を助ける事が出来た。そんな誇りが彼等の胸に灯ったのだ。
やったのはほぼルミナだが。
「わんっ!」
「えっ?」
「わふっ!」
「な、何?」
「わぉーん!」
「って、うわっ!? ちょっと?!」
一息ついていたルミナの横に、一匹のコボルトが寄り添う。
それに疑問符を返している所でさらに一匹が来て
三匹目のコボルトが鳴いたところで、ルミナは胴上げに近い形となる。
そして四匹目は、胴上げされたルミナのお腹に
治療が終わった子供狼を乗せた上で、自分も胴上げの形へ混ざる。
「ピスピス」
「っととと、おーよしよしよし……傷は大丈夫かな?」
「キューン」
「わふーん!」
「え、ええー!? ちょっ、どこに……ちょ……アーーーーーッ!!!」
全員が全員ルミナの下に付いた後
コボルト達は突然森の中を全力疾走し始める。
例え自分達より大きい人間が乗っかっても
四匹の背筋を用いて運べばそこまで負担にならないようだ。
そして、ルミナはわけもわからず森の中へと連れ去られる。
哀れ、コボルトに浚われていってしまったのだった。
冒険者ランクⅡ、ルミナ。
コボルトの里、ご宿泊決定。 待遇・VIP




