表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/26

終・異邦人

本日のお前、誰だ!!

アルギアンス共和国にある冒険者ギルドの一日が、また始まる。




~ 終・異邦人 ~







「んん~~~……」



ガリガリと頭を掻きながら、食堂へと入ってくる冒険者が一人。

ハンターのリヴィスである。



「あ、リヴィスさんおはよーございます」

「ん、おぉ……ミニアちゃんか……。

 あまり朝に居ないのに、珍しいねぇ……」

「あ、あはは……まだまだ高速便のお手伝い、慣れなくて。

 でも……5歳の私でも頑張って起きてるんですから

 リヴィスさんもちゃんと起きなくちゃ駄目ですよ?」

「グッ……! じ、地味に痛い所突いて来るね……。

 ま、気をつけておこうか……ん?」



横から来たミニアと話している最中、見慣れない色が横切って行くのをリヴィスは見た。

その色を追いかけてみると、黒い髪の……道化師? が、食事の席に座る所だ。



「ミニアちゃん、あれ……誰? 俺見た事ないんだけど」

「あ、一昨日行き倒れとして保護された方だそーですよぉ」

「あぁ、あの件のか……」



ミニアから仔細を聞き、黒髪の彼……ケンタのほうを見やる。

が、しかし……全く見た事が無い自分が様子を見ても、元気がないのがわかる。



「おぅコラリヴィス。うちの曾孫を朝っぱらからナンパか?

 オーケーだ、朝食なんてやめて外で殴り合おうぜ」

「あ、おじじ様……」

「いぃっ?! マ、マスター!?

 違います違います! ただたまたま話してただけですッ!」

「ほ~んとぉ~かぁ~?」

「そ、そうに決まってんだろッ! なっ! ミニア!」

「…………ポッ♡」

「ミニアさぁぁぁぁぁんっ!?」

「あーははははは♪

 良い度胸してんじゃねぇかハンターのガキが……!ぶち殺して」

「朝っぱらから何盛っとんじゃ、お前様」



ズゴィィィン、熱したフライパンで軽快な音を奏でるギルドマスター。

どうやら暴走寸前の所でアルギアが駆けつけてくれたようだ。合掌。



「あ、ありがとうございます、姐御さん……。

 よかった、死ぬかと……」

「まぁ、たまにジジバカが炸裂する我の(つがい)だがな。

 本当に殺される事は無いから安心せい。せいぜい指の3、4本で収まるであろう」

「地味に今後が絶望的なダメージですね!?」



助けられたアルギアに何故か再度脅されているような感覚に陥っていた時

ふと、視界に映ったケンタが椅子に座らず移動を開始する。



「……トイレにでも行くのか? って、あ」



ぶぎゅ。

元気が無く、少し落ち込んでいるような様子のケンタは

地面に転がるギルドマスターに気付かず、顔面を踏んづけた上でなお気付かず

そのまま通り過ぎて、食事前なのに手洗い所がある方向へ進んで行く。



「おぉぉう……お前様、綺麗に足跡を残されおって……」

「ていうか俺はそれより頭にある特大のたんこぶの方が気になるんですけど」

「ひどいことをする者も居たものだのう」

「ほんとうですねー。そんなひといるんですねー、さ、たべよたべよ」



返答に一気にやる気が無くなり、リヴィスはとっとと席に付いて

用意された魚を食し始める。

取り残された夫婦は、夫が気絶……妻に至っては突っ込んで欲しい所で突っ込まれず

ちょっと寂しげにその場に立ち尽くすのだった。







「……ふー。原始的なトイレだなぁ」



そんな風に漏らしながら、一人手洗いに篭るケンタ。

彼が訪れる事となった時限の壁の先は、西暦2038年と呼ばれる時代。

お手洗いも非常に進化しており、最新式ではトイレ式休憩所なるものまで存在した。

彼の時代の2038年に比べれば、例え冒険者ギルドのトイレが結構良い質といえど

お尻を優しく愛してくれるウォシュレットと呼ばれる装置には遠く及ばない。



「これから……どうしよう、かな」



ふと、彼は呟きを漏らす。

昨日ギルドマスター達に聞かされた事を思い出しながら……。











「────殺したが?」

「え、なっ……」



そのギルドマスターの言葉を、即座に理解する事が出来ず

気楽に聞いたはずの質問なのに、空気が重くなるのを肌で感じるケンタ。



「……まぁ、当然だわな」

「ちょ、アレスさんッ?!」

「異邦人のお前の世界がどんなもんか知らねーけどさぁ。

 身体能力やら魔法能力がいきなり特化されただけで

 ハーレムなんぞを望むヤツがまともとは俺には思えんって話さ」



マスターから、過去に現れた異邦人が述べている台詞を鑑みて

アレスは殺された理由がそこにこそあるのだろうと踏んだ。

事実、それはその通りである。



「よくわかっているようだな、アレス。

 センリの尻の下に敷き続けられた甲斐が出てきたかー?」

「へっ、あれもあれでなかなか良いモンなんだぜ。マスターも知ってんだろ。

 ……で、殺した理由ってなんなんだ?」

「ん、言う必要はあったか?」

「なんかケンタも、話聞く限りそのぶっ殺されたヤツの同胞みてぇだし

 自分の同胞の死因なんてのは、やっぱ気になるもんじゃねーの?」

「────まぁ、そうかもしれんなぁ。

 ……少し、長くなるが良いか?」

「あ……──。お願い、します」

「そうか、わかった。

 アルギア、すまない。全員にお茶を持って来てもらえるか?

 ついでにミニアもそろそろ起きる頃だろうし、受付嬢にしておいてくれ」

「了解した、お前様」





まぁ、あれだな。話し出すと本当に少し長かったりするんだ。

俺達が冒険者ギルドとして、そいつを保護したんだがな?


話は互いの状況を確認した上でもチグハグだし

強いのは認めるが自分の能力を把握しても居ないのに過剰評価しているし

なのに他の周りの事は過小評価している、と問題行動が耐えんヤツだったんだ。

だが、俺達だって仮にも組織の運営に関わる者達だ。

間違ってもそんな理由で追放したり殺したりはせん。そこは間違えないでくれよ?


それでな……ある時にこの受付前、っととと……既に何回か立て直してるが

まあ当時の受付前でな、俺とそいつでちょっとしたいざこざがあってなぁ。



「ンだからよぉっ! 俺の力があればランクなんて飛び越して

 Ⅹクラスがやるモンだって片付けられるっつってんだろーが!!」

「いいや……駄目だ。もしものもしもで失敗した場合を想定しなきゃならない。

 力と魔法の能力が突飛してるのは認めるが……それだけでは任せられん」

「ハッ、ビビリ腰過ぎだろうよマスターよぉ……俺がそんなミスを───」

「……やめとけや、ヒヨッコ。

 とっつぁんだって一部おめぇさんの事考えてやるなっつってんだ。

 そこら辺を少しは考え────」

「るっせぇなッッ!! 雑魚はすっこンでろや!!」

「な、ざっ……! テメェッ!!」



ま、こういう感じに手当たり次第かじりつくやつでな。

もちろん人間の中身も見た上で、全部が全部粗雑じゃないのは知ってたんだが……。



「やめんか貴様等ッ!!

 ここは所属者全員が集まる場所であるぞッ!

 互いに無駄に評判を落とすような真似をするでないッ!!」

「あ゛ぁ゛っ!? 人に指図してんじゃねぇぞクソババァがっ!!

 ちょっと綺麗だと思ってお高く留まりやがって────」

「…………おい」

「るっせぇっつってんだよッ! だぁってろマスターッ!!

 今から俺が行ってちょちょいと片付けて───」



んー、もしかしたらアルギアを馬鹿にされたぐらいで全ギレしちまった俺が

この件での一番の戦犯なのかも知れんけどなぁ……。

ま、人生でずっと一緒に居るって決めた伴侶に暴言吐かれちゃ、男として、な?

頭に来ちまって、本気で殺しに掛かっちまったんだ。



「ッ……?! グッ……!!」

「───俺自身の身体能力が低いとは言え……よく、止めたな。

 さすがは身体能力だけはⅩランク並って所か?」

「───コラ、オッサン。てめぇ、俺に……」



俺も元々、前線で頑張るタイプじゃないもんでなぁ。

アルギアと出会った時期から体が老化してないとはいえ

鍛える時間もまるでないし、ただキレただけじゃぁ

その当時のオーバーⅩ並っつっても過言じゃない能力持ったあいつにゃ

決死の一撃すら通らなかったんだ。まぁそれほどあいつが強かったって事だな。



「何してくれやがったんだコラァァァァァァアアアアッッッ!?」

「ぬッ!? ッグ、オォォ……!」

「う、おわあぁぁぁあああぁあぁーーーーー!?」

「お、お前さ……!」



で、俺の一撃が入りかけて、そいつもキレちまったわけだな。

アレスもオーバーⅩの噂ぐらいは、知っているだろう。

その一撃で城の城壁すら吹き飛ばすようなヤツが居る世界が、そのランクなのを。


んで、それに近い力を持ったヤツがキレて

こんな木造の建物が持つわけも無くてなぁ。

宿泊施設を除いて全壊しちまったんだわ、ハハハハ。


が、まぁ……あいつのやばい行動はそこからだったか。



「ったくよぉ……こんなクソ寂れた場所で運営してる程度の野郎がよ。

 最強の力を持ってる俺に何してくれてんだ、あぁ?」

「ぬ……ぐッ……」



ぶっ飛ばした瓦礫の中から俺を引きずり出してな。

俺も悪い所はあるっちゃあるんだが、まあ説教かまされたわけだな。

よく、鏡を見た上で我が行動を見直せって言葉が言われてるが……

あの状況はまさにそれだったなぁ。


んで、俺がそんな風にされてるところでな。

無事だった宿泊施設側から、泊まってた冒険者が異常を察して皆が現れてな?


その構図だけ見れば、完全に俺が被害者であいつが加害者なわけだ。

施設破壊って意味じゃこれも間違ってないんだが……。



「おいコラクソガキッ! テメェ俺等の親父さんに何してんだぁー!?」

「どういう了見してんだ阿呆ッ! 散々世話になってるクセに

 一体何をどうしたらここまでやれんだオイッ!!」

「っせぇんだよぉぉぉぉおおぉぉーーーーーーー!!

 全部こいつがワリィに決まってんだろーがッ!!

 見てわかんねぇのか屑共がッ!!」



ま、そんなわけさ。完全に全員敵に回して、な。

その後はもう大乱戦さ。俺はダメージでちょっと参加出来る状態じゃなかったけど。


で……その大乱戦が終わるまでに、な?

───あいつにやられて、死亡者も出ちまった訳だ。



「ハンッ、クソが……実力もねーのに俺に突っかかってくっからだ」



その死亡者ってのが、な。

家の事情があって、俺がガキの頃から良く世話してやってたヤツだったんだ。

それをアルギアも知ってたもんで、な……。

傷なんて気にせず立ち上がろうとしたんだけど、な。





ギガルグァァァァァァァアアアァァァァァァァッッッ!!!!!




先に、アルギアの方がブチギレてなー。

それ以前にキレても良いシーンたくさんなかったか、って?

いや……その時はまだ、冒険者の荷物とかもごっそり残ってた宿泊施設が

なんとか倒壊してなかったからな、皆のために壊したくなかったんだろう。



「ッ!? くっそ、移動のためだけに変身してるわけじゃねえってかッ!!」



そっからは、アルギアのオールターンってところか。

口から凄まじい雷撃出して、鋭い爪の前足でぶっ叩いて……

本来オーバーⅩってのは一人でも竜決闘で勝てるぐらいの実力者なんだがな。

あいつはただ単に力に振り回されてただけだからな……。

当然アルギアをなんとかする力なんぞなくてなぁ。



「くっ、そっ……! が、ァァァアァァァァアァァアーーーーッッッ!?」



そのうち、違うバリエーションの氷結ブレスでやられてボロッボロさ。

まあ俺等ももっとボロボロだったんだけどな。




そんで、そこからはまぁ……後処理さ。

冒険者ギルドと、アルギアの大暴れも混ざった関係で宿泊施設も倒壊してな。

その片付けもあったし……でも俺が優先したかったのは

やっぱり───俺のために突っかかって死んじまった奴の事だ。

すぐそこの畑に仲が良い竜がいるんでな。

そいつの遺体を抱えて、故郷に飛んでいってもらって親御さんに土下座した。


ま、やっぱり最初は殴られたし、蹴られて……水だって掛けられた。

でもまぁ、それでも……最後にゃ許してくれたよ。

『今まで、この子を……うちの家族を気にして下さってありがとうございます』ってな。


凄い、やるせなかったよ……。

もう100年も運営してっからな。人が死ぬのを知るのなんて一度や二度じゃないんだが

本当に、本当にやるせない内容だったよ……。



当然、その後そいつは追放処分だ。

最初の切っ掛けが、あいつの無神経な暴言にあったとしても

先に手を出しちまったのは俺だったからな。

でも冒険者連中は、それを踏まえても俺の味方についてくれてな……。


それに加えて、あいつはその時点で一人殺してしまっている。

そんな奴が、同業者として一緒に所属しているのが耐えられなかったんだとさ。






「……その追放処分の時に、殺したんですか?」

「いや、違うぞ? その時はあくまで追放処分だ」



一旦話に区切りを見せて、ギルドマスターは一息付く。

どうやら話している間にアルギアもお茶を持って戻って来ていた様だ。

マスターのために憤り、そして死んでしまった彼の話が出た際は

さすがのアルギアも、悲しい表情を浮かべていた。


目の前にあったお茶を静かに(すす)り、口を潤す。



「殺すに至ったのは、ここからだ───」






そうして、あいつは追放処分にされたわけだが……。

実際のところ顔に関してはかなり良い顔立ちだったし

加えてあの能力だからな……一部の依頼者には神聖視されてたんだよ。


んで、冒険者として顔も知られてるから、一部以外にゃ体裁が悪い。

加えて、冒険者なのに冒険者が敵な状況になったわけだな。

そこに至るまでで自業自得な部分があるから、これに関しちゃ何も言えん。


で……だ。厄介すぎる問題が勃発したのはこれ以降だな。

あいつを神聖視してたヤツの中で、たまたま依頼でかち合った他国の姫が居た。

んで、その姫があいつを神輿にして担ぎ上げたんだ。


あいつもあいつで贅沢三昧したみたいでな?

次に戦場であった時は、太っていなかったとはいえ

ストレスなんて微塵も感じられないツヤツヤした顔してやがったよ。


っと……話が少しズレちまったな。

簡単に言うと、だ。あいつは他国の王族に完全に取り入ったんだよ。

そして自分から神輿になることで、その国の操作に成功した。

一応は、近年だとそこそこ有名な話にここからなっていくんだが……。

お前なら知ってるだろう? アレス。






「……この話って、何年前だっけ?」

「30年位前の話だ」

「……ディス・トレスの戦いかっ!?」

「そう。そう呼ばれてる戦いだ。」



ディス・トレスの戦いとは、要するに戦争である。

アルギアンス共和国が建国以来、初めて武力を行使した戦いとして名高い戦い。

その戦闘力は国を勝ち取ってから70年経ったその時でも

一切衰えるどころかドラゴニアンとして国民が増えた分だけ強化されており

180,000人vs110人であった内容を持ってしても、国民を一人も減らさずに

勝利したその戦いは、近年での伝説となっている。



「アレが本当に参ったんだよ……本当に、な」

「まぁ……わかるよ、おやっさん。

 当事者だったら尚の事気分はよくねーだろ」

「……そうであろうな、本当に……あの屑のせいでッ……!」



なにせ、その戦いが発生した事によって。







「───ひとつの国、滅ぼしてたんじゃな……」







ま、今アレスが言った通りでな。

この国が建国されて以降初めての戦いになった。

元々その国も、うちらに対しては良い感情を一切持って無くてな。

依頼情報は無いかってことで、情報を集める権利すら

スパイ容疑を掛けられて案件が蹴られてしまったからなぁ。

本当に、なんでその国の姫さんとあいつが繋がったのか……。


ま、ともあれあいつの口車に乗せられたのもあったが

多分王族や軍閥も下種な考えを持っていたんだろうな。俺はそういう風に想像してるよ。


あくまでも予想でしかないが、高い軍事費用を払ってでも

アルギアとか、他の竜から素材を剥ぎ取って国庫を潤したかったんだろう。


宣戦布告すらなく、電撃作戦みたいにこっちの国の領土を侵犯してたからな。

本当に、その戦いでこっちに死人が出なかったのは奇跡に近いと思う。


俺もここまでの騒動になるとは予想出来て無くてな……。

あの戦い、実は初期段階で国の一部を制圧されてたら本当にやばかったんだ。

森の中に移住してきてた獣人が、決死の覚悟で持って来てくれた情報に救われたよ。

あいつらには本当に感謝だな。


そこから後は、俺が恥じも外聞も無く原種であるドラゴン達全員に声を掛けて

土下座して頼み込んで協力をお願いしたわけだ。

アルギアはその間、国境でその国を牽制してくれててな……。

こっちだって一歩間違ったら、アルギアを失っていただろう、な……。


けどまぁ、こっちもこっちで戦力さえ整っちまえば

全世界でも最強の一角に存在する軍事力があったわけだ。

加えて70年振りではあったが、俺も四方八方に罠と策を散りばめてな。

なんとか全ての状況が整ったのさ。そこの表面の決戦の場が、ディス・トレス平原だ。


それで、原種と俺の子供達が頑張ってくれてる間に

俺とアルギアと、もう一匹アンサルスっていう原種の竜で

後ろから軍事部分を強襲して回って潰してたんだ。

いくらドラゴン自体が人間側の手段でなんとかなるにしても

空から一方的に攻撃されてちゃ、あっちも何も出来んしな。


で、最後に軍の本拠地を強襲してる時に

アルギアの所に凄まじい魔法が迫ってきてな、撃墜されたんだ。

あの国の限界冒険者は、Ⅸが二人程度ってところで

騎士団、魔法兵団に関してもそんなに屈強じゃないのは良く知られてた。


つまり……そんな魔法を使えるやつなんざ、一人しか居ない。

落下したところで、凄い眼をしたあいつが現れてな。

今回の全ての原因になった、異常な強さを持つあいつとの戦いになって……。



「逢いたかったぜぇぇぇぇぇクソマスタァァァァーーーー!!」

「貴様の都合で国まで引っ張りだしやがって……! お前だけは絶対に許さんッ!!

 この戦いだけでどれだけの命が散っているか知っているのかぁーーーーー!!」

「駒にしかなれねぇクズになんざ興味はねぇんだよッ!!

 せいぜい苦しませて殺してやるから安心しろやっ!!

 テメェの気持ちワリィ嫁は飼い殺して実験し尽くしてやっから

 安心して逝けやぁーーーーーーーー!!」

「どこでその根性がひん曲がったったのかは知らん……だが……!

 貴様を信じて、貴様のために、貴様の都合で命を散らしている兵士達のためにッ!!

 


 死んで彼等に詫び続けろォォーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」



で、まぁなぁ……本当にあの時あいつに勝てたのは奇跡だと思ってる……。

力で圧倒的に劣っている俺が、何故かその時は鋭敏になってなー。

まあ後から聞いたらアルギアが俺を殺させないために

自分の命削ってまでバッフをかけてくれてたらしくてな?

身体能力があいつ以上にやばくなってたんだとよ。


あとでちゃんと【馬鹿なことをするなっ!】って怒ったんだがな。

そしたらこんな風に惚けられたさ。



「我の寿命が減ったところで、どうせお前様より長生きはするさ。

 そんな事よりお前様が居ないこれからの未来のほうが、我には耐えられんよ」



やっぱ、嫁さんは大事にしないとならんな、ハハハハ。



「バ、カ……な。こん……こんな話が、あってたまるかよ……。

 俺は……神に……選ばれ────」

「あ……あなたァーーーー!!」



意外な事にあいつにも嫁さんができてたらしくてな。件の姫さんさ。

どう(たら)し込んだのかは知らんが……まあお熱だったなぁ。

一応俺も、面倒ではあるが他国交渉でたまに会議に出席してたから

その国の跡継ぎだった姫さんとも多少面識があってね……。

俺がそれをやったのを遠方で見てたのもあって、すぐに鬼気迫る顔で言われたよ。



「あんたがッ……! あんたが全て悪いのにッ……!

 どうして、どうしてこんな戦争を起こしたのッ!?

 どうして、この人が殺されなければ─────」

「───いくらでも言うがいいさ。

 所詮あんたと俺、加えてそいつじゃ価値観が違いすぎる。

 何を言ったところで、伝えたところで平行線だ」

「そんな理由で納得出来るモノですかッ!!

 いつか、必ず貴方達の国を───」

「───いつか、って、なんだ?

 なんで、姫さんがこの場で生き残る事が前提になってるんだ?」



人の憎しみってのは、どこまで行っても止まらんもんでな。

憎しみの質の違いこそあれど、夫婦喧嘩は犬も食わんとかそんな言葉があるだろう。

一度憎しみに縛られちまったら、あとは互いに破滅しか残ってないんだな。



「───えっ?」

「……こっちは戦争吹っかけられたんだぞ。

 わざわざその敵対王族がここに出てきて」



元々俺のエゴで始まっちまった戦いってのもあった。

でも俺は、アルギア達と、子供達と、国のドラゴン達と。

まだまだ長生きしたかったんでな。最後までエゴは貫かせてもらったよ。




「始末しない訳、ないだろう」




相手が何かを言う前に、心臓を串刺しにして、な……。




憎しみはどこまで行っても憎しみしか生まれん。

他のものが生まれたとしても、それは無理矢理納得した妥協でしかない。

俺は、その当時も、今もだが……俺の仲間達が一番大切だった。


アルギアが大切だ。ダチの竜が大切だ。でっかいスライムも大切だし……

子供達も大切だ……最後にしちまうが、冒険者達も大切なんだよ。


本当はその後に、国軍と国に居る家族もろとも

全力でドラゴン達にブレスを吐いてもらって、殲滅に移るつもりだったんだがな。

まあ、やっぱり嫁さんの力は偉大ってところか。



「お前様……殲滅だけは、いけない。

 忘れてはならぬ、私達の仲間である冒険者の中にも

 ───あそこに家族が居る者がいるのだから」



そう言われちまうと、他の手立てを考えるしかなくてな……。

後味は悪すぎたけど、姫さんの王族血族、軍閥幹部も全員捕まえて

今回の戦争はこいつらのせいです!!って話にしてその国の中央に差し出してな。


数日後にゃ、全員晒し首になって中央広場に乗っかってたよ。

まあ敗戦した側にゃ人権なんぞ存在しないのが世の常だ。

逆に考えれば憎しみの矛先がこの十数人で済んだのが幸いだったかもしれんな。


それでも、王族と城を吹っ飛ばした事でその国の体制が崩壊。

一応は軍部だけしか駆除してなかったんで国を運営する内政部は残ってたんだが……。

権力にしがみついてしまったヤツが上層部に居てな?

一気に国が貧困して、あっという間に飢饉が起きて反乱が起きて。


原因の上層部はこぞって財産を持って逃げようとして。

そんなもん抱えて逃げられるほど、民衆も節穴じゃなくてな?

戦いの二年後にゃ、再度広場に同じ位の数の晒し首が並んだのさ。


そうして民衆がそのクーデターを成功させて……その後は当然、こうなる。


その国の領土が欲しい他の国が押し寄せて、威圧攻撃。

国に金もない、食料もない、元気も無いの何も無い状態……。

国にしがみついていた連中は、全員虐殺されてたよ。

ここで何か出来るんだったら、多分あの戦いで負けてたのは俺達だったろうよ。


一応な? 元々この戦いも完全にエゴを貫いて戦ってたんでな。

冒険者の中にこの国の出身者が居るのを確認して

そいつの家族、関係者、友達は全員原種に協力してもらって

うちの国に脱出してもらってたんだ。


で、しばらく農業してもらって野菜を他の国で売ってもらって。

経済状態が回復した後に、また移動してもらった。

故郷を奪ったのは間違いないから、一家族一家族に謝って回ったんだが……。

まあ、そういうところで暖かい対応されると、やっぱ戸惑ってしまうよ。


この戦いや国の滅ぶ経緯から考えても、滅ぼしたのはどう考えても

あいつと、攻撃をしちまった俺なもんでな。


世間的にもそれが完全な表面として伝えてるから

アルギアンス共和国が、その国を滅ぼしたって話になってんのさ。







「……ふぅ、長々と話してしまってすまないな。

 凄く詰まらん話だっただろう……これが、前の異邦人を殺すに至った経緯だ」

「あ……いや───大丈夫です。

 ちょっと、予想外すぎて……」

「そういう経緯があったんだなー。

 やっぱそういう話って、その時代に生きてた人の話聴くと

 教えられた話と違う部分がたくさんあって参考になるなぁ」



話が終わった後に、ケンタとアレスはそれぞれ回答をする。

特にアレスは事前知識としてその戦いの事を知っていたために

いろいろな裏事情があってその戦いが発生したことを知り、しきりに感心している。



「そうか? ろくでもない話だと思うがなぁ俺は」

「いやいや、我が知らぬ部分もたくさんあったぞ?

 そうなのか、一人であの者達に頭を下げに行っていたのか……。

 我も伴侶として、お前様に付き添って謝りたかったのう……」

「何言ってんだ。お前の頭はそんなに安くあっちゃならんだろう。

 割に合わん目を食うのは俺だけでいいさ」

「ぉーぅ、これが竜を惚れさせる男前かぁ。

 んっとに勝てねぇなぁおやっさんには」

「何寝言を抜かしてんだ。センリだって結構な腹黒だろうが。

 それと一緒に居れてるだけお前さんの方が男前だっつーの」

「……それは、もしかして我も相当な腹黒と言いたいのか?」

「え、あ、いや違いますよ? 違いますからね?」






彼自身、彼が居た世界では一介の学生でしかない。

彼の時代では、既に戦争の生き証人は存在しない。

戦争が起こったのは、彼が生きた時代の90年前なのだから。


故に、様々な情報媒体でどのような事があったのかを知ったところで

それらは全てデジタルという媒体にしか過ぎない。

実際のところ、そのデジタル世界でも近年になって幾つか模造が証明され

情報のチグハグの統合に、政府や他国はとても戸惑っている印象があった。


そんな彼の身に突然舞い降りた、身内殺しから発展する戦争の話。

語り草から想像出来る内容は、あまりにも恐ろしくて───



「俺……ここに居てもいいのかな……。

 いや、駄目だろ……仮にも同族っぽい俺が普通にしてても

 マスター達は絶対に気にしちまう……」



戦争の根本は、ギルドマスター曰く【自分と異邦人】。

その根本が起きたせいで、何千・何万という人の命が散っていった。

彼は思う、その同じ異邦人である自分が同じように登録して

力に溺れて同じ被害を出さないと言えるのか?


そして先に見せた体の変革。既に不安材料とも思われている可能性すらある。



「……よし、俺は多分、この世界で───

 冒険者をやっちゃ、駄目なんだろうな。

 帰れるかどうかもわからないけど……小さく暮らして生きていこう」



朝食は出してくれる、との事らしいので

それを食した後、マスター達に話を通して出て行く事を決めたケンタだった。







「───と、いうわけです」

「ふむ……そうか。それは君が決めた事なんだな?」

「ええ……あれからアレスさんには逢ってないですし」



朝食が終わり、ギルドから出発する全員を見送った後

受付をミニアに任せて、静かになった食堂で

マスターとアルギアは、ケンタと会合する。



「だが……やはり君の話を聞く限り

 その力と魔力は元々の君と大きく掛け離れているんだろう?

 そんな莫大な物を隠しきって生活は出来るのか?」

「まあ、正直出来るかどうかもわかりませんけど……

 でも、二の舞の可能性を考えると……」

「冒険者にもなる事は気持ち的に難しい、と」

「はい。」



断固たる決意を持って、彼は語る。

自分が力に狂う可能性を考え、それを可能性の時点で潰す内容を。




その語る相手の顔に足跡、頭にやや小さくなったたんこぶがあるのはシュールだが。




「…………。」

「…………。」

「なぁ、お前様」



互いに互いの意見を考え、押し黙っている所で

元々人の感性とはズレているアルギアが会話の間に入る。



「どうした、アルギア」

「正直なところを聞くが……お前様、特にケンタ坊に何も思ってないのだろう?」

「うんまぁ、そうだけど」

「えっ?!」



その返答に、ケンタはとても意外な声を上げてしまう。

実はケンタが一番危惧しているギルドマスター本人は

彼が異邦人という事を踏まえても、特段気にしていないらしい。



「い、いや……なんでッ?!

 あれだけ大きい話になってたのに、俺を気にしてないとかッ……」

「え? いや、気付けよそこは。

 お前はお前だし、前の異邦人は前の異邦人だろう?

 性格も違いすぎるし、力を認識した上で馬鹿はしゃぎもしてなかった。

 どう考えてもあいつと同じ結末になるとは思えんよ」

「そ、そうかもしんないすけど……」



確かに、ギルドマスターの言う通りではある。

ケンタはあくまでもケンタであって、異邦人であろうと彼は彼なのだ。

それを、先人として存在した悪役異邦人と比べるのは

世間から見ても、酷い風評被害である。



「のう、お前様。

 そういう事なら、このケンタ坊……うちで雇うというのはどうだ」

「ほー」

「なっ」



突然のアルギアの提案に、二人はそれぞれ違う声を上げる。

ギルドマスターは考えるような声を。

ケンタの方は意外過ぎる提案に。



「や、そんなっ……こんなに世話してもらった上で

 さらに働かせてもらえるとか、そこまで世話になれませんよ」

「なぁに、構わんさ。

 我等はいつも通りに、ギルドとして普通の対応をしていたに過ぎん。

 ここに現れる行き倒れがケンタ坊だけと思ったのか?」

「まぁ、そうだな。

 どうせ出て行くにしても、後一回世話になることは確定してるぞ?

 他国に行くんなら、竜の定期便に乗る事になるしな」

「え……それって確か、国が運営している交通機関って話じゃ……」

「ああ、すまん言い忘れてたか。

 というか普段は言う必要すらないんだが。

 俺、一応この国で国王って事になってるんだよ。形だけだがな」

「えぇーーー?!」

「それにあの時にも話しただろう?

 姫さんに顔を知られてた理由で、会議がうんたらーって」

「そういえば……言ってたなぁ」



話の内容がヘビーすぎて聞き流してしまっていたが

確かに考える限り、その位の立場に居ないとあそこまでの大事件には成り得ない。

なんといっても、以前ここに居た異邦人は……国王に喧嘩を売ったのだから。



「よし、冒険者にならないってんならこれで話は決まりだな。

 一応仕事は楽な物を割り振ってやるから、今日から頼むぞ」

「いや、ちょっ、まっ!

 なんで既にここで働くって事が決まってんすか!

 他の国で働くって手もあるでしょう!」

「ハハハハ、ケンタ坊、何を言うておるのだ。

 そんなもの決まっておろう?」

「あぁ、そうだな。決まりきった事だな」

「な、何がっすか……。」



そうして二人は顔を近づけ、同時にケンタの方へ顔を向ける。

その顔はとてもにこやかだったと、後にケンタは語っている。





「ノリさ。」

「ノリだ。」





というわけで、冒険者ギルドにまた一人顔が増えた。

同時に、アルギアンス共和国に「人外」の国民がまた一人増えた。






冒険者ギルドは、今日も平和である。







命賭けのバッフ=ポケモンの【はらだいこ】みたいなもの。



わからない方に解説。

ポケットモンスターでは、はらだいこという技があります。

この技は、自分のHPを半分減らす代わりに

自身の物理攻撃力を一気に限界まで引き上げるというものです。


作中にあったバッフが掛かったシーンでは

攻撃力だけに留まらず、身体能力、素早さも全てはらだいこ並の効果で引きあがってます。

ただしそのデメリットの向かう先はアルギアさん。夫婦仲は良好のようです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ