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続・異邦人



本日の気分、ノリノリ。

アルギアンス共和国にある冒険者ギルドの一日が、また始まる。




~ 続・異邦人 ~







「っし、それじゃ……行ってきますわ!」

「おーう、頑張れよー」

「達者でのうー」



冒険者ギルドは本日も平常運転。

希望冒険者達に朝食を振舞い、依頼を受託した者を見送るギルド管理者。


ギルドマスターの方針故、色々な別世界の冒険者ギルドとは違い

荒くれ達相手でも、アットホームな雰囲気を崩さずやっている。



「んーなら……っと、俺様もそろそろ行くかねぇ。

 んじゃ、またしばらく留守にするわー。

 その間、ギルド潰すんじゃねーぞー」

「うるせぇカトレア!

 毎日毎日赤貧で悪かったなッ、とっとと行って来い!!」

「お~ほほほほほほ~。

 ったく、貧乏は嫌になっちまうねぇー! そいじゃなー!」



熟練冒険者、つまりは冒険者ギルドの常連相手となると

気さくなマスター達に対してこんな軽口まで出てくる。

それ自体には若干怒りを感じながらも、適度な毒の吐き出しでそれに答える。


そんな気楽さは、日頃から単独活動の冒険者が多い中で

確かに、孤独からの救いとなっているのだった。



「ったく……俺等が貧乏ならあいつだって貧乏なのも変わらんだろうが」

「ハッハッハ、なーに。元気で良き事、良き事」

「……まぁな、ハハハ」



夫婦らしい会話を入り口で行い、見送りにも満足したのだろう

受付の事務室へと戻───



「……お、起きたのか」

「ん……? おぉ、昨日運び込まれた坊か」



戻ろうと振り返ったところで、1階のフロアに繋がっている

宿泊施設への階段から、黒髪黒眼の青年が降りてくる。


そんな青年も入り口に人が立っているのに気付き、二人の姿を認識していると

顔に驚きの表情を作り、階段途中で止まってしまう。



「……?」

「はて……?」



突然動きを止めてしまった青年。

よくわからなかったため、思わず夫婦は顔を見合わせてしまう。


……が、しかし。

ここで空気の読めない者が一人。



「おう、邪魔だぞ!

 階段のど真ん中で突っ立ってんなよ」



少し遅めに起きてきたのか、宿泊施設側からアレスが降りてくる。

そしてその少年は突然後ろから声を掛けられ驚き……。



「ッ!? えっ、あ……すいま、せ───

 って、あぁぁーーー!?」

「!? ちょっ、あ……あちゃー……」



彼が立っていたのは階段。階段故、足場はとても狭い。

動揺して、立ち位置を戻そうとするも……当然その先に足場は無い。


必然ズガガガガガーと階段から転げ落ち……が、まぁ階段半場まで降りて来ていたので

そんな大事に至っている様子が無いのだけは幸いだろうか。



「あっづづづ……うぅー、なんなんだよ……くそぅ」

「悪ぃな、突然驚かせて。立てっか?」

「あ、はい……すいません」



自分が慌てさせた負い目があったのか、小走りで階段を下りて

アレスは青年に手を差し出し、青年も素直にその手を取って

腕と腕の繋ぎ目を、力点として立ち上がる。



「ったく、何やってるんだアレス……。

 おはよう、黒髪君。意識はしっかりしているかな?」

「え、あ、と、お……おはようございます?」

「うむ、挨拶も素直に出来るようであるな。

 これならこの後話すのにも差し支えなかろうて」

「そうだな」

「ッ……!? 鱗……コスプレか……?」

「ん?」



なにやらアルギアのほうを見てとても動揺しているようである。

数こそ少ないがドラゴニアン、または人に化けたドラゴンは

他国においても容姿が特徴的であり、そこそこ知られている光景のはずなのだが。



「……まぁ、いいか。黒髪君、君の状況を説明するからこちらへ付いてきてくれるか」

「状況……状況ッ!? そうだ、ここは一体何処なんですかッ?!

 こんな古───中世的な感じの建物になんで俺はッ!?」

「そういうのも踏まえて、説明するからとりあえずこっちに来てくれ」

「は、はい……わかりました」

「うむうむ、坊は素直が一番良いぞ。素直であるべきだ」

「ッ……」

「つーかおやっさん、アルギアさん。誰だこいつ?

 俺も冒険者全員の名前知ってるわけじゃねーけど

 さすがにこんな服着てる黒髪は初見だぞ?」



ギルドマスターに促され、ついて行く黒髪の青年の後ろから

頭をぺしぺしグリグリと撫でるアルギア。青年もちょっと照れている。

その後ろから疑問に思ってついてくるアレス。



「暇ならお前も付いて来るといい。センリはまだ寝ているのか?」

「まぁなー、さすがに昨日はハードだったし、ここで寝たかったのもあるし……

 やっぱ野宿はきっついからさ」

「無理矢理起こす事も無いだろうし、そのうち起きてくるだろうな」

「どうせ朝食は抜きでの宿泊登録だったしの。

 起きてきたところで手間も掛かるまい。とっとと事務室へと行こうぞ」



最後にアルギアが全員を促し、奇妙な一人を交えた団体は

事務室の中に入っていったのだった。







「さて……何から話せばいいのかな?」

「んー、俺はわかんねぇ」

「パスじゃ、お前様」

「……考える事すらしないのかお前達は。

 まぁ、良いか。妥当なところから話を詰めて行こう」

「は、はい」



少し緊張した面持ちで、青年は身構える。

彼の状態から、一体どのような事実が出てくるのか。



「んー、まずだな」

「……!」

「すまん、朝食は用意していない」

「そこかよっ?!」

「そこかっ!?」

「あ……えーと、うん。腹は、まだ大丈夫っすね」

「お前も律儀に答えんなよッ?!」

「あ、あれぇっ?!」

「そうではないだろうがお前様!!」

「だーもうやかましいなぁ、ミニアが起きてくるだろうが。

 あいつ昨日頑張って高速便やって疲れてんだぞ?

 寝かせておいてやりたいんだから、もうちょっと静かにしろ」

「お、おう……」

「ほー、嬢ちゃんも立派になったもんだなー」

「は、話ズレてないっすか?」

『あっ』



いつも通り過ぎるノリだったが故に、話が一気に脱線して行く一行。

そこで軸を戻せたのは、唯一場に馴染んでいない黒髪の青年だった。



「ん、ゴホン……すまない。

 じゃあ、最初から詰めていこうか。

 俺はここの連中にギルドマスターとかおやっさんとか呼ばれてる者だ。

 こっちの人がアルギア。そっちの軽鎧着てんのがアレスっていう」

「あ、どうもご丁寧に……。

 俺の名前は岩森(いわのもり)健太郎(けんたろう)っす」

『…………は?』



ここで岩森健太郎と名乗った彼以外が素っ頓狂な声を上げる。

その声に驚くのは、当然謎の青年こと彼である。



「え、あれ? 俺の名前そんなにおかしいっすかね。

 一応普通にありきたりな名前と思ってんですけど……」

「いや、明らかにおかしいだろ……。

 岩の森のケンタウロス……? それが名前か?

 先祖にケンタウロスでも居たのか」

「というか岩の森などという地域も聞いた事が無いのう」

「ちがーーーーう!! 何その勘違いッ!?

 意味わっかんねぇ!?」

「あぁ、俺わかったわ。お前あれだろ、ケンタウロスに拾われた捨て子か。

 んだからそんな部族名を名乗って───」

「どんだけそっち方向に進みたいんすかあんたら!?

 ケンタウロスじゃねぇっ! 健太郎! け・ん・た・ろ・う!」

「ん、あれ? スはどこ行ったんだよ、スは」

「挨拶とかでもオッスとか言うじゃないっすか!

 ていうか俺も現在進行形で使ってんじゃないっすか!」

「……? すまん、よくわからん。

 で、ケンタウロス……話の続きだが」

「だから健太郎だっつってんじゃねーかぁーーーー!!」



名前の件に関して納得が行かないのか、ケンタウロスは椅子から立ち上がり激昂する。

一体何故にそこまで怒り狂うのかよくわからない三人だったが

ひとまずギルドマスターがそれらを諌め、質問を続ける。



「えーとだな、まず……君は行き倒れとして冒険者ギルドに保護されたんだ。

 ここまでは良いかな?」

「え…………。

 いや、すいません。全然良くないっす」

「……は?」



まさかの初手で間違いを起こしてしまうギルドマスター。

ここで同意をもらえないと話も継続しない。



「あの……冒険者ギルドって、なんなんすかね。

 ていうか行き倒れって……俺、部屋で寝てたはずなんすけど」

「……冒険者ギルドを、知らない?」

「いや、ゲームとか小説だと聞いた事位ありますけどね?」



何やら話がよくわからない方向になってきている。

黒髪の青年は、冒険者ギルドを知らないのに聞いた事があると述べる。

それは要するに知っているのと同義ではないのか?



「……君は、実に変わった服装をしているな。

 それは、自分で作ったのか?」

「え? いや、こんなもん【◇●■☆】にでも行けばいくらでも売ってますよ」

『……ッ?!』



ここで謎の現象が発生した。彼が述べたある単語に突然ノイズが走ったのだ。

ノイズというよりは、未知の単語と言った方がいいのかもしれない。

発音自体は不可能だとしても、『音』として全員の耳に入ったのだ。



「すまないが、どこに行けばいくらでも売っていると言ったのかな。

 何やらノイズが聞こえて全然聞き取れなかったんだが」

「……ノイズ? えーと、【◇●■☆】っす」

「なん、だよ……これ」

『…………。』



その謎の現象に、アレスは顔をしかめて驚いている。

……が、しかし。ギルドマスター夫婦はここで何やら思い至るモノがあったようだ。



「───今までの会話に、嘘とか誤魔化しは、ないな?」

「へ……? えぇ……まぁ。」

「……君の出身地は、どこだ? 国から教えてもらえるか」

「そりゃ【δξ】っすよ。皆さんも【δξ】語、話してるじゃないっすか。

 具体的に言うなら【£%Щ】、【ЭЯ】市っすね」

『…………。』



そうして彼の口から出てくる単語に、出身地だけ謎のノイズが混ざる。

加えて、マスター夫婦は確信にまで至ったらしい。



「なるほどな……久しぶりに見た」

「そうだな、お前様……もう30年振り位、か?」

「な、なんだ、おやっさん。こいつの事知ってんの?」

「あぁ、よく知っているさ。散々迷惑掛けられたからな」

「ハッハッハ、懐かしいものだ……。そうかそうか」



二人で納得し、二人で意見を交し合うため

残った青年二人はどういった反応をすれば良いのか迷ってしまう。

が、すぐにマスターは結論をつけて話し出した。



「ケンタウロス……長いからケンタで良いか?」

「あぁいやもううん、それでいいっすわ……」

「君は───異邦人だ」

「はぁ、異邦人っすか」

「……? アルギアさん、異邦人ってなんだ?」

「ふむ、そっちのケンタ坊もよくわかっていないらしいしな……

 よかろう、我が説明をしておこうか」



そうしてアルギアは語りだす。

この世界における異邦人の定説を。



異邦人とは、一言で言えば次元を破った存在。

人も、魔族も、ドラゴンですら成しえない

理解不能の原理を何かしらの要因によってその壁を越えた迷い子。


何故、この世界に居るのか。

何故、たどり着いてしまったのか。

異邦人にはそれすらもわからない。


そんな境遇を、何かをくすぐったのか

自分が異邦人であると呼称し、生きる者もたまに居る。

しかしそれらは必ずといっていいほど、この世界の常識を弁えており

こういったことから、その者がただの騙りである事を理解するのは容易い。


だが、そういった者は確実に存在する。



「───現に、我等も一度遭遇しているのだからな」

「あぁ、本当に……あの時は参ったよ」



そんな風に懐かしむ二人だが、そこでケンタは疑問を浮かべる。



「いや、厨二に浸っているトコ悪いんすけど

 何を言っているのかさっぱりわかんないんけど……。

 次元の壁とか何言ってんの?」

「んー、前にあったヤツはこう言ってたな。なんでも……


【やっべこれデスゲーム!? 俺最強きたこれ!】とか、他には……


【うっは、なんだこの超人の体と魔法、理想のハーレムいけんじゃね!?】


 とか言ってたな」

「あ……まさか……これ異世界召還系か!?」

「文章まんまだのう、お前様。

 まあ、確かにあれを片付けるのには苦労したが」



聞くケンタは何かに思い当たったのか、よくわからない単語を述べる。

同時に、アルギアはその時に苦労した記憶があるので苦笑している。



「まぁ、とりあえずそいつについてはどうでもいい。

 君はここで何かしたい事はあるか?」

「い、いや……そんなすぐに言われても……」

「選択肢は色々とある。君の自由にすると良い。

 他の国に行くのもいいし、ここで冒険者登録をするでも良いからな。

 今晩か翌朝ぐらいまでには考えておいてくれると助かるよ」

「あ、それなら……」



時間的な猶予を貰い、ケンタは一息ついた。

自分がこの世界で何を出来るかはわからないが

決める時間さえあれば方向性ぐらいは何とかなると思っている。



「んーでもやっぱ剣とか魔法ってのは憧れちゃいますね。

 このままだと冒険者方向かなぁ?」

「なんだ、随分アグレッシブなヤツだなぁ。

 冒険者はそんな簡単にやれるもんじゃねぇんだぞ?」

「いや、アレス……おそらく異邦人ならやれるだろう」

「は? なんでよおやっさん」

「ケンタ、こいつと腕相撲してみてくれ」

「え、あ、はい」

「あぁー?」



突然ギルドマスターに指示され、ケンタはとりあえず同意を。

アレスに至っては理解不能とでもいった声を上げる。

とりあえずはテーブルに二人の腕を背父させ、ギルドマスターは声を上げた。



「それじゃ……はじめっ!!」

「ッチ……ふんッ! ……ッ!? なぁッ!?」

「……あれ?」



そして状況は、本気でいきり立ち力を加えるアレスと

微動だにしないケンタという謎の構図に陥った。


アレスからすれば、毎日毎日実践でクソ重い剣を自由自在に振り回し

腕力や背筋なら、一般人に遠く及ばない力を発揮すると思っている。事実その通りだ。


なのに、気概も雰囲気も感じられないド素人の腕一本を押し返せない。


そのうち、疑問を氷解させるように……ケンタはゆっくりゆっくりと

アレスの腕をテーブルへと持って行く。



「グ、ギギギギギッッ……!!」

「…………ほいっと」

「っだぁー!! くっそ、負けたぁっ! なんなんだこいつ、すげえ腕力だ……!」



とても余裕を持った動きで、静かにアレスの手をテーブルに付け

勝者がケンタで確定した後、アレスは驚くしかなくなる。



「ま……これが理由だ」

「何がだよっ!!」

「どういう原理なのかはさっぱりわからん……だがな。

 異邦人ってのは大抵の場合、規格外の腕力やら魔力を持っているらしくてな。

 過去の文献を漁る限り、似たような存在は数多く存在していたらしい」

「……じゃあ、この結果が証明って事か」

「そうなんすか……ハハハ、何このご都合主義」



事実を伝えられて納得するアレスに

努力も何もしてないのにおかしいだろと一人想うケンタ。

そこでひとつ、ケンタは気になった事を思い起こす。



「っと……そういや、さっきの話聞く限りっすけど。

 マスターさんは俺と同じような異邦人に一回逢ってんすよね。

 多分その人も【δξ】人だと思うんですけど、今どこにいるんっすか?」

「ん? 前の異邦人か」

「はい」



既に先駆者が居るなら、この世界での都合の良い過ごし方などを知っているはず。

色々と教えを請いに行けないものかと思案し、ギルドマスターに尋ねる。

そして返ってきた答えは────









「────殺したが?」






冒険者ギルドは、今日も今のところ平和である。





終盤へ、続く。


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