#5
「…バン」
いきなり耳元で音が鳴った…
「…どうしてそこで意地張るのよ?なぁ?じゃあ、不幸に生まれたら、一生、不幸に生きるのか?」
「しかもその"不幸"なんて誰が決める?俺だって"不幸"なことはあった誰だってあるんだよ」
…彼氏が泣いてた…
最後の方は、言葉になっていなかったけど…
…伝わった…
…確かに届いた…
…あたしはまた、声をあげて…泣いた…
やっと許された気がしたんだ…
「必要」としてもらえたんだ
…「独り」じゃない
…そこに言葉はいらなかった…
ただ抱きしめ合って、求め合った…
…初めてのキスは、涙でグシャグシャになった顔だったけど…キレイだった…
…余計なモノが何一つない…
…ただ「二人」…
何かおかしくなって笑ったね…
そう、あたしは「サナギ」なんだ
まだこれからいくつもの「可能性」があるし、何にでも「なれる」
そう実感したのは、初めて抱かれた夜だった…
退院して、少し月日がたち、真面目な同級生には「腫れ物」扱い、不真面目な同級生には「ヤバい人」扱いで…でもあたしは強かった…
誰かが「あたし」を「必要」としてくれる…
たったそれだけで、あたしは「無敵」だった…
そう、初めて肌を重ねた日、あたしの傷に彼は丁寧にキスをした…
そして最後に心臓にも…
ドキドキして、逆に死にそうになった(苦笑)
「これで傷が埋まったろ?」なんて、ちょっとカッコつけてたけど、実際カッコよかったからしょうがないよね?(笑)
…けれど、まだ若すぎる二人にはそんな「幸せな日々」は続かなかった…
彼は年上だから、先に高校にあがってしまうし、しかも遠くに行ってしまう…
『あ~あ、落ちないかなぁ』
「…縁起でもないこと言うなよ~彼女だろ?」
『…彼女だからだよ』
「…わかるけどさ」
…あたしの願いは空しく、彼は受かってしまい、遠くの高校に行ってしまった…
「淋しい時には電話しろよ?」
『…じゃあ今する』
「…いやいや(笑)…まずはゴールデンウィークには帰ってくるんだし」
『そうだけどさ…』
「…まぁ良い子でいろよ」
『…浮気しないでね』
「…するわけないだろ?バカだなぁ(笑)」
『毎日、メールしてね』
…そして二人は、触れるだけの短いキスをして別れた…