#3
手首に刃先を入れる…
「ブツッ」と生肉を切る、嫌な音が頭に鳴る…
だけどあたしは、笑ってる…
もう少しだけ深く入れる…
すぐに赤い血が流れ出る…
こぼれ落ちるのを見ながら「生と死」二つの相反するベクトルが、ちょうど等しくなる瞬間がある…
そう、完全な「ゼロ」だ…
「こんなのじゃ死なない」って気持ちと、「このまま死にたい」気持ちのちょうど真ん中に「それ」はあるんだ…
いつしか自分でもわからなくなっていた…
あたしは「あたし」をどうして傷つけるんだろう?
誰よりも強くないし、傷つきたくなんかないのに…
言うなれば、もう「クセ」だろう…
爪を噛むとか、髪をいじるとかと変わらない「日常」になっていた…
…また、包帯買わなきゃ…
ある日、あたしには彼氏ができた…
すごくいいヤツで、こんなあたしでも好きでいてくれるんだ
あたしの「ヒーロー」
あたしだけの「ヒーロー」
ただ嫌われたくないあたしは、「家庭」のことも「リスカ」のことも言えずにいたんだ…
学校も違うから、バレないって思っていたし…
何度目かのデートの時、嫌な同級生に会ってしまった…
あたしは、気付かれないように下を向いて、離れようとしたのに…彼氏があたしを呼んだ瞬間に気づかれてしまったんだ…
「〇〇じゃん?…彼氏?」『一応ね用事あるから…』
「ふ~ん…であの彼氏は知ってるの?」
『そんなのあんたに関係ないじゃん』
「…確かに関係ないね…(笑)」
何とか気にする彼氏をごまかして、その場はうまく切り抜けた…つもりだった…
その日の夜、彼氏から電話が来た…
「もしもし…〇〇?」
『うん今日会ったばかりなのにどうしたの?』
「…何か俺に隠し事してない?」
『…えっしてるわけないじゃん?』
「信じていいの?」
『疑うつもりなの?』
「いや…そういうんじゃないけどさ…お前の学校のヤツから色々聞かされてさ…」
『えっ何を』
「いや…くだらない噂だと思うからいいや…お前に疑われたくもないしね」
『気になるな~どんな噂?』
「いや…お前がリスカしてるとか、家庭がめちゃくちゃだとか…くだらないだろ?」
…ヤバい…誰が?…アイツしか考えられない…
「どうした?声が遠いよ?」
『…ちょっと疲れたから、今日は寝るね』
「わかったあまり気にするなよ?俺が守るから」